すでにいくつかのサイトでは、羽生さんの棋譜も公開されていますが、私も自分なりにこのゲームを振り返ってみようと思います。
GM Nigel Short - FM Yoshiharu Habu
Nigel の1.e4 に対して、羽生さんがこの初手を指すことを知っていたのは、事前に本人から聞いていた私と塩見さんのみだと思います。とは言え、私も実際に目撃するまで半分疑っていました。羽生さんはこれまで、フレンチとシシリアンが黒番のメインです。
この10年でMarshall Gambit の研究が進み、それに合わせてAnti-Marshall も進化してきました。8.d4 は8.h3 と並び、代表的なAnti-Marshall の形です。
8.c3 d6 9.d4 Bg4 でも同型で、私も白で持って何試合か指した経験があります。白は早くセンターにポーンを並べましたが、f3 のナイトがピンにされているので、それをすぐに崩さなくてはいけません。
かなり珍しい手だと思います。10.d5 か 10.Be3 が、普通は指されます。(10.Be3 Nxe4?? 11.Bd5+- は有名なトラップ。)
羽生さんも彼らしい独創的な手で応戦します。一手渡して白の出方を伺う、といったところでしょうか。気になるのは10... Bxf3 11. gxf3 (11. Qxf3 exd4 12. Qd1 dxc3 13. Nxc3 これが1ポーンの代償があるかの判断は大変難しい。) と進んだ形です。当然、白はKh1-Rg1 と組むと思いますが、個人的にはあまり好きな形ではありません。
黒が将来的にc7-c6 と突いてくることを見越した手です。a2-g8 のダイアゴナルが再び開くのであれば、ビショップはc4 のマスを抑えつつ、a2 にいるべきです。
14.Ba2 に引き続き、なるほどと思わせる手です。現在、ゲームはd5 のマスを中心に駒のにらみが行われているため、ナイトをd2 に置いてクイーンの縦利きを消すのはやや不自然です。a3 のナイトはd5 が捌けた後、b5 のポーンを狙いつつ、Na3-Nc2-Nb4 と組み変えられる絶好の位置となります。
白はクイーン交換をd5 で行うべきだったと思います。19. gxf3 Qxd5 20. exd5 Rb8 21.b4 Nc4 22.Nxc4 bxc4+=
と進めば、堅いパスポーンのある白にちゃんがあると判断できるでしょう。
白のbポーンをブロックしているため、単にb5 のポーンを守るよりもずっと良い手です。ちょっとしたトラップになっており、白はb5 を取ることができません。
21.Nxb5?? Ra1 22.Bd2 Ra5-+
ここは先述の通り、22. Nc2 からナイトを組み変えるプランもあったと思います。b5 のポーンをターゲットとして残すことを重視します。
エンドゲームでは、キングはセンターへ。キングの道を作ります。
白は2対1のポーンを捌いてパスポーンを作りましたが、黒はそれをがっちりとブロックしています。駒も2ピースしか残っていないため、d6 もさほど負担にはならず、黒としては大きな問題はないでしょう。
ダブルポーンを解消するのではなく、あえてポーンを固めます。狙いはf2 へのカウンターです。
ポーンストラクチャーとアウトポストのナイトだけを見れば白優勢ですが、そこに繋がるターゲットがありません。あとはbファイルのパスポーンさえ抑え込めれば、黒はドローに持ち込めます。
白が間違えれば黒勝ちのチャンスもありえます。33.b4? Ne6! となれば、黒はキングサイドのポーンを攻撃し、パスポーンを作ることができます。白のb ポーンはキングで抑えに行くことができ、さほど脅威ではありません。
ぱっと隣を見るとこの局面になっていたので、かなり驚きました。あとは本譜のようにドローのポーンエンディングに一直線です。
確かこの辺りでドローオファーをしていたと記憶していますが、Short は観客に分かりやすいよう最後まで続けます。
このゲームではお互い、派手な攻撃や駒の取り合いがなかったために、初心者の方にはレベルの高さが伝わりづらいと思います。それでも凝ったアイディアの好手が互いに飛び交い、ミスらしいミスが出なかったことを考えれば、大変貴重なゲームであると言えます。このようなゲームを日本で、そして目の前で見せてくれたNigelと羽生さんには、心から感謝しています。
GM Nigel Short - FM Yoshiharu Habu
Check Mate Lounge
1. e4 e5!?
Nigel の1.e4 に対して、羽生さんがこの初手を指すことを知っていたのは、事前に本人から聞いていた私と塩見さんのみだと思います。とは言え、私も実際に目撃するまで半分疑っていました。羽生さんはこれまで、フレンチとシシリアンが黒番のメインです。
2. Nf3 Nc6 3. Bb5 a6 4. Ba4 Nf6 5. O-O Be7 6. Re1 b5 7. Bb3 O-O 8. d4
この10年でMarshall Gambit の研究が進み、それに合わせてAnti-Marshall も進化してきました。8.d4 は8.h3 と並び、代表的なAnti-Marshall の形です。
8...d6 9. c3 Bg4
8.c3 d6 9.d4 Bg4 でも同型で、私も白で持って何試合か指した経験があります。白は早くセンターにポーンを並べましたが、f3 のナイトがピンにされているので、それをすぐに崩さなくてはいけません。
10. a4!?
かなり珍しい手だと思います。10.d5 か 10.Be3 が、普通は指されます。(10.Be3 Nxe4?? 11.Bd5+- は有名なトラップ。)
10...Qc8!?
羽生さんも彼らしい独創的な手で応戦します。一手渡して白の出方を伺う、といったところでしょうか。気になるのは10... Bxf3 11. gxf3 (11. Qxf3 exd4 12. Qd1 dxc3 13. Nxc3 これが1ポーンの代償があるかの判断は大変難しい。) と進んだ形です。当然、白はKh1-Rg1 と組むと思いますが、個人的にはあまり好きな形ではありません。
11. axb5 axb5 12. Rxa8 Qxa8 13. d5 Na5 14. Ba2!
黒が将来的にc7-c6 と突いてくることを見越した手です。a2-g8 のダイアゴナルが再び開くのであれば、ビショップはc4 のマスを抑えつつ、a2 にいるべきです。
14...c6 15. h3 Bh5 16. Na3!
14.Ba2 に引き続き、なるほどと思わせる手です。現在、ゲームはd5 のマスを中心に駒のにらみが行われているため、ナイトをd2 に置いてクイーンの縦利きを消すのはやや不自然です。a3 のナイトはd5 が捌けた後、b5 のポーンを狙いつつ、Na3-Nc2-Nb4 と組み変えられる絶好の位置となります。
16...cxd5 17. Bxd5 Nxd5 18. Qxd5 Bxf3 19. Qxa8?!
白はクイーン交換をd5 で行うべきだったと思います。19. gxf3 Qxd5 20. exd5 Rb8 21.b4 Nc4 22.Nxc4 bxc4+=
と進めば、堅いパスポーンのある白にちゃんがあると判断できるでしょう。
19... Rxa8 20. gxf3 Nb3!
白のbポーンをブロックしているため、単にb5 のポーンを守るよりもずっと良い手です。ちょっとしたトラップになっており、白はb5 を取ることができません。
21. Be3
21.Nxb5?? Ra1 22.Bd2 Ra5-+
21...Rb8 22. Rd1
ここは先述の通り、22. Nc2 からナイトを組み変えるプランもあったと思います。b5 のポーンをターゲットとして残すことを重視します。
22... f6
エンドゲームでは、キングはセンターへ。キングの道を作ります。
23. Rd5 b4 24. Rb5 Rxb5 25. Nxb5 bxc3 26. Nxc3
白は2対1のポーンを捌いてパスポーンを作りましたが、黒はそれをがっちりとブロックしています。駒も2ピースしか残っていないため、d6 もさほど負担にはならず、黒としては大きな問題はないでしょう。
26...Kf7 27. Kf1 Ke6 28. Ke2 f5 29. Kd3 f4!
ダブルポーンを解消するのではなく、あえてポーンを固めます。狙いはf2 へのカウンターです。
30. Bb6 Bh4 31. Nd5
ポーンストラクチャーとアウトポストのナイトだけを見れば白優勢ですが、そこに繋がるターゲットがありません。あとはbファイルのパスポーンさえ抑え込めれば、黒はドローに持ち込めます。
31...Kd7 32. Kc3 Nc5 33. Bxc5!
白が間違えれば黒勝ちのチャンスもありえます。33.b4? Ne6! となれば、黒はキングサイドのポーンを攻撃し、パスポーンを作ることができます。白のb ポーンはキングで抑えに行くことができ、さほど脅威ではありません。
33...dxc5 34. b4 cxb4+ 35. Nxb4 Bxf2
ぱっと隣を見るとこの局面になっていたので、かなり驚きました。あとは本譜のようにドローのポーンエンディングに一直線です。
36. Nd3 Bd4+ 37. Kc4 Ke6 38. Nxf4+ exf4 39. Kxd4 g5 40. e5 h5 41. Ke4 g4
確かこの辺りでドローオファーをしていたと記憶していますが、Short は観客に分かりやすいよう最後まで続けます。
42. fxg4 hxg4 43. hxg4 f3 44. Kxf3 Kxe5 45. Kg3 Kf6 46. Kf4 Kg6 47. g5 Kg7 48. Kf5 Kf7 49. g6+ Kg7 50. Kg5 Kg8 51. Kf6 Kf8 52. g7+ Kg8 53. Kg6 1/2-1/2
このゲームではお互い、派手な攻撃や駒の取り合いがなかったために、初心者の方にはレベルの高さが伝わりづらいと思います。それでも凝ったアイディアの好手が互いに飛び交い、ミスらしいミスが出なかったことを考えれば、大変貴重なゲームであると言えます。このようなゲームを日本で、そして目の前で見せてくれたNigelと羽生さんには、心から感謝しています。
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