2025/10/13

Nagoya Open 2025 Day2

今年も名古屋最大の大会、名古屋オープンが無事に閉幕しました。東海オープン、中部快速オープンに続いて名古屋3大会連続優勝を目指した私でしたが、2日目は2つのドローでトータル4勝2ドローとなり、2位でのフィニッシュとなっています。優勝は最終戦で山田くんを下した大塚くんです。オリンピアード代表2人に勝っての優勝は価値のあるものだと思いますが、意外なことにこの規模の国内大会優勝は初めてとのことです。優勝した大塚くんを始め、入賞者の皆さん、おめでとうございます!

1st Place Otsuka, S 5.5/6
2nd Place Kojima, S 5/6
3rd Place Scott, T 5/6

Nagoya Open 2025 Final Standings


Tuさん、青嶋くん、南條くんの3人にいずれも土がつき、誰も入賞圏内にいないというのは珍しい大会です。私からは上手く指せた最終戦の東芝さんとの試合をご紹介します。

Higashishiba, T - Kojima, S
Nagoya Open 2025 (6)

1. e4 c6 2. d4 d5 3. e5 Bf5 4. Nd2 e6 5. Nb3 c5 6. dxc5 Bxc5 7. Nxc5 Qa5+ 8. c3 Qxc5 9. Nf3 Qc7 10. Be2

前回対戦の中部快速オープン同様、Caro-Kann Advance 4. Nd2 変化でした。試合中は忘れていましたが、10. Bf4 Nc6 11. Nd4 Nxd4 12. cxd4 Ne7 13. Bb5+ Nc6 14. O-O Qb6 15. Bxc6+ Qxc6 16. Rc1 Qa6= これが私の研究手順でした。これを黒側でつまらないと思うのであれば、どこかで変化をつけなければいけません。

10... Nc6 11. O-O Nge7 12. Re1 O-O 13. Bg5 h6! 14. Bh4 Bg4!


Ne7-Nf5は白にとって嫌なナイトのジャンプで、白は駒を自分から交換にいかざるをえません。

15. Bxe7 Qxe7 16. Nd4 Nxd4 17. Qxd4

ここはポーンで取られた場合、ほぼ互角かと思っていました。17. cxd4 Bxe2 18. Rxe2 Rfc8 19. Rc2 Qb4 20. Rac1 Rc4!?=/+ これで黒やや優勢はコンピュータの評価です。確かに黒は少しアイディアをひねり、d4にプレッシャーをかけるしか勝負にいく方法はありません。

17... Bxe2 18. Rxe2 Rfc8!


私がイメージしていたのは1927年のNimzowitch - Capablancaのゲームで、黒はc4のマスからの4段目侵入と、白陣に弱点を作るマイノリティアタックでチャンスをつかみます。

19. Rd1 Rc4 20. Qe3 b5 21. a3 a5 22. Rd4 Rac8! 23. Rxc4 Rxc4!

23... bxc4も考えましたが、b2だけが弱点だと黒は勝ちに不十分だと考えました。そこで1つポーンを捨ててでも、白に弱点となるポーンが多い形を目指します。

24. Qb6 b4! 25. Qxa5 bxc3 26. bxc3 Qb7! 27. h3?


バックランクを受けるのにgとh、どちらのポーンを突くか悩むところではありますが、ここはgが正解でした。27. g3 Qc6=/+ でも黒はチャンスですが、クイーンが7段目を離れるとf7への反撃を気にしなければいけません。本譜ではf7をクイーンでしっかり守ることができ、狙われるポーンがない点でかなり気楽に指すことができました。

27... Qb1+ 28. Kh2 Qf5!?

次にf4でのチェックを狙いながら、f7を守っておきます。私としてはクイーンのベストのマスだと思いましたが、28... Qf1 29. Ra2 Qe1!-+ として、ルークを追い出したうえでe5を狙いにいくべきだというのがコンピュータの指摘です。

29. Re3


29. Kg1 Qb1+ 30. Kh2 Qf1!-+ キングに戻られた場合、Qf1の位置を見つけないと黒は有利にならないようなので、こうされていたら試合中は自信がありませんでした。

29... Qxf2 30. Rf3 Qe1! 31. Qd8+ Kh7 32. Qb8

e5取りがチェックになるため、白はf7を取っている暇がありません。白がe5を守ってきた際、次にc3を取れるように30手目に黒クイーンの位置を決めました。

32... Rxc3 33. Rxc3 Qxc3 34. Qb1+ g6 35. a4 d4


1ポーンアップになり、e5を狙いながら早いパスポーンを進められる黒は、残りは難しくありません。

36. a5 Qxa5 37. Qe4 Qd8 38. h4 d3 0-1

最後は白の時間が落ちましたが、局面でも黒の勝ちになっています。今年も名古屋での大会を存分に楽しませていただきました。また来年、名古屋に戻ってこられる日を楽しみにしています!
夕飯は優勝した大塚くん、Aクラス入賞の2人と名古屋駅のお店へ。いつも味噌カツにするところ、今日は珍しくトンテキにしました。

2025/10/12

Nagoya Open 2025 Day1

松本でのレクチャーの様子

この週末は松本、名古屋と遠征をしています。昨日の土曜日は松本チェスクラブの例会でレクチャーをさせていただき、終了後、夜のうちに初めての乗車となる特急しなので名古屋へ移動しました。今年の名古屋の大会参加は、1月の東海オープン、6月の中部快速オープンに続き、3回目となります。初日の今日は良い内容で3連勝することができましたので、3Rの山道さんとの試合をご紹介します。

Kojima, S - Yamamichi, A
Nagoya Open 2025 (3)

1. d4 Nf6 2. c4 e6 3. Nf3 d5 4. Nc3 Be7 5. Bf4 O-O 6. e3 c5 7. dxc5 Bxc5 8. a3 Nc6 9. Qc2 Qa5 10. Rd1 Be7 11. Be2 Ne4 12. cxd5 Nxc3 13. Qxc3 Qxc3+ 14. bxc3 exd5 15. Rxd5 Bxa3 16. Nd4 Nxd4

ここまではブダペストオリンピアードの最終戦と同じ流れです。数日前にこの変化を調べ直した際にはすぐナイト交換をせず、16... a6! 17. Kd2 Nxd4 18. exd4 b5! とするのが黒は良いのではないかと発見しています。

17. exd4 b6 18. Kd2 Be6


自然な手に見えますが、白はb5のマスを使えるのはありがたいです。少しポーンの弱さは気になりますが、18... a6としてb5のマスを先に抑えておく手はあったでしょう。

19. Rb5 Rfd8 20. Ra1! Bc5

20... Bd6 21. Bxd6 Rxd6 22. Bf3 a6 23. Rxb6! (検討では23. Rba5!? という手を発見し、どちらも白勝勢です。) 23... Rxb6 24. Bxa8+- このポーンアップは白にとって楽な展開です。

21. Bf3?!


21. Bc7 Rd7 22. Bxb6+- こうしてb6を掠めとるアイディアを試合中に見落としたのは反省です。

21... Rac8?


21... a6 22. Rb2 Ra7 23. Ke3! でも白勝勢ですが、a7を空けてルークを逃がすアイディアは試すべきでした。

22. Bb7 Bc4 23. Rbb1 Bxd4 24. cxd4 Rxd4+ 25. Ke1+-

c8のルークが当たっているため、f4のビショップを気にせず、白キングは安全な初期位置に逃げて勝負ありです。

25... Rcd8 26. Be3 R4d7 27. Rxa7 b5 28. Bc6 1-0


3連勝は5人いるので、勝負の2日目で抜け出せるよう頑張ります! 4Rのペアリングは以下のように発表されています。

Nagoya Open 2025 R4 Pairings
Nagoya Open 2025 Live

トップボードのみですが、中継もあるのでよろしければご覧ください。明日もよろしくお願いいたします。

2025/10/04

My Memorable Games of 2024-2025 Vol.8


去年のジャパンチェスクラシックは、ブダペストオリンピアード前、最後の大きな国内公式戦ということで大きな意味を持っていました。台湾のLiu Yeh Yangさんに負けたのは痛かったですが、他の試合は満足な内容で指せたと記憶しています。中国の少年、Li Yanくんと指した4Rのゲームもそうでした。

Kojima, S (IM, JPN, 2296) - Li, Y (CHN, 1752)
Japan Chess Classic 2024 (4)

1. d4 Nf6 2. c4 e6 3. Nf3 d5 4. Nc3 Be7 5. Bf4 dxc4!?

こうした早いタイミングで取る手は意外で、あまり見たことがありませんでした。白からf1のビショップが1手でポーンを取り返せるため、白に得をさせてしまうように思えますが、黒に唯一プラスがあるとすればd5のマスを活用できることです。

6. e3 Nd5 7. Bxc4! Nxf4 8. exf4 O-O 9. O-O c6


白は黒マスビショップを諦めましたが、その代わりにポーン2つでe5のマスをがっちり抑えており、黒からのe6-e5のブレイクを防いでいます。加えて、黒は手数をかけてf6のナイトを自ら消してしまったがゆえ、d5,e4のコントロールが弱く、h7を気を付けて守られなければいけないという気がかりもあります。

10. Qc2 Nd7 11. a3 b6 12. Rad1 Bb7 13. Rfe1 Re8?

黒は次の手に備え、13... g6!を指してf4-f5を止めておくべきでした。白もf7が弱くなることを確認せず、早めに13.f5!でも良かったでしょう。

14. f5! exf5 15. Qxf5 Bf6


白はh7を攻めるつもりが、意図せずf7への絶好の攻撃チャンスを貰いました。ここでは黒には満足なディフェンスがありません。15... Rf8 16. Ne5!+-, 15... Nf6 16. Bxf7+! Kxf7 17. Ng5+ Kg8 18. Qe6+ Kh8 19. Nf7+ Kg8 20. Nh6+ Kh8 21. Qg8+ Rxg8 22. Nf7# 後者のメイトになる手筋は覚えておきたいものです。

16. Ne5! Re7 17. Nxf7!

この手が成立することで、15... Bf6もディフェンスとして成立しないと読んでいました。一時的にf7のルークがピンの状態になるため、白は駒を回収して勝勢です。

17... Rxf7 18. Qe6! Kh8


18... Qf8 19. Qxd7!+- が成立します。本譜で大きく駒得になった白は、残り気を付けながらピース交換を進めて勝ちのエンドゲームにします。

19. Qxf7 h6 20. Ne4 Qe8 21. Qxe8+ Rxe8 22. Nxf6 Nxf6 23. Rxe8+ Nxe8 24. Re1 Nd6 25. Bd3 Bc8 26. Re7 Bf5 27. Bxf5 Nxf5 28. Rxa7 Nxd4 29. a4 Nb3 30. Rb7 Nc5 31. Rb8+ Kh7 32. b3 Nxb3 33. Rxb6 Nc5 34. a5 1-0

QGD Bf4 variationは、私の白番の武器としてオリンピアードでも活躍してくれました。また紹介できる面白い試合ができるよう、引き続き頑張ります。

2025/09/26

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第46回予告

9月のチェス講座告知です。今月のYouTubeでの講座は今週末、9/28(日) 20時からスタートです。

今月のYouTubeの講座テーマは『ブランダー』です。チェスの試合では大なり小なり悪い手が出るものであり、その中でも特に大きく、結果を決定づけるような悪い手をブランダーと呼びます。ブランダーはビギナーから、有名な強豪GMまで誰でも指すことはありえます。今回はそんなブランダーにスポットを当て、どういった局面でどのようなブランダーが登場したかを見ていきましょう。

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第46回『ブランダー』|2025.09.28

2025/09/23

Japan Open 2025 Day5

Japan Oepn 2025 入賞者たち

5日間で9試合、マスター、チャレンジャー両カテゴリーに175名を超えるプレーヤーが集まった過去最大のジャパンオープンも、今日無事に閉幕を迎えました。マスターカテゴリーでは4人のGMを抑え、彼らに3勝1ドローというとてつもない戦績を残したインドネシアのHafiz, Arif Abdulさんが優勝しました。昨年のジャパンオープンでは、青嶋くん、私とのタイブレークで3位に終わりましたが、また力をつけて日本に戻ってきてくれたこと、とても嬉しく思います。チャレンジャーカテゴリーも含め、入賞者の皆さん、おめでとうございます!

1st Place Hafiz, Arif Abdul (IM, INA, 2386)
2nd Place Ter-Sahakyan, Samvel (GM, ARM, 2611)
3rd Place Kwon, Sehyun (FM, KOR, 2253)
4th Place Lee, Junhyeok (IM, KOR, 2435)
5th Place Velten, Paul (GM, FRA, 2536)
6th Place Megaranto, Susanto (GM, INA, 2483)
7th Place Swayams, Mishra (GM, IND, 2446)
8th Place Tran, Thanh Tu (IM, JPN, 2412)
9th Place Aoshima, Mirai (FM, JPN, 2354)
10th Place Otsuka, Shou (FM, JPN, 2329)

Japan Open 2025 Final Standings

優勝したHafizさんは日本語も堪能で、大会中もよく話をさせてもらいました。最終日はバティックシャツと呼ぶのでしょうかね。インドネシアの素敵な衣装で優勝の表彰をされ、スピーチまでこなされました。

私は最終戦、フランスのMartinさんに白を引きました。最後に2連続白はラッキーでしたが、対戦相手の彼が7,8R連続で白だったためです。レイティングは2000と少しですが、直前のラウンドでは2300弱のFMを破り、レイティングも大きく稼いでいるため、油断は決してできない相手です。

Kojima, S (IM, JPN, 2318) - Martin, A (FRA, 2020)
Ja9an Open 2025 (9)

1. d4 d5 2. c4 dxc4 3. e3 Nf6 4. Bxc4 a6 5. Nf3 b5 6. Bd3

c7-c5の前にb7-b5を指す、Queen's Gambit Acceptedのマイナーラインです。この場合は白はビショップをd3に退き、e3-e4の突き直しをメインに狙います。

6... Bb7 7. O-O e6 8. a4 b4 9. Nbd2


QGAではあまりNb1-Nc3を早めに決めません、その理由はd5にターゲットとなるポーンがすでにいないことに加え、b5ポーンを狙ってc4にマスを作った際に、Nb1-Nd2のほうがナイトの好位置になりやすいためです。

9... Nbd7 10. Qe2 Be7 11. e4 c5 12. a5!?

ここはすぐに12. e5と突く手が多いようですが、私はa6をターゲットとして固定しておくことを優先しました。一時的に取られるd4ポーンはいつでも取り返すことはでき、問題ありません。

12... cxd4 13. e5 Nd5 14. Nb3! Nc5 15. Nxc5 Bxc5


ナイトはc5で捌いてしまい、e5へのプレッシャーを緩和しておくと同時に、c5のビショップもターゲットにします。

16. Bd2 h6 17. Rfc1 Qe7 18. Rc4 Nc3!?

白は次にNf3-Nxd4,Nd4-Nb3,Rc4-Rg4のような攻めを見せるつもりでした。白にはQe2-Qe4のような直接的な狙いもあり、黒はキャスリングでしにくい状況です。そこでMartinさんはd4をただ取り返されるのを待つのではなく、ナイトを捨てて2コネクテッドパスポーンを作りにきました。事前にはやりすぎだと思っていましたが、実際にやられてみると嫌なもので、実戦的な判断です。

19. bxc3 dxc3 20. Be3 Bxe3 21. Qxe3 Bd5 22. Qb6!?


ルークをどこに避けるかと考えるのが自然ですが、c5あたりに避けてもキャスリングからcファイルでルークをぶつけられ、4段目で避けるとb4-b3がすぐ来ることを警戒しました。そこで少しひねり、ルークの取り合いをして勝負することにします。

23... Bxc4 23. Qc6+ Qd7 24. Qxa8+ Ke7 25. Qxh8 Qxd3 26. Qc8?!

ここはどこにクイーンを置いても同じだと思ったのですが、b8が正確でした。Nf3-Nd4を上手く持ってくることはイメージしていたのですが、クイーンのチェックはc5よりもa7がベターです。26. Qb8! b3 27. Qa7+ Kf8 28. Nd4! g5 29. Nxb3 c2 30. Qa8+ Kg7 31. Qf3 Qxf3 32. gxf3 Bxb3+/= しかし黒もクイーン交換後にナイトを取り返して、c2にパスポーンを残すことで戦いを続けます。

26... b3 27. Qc5+ Ke8??


これは黒がキングを避けてはいけない唯一のマスでした。27... Kd8! 28. Nd4 b2= 白からはパペチュアルチェックしかありません。27... Kd7! 28. Nd4 b2 29. Qc6+ Kd8 30. Qa8+ Kc7!= これを試合中は見落としていて、d8が黒キングが選ぶべき唯一のマスだと思っていました。

28. Nd4! Bb5

28... b2 29. Qc8+ Ke7 30. Nc6# このメイトが私が狙っていたものです。本譜はメイトこそ防ぎますが、b3が落ちては勝負になりません。

29. Nxb3 c2 30. Qc8+ Ke7 31. Qb7+ Ke8 32. Qb8+ 1-0


ラッキーもありましたが、最終戦を勝って最後3連勝で締めくくれて良かったです。大会参加者、運営の皆さん、5日間お疲れ様でした。また別の場所でもレポートを書こうと思うので、こちらはここまでにさせていただきます。

2025/09/22

Japan Open 2025 Day4


Japan Open 4日目は待望の連勝でした。午前中は初対戦となる松永くんに準備が当たり、Caro-Kann Exchangeを受けて黒で勝ち。続く午後の試合は、同じく初対戦となるカナダのSong Samuelさんを引くことになりました。こうした大会ですので、初対戦のプレーヤーを多く迎えられると嬉しいです。

Kojima, S (IM, JPN, 2318) - Song, S (CAN, 2175)
Japan Open 2025 (8)

1. d4 Nf6 2. c4 c6 3. Nc3 d5 4. e3 e6 5. Nf3 Nbd7 6. Qc2 Bd6 7. Bd3 O-O 8. O-O dxc4 9. Bxc4 a6 10. Rd1 b5 11. Bd3 Qc7 12. Bd2 c5 13. Ne4

2010年代に流行したこの変化は、調べていたものの指す機会はついぞありませんでした。それがこの大舞台の大事なラウンドで巡ってくるとは分からないものです。白は2ビショップを得ますが、代わりにe4,d5のコントロールを失い、黒にクイーンサイドのポーンマジョリティを作らせます。

13... c4 14. Nxd6 Qxd6 15. Be2 Bb7 16. b3 Bd5


ここで相手からドローオファーがありました。ここまでノータイムで、事前研究がしっかりしていることは窺えましたが、自信があるならドローオファーはしないでしょう。自信の無さの裏返しと受け取り、当然試合は続行です。

17. Qb2 Ne4 18. Ba5 f5 19. Rdc1 Rfc8 20. Ne1 Rc6?!

このルークはNe1-Nc2-Nb4とマヌーバリングした際にターゲットになるため、はっきり良くない手だと感じました。代わりに20... Rab8くらいが、白からポーンを取りづらくする堅い手だったと思います。

21. f3 Nef6 22. Nc2! cxb3 23. axb3 Re8 24. Be1!?


b4にナイトを運ぶと同時に、このビショップの切り替えも白の重要な構想でした。24. Nb4 Rxc1+ 25. Rxc1 e5が反撃になるならば、先にBe1-Bg3を準備してe6-e5を指しづらくしておきます。

24... Rcc8 25. Nb4 Bb7 26. Nd3 Rxc1 27. Rxc1 Rc8 28. Bg3

ここ早めにビショップを切り替えましたが、28. Rxc8+ Bxc8 29. b4+/-とする手もありました。b3-b4はクイーンサイドを止める手として常に頭にありながら、b4自体がターゲットになりうること、c4のマスを明け渡すことでかなり躊躇いました。

28... Rxc1+ 29. Qxc1 Qc6 30. Qd2 Nd5 31. Be1 h6 32. h3 N5f6 33. Bd1! Qc7 34. Nf4 Bd5!? 35. Nxd5


ここはビショップを差し出してくるのが意外で、ありがたくダブルビショップvs.ダブルナイトの構図にさせてもらいます。

35... exd5?

e6のポーンはさほど弱点になっていないため、ナイトで取るほうが明らかに良かったでしょう。f5が新たな弱点になり、白は目標を持ってプレーできます。

36. Be2 Kf7 37. Bd3 g6 38. g4! Ke6


キングで守ってくるとは思いませんでした。38... fxg4 39. hxg4ならば新たにg6をターゲットにして白が大きく優勢です。

39. gxf5+ gxf5 40. Kf1!!

この試合の中でもかなり気に入っている手です。g3,h2へのクイーンの侵入は警戒しつつ、c1に入られてもe1のビショップが取られないよう、事前に守っておきます。

40... Qc8 41. Qh2! Qc1 42. Qf4! Ke7 43. Bxf5 a5


f5を落とし、黒キングも危険な状態にしたので勝勢だとは感じていましたが、黒のクイーンサイドのパスポーン進撃は軽視していました。

44. Qxh6 a4 45. bxa4

コンピュータは45. Kf2 Qb2+ 46. Kg3 Qxb3 47. Ba5+- としてb3を捨てる代わりに黒マスビショップを使うことを提案しますが、人間的な判断ではありません。

45... bxa4 46. Qg7+ Kd8 47. Bxd7 Nxd7 48. Qg8+ Kc7 49. Qxd5


時間切迫の中、悩んだ末に白マスビショップを消し、d5を取りました。aポーンはクイーンとピンの黒マスビショップでも、十分に止めるのが間に合います。

49... a3 50. Qa5+ Kb7 51. Qc3 Qb2 52. d5

このクイーンがぶつかりあった状態で膠着になるため、その間に白はパスポーンを進めます。

52... Nb6 53. e4 Ka6 54. d6 Kb5 55. e5 Nd5 56. Qd3+ Kc6 57. Qc4+ Kb6 58. Qxd5 1-0


ナイトを取って白の勝ちを決めました。黒のプロモーションに対して、白もdポーンのプロモーションがあるため、白クイーンはc3から離れても大丈夫でした。大会最終盤でようやくエンジンがかかってきたような、上出来のゲームでした。

Japan Open 2025 R9 Pairings
Japan Open 2025 R9 Youtube解説

最終戦はトップ2ボードで、日本の大塚くんと青嶋くんが海外のマスターに挑むことになります。私も最後までしっかり指しきって大会を締めくくりたいですね。皆さん、最後までよろしくお願いいたします。

2025/09/21

Japan Open 2025 Day3


Japan Open 3日目です。今日は1勝1敗でした。黒番で午前中に指したJiangさんとの試合をご紹介します。
Jiang, L (JPN, 2030) - Kojima, S (IM, JPN, 2318)
Japan Open 2025 (5)
Position After 20. Bd4

20... Qh5! 21. Kh2?


Caro-Kann Advanceで迎えたのがこちらのIQPポジションでした。e5に反撃したい私は、f5にナイトのマスを空けておくことにしますが、それに対してJiangさんが指した手が奇妙で、白キングは自ら危険なb8-h2ダイアゴナルに入ってしまいます。代わりに21. Bc3 Rcd8ならば白やや優勢ながら、互いに楽しみのある局面でした。

21... Nf5 22. g4 Nh4! 23. Nxh4 Qxh4 24. f4 g5!

このポーンブレイクが白のポーンチェーンを崩し、e5を落とすポイントになる手です。d5よりもe5が先に落ちるようであれば、黒は勝ちを望める展開になります。

25. Kg2 gxf4 26. Qxf4 g5?!


しかし、時間切迫で指した2回目のg5は少しやりすぎでした。26... Qe7!くらいで手堅くe5を攻めるのが良かったでしょう。

27. Qf5?!

27. Qf6! Re6 28. Bf2! Rxf6 29. Bxh4 Bxe5 30. Bxg5= 2R同様、クイーンが逃げ惑うのではなく、相手のクイーンを当て返すのが妙手で、白は互角に戦えました。

27... Ne7! 28. Qf2 Ng6! 29. Qxh4 gxh4!?


いかにもナイトで取りそうですが、ここはあえてポーンで取ることで、e5を取る速度を重視しました。

30. Bc3 Bxe5 31. Bxe5 Rc2+!

このIntermediate Moveが重要で、黒はd5を取られても素早くb2を新たに取ることができます。

32. Kf1 Rxe5 33. Rxe5 Nxe5 34. Rxd5 Nc4! 35. Kg1 Rxb2 36. Nd4 Rxa2-+


2ポーンアップとなり、あとはa,bポーンを押すだけなのですが、最後まで油断は禁物です。

37. Nf5 b5 38. Rc5 Rb2 39. Rc8+ Kh7 40. Rc7 a5 41. Rxf7+ Kg6 42. Ra7 a4 43. Nxh4+ Kg5 44. Nf3+ Kf4 45. Ne1 Kg3

f7とh4を取らせても、黒キングがとことん上がることでメイトスレットを作り、黒のディフェンスを難しくします。

46. g5 Ne3?


しかし白キングがf1に逃げるのを防ごうと先に抑えたこのナイトの手がひどい間違いでした。46... Re2! 47. Nd3 Nd2! 48. g6 Rg2+ 49. Kh1 Nf3-+ でメイトです。

47. Re7??

私もこのディフェンスだと思いましたが、1マスずれていました。47. Rf7! Re2 48. Rf3+ Kh4 49. g6 Rxe1+ 50. Kf2 Rf1+ 51. Kxe3 Rg1 52. Rf4+ Kxh3 53. Rf3+ Kh2 54. Rf5 Rxg6 55. Rxb5= 早いと思っていた黒のパスポーンは止まり、ドローに落ち着きます。

47... Re2! 48. Nd3 a3! 49. g6 a2 50. Ra7 Rd2! 51. Nf2 Rxf2 0-1


時間の無い中、エンドゲームは正確に指したと思っていただけに、評価を見てひっくり返りました。チェスは最後まで気を緩めてはいけませんね。続く6Rは韓国のプレーヤーに優勢を活かせず逆転される悔しい負けでしたが、残り3試合しっかり指してきたいと思います。

Japan Open 2025 R7 Pairings
Japan Open 2025 R7 Youtube解説

去年のJapan Openで青嶋くん、私とともに優勝を争ったインドネシアのArifは、GM戦2勝1ドローでGMノーム獲得の大きなチャンスを迎えています。

2025/09/20

Japan Open 2025 Day2

Japan Open2日目は1敗1ドローでした。中継されなかった4Rの米満くんとの試合を簡単に振り返ります。

Kojima, S (IM, JPN, 2318) - Yonemitsu, K (JPN, 2053)
Japan Open 2025 (4)

1. d4 d5 2. c4 e6 3. Nf3 c6 4. cxd5 exd5 5. Nc3 Bf5 6. Bf4 Qb6 7. Qc1 Nf6 8. e3 Be7 9. h3 O-O 10. Be2 Nbd7 11. O-O Ne4 12. Nxe4 Bxe4 13. Qd2 Rfe8 14. Rfc1 Bf8 15. a3 h6 16. Bh2 Re6 17. Rc3 Rae8 18. Qd1 Qd8 19. b4 Rg6 20. Rac1 a6 21. Ne1 Qh4?

勢いよくクイーンが飛び出してきましたが、これはやりすぎです。欲張りすぎず、21... Nf6くらいでh5のマスを抑えておくべきでしょう。

22. Bg4?!


試合中はこれだと思いましたが、もう1マス先が正確でした。22. Bh5! Rg5 (22... Rge6 23. Bg4 f5 24. Bh5 Ra8 25. Bg3 Qf6 26. Be2+-) 23. Bg4 Bf5 24. Bg3 Bxg4 25. Bxh4 Bxd1 26. Bxg5 Be2 27. Bf4+- 本譜と同じエクスチェンジアップでも、このほうがクイーンを交換していて白勝勢です。

22... Nb6! 23. f3 Rxg4 24. hxg4 Bg6 25. Qe2

Nb6-Nc4の対処が分かりませんでしたが、コンピュータはe3を捨ててもNd3-Nc5を実現するのがベストと指摘します。25. Nd3! Rxe3 26. Nc5 Rxc3 27. Rxc3 Qe7 28. Bg3+- 確かにこうなるとb7に長期的なプレッシャーがあり、白の指しやすさは明白です。

25... Nc4 26. Rxc4


ここはb7-b5からc4をがっきり抑えられることを警戒し、エクスチェンジを返してポーンアップで戦うことにしましたが、エクスチェンジをキープして戦う選択もあったようです。

26... dxc4 27. Rxc4 Qg5 28. e4 h5 29. gxh5 Qxh5 30. Rc2 a5 31. Nd3 axb4 32. axb4 Qb5 33. Bf4 f6 34. Be3 Bf7 35. Nc5 Qxe2 36. Rxe2 b6 37. Nd7 Bxb4 38. Nxb6 Rb8 39. Nd7 Ra8?

かなり駒を捌き、細かな終盤戦に入ったところで相手にミスが出ました。ここはビショップを返してでも、早々に異色ビショップにするのがベストでした。39... Rd8 40. Nc5 Bxc5 41. dxc5+/=ならば白は当然続けますが、勝ちのプランを作るのは簡単ではないでしょう。

40. Rc2 Ra7? 41. Nb8! Ra1+ 42. Rc1?


c6をターゲットにし、これを落として勝勢間近というところでひどい勘違いがありました。ルークを捌いてしまうとc6を取れないので、危なく見えてもキングを避けるべきでした。42. Kf2! Bb3 43. Rxc6 Be1+ 44. Ke2 Bg3 45. Rc8+ Kf7 46. d5+- e2の位置は危険に見えますが、白マスビショップのチャックさえ警戒しておけば大丈夫です。

42... Rxc1+ 43. Bxc1 Be8 44. Kf2 Bd6 45. Na6 Bd7 46. Bd2 Bc8 47. Bb4 Bxa6 48. Bxd6=

b8のナイトは黒マスビショップと交換するしかなく、異色ビショップのみピースが残るエンドゲームになってしまいました。

48... Kf7 49. Ke3 Ke6 50. Bf8 g6 51. g3 Bb5 52. Bh6 Bc4 53. Kf4 Be2 54. g4 g5+ 55. Ke3 Bd1 56. Bg7 Bb3 57. Kd2 Bc4 58. e5 fxe5 59. dxe5 Kf7 60. Bf6 Kg6 61. Be7 Bd5 62. Ke3 Be6 63. Kf2 Bd5 64. Kg3 Be6 65. f4 1/2-1/2


今日は勝ち無しで苦戦していますが、1つ白星を拾えれば気持ちも上向くと思います。上位は韓国、インドネシアのIM2人がGMノームチャンスを残したまま後半戦に入りそうなので、彼らの様子も見ながらしっかりプレーを続けていきたいと思います。

2025/09/19

Japan Open 2025 Day1

今日から5日間は東京の大井町で開催される、ジャパンオープンに参加しています。昨年の名古屋でのジャパンオープンは海外からのマスターの参加もあって盛況でしたが、今年はさらにグレードアップしています。FIDEレイティング2001以上が参加できるマスターカテゴリーと2000以下のチャレンジャーカテゴリーに分けられ、合計170名以上の参加者が集まりました。マスターカテゴリーには4人のGMがエントリーし、初日からレベルの高い試合を繰り広げています。私は初戦、中村くんに怪しい試合を逆転勝ちし、2RはトップボードでアルメニアのGM Ter-Sahakyanとの対戦になりました。

Kojima, S (IM, JPN, 2318) - Ter-Sahakyan, S (GM, ARM, 2611)
Japan Open 2025 (2)

1. d4 Nf6 2. c4 e6 3. Nf3 d5 4. cxd5 exd5 5. Nc3 Bb4 6. Bf4 Ne4 7. Rc1 Qe7!? 8. Nd2 Nxc3 9. bxc3 Ba3 10. Rb1 O-O 11. e3 g5!?

7... Qe7の変化を知らず、序盤からかなり焦りました。11...g5もかなりアグレッシブで、白は次のf7-f5-f4にどう備えるか考えなければいけません。

12. Bg3 f5 13. Be5! Nc6 14. f4 Nxe5 15. fxe5 f4 16. e4!? g4 17. Qb3! Qh4+?


このチェックは自然なようですが、先に17... Kh8としてa2-g8ダイアゴナルからキングを避けておいたほうが良かったでしょう。白キングはc2まで逃げてさほど危険ではなく、黒はa3のビショップを退くのに手をかけなければいけなくなります。

18. Kd1 Be7 19. exd5 Kh8 20. Bd3! Qf2 21. Qc4!

ここはg2を受けるよりも、c7を当てて7段目へのクイーン侵入を目指し、h7でのメイトを積極的に狙うのが良いと考えました。黒はg2を取るだけでなく、Be7-Bg5,f4-f3が狙いなので、h7でのメイトチャンスを作ることは、それを防ぐ効果もあります。

21... Qxg2 22. Kc2!


当然の1手に見えますが、エクスチェンジを捨てる誘惑はかなりありました。22. Be4? f3 23. Qxc7 Qxh1+ 24. Kc2 Qxh2 25. Qxe7 Bf5 26. Bxf5 Rxf5 27. d6 面白い変化ですが、黒の2コネクテッドパスポーンも強力なため、自身がなく安全策を選びました。

22... Bd7 23. Rhg1?!

試合後にTer-Sahakyanからは先にe5-e6を入れるべきではないかと指摘されました。23. e6! Be8 24. Rhg1 Qh3 25. Qxc7 Ba4+ 26. Rb3!+- これで白はエクスチェンジを捨てても、センターのパスポーンと7段目に侵入したクイーンの力で勝勢です。ルークでクイーンを追い出すのとどちらが先でも同じだと思いましたが、黒には次の手がありました。

23... b5 24. Qb3?


これで白はアドバンテージを完全に手放してしまいましたが、正しい手を見つけるのは難しいでしょう。単にクイーンの取り合いは、c4を一度取り返さなければいけない白が1テンポ使わなければいけませんが、24. Qc5!! Bxc5 25. Rxg2 f3 26. Rg3 Be7 27. e6 Be8 28. Rxg4+- ならば、逆に黒の黒マスビショップを当てるテンポを取ってg4を素早く落とし、白の勝勢でした。

24... Qh3 25. d6 cxd6 26. e6 Be8 27. Qd5 Rb8 28. a4 b4 29. Rxb4 Rxb4 30. cxb4 Bxa4+ 31. Kc3 Rc8+ 32. Nc4 Bb3! 33. Kd2 Bxc4 0-1

最後は時間の無い中、厳しい手を食らって敗れました。試合中、かなりチャンスがあると感じていただけに悔しい敗戦ですが、気を取り直して明日も頑張ります。

Japan Open 2025 Master R3 Pairings
Japan Open 2025 Master R3 Youtube解説

明日は今年の全日本選手権の準優勝者、Chen Muxiくんとの対戦です。まだ勝ったことのない相手ですので、しっかり指してきたいですね。参加者、運営の皆さん、2日目もよろしくお願いいたします。
初日の夕飯は大井町で75年以上続く洋食の老舗、ブルドッグへ。21時の閉店間際でも快く入店させてくれました。

2025/08/28

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第45回予告

8月のチェス講座告知です。今月のYouTubeでの講座は今週末、8/31(日) 20時からスタートです。

今月のYouTubeの講座テーマは『Where are you from?』です。様々なチェスのポジションを見ていると、その駒はどこから来たの?と疑問に思うような状況も登場します。駒の配置を不自然に思うのは、自然な駒の動きや配置を学んでいる証拠です。しかし、不自然ながらも良い駒の動きや配置はあるため、自然=良いとは限りません。今月の講座では駒の不思議な配置や動きを見て、盤上で起こりうる様々な可能性について模索していきましょう。

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第45回『Where are you from?』|2025.08.31
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