2024/07/22

FIDE 100 Chess Tournament Report

ジャパンチェスクラシックが終わったばかりですが、20日(土)には表参道のカプリース青山で開催されたFIDE 100 チェストーナメント参加してきました。こちらの大会は国際チェス連盟創立100周年を記念し、International Chess Dayと定められた7/20に世界中で合計何局指せるかというギネス記録を狙うイベントです。日本では東京の他、名古屋でも同日に大会が開催されました。他に世界各国でどの程度の大会が開催され、何局くらい指されたのか、集計と報告が楽しみです。

東京での大会はラピッド公式戦ではあるものの、土曜の午後のみでカジュアルな雰囲気があったと思います。オープン、U1600、U1000の3セクションで計70名を超える参加者が集まりました。オープンセクションにはオリンピアードのオープン代表4名が参加し、全勝の青嶋くんがジャパンチェスクラシックに続き優勝。私は4試合目で彼に負けて3位でした。各セクションの入賞者の皆さん、おめでとうございます!

1st Place Aoshima Mirai 4/4
2nd Place Matsunaga Toma 3.5/4
3rd Place Kojima Shinya 3/4

FIDE 100 Chess Tournament Final Standing


最終戦で正確なディフェンスを見つけられなかったのは悔いが残りますが、3試合目の南條くんとの試合は満足な試合運びができたと思います。今夜はこちらをご紹介します。

Kojima, S - Nanjo, R
FIDE 100 Chess Tournament (3)

1. d4 d5 2. c4 e6 3. Nf3 Nf6 4. Nc3 Nbd7 5. cxd5 exd5 6. Bf4 Bb4!?

全日本と同じ純粋なRagozinでくると思いましたが、少しひねってNbd7を先に入れてからのBb4でした。最近は黒のビショップ、ナイトの出るタイミングと場所にかかわらず、d5でのポーン交換からf4にビショップを展開する形は白が面白いと考えており、今回も分かりやすい局面を目指して戦います。

7. Qc2 Ne4 8. e3 g5 9. Be5 Nxe5 10. Nxe5 c6 11. Bd3 f6 12. Nf3 Qe7 13. O-O f5?!


私も試したことがありますが、黒は多少手をかけてもナイトビショップの交換を実現し、ダブルビショップを持つという主張を作りました。しかし、ここでfポーン突きからe5のマスを弱めてしまうと、白のナイトに再度センターで働くチャンスを与えてしまううえ、白マスビショップの活用が難しくなるため、ダブルビショップを持つという主張があまり利いてこなくなると思います。白マスビショップの交換になったとしても、単に13...Bf5と展開するほうが良かったでしょう。

14. Ne5 Bd6 15. f3 Nxc3 16. Qxc3 Bxe5 17. dxe5 Be6 18. f4 O-O-O 19. b4!

黒が将来的にgファイルを開いて行う攻撃にはさほど脅威がなく、白のクイーンサイドのアクションのほうが受けるのが難しいでしょう。単純な白マスビショップの働きの差もあり、白がかなり指しやすくなったと感じました。白は黒のc6-c5を防いでd4のマスを確保しつつ、将来的なb4-b5ブレイクのチャンスを待ちます。

19... Kb8 20. Qd4! Rhg8 21. Rfc1 Rc8 22. Rc2 Ka8 23. a4!


b4-b5の準備になるだけでなく、aポーン自身も進んでいって黒キングを脅かすチャンスを作ります。おそらくb4-b5のブレイクだけでは単調になって守り切られてしまうところでしたが、aポーンも自分が思ってより強力だったのは助かりました。

23... gxf4 24. exf4 Qh4 25. Bf1! Rg4 26. g3 Rcg8 27. Bg2

白キングの前をがっちり守ってしまえばgファイルからの攻撃は怖くなくなります。白マスビショップはf1-a6ダイアゴナルをキープしたほうが攻撃に使いやすいと思っていましたが、g2に組んでみればd5ポーンに当たっていることが意外と役立ちます。

27... Qe7 28. b5 Bd7 29. a5!


b5突きを実現したうえで、a4-a5-a6と伸びるアイディアが強力で黒には満足なディフェンスがありません。根元のb7を崩せば、c6,d5と連鎖的に黒ポーンは崩壊します。

29... a6 30. bxa6 bxa6 31. Bxd5! Rd8 32. Qb6 Be8 33. Rxc6 Qb7 34. Rc8+ 1-0

白からのa5-a6を止めても、黒キングの前は別の崩れ方をするだけで白にとっては難しい流れではありませんでした。15/10は昨年の海外大会でかなり苦労した持ち時間ではありましたが、こうした良い内容のゲームができて一安心です。

8月は今のところ、国内公式戦の予定はありませんが、スケジュールが合えばどこか突発的に参加するかもしれません。オリンピアード出発までの残り1か月と少し、引き続き頑張ろうと思います。こちらの大会も慣れない会場での運営、ありがとうございました。

2024/07/20

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第33回予告

7月のチェス講座告知です。今月のYouTubeでの講座は今週末、7/21(日) 20時からスタートです。

7月のYouTubeの講座テーマは『ポーンのエンドゲームです』です。ポーンが残っているあらゆるピースエンディングは、ピースを交換することでポーンエンディングになります。つまりポーンエンディングが結果を予想できれば、様々なピースエンディングにも対応しやすくなります。今回は基礎的なポーンのエンドゲームから、ちょっとした応用まで幅広くご紹介していきたいと思います。

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第33回『ポーンのエンドゲーム』|2024.07.21

2024/07/19

Japan Chess Classic 2024 Day4 Tournament Report

大会後、多忙のため更新が遅れました。4日間の日程で開催されたジャパンチェスクラシックは、火曜日に無事に最終日を迎え、全日程を終了しました。トップを走っていた青嶋くんと南條くんは最終戦をともに勝ち、6.5/7でタイブレーク争いです。全日本選手権では南條くんがタイブレークを制しましたが、今回は青嶋くんの優勝となりました。各セクションでの入賞者の皆さん、おめでとうございます!

1st Place Aoshima Mirai 6.5/7
2nd Place Nanjo Ryosuke 6.5/7
3rd Place Tran Thanh Tu 6/7

Japan Chess Classic 2024 Final Standing


私は5勝1敗1ドローで4位でした。やはり6Rの負けが痛かったですが、他の試合結果、内容にはある程度満足しています。最終戦、フランスのCharronくんとの試合をご紹介します。

Charron, T (FRA, 2013) - Kojima, S (IM, JPN, 2296)
Japan Chess Classic 2024 (7)

1. e4 c6 2. d4 d5 3. exd5 cxd5 4. c4 Nf6 5. Nc3 Nc6 6. Bg5 dxc4 7. Bxc4 h6 8. Bh4 Qxd4 9. Qxd4 Nxd4 10. O-O-O g5!?

Panov Botvinnik Attackに対しては、こちらの少し珍しい手を用意していました。10...e5 11.f4 Bg4 12.Nf3のような進行がポピュラーですが、本譜の変化も面白いです。

11. Rxd4 gxh4 12. Nb5 e5 13. Nc7+ Ke7 14. Nxa8?


すぐにルークを取り合う変化はa8のナイトが悪い位置にあるため、黒が大きく有利になります。14. Rd1 Bg4 15. Nxa8 Bxd1 16. Kxd1 Bg7のような変化で、せめてa8のナイトを取りに行くのに手数をかけさせなければいけません。

14... exd4 15. Nc7 Bg7 16. Nf3 Rd8!

d4を守りつつ、d5にナイトを逃がさないようにします。白が予想したよりもdポーンはターゲットにならず、d4-d3-d2と進んでパスポーンとしての力を発揮しそうです。

17. Re1+ Kf8 18. Ne5 Bf5! 19. Nb5 d3!


f7を無視したこのポーンの押し込みが厳しく、白は駒損を避ける方法がありません。20.Rd1 d2+! 21.Rxd2 Rxd2 22.Kxd2 Ne4+からe5のナイトが落ちる手筋があります。

20. Kd2 Ne4+ 21. Rxe4 Bxe4 22. Nxd3 a6 23. Nc3 b5 0-1

最後はさらに駒損が広がることを防げず、白はここで降参となりました。24.Bxb5 Bxc3+!があります。

今大会はオリンピアード前の最後の大きな国内大会で、調整としても良い機会だったと思います。参加者、運営の皆さん、お疲れ様でした。そしてありがとうございました。明日開催されるFIDE創立100周年を記念する試合でもよろしくお願いいたします。

2024/07/15

Japan Chess Classic 2024 Day3 Tournament Report


ジャパンチェスクラシック3日目です。4連勝で迎えたこの日、午前中にTuさんとドローまでは良かったのですが、午後で台湾代表のLiuさん相手にひどい勘違いでゲームを崩してしまいました。今夜はこちらをご紹介します。

Kojima, S (IM, JPN, 2296) - Liu, Y Y (TPE, 1965)
Japan Chess Classic 2024 (6)

1. d4 d5 2. c4 c6 3. Nc3 Nf6 4. e3 e6 5. Nf3 Nbd7 6. Qc2 Bd6 7. Bd3

全日本選手権で指した7.b3から、もともと指していた7.Bd3に今回は戻しました。Karpovスタイルで戦います。

7... O-O 8. O-O h6 9. h3 dxc4 10. Bxc4 e5 11. Bb3 exd4 12. exd4 Nb6 13. Re1?!


以前オンラインでこの局面を持ち、h6を切って攻め勝ったのですが、このサクリファイスが成立しているのかどうか思い出すのに時間がかかりました。実際はこれは試す価値があり、13.Bxh6! gxh6 14.Qg6+ Kh8 15.Qxh6+ Nh7 16.Ne4! Be7 17.Nf6! Bf5 18.Ng5!と続けて白が攻勢のようです。

13... Nbd5 14. Bd2 Be6 15. a3 Re8 16. Na4

黒はd5のマスをがっちり抑えて満足そうですが、こちらはc5,e5の2マスにナイトを入れる構想で対応します。

16...Qc8 17. Ne5 Bf5 18. Qd1 Qc7 19. f4


キング周りやe4のマスを弱めるので指したくはなかったのですが、ここでe5のナイトを退いているようでは面白くありません。

19...Re7 20. Rc1 Rae8 21. Qf3 Nb6 22. Ba5

ナイトを退いてくる手は少し意外で、黒マスビショップがようやく活躍の機会を得ます。

22... Be6 23. Bc2 Bd5 24. Qd3 Qd8 25. Nc5


b6のナイトに当て続けるか、念願であったc5に侵入するか、ここはナイトを使い道をどうするか悩みました。c5の位置はe4,e6のマスを抑えつつ、b7にプレッシャーをかける狙いがあります。

25...Qc8 26. Bb4 g6 27. Nxg6??

しかしここは攻め急ぎました。明らかに誘われていると思いつつ、先までしっかり読んだつもりでしたが、ひどい勘違いがありました。27.Re2くらいでg2を守りつつ、eファイルにルークを重ねるくらいでじっと待つべきでした。

27...fxg6 28. Qxg6+ Rg7 29. Qxh6


当然、g6でナイトを切ったときはすぐにf6のナイトを取り返すつもりでしたが、1つ決定的な読み抜けがありました。29.Qxf6 Rxg2+ 30.Kf1 Rf8! (ルーク交換しか見ておらず、このルーク避けがg6を切ってから初めて見えました。) 31.Qxd6 Qxh3-+ これでh1のメイトの受けがなく、黒の勝ちです。

29...Bxf4 30. Qxf6 Bxc1 31. Ne4 Qxh3??

しかし、ここで相手からブランダー返しがあり、ルークを取り返しました。ところがいかんせん時間がほぼ無く、最後のエンドゲームを間違えました。

32. Qxg7+! Kxg7 33. gxh3 Bxb2 34. Bc5?


試合が終わってから見返しても、ベストの手がすぐは分かりませんでした。d4のポーンはどうしようもないため、これを諦めて反撃に切り返すべきです。34.Nd6!が良い手で、d4を捨ててでも早めにピンを解消し、b7への反撃を作ればドローチャンスがあります。

34...Nc4 35. Re2 b6 36. Bb4 Bxd4+ 37. Kh2 Ne3 38. Bc3 Nxc2 39. Rg2+ Kh8 0-1

ここまで良いチェスを続けてきただけに、悔しい負けでした。トップは南條くんと青嶋くん、Liuさんが5.5/6で並んでいます。私も中継ボードに残り、入賞のチャンスは残っていますので、気を取り直して最終戦も頑張ります。

Japan Chess Classic 2024 R7 Pairings

2024/07/14

Japan Chess Classic 2024 Day2 Tournament Report


ジャパンチェスクラシック2日目です。この日の午前のラウンドでは少し上位勢でポイントを落とすプレーヤーが出てきました。1Bで指していたTuさんはフランスのCharronさんにドロー、3Bで指していた南條くんは汐口くんとドローでした。私は久々となる藤井さんとの対戦で、黒番を持ちます。

Fujii, C (JPN, 1995) - Kojima, S (IM, JPN, 2296)
Japan Chess Classic 2024 (3)

1. d4 d5 2. Bf4 c5 3. e3 Nc6 4. c3 Qb6 5. Qb3 c4 6. Qc2 e5!?

London Systemについてはいくつかの変化を試してきましたが、この日はNg8-Nf6を遅らせてこの手を仕掛けます。黒は一時的にポーンを捨てても、早い展開とスペースで十分に戦えます。

7. dxe5 Bf5 8. Qc1 g5 9. Bg3 h5 10. h4 g4 11. Nd2 Bg7 12. e4?!


この手は白のポーン捨て返しで、このストラクチャーではよく見られる手です。しかし、ここではこのブレイクを断念し、12.Ne2から展開を急いだほうが良かったでしょう。それでも黒はポーンを取り返して満足です。

12... Bxe4?!

12... Bxe5!! 13. Bxe5 (13. exf5 Bxg3 14. fxg3 Qe3+ 15. Kd1 O-O-O-+) 13... Nxe5 14. exf5 O-O-O-+ このピースを捨ててもe5を早く回収し、白ピースを抑え込んで黒勝勢というコンピュータの評価は難しいです。

13. Nxe4 dxe4 14. Qc2?


e4の取り返しとキャスリングを目指す手ですが、また遅くなってしまいます。ここは早くc4を取り返しておくべきでしょう。

14... O-O-O! 15. Bxc4 Nxe5 16. Bxe5 Bxe5 17. Ne2 g3!

黒マスビショップを黒だけ持つため、こうした黒マスを崩すアクションが有効です。

18. Nxg3 Bxg3 19. fxg3 Nf6?!


しかし、この自然に見えるピースの展開がやや不正確でした。どうせg4にナイトを向かわせるのであれば、f7を一時的に守りつつ、f5のマスを抑えてQc2-Qf2-Qf5を防ぐためにh6にナイトを出すべきでした。19... Nh6! 20. Qf2 e3 21. Qf3 e2-+

20. Qf2 Qxf2+ 21. Kxf2 Rd2+ 22. Ke3 Rxb2

クイーン交換から大きく局面の特徴が変わりました。直接的なアタックのチャンスは減りましたが、まだ白キングは安全とは言えません。

23. Rhf1 Ng4+ 24. Kxe4 Re8+ 25. Kf4 Nh2?


ここは最初に考えた手がシンプルなメイト受け無しでないことに愕然とし、何か良い手がないかを必死に探したのですが、うまく考えがまとまりませんでした。実は最初に考えていた手が正解で、25... Rb6! 26. Bd3 Ne3!が上手い手の組み合わせです。Rb2-Rb6-Rf6からのメイトにはビショップを挟んでチェックする手を見落としていたのですが、これに対してナイトをe3に入れる手が絶妙のタイミングでした。f5のマスをカバーしつつ、f1ルークとg2ポーンを狙っています。25...Rb6を断念して25...Ne3も読んだのですが、f7が取られてしまいます。しかし、この2つの手を組み合わせれば良いという発想がなぜか出ませんでした。

26. Rfe1??

ここは相手のミスに助けられました。白はルークを諦めるのが正解で、キングサイドのポーンでむしろ勝ちのチャンスがあります。26. Bxf7! Rf8 27. Kg5 Nxf1 28. Rxf1 Rh8

26... Rf2+ 27. Kg5 Rg8+ 28. Kxh5 Rf5+ 29. Kh6 Ng4+ 30. Kh7 Nf6+


このナイトが戻ってくる手がぴったりg8のルークも守っています。

31. Kh6 Rh5# 0-1

最後は綺麗なキングハントでした。午後の試合は不戦勝で上がった中国のジュニアプレーヤー、Li Yanくんを破り、ここまで4連勝で2日目を終えています。

4試合を終え、オープンの4連勝は3名まで絞られました。明日はドローで半歩下がったTuさんとの試合です。昨年神戸でのクラシックでは、黒番で面白い試合を勝ったので、明日もしっかり指してポイントを上げたいですね。3日目もよろしくお願いいたします。

Japan Chess Classic 2024 R5 Pairings


2024/07/13

Japan Chess Classic 2024 Day1 Tournament Report

今日から4日間ジャパンチェスクラシックスに参加しています。今年は海外からの参加者も50名以上と多く、140名以上のプレーヤーが4日間のオープンクラスに集まっています。私は初戦でオランダから参加している大北くんに勝ち。2試合目で3か月連続となる阿部くんとの対戦が組まれました。

Kojima, S (IM, JPN, 2296) - Abe, Y (JPN, 1830)
Japan Chess Classic 2024 (2)

1. d4 Nf6 2. Nf3 d5 3. c4 e6 4. Nc3 Be7 5. cxd5!? exd5 6. Qc2!?

前回の松本オープンでの対局ではオーソドックスなQGD Bf4にしたので、今回はExchangeにしてみます。Exchange でBf4と組み合わせるフォーメーションは最近調べていて、白はクイーンサイドにキャスリングするオプションも持って面白いと考えています。

6... c6 7. Bf4 O-O 8. e3 Re8 9. Bd3 Nbd7 10. h3 Nf8 11. O-O


今回はキングサイドにキャスリングし、クイーンサイドでのマイノリティアタックを狙うことにします。

11... Ne6 12. Bh2 Bd6 13. Bxd6 Qxd6 14. Rab1 Nf8?!

このナイトを退くのであれば、11手目でNf8-Ne6と出た理由が無くなってしまいます。e6にナイトを出した際のよくあるアイディアは、g7-g6, Ne6-Ng7, Bc8-Bf5でしょう。

15. b4 Be6 16. Rfc1


16. b5 c5 17. dxc5 Qxc5 18. Qb2+/-もありえる手で、白はd4のアウトポストで勝負です。しかし、前回はこうした展開だったので今回は少し違う形を模索してみます。

16... N6d7 17. Na4 Rac8 18. Nc5 Nxc5 19. bxc5

白はbファイルを開き、b7へのプレッシャーでチャンスを作ります。黒は守るだけならばディフェンスのピースをb7に集中させれば良いですが、それでピースが消極的すぎればそこに白のチャンスは生まれるでしょう。

19... Qe7 20. Rb3 Rc7 21. Rcb1 g6


21... Bc8 22. Bf5!は重要なディフェンスのビショップを消し、b7に長期的なプレッシャーを持てそうです。

22. Rb4 Bc8 23. Re1 Qd8 24. Rbb1 Rce7 25. Qa4 a6 26. Qb4 Nd7 27. Nd2 f5 28. Nb3?!

ナイトはa5に組み替え、b7への攻めに参加するのが最も分かりやすいと考えていました。しかし、実際にはキングサイドを手薄にしてしまうために良くなかったようです。黒がf7-f5とポーンを進め、e5のマスを弱くしたことを利用し、28. Nf3!?と戻るくらいで良かったでしょう。

28... Nf6! 29. Na5 Qc7! 30. Qb6 Qxb6?


ここは黒は大きなチャンスを逃しました。少し不自然にも見えますが、d7にクイーンを避けておけば将来的にキングサイドのアタックに期待できました。30... Qd7! 31. Rec1 g5! これで黒のキングサイドのアタックを受け止めるのは難しく、黒が大きく優勢とコンピュータは示します。確かに白はクイーンサイドの駒を集めすぎています。

31. cxb6 f4 32. Bxa6!

f5-f4に対抗するのはこの手しかありません。

32... bxa6


私は先にe3でのポーン交換を挟んでおくほうが分かりやすいと考えていました。32... fxe3 33. Rxe3 Rxe3 34. fxe3 bxa6 35. b7 Bxb7 36. Rxb7 Rxe3 37. Nxc6 Ra3=

33. Nxc6 Re6 34. Na5 fxe3 35. Rxe3 Rxe3 36. fxe3 Bd7?!

黒はビショップを逃がすのが良いアイディアですが、マスが違います。36... Bf5! 37. Rc1 Nd7 38. b7 Nb8 39. Rc7と進んだ場合、白は十分なピースの代償を持ちますが、b8を抑えられている以上勝つのは簡単ではありません。ここから膠着状態でドローになるのは十分ありえそうです。

37. b7 Rb8 38. Rb6! Ne8 39. Rxa6?!


6段目にルークが入り、aポーンを落として2つ目のパスポーンを作り、勝ちが具体的に見えてきたと思いました。しかし、このポーンを取るのは実は不正確な手で、ルークの往復に手をかけている間に黒にもナイトの組み直しを許してしまいます。39. Nb3! Nc7 40. Nc5 Be8 41. Kh2+- aポーンは無視し、ナイトを早く組み直せば黒はできることがありませんでした。

39... Nc7 40. Rb6 Kf7 41. Nb3 Ke7?

試合中、私も黒のベストが分かっていませんでした。41... Ne6! 42. Nc5 Nxc5 43. dxc5 Ba4 44. c6 Bxc6 45. Rxc6 Rxb7 46. Ra6 Rb2 このように進めることで、黒は1ポーンダウンながら十分にドローチャンスのあるルークエンディングでした。

42. Nc5 Bb5 43. a4 Bc4 44. a5 Bb5 45. h4!?


a6を押し込みから1ポーンアップのルークエンディングにするのはいつでもできるので、キングサイドでのアクションを見せておきました。

45... Bc4 46. Kf2 Bb5 47. Kg3 Bf1 48. Kf4 Bxg2 49. a6 Nxa6 50. Nxa6 1-0

最後はa6からビショップが離れてくれたので簡単に決まりましたが、そうでなくともキングサイドのアクションに対応できないので白の勝ちです。初日の連勝は20名を超えていますので、トップ同士の対戦はまだまだこれからです。2日目も頑張ります。

Japan Chess Classic 2024 R3 Pairings

2024/07/08

Nimzo-Indian Fianchetto Variation


昨日は久々に都内でのトレーニングに参加してきました。今回のテーマはNimzo-Indianで、基本的に白黒1回ずつを指すことになります。私は1局目、白を持って松村くんにRubinstein Variationを指して勝ち。2局目は黒を持って東野さんとの対局になりました。Nimzo-Indianを黒番で指すのは久々です。

Higashino, T - Kojima, S
Training

1. d4 Nf6 2. c4 e6 3. Nc3 Bb4 4. g3!?

Nimzo-Indianに対してフィアンケットは少し珍しいですが、指されてみて東野さんらしいチョイスだとも思いました。白は変化によってはc4を取らせ、Catalanのように指すことができます。

4... O-O 5. Bg2 d5 6. Nf3 c6!?


c4を取るタイミングを迷いましたが、先にSlavのフォーメーションにしておきます。試合後に6... dxc4 7. 0-0 Nc6 8. Qa4 Nd5という手順があることを確認しました。

7. O-O Nbd7 8. Qc2 dxc4

クイーンがc2に上がるのはCatalanらしい手ですが、これならc4を取って勝負することにします。c3にナイトの位置を決めていることにより、白には分かりやすくc4を取り返す手がありません。個人的には8. Nd2!?からc4を守られたうえ、e2-e4を目指すプランのほうが嫌でした。

9. Rd1 Qe7 10. e4?!


ここは10.Ne5!のほうが優れた手でした。c4を取り返す準備になりますし、e5でのナイト交換はdファイルを開き、Nc3-Ne4-Nd6のような駒組み、またはBg2-Be4からh7を狙うような駒組みが可能になり、白としては指しやすい状況です。本譜のe4-e5を押し込む作戦も場合によって強力ですが、ここでは黒に単純な返しがあります。

10... e5! 11. Bg5?!


11. d5 Nb6ならば黒はd5ポーンにゆっくり対応し、後にc5のマスを活用して十分に優勢です。11.dxe5 Nxe5 12.Nxe5 Qxe5ならば黒はc8のビショップも展開できるようになって不満が無いですが、まだこちらが本譜よりも良かったでしょう。

11... h6! 12. dxe5 hxg5! 13. exf6 Qxf6-+

ダブルビショップを貰ったうえ、次にe5がナイトの跳ぶ絶好のマスとなり、1ポーンアップ以上の黒は勝勢と言えます。

14. Qe2 g4! 15. Nd4 Ne5


これで形勢判断も分かりやすくなりました。e5のナイトはc4を守ったうえ、f3,d3への跳びこみが可能です。g4まで進んだポーンはダブルポーンでありながら、f2を抑え込むことでe5のマスを確保し続けることに一役買っています。

16. Rac1 Bc5 17. Nf5 Bxf5

Ne5-Nd3の跳びこみでエクスチェンジアップを決めても良かったのですが、e5のナイトは好守に利く良いピースなので、もう少し様子を見ることにします。

18. exf5 Qxf5 19. Ne4 Rfe8 20. Qc2 Bb6 21. Nd6 Qxc2 22. Rxc2 Re7 23. Nf5 Re6 24. Rcd2 Rae8 25. h3 gxh3 26. Bh1 Nd3 27. Kh2 Nxf2 0-1


駒得とピースの働きの良さを活かしてそのまま勝ちました。Nimzo-Indianを久々に指してみると楽しいですね。この調子で今週末から始まるジャパンチェスクラシックスも頑張ろうと思います。

2024/06/22

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第32回予告

遅くなってしまいましたが、6月のチェス講座告知です。今月のYouTubeでの講座は今週末、6/23(日) 20時からスタートです。

6月のYouTubeの講座テーマは『弱点にならない弱点』です。チェスでは崩れたポーンやカバーできないマス、無防備なキングなどを弱点とする考え方があります。しかし、一般的には弱点とされるものでも、状況によっては弱点にならなかったり、逆にプラスとなることもありえます。今回はそんな弱点にならない弱点を、様々な例でご紹介していこうと思います。

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第32回『弱点にならない弱点』|2024.06.23

2024/06/17

1st Matsumoto Open Day2 Tournament Report

昨日、第1回松本オープンは2日目の試合も終え、無事に閉幕しました。私は初日2連勝でしたが、2日目は1勝2ドローと星が伸びずに2位止まりでした。入賞者の皆さん、おめでとうございます! また17名の参加者と運営の皆さん、2日間お疲れ様でした。

1st Place Nakamura Naohiro 4.5/5
2nd Place Kojima Shinya 4/5
3rd Place Ryu Chanyue 3.5/5

1st Matsumoto Open Final Standings


3Rでは中村くんと手堅くドローでしたが、途中有利だと感じた局面もあったので、そちらはまたじっくり自分で振り返ろうと思います。今夜は4Rで対戦した真鍋さんとの試合をご紹介します。真鍋さんは3R終了時に唯一の3連勝しており、私が止めにいく形となります。

Kojima, S - Manabe, H
1st Matsumoto Open (4)

1. d4 e6 2. c4 d5 3. Nc3 Nf6 4. cxd5 Nxd5 5. Nf3 c5 6. e3 Nxc3 7. bxc3 cxd4 8. exd4 Be7

Semi-Tarraschに対してはe2-e4をせず、IQPポジションを持つことにしました。c3でのナイト交換を黒からすぐにする際には、8... Qc7 9. Bd2 Bd6 10. Bd3といった進め方もあると思います。

9. Bd3 O-O 10. O-O Bd7 11. Qe2 Bc6 12. Rd1 Bf6 13. Rb1 Qc7 14. Ng5!


黒クイーンがd8-h4ダイアゴナルから離れたことを見て、素早く黒キングに迫るのは良い判断だったと思います。e5のコントロールが減るのはやや気がかりですが、白の攻めは強烈でe6-e5を仕掛ける暇がありません。

14... g6 15. h4 Nd7 16. h5 Qa5 17. hxg6?!

ここは単に17. Qg4としてナイトを守る手が堅実でした。黒からのナイト取りはリスクがあると思い、先にポーン交換を挟んでおくことにしましたが...

17... hxg6


17... Bxg5! 18. Qh5 hxg6! (18...h6 19. f4 Qd5 20. Rb1!) 19. Qxg5 Qxg5 20. Bxg5+/=と進んだ場合、白はピースこそ取り返せてダブルビショップを持ちますが、クイーンを交換したことで直接的な黒キングへの攻撃チャンスは失ってしまいます。黒はまだ劣勢ですが、これで粘るべきだったでしょう。

18. Qg4! Bxg5 19. Bxg5 Kg7 20. c4!?

c3を取られないようにするだけでなく、次にd4-d5からc6のビショップを狙う、a1-h8ダイアゴナルを開き、黒マスビショップを活用する狙いがあります。しかし、このcポーンの協力無しですぐにdポーンを突く手が強力でした。20. d5! Qxd5 21. Bb5! Qc5 22. Bxc6 Qxc6 23. Qd4++- d4のマスを開くことでクイーンのチェックのチャンスも生まれるため、黒のピースを落とすことができます。

20... Rh8 21. d5


直前にcポーンを突く手から自然な流れだと思いましたが、ビショップをいきなりサクリファイスする手もあったようです。21. Bxg6! fxg6 22. d5 Ba4 23. Rxb7!+-

21... exd5 22. Bd2 Qc7 23. Bc3+ f6??


これは即メイトになってしまうブランダーでした。検討ではdポーンを先に押し進める手も出ましたが、23... d4 24. Bxd4+ f6 25. Bxf6+!+-という手を見落としていました。23... Nf6 24. Qg3!? Qxg3 25. fxg3+/-はメインで読んでいた手で、白はポーンストラクチャーを崩す代わりにfファイルを開くことでルークをf1にまわすアイディアが生まれ、f6のナイトを素早く攻めて有利でしょう。

24. Qxg6+ Kf8 25. Bb4+ 1-0

こうしたIQPからのキングサイドへの攻めは、昨年のチェコ遠征の際に難しさを自覚していたため、今回は上手く指しきれて良かったです。最終戦ではRyuくんとの試合では序盤から小さな優位を残して最終的に勝てるはずのポーンエンディングになりましたが、ひどい勘違いでドローにしてしまい、中村くんに0.5P差をつけられての準優勝でした。しかし、Ryuくんは要所ではしっかり指してきて、2月に対戦した時とは別人のようでした。まさに、男子三日会わざれば刮目して見よですね。また次に試合ができる機会を楽しみにしています。

今回、松本で初めてとなるスタンダード公式戦大会でしたが、運営による事前の入念な準備と大会期間中の気配りにより、快適に過ごすことができました。連盟主催の大きな大会がない月に、こうした松本での大会を企画するとのことですので、年内にまた開催されるようであればなるべく足を運びたいと思います。大会を運営してくださった松本チェスクラブの3名に、心より感謝いたします。
大会2日目の昼食で入店したカフェでは、たまたまチェスセットを見つけました。松本に足を運ばれるチェスプレーヤーは、写真のバーガーをヒントにどの店か探してみてください。店内には他のボードゲームも多数あり、自由に遊んで良いそうです。
2位の賞品としていただいた松本てまりです。八重菊は松本てまりのオーソドックスな柄で、健康や長寿を願うものです。松本てまりを自作できるワークショップを行うお店もあるようですので、次回の松本訪問時はそうした体験もしてみたいですね。

2024/06/15

1st Matsumoto Open Day1 Tournament Report

この週末は長野県松本市で開催されている、第1回松本オープンに参加しています。松本を訪れるのは2月以来2回目ですが、今回は大会数日前に現地入りして仕事の合間に観光も楽しんでいます。金曜日には標高2000mの美ヶ原高原に連れて行っていただき、美ヶ原高原美術館を始めとする高原の観光スポットを巡ってきました。美ヶ原高原美術館は、箱根の彫刻の森美術館同様に屋外の美術作品がメインで、こうした珍しい施設が40年以上前にオープンしていることは驚きです。美術作品も良かったですが、なによりバックが絶景でした。

試合は本日土曜日と日曜日に渡り、5試合行われます。初日の今日はトップボードで2勝し、2日目を迎えることになります。初戦は公式戦初対戦となる、後輩の森安くんとのペアリングでした。

Moriyasu, Y - Kojima, S
Matsumoto Open (1)

1. d4 d5 2. c4 c6 3. cxd5 cxd5 4. Bf4 Nc6 5. e3 Nf6 6. Bd3 a6 7. Nc3 Bg4 8. Nge2 e6 9. O-O Be7 10. h3

Slav Exchangeに対しては、近年はa7-a6を突く変化を研究しています。本譜のh2-h3はありえますが、黒のビショップは遅かれ早かれg6に移動して白マスビショップ交換を目指すものですので、それを助ける手は特に必要なかったかもしれません。ビショップを追い返すでもすぐにピンを外す10.f3か、10. Rc1 O-O 11. Na4 Nd7として、c5を巡る戦いを始めるアイディアもありました。

10... Bh5 11. Rc1 O-O 12. Qd2?!


この手はルークを連携しますが、他に特にメリットがなく、Nc6-Na5-Nc4の際にクイーンがターゲットにデメリットがあります。クイーンの位置はそのまま、Nc3-Na4-Nc5のプランを実行するほうが良かったでしょう。

12... Bg6! 13. Bxg6 hxg6 14. f3 Rc8 15. e4?

一見、センターを広げるのは良さそうに思えますが、黒からの反撃で単純に白が弱いポーンストラクチャーになってしまいます。ビショップを退き、Ne2-Nf4-Nd3のような組み替えであれば、特に弱点を作らずにゲームを進められそうです。

15... dxe4 16. fxe4 e5!


白の横並びポーンが強そうだったのは束の間で、このポーンブレイクから孤立ポーンとe5のアウトポストができてしまいます。ナイトがするすると潜り込む狙いもあるため、黒はクイーンを交換しても十分なアドバンテージがあるでしょう。

17. dxe5 Qxd2 18. Bxd2 Nxe5 19. Nf4 Nc4 20. Be1 Nxb2 21. Bf2 Bd6!

ポーンを取った後はこの単純な手が強力です。f4のナイトさえ捌いてしまえば、d3にナイトがくる手に白は対応できません。

22. Be3 Bxf4! 23. Bxf4 Nd3 24. Rc2 Nxf4


24... Nxe4もありえましたが、どうせ大きく駒得であるならば、なるべくピースを捌いておこうと本譜を選びました。

25. Rxf4 Rc4 0-1

最後はcファイルと4段目のピンがきつく、Rf8-Rc8と次に指してさらなる黒の駒得となります。局面が単純化しすぎることを恐れず、クイーンを交換して良かったです。初日の連勝はリストトップ3人で、2日目から直接対決があります。いつもと違う地を楽しみつつ、明日も頑張りたいと思います。

1st Matsumoto Open 3R Pairings

今大会の入賞者には賞状に加え、松本の民芸品である松本てまりが贈られます。
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