2020/05/24

【おうちで棋譜ならべ】シリーズ


現在はコロナの影響でいっぷくでのチェスレッスンはできていませんが、その代わりにいっぷくの藤田さんがYouTube で様々なボードゲームを紹介する、【おうちで棋譜ならべ】シリーズに出演させていただきました。将棋、囲碁、バックギャモン、連珠などのゲームが並び、プロ棋士のかたも多く登場する中、チェスをご紹介することができて光栄です。棋譜紹介は5年前に羽生さんとトレーニングで対戦した際のゲームを使わせていただきました。同じシリーズのチェス以外のゲームもとても面白いですので、そちらと併せてご覧ください。

【おうちで棋譜ならべ】チェスIM 小島慎也【チェス】

2020/05/05

Basic and Advanced Strategies in QGD Vol.11


これまで10回に渡り、白がビショップをg5 に展開するQGD を紹介してきましたが、今回は少し違った変化の登場です。

Bacrot, E (GM, FRA, 2749) - Aronian, L (GM, ARM, 2801)
European Teams 2013 (8)

1. Nf3 d5 2. d4 Nf6 3. c4 e6 4. Nc3 Be7 5. Bf4!?



QGD 対策を大雑把に分けるのであれば、Bg5 のメインライン、Exchange Variation、Catalan などがありますが、この5. Bf4!? の変化も近年とても人気があり、QGD プレーヤーにとっては対策が必須となっています。私も2008年に1. Nf3 を指し始め、QGD 対策を何にするか悩んできました。最初は全てCatalan にしていましたが、一部のラインは指しこなすのが難しいと実感し、今は黒の手順によって上記の変化を使い分けるようにしています。5. Bf45. Bg5 と違い、f6 のナイト、さらにはd5 のポーンにプレッシャーをかけませんが、その代わりにe5 のマスを強力に抑えているため、e6-e5 のブレイクは難しいでしょう。

5... O-O 6. e3 Nbd7


黒は6手目で何を選ぶかによって、その後の展開が大きく変わってきます。6... c5 はこの変化を代表する手で、黒はd5 へのプレッシャーが緩いことを利用して素早くセンターに反撃します。6... c5 7. dxc5 Bxc5 8. Qc2 Nc6 9. a3 Qa5 10. Rd1 Re8!? 11. Nd2 e5 12. Bg5 Nd4! 13. Qb1 Bf5 などは古くからありますが、またここ数年で見直されています。

6... Nbd7 はトップレベルでも最も手堅い手として考えられており、黒はナイトの準備をしてからc7-c5 からのセンターブレイクを狙います。Vol.7 で紹介した変化とアイディアは似ており、 黒は白の7手目が何かにほぼ関係なく、c7-c5 のブレイクができることも分かりやすい点でしょう。私は7手目で7. Rc1, 7. Qc2, 7. a3 といくつかの手を試してきましたが、本譜の手も代表的です。

7. c5!?



これまでのQGD では一切出てこなかった、白からc4-c5 を押し込む手は、この変化でとてもポピュラーです。白のアイディアはクイーンサイドでのスペースを確保するとともに、黒のc7-c5e6-e5 のブレイクを防ぎ、c8 のビショップの活用を許さないことです。

7... c6 8. h3 b6!


黒が白マスビショップの活用を図るためには、a6 からの白マスビショップ交換しかありません。次にa7-a5 からクイーンサイドを開くことを狙い、a8 のルークも捌けるようにします。

9. b4 a5 10. a3 h6!?



黒は1手待ち、Bc8-Ba6 の白マスビショップ交換を遅らせます。10... Ba6 とすぐに指すのも問題ありませんが、白からは難しい変化に誘導する手があり、それを避けたい場合、黒は本譜の1手待ちが有効になります。10... Ba6 11. Bxa6 Rxa6 12. b5!?


Reference Diagram

2013年のAnand-Carlsen のマッチで、Anand がこの手を用い勝利を挙げたことで当時注目されました。現在は色々と研究が進み、黒は安全策でイコールに落ち着けることが分かっていますが、それでも面白いアイディアに富んだ変化です。12... cxb5 13. c6 Qc8! (ナイトが逃げてもc6-c7 がポーンフォークになるため、この手しかありません。) 14. c7 b4! 15. Nb5 Ne4 16. Rc1 a4 17. Nd2 Nc3 18. Nxc3 bxc3 19. Rxc3 Qb7 20. O-O b5= Kojima - Golubov / First Saturday GM 2014 Dec

11. Qc1!?


黒が1手待つならこちらも待つぞ、という手で、白はf1 の白マスビショップを展開するのを遅らせます。cファイルにクイーンを置いているのがポイントで、上記のアイディアのようにcポーンを押し込んだ際、c3 のナイトはすでに守られています。

11... Bb7


11... Ba6? 12. Bxa6! Rxa6 13. b5! cxb5 14. c6+- 上記の変化と違い、黒はd7 のナイトを生かす手が無く困っています。

12. Bd3 Qc8 13. O-O Ba6



b7 を経由し、1テンポロスでビショップ交換となりましたが、黒はひとまずこれでQGD における最も厄介なピースを捌けることになります。閉じたポジションでは、ピースの展開の早さは開いたポジションに比べてさほど重要ではなく、スピードよりもお互いにどこでチャンスを作るかという構想の勝負になってきます。

14. Bxa6 Rxa6 15. Qc2 Qb7 16. Rab1


黒からaポーンを大きく進めてポーンのぶつかりを作っている状況では、aファイルをいつ開くか、または閉じたままにするかという決定権は黒にあります。将来的に黒がaファイルを開き、オープンファイルの奪い合いのために白ルークはaファイルに戻るとしても、ここは一度aファイルから離れ、黒がどう動くのか様子を見ます。

16... axb4 17. axb4 Ra3



白ルークがbファイルに避けたタイミングでaファイルを開き、ルークを侵入させてた黒が調子よく指しているようにも見えますが、白にはルークに狙われて困るターゲットは特になく、問題ない状況です。

18. Rfc1 bxc5 19. bxc5 Qa6


黒からbファイルを開くことは、bファイルにルークを置いている白を助けているように見えますが、ポーンをぶつけたままにしておくと、どこかで白からb4-b5 と仕掛けるチャンスが生まれてしまいます。b6-b5 と固めるアイディアもありそうですが、b4 に白ポーンを残しておくとa5 が抑えられたままであるため、Nf3-Nd2-Nb3-Na5 といったマヌーバリングでaファイルをブロックされたうえ、c6 を狙われる恐れがあります。c6 に必ず残るポーンをいかに白に狙わせないか、または狙わせても十分守り切れる状況にするかは、このポーンストラクチャーでの黒の課題と言えるでしょう。

20. Ne1 Ra8 21. Qb2 Qc8 22. Qb7 Qxb7 23. Rxb7 Bd8!



d6 のマスやa3-f8 のダイアゴナルが抑えられたこのポーンストラクチャーでは、黒の黒マスビショップは大人しく、どう使うか悩むとこでしょう。Be7-Bd8 は一般的には次にBd8-Bc7 と黒マスビショップ同士をぶつけ、f4 から長く利く白のアクティブなビショップを消しますが、ここではc7 のマスを抑え、c6 ポーンをルークで裏からアタックされないようにします。

24. Bc7 Bxc7 25. Rxc7 R8a6


通常、黒からBe7-Bd8-Bc7 と当てて捌く黒マスビショップを、ここでは白から当てて交換しました。f4 のアクティブなビショップを消してしまいますが、その代わりに白はc6 をルークでアタックするチャンスを得ます。

26. Nd3 Rb3 27. Ne5 Nxe5 28. dxe5 Raa3! 29. Ne2



ナイトを取り合うとc6 のポーンは落ちそうですが、相手ルークに後ろからパスポーンを狙われているルークエンディングは勝つことができないでしょう。ここはお互いにナイトを逃がし、白はピースを残した状態でc6 を取って勝負にいきますが、f6 のナイトが跳び込めるようになるため、黒にも反撃のチャンスが十分に生まれています。

29... Ne4! 30. Rxc6 Rb2 31. Rc8+ Kh7 32. Re1 Raa2 33. Kf1?


こうしてe2 のナイトを守ってしまえば、2段目にルークを2つ侵入されていても守り切ることができ、c6 のパスポーンで勝負にいけるというのがBacrot のアイディアでしょう。しかし、実際には黒には上手い構想があり、33. Nc1 Ra3 34. Ne2= としてドローで満足するべきでした。

33... Rc2 34. c6 Nc5! 35. c7 Nd3!



Aronian はcポーンを完全に無視し、白のディフェンスを剥がしにいきます。33手目の時点で白のプロモーション狙いと黒の反撃が、どういった決着を迎えるのかを読み切るのは大変だと思います。

36. Rd1 Rxe2 37. Rh8+ Kxh8 38. c8=Q+ Kh7 39. Rxd3 Rxf2+


白はクイーンを作り、はっきりと駒得になりましたが、黒にはダブルルークによる2段目の強力な支配があり、ポーンを消して白キングを無防備にすることで、メイトスレットを作るチャンスがあります。

40. Ke1 Rxg2 41. Kf1 Rgc2 0-1



メイトとクイーン取りのスレットを同時に作ればクイーンルークの交換となり、黒は勝勢のルークエンディングへと持ち込めます。Bf4 QGD は細かくラインをチェックするとそれだけで膨大な記事になるため、今回はちょっとしたアイディアの紹介ということで、この1つの記事のみとしておきます。

2020/05/04

第2回NCSオンラインチェス大会


以前も告知したNCS 主催のlichess でのオンライン大会は、4月末のトライアルを経て無事にスタートしています。先週末に開催された第1回大会では、弘平くんが行っているYoutube での実況に、トライアルで優勝した南條くんが登場して解説を行い、視聴者、参加者ともに楽しめたようです。

そして今週末の第2回大会では、私が解説をすることが決まりました。17時からのU1600、18時からのOpen どちらも解説をする予定ですので、視聴者の皆さんはよろしくお願い致します。参加者の皆さんも良いプレーができるよう頑張ってください。今週末の5/9 (土) を楽しみにしています。

NCSオンラインチェス大会要項
第2回NCSオンラインチェストーナメント Live ページ

2020/05/02

Basic and Advanced Strategies in QGD Vol.10


この記事でQGD シリーズも10回目に突入です。もう少しだけお付き合いください。Vol.10 では、前回の続きでQGD Exchange Variation を扱いますが、白がキングサイドのナイトをどこに展開するかで、ゲームは全く違った様相を見せます。

Rios, C (GM, COL, 2465) - Matamoros F (GM, ECU, 2494)
43rd Olympiad 2018 (11)

1. d4 Nf6 2. c4 e6 3. Nc3 d5 4. cxd5 exd5 5. Bg5 c6 6. e3 Be7 7. Qc2 Nbd7 8. Bd3 O-O 9. Nge2!?



今回のシリーズでは初めて、白がナイトをf3 に展開しない形です。基本的にはf3 のほうがキングサイドの守りや、Nf3-Ne5, Nf3-Ng5 といった攻撃に優れたバランスの良い位置ですが、f2-f3, e3-e4 といったセンターポーンでの仕掛けを考えるのであれば、Ng1-Ne2 は面白いセットアップです。私たちの世代でも南條くんがかつて好んで使っており、日本のチェス界に大きな影響を与えていた印象があります。

9... Re8 10. O-O Nf8 11. f3


e3 のマスを弱めても、黒にはそれをすぐ利用する方法はないでしょう。白はNf6-Ne4 の跳び込みを防ぎつつ、eポーンを伸ばす準備を整えます。

11... g6



黒のセットアップは、Vol.9 で紹介したNg1-Nf3 のExchange Variation と同じです。ただし、Nf8-Ne6 のアイディアは良いとしても、e3-e4 と白のポーンが伸びてくることを踏まえると、Bc8-Bf5 からすんなり白マスビショップを交換できるとは思えません。このビショップをどう捌くかは、このラインでも大きなテーマと言えそうです。

12. Rad1


先述の通り、白のメインの狙いはe3-e4 とポーンを押し進めることですが、そのためにはいくらか準備が必要です。ルークをd1 に回す手は将来的にd4 を守る狙いがありますが、ルークの位置としては12. Rae1 もありえそうです。その場合でも、本譜と同じアイディアで黒は対応できると私は考えています。ルークを回すかわりにセンターで早々に仕掛けるのは焦りすぎで、12. e4?! dxe4 13. fxe4 Ne6! 14. Be3 Ng4 と進めば、センターの厚みを与えても白の黒マスビショップを消すことができます。

12... Ne6 13. Bh4 b5!



b7-b6 のセットアップや、c6-c5 からの反撃は知っていましたが、いずれも白のセンターの厚みに抵抗するには不十分だったり、ポーンを捌かれた際にd5 が弱くなりすぎたりと、黒にはなにかしらの問題が残ります。bポーンを思い切って2マス伸ばす手は近年人気が伸びてきており、アイディアも分かりやすいと思います。

14. Kh1 Bb7 15. Bf2 Rc8 16. Qb1


後の展開を考えるのであればクイーンをd2 に避けておき、d4 のマスのコントロールを強化して戦う作戦もあったと思います。

16... b4! 17. Na4 Qa5 18. b3 c5!



黒はb7 のビショップでd5 を守っておき、十分な準備の後にc6-c5 のブレイクを決行します。この際、c5 でナイトの交換も挟めるのは、黒にとってプレーが楽になるポイントです。

19. dxc5 Nxc5 20. Nxc5 Bxc5 21. Nd4?!


もっとc6-c5 のブレイクが早いタイミングであった時も同様ですが、白はc5 でポーン交換をして黒のd5 を孤立ポーンに、d4 をアウトポストにして戦います。しかし、ここではc3 のナイトをすでに捌かれていてd5 へのプレッシャーは弱く、d4 のコントロールも不十分です。21. Qb2 としてf6 のナイトを当てておき、d4 にクイーンを利かせてからNe2-Nd4 をするほうが良かったでしょう。

21... Bxd4!



ここはビショップを諦めても強いナイトを消し、黒だけが孤立ポーンを抱える展開を解消します。ピースの交換を進めた結果、黒は全く不満のないエンドゲームを迎えることになります。

22. exd4 Ba6!


白のダブルビショップを消すため、すぐに白マスビショップの交換を仕掛けるのは、当然と言えば当然ですが上手い構想です。これまでのシリーズでは登場しなかった方法で、黒は最も厄介なマイナーピースを捌くこと成功します。

23. Rfe1 Bxd3 24. Rxd3 Rxe1+ 25. Bxe1 Qb5=/+



白の黒マスビショップは黒のセンターポーンを攻撃できないのに対し、白マス黒マスを行き来できる黒のナイトは、白のd4 をアタックできます。加えて白はc3 に弱点を抱えるため、黒はルーク、クイーン、ナイト全てのピースをこのマスで活用するチャンスがあります。

26. Kg1 Nh5! 27. Bd2 Ng7 28. Bf4 Ne6 29. Be3 a5 30. Kf2 h5 31. Rd1 Qb8 32. g3 Rc3 33. Bd2 Rc6 34. Rc1 Nxd4


白がd4 を落としたのは時間の問題という判断なのか、時間切迫による見落としなのかは定かではありませんが、34. Be3 などで守っても、cファイルを強くコントロールする黒が依然として有利であることは変わりません。

35. Qd3 Qb6 36. Kg2 Ne6 37. Re1 Qc5 38. Re5 Qc2 39. Qe2 Qxa2 40. Rxd5 Qxb3 41. Qb5 Qc4 42. Qxa5 Qe2+ 43. Kh3 Qf1+ 44. Kh4 Qxf3 45. Kh3 Qf1+ 46. Kh4 Rc4+ 0-1



b7-b5 からの構想は、Nge2 Exchange Variation には使いやすく、今後も頻繁に指されるのではないかと思います。Exchange Variation の研究も、まだまだ奥が深そうですね。次回は私のメインレパートリーである、5. Bf4 Variation を扱います。

2020/04/27

Basic and Advanced Strategies in QGD Vol.9


今回から2回に渡り、Queen's Gambit Exchange Variation を扱います。Exchange Variation は日本国内では人気が高く、よく指されている印象を受けます。私も後に紹介するMinority Attack と呼ばれるクイーンサイドのアクションは好きで、手順によってExchange Variation を指すこともあります。ただ、全てのQGD をExchange Variation にし、他の変化は一切勉強しないとなると、白のc4ポーンと黒のd5ポーンのぶつかりあいというQGD の大きなポイントを考える機会を失ってしまうことになります。QGD 対策は実に幅広くありますので、日本の1. d4 プレーヤーにはこの機会に色々な変化からアイディアを吸収していただきたいと思います。

Pelletier, Y (IM, SUI, 2483) - Acs, P (GM, HUN, 2521)
Mitropa Cup 19th 1999 (2)

1. c4 Nf6 2. Nf3 c6 3. d4 d5 4. Nc3 e6 5. Bg5 Nbd7 6. cxd5 exd5



この試合はSemi-Slav からの入りでしたが、より一般的なQGD Exchange Variation の手順は1. d4 d5 2. c4 e6 3. Nc3 Nf6 4. cxd5 exd5 5. Bg5 となります。黒はe6 のポーンが消え、c8 のビショップの使いづらさというQGD 最大の問題が解決しやすいようにも見えますが、白がNg1-Nf3 を遅らせ、Qd1-Qc2 を早めに指すと、g4 にもf5 にも白マスビショップを展開することはできません。Exchange Variation においても、c8 のビショップの活用は黒の大きな課題と言えるでしょう。本譜では黒が5... Nbd7 と指してからポーン交換を仕掛けているのがポイントで、黒はやはりc8 のビショップをすぐに展開できません。

7. e3 Be7 8. Bd3 O-O


近年のQGD の本にはNf6-Nh5 から黒マスビショップを交換し、Nd7-Nb6, Bc8-Be6, 0-0-0 というセットアップを推奨するものもあります。これももちろん悪くはないですが、今回は全て互いにキングサイドにキャスリングするオーソドックスな形を見ていこうと思います。

9. Qc2 Re8 10. O-O g6!



勉強している人にとっては当然であっても、知らなければ指しづらい手の1つがこれでしょう。黒の構想はNd7-Nf8-Ne6-Ng7 からのBc8-Bf5 での白マスビショップ交換です。g7-g6 はg7 に将来的にナイトの退くマスを作ると同時に、Ng7-Ne6 の際にBg5-Bxf6 からh7 のポーンが落ちないようにする狙いがあります。またこうした構想を踏まえると、Exchange Variation においてはQGD でポピュラーなh7-h6 は、将来的にg6 のマスを弱めてしまうためにあまり機能しないことが分かります。ちなみにg7-g6 を突く手順は後回しで、10... Nf8 でも問題ありません。

11. Rab1!


これも知らなければ指せない手の類だと思います。白のアイディアはbファイルにルークを回しておき、b2-b4-b5 とc6 にbポーンをぶつけてオープンファイルを作ることです。この際、c6 でポーン交換になれば黒のcポーンは守りのないバックワードポーンとなり、長期的に弱点となります。またこうした白にa,bポーンが2つ、黒にa,b,cポーンが3つある状況で、ポーンの少ない白側からポーンを伸ばすアクションをマイノリティーアタックと呼びます。

11... a5 12. a3 Nf8 13. b4 Ne6 14. Bh4 Ng7!?



今年に入ってQGD を勉強し直すまで私は恥ずかしながら、このポーン交換をあえて挟まないアイディアを知りませんでした。黒がa7-a5 を突こうと、a7-a6 ともう一段低く構えようと、aポーンにノータッチであろうと、白の構想は基本的にbポーンをb5 まで進めることに変わりありません。それでは、それぞれの黒のリアクションを比較すると、a7-a5 と伸ばすことのメリットはb4 でポーンがぶつかった際に、aファイルを開いてa8 のルークを使いやすくすることのように思えます。するとa7-a5 と伸ばしたのにポーンを交換しないのは奇妙にも思えます。

実際に14... axb4 15. axb4 Ng7 16. b5 Bf5 17. bxc6 bxc6 18. Ne5 Rc8 19. Rb7 という変化も多く指されています。この形は11... Nf8 12. b4 a6 13. a4 Ne6 14. Bh4 Ng7 15. b5 axb5 16. axb5 Bf5 と合流しています。どちらの手でも同じ形になるならば、a7-a5a7-a6 には違いが無いと言えるでしょう。ところが今回のゲームではbファイルでのポーン交換を挟んでいないため、白にはa3、黒にはa5 にポーンが残っています。黒はaファイルを閉じたままにしても、白のポーンをa3 に残し、これをターゲットにするというのが白の狙いです。aファイルは開いたほうが良いと当然のように思っていた私には、このアイディアは目から鱗でした。(ただし、マイノリティーアタックに対してaファイルを開いたほうが良い場合もあります。)

15. Bxf6


このビショップナイト交換はTartakower Variation などでも見ましたが、ここではビショップのダイアゴナルをf8-a3 からずらすことで、c5 の黒のコントロールを一時的に弱めることや、a3 のポーンが落ちないようにするという狙いがあります。ただし、すぐに15. b5 とする手も可能で、15... Bxa3 16. bxc6 bxc6 17. Qa4! で白はc6 ポーンを落として勝負できます。黒としてはc6 を先に守っておき、a3 は長期的なターゲットと考える選択もあるでしょう。

15... Bxf6 16. b5 Bg4!



g7 にナイトを退いた形では、Bc8-Bf5 からの交換がオーソドックスなアイディアですが、ここでは黒は早めにダブルビショップになったことを利用し、白マスビショップの交換は保留しておきます。f6 でのビショップナイト交換により、f6 に上がったビショップがe5 を守っているため、白はNf3-Ne5 ができません。黒はここに目をつけ、f3 のナイトを消すか追い返すかして、白のキングサイドの守りを薄くし、c6 もついでにアタックされづらくしておきます。

17. bxc6 bxc6 18. Nd2 Be7!


堅いd4 をいつまでも当てておくよりも、Bf6-Be7-Bd6 と組み直したほうが黒マスビショップは使いやすいことは、Tartakower を紹介した際のゲームでも確認しています。このゲームではf3 のナイトを追い返し、h2 の守りを弱めているため、このビショップの組み直しはなおさら有効です。

19. a4 Bd6



白は19手目でa3 を狙われないようにaポーンを突き直し、これで大まかなポーンストラクチャーが確定しました。GM Baburin の解説によれば、白がa4 までポーンを伸ばしたことで、Nc3-Na4-Nc5 というアウトポストを目指すナイトのマヌーバリングチャンスは消え、黒は必要に応じてBd6-Bb4 とbファイルを閉じて白のクイーンサイドのアクションに対応できるとのことです。マイノリティーアタックへの対応がイマイチつかめず、いつもクイーンサイドを突破されて簡単に負けてしまうという人には、こうした黒のディフェンスのアイディアは参考になると思います。

20. Rfe1?!


後の展開を考えるのであれば、これが緩手だったと個人的には思います。Tartakower で見た20. e4!? のアクションは有効で、再び白からポーンストラクチャーの変化とナイトの働きやすさを求めて勝負するべきでしょう。

20... Qg5! 21. Rb6 Nf5!



マイノリティーアタックらしいクイーンサイドとキングサイドの攻め合いですが、f3 のナイトを退かせたうえで、ここまでピースが働けるのであれば、黒はダイレクトな白キングへのアタックチャンスで楽しみがありそうです。ピンを利用したNf5-Nxd4 のポーン取りのスレットがあるため、白はなんらかの対応をしなければいけませんし、当然c6 も取れません。

22. Bxf5 Bxf5 23. Qc1 Rac8 24. Na2 Qd8!


白マスビショップも貰い、あらためてダブルビショップvs. ダブルナイトの構図になった黒は、丁寧にクイーンサイドをカバーしにいきます。24. Rxc6 Qd7 ならばcファイルを奪ってa4 を落とし、黒十分でしょう。

25. Rb3 c5!



あまり早くやりすぎるとd5 が大きな負担となりやすいこのアクションも、ダブルビショップを持ち、cファイルも先に抑えてクイーンをターゲットにできるのであれば、躊躇することはありません。通常白の拠点となるクイーンサイドをあっという間に黒が支配し、ゲームはすぐに終わりです。

26. dxc5 Bxc5 27. Rc3 Bd6 28. Rxc8 Qxc8 29. Nb3 Qa6 30. Qd2 Rb8 31. Nd4 Bd7 32. Nc3 Qc4 33. Ndb5 Bb4 34. Rc1 Rc8 0-1


20年以上前のゲームですが、Exchange Variation のアイディアが多く学べると思い、ご紹介しました。次はNge2 からセンターでアクションを起こす変化をご紹介します。

2020/04/19

NCS Online Tournament


今夜はQGD の記事はお休みで、新しいNSC 主催の企画について情報をお伝えします。コロナの影響により世界各地でトーナメントが開催できない状況を鑑みて、Chess.com、lichess などの大手オンラインチェスサイトを活用した、オンライントーナメントが活発になってきています。私も先日、Playchess を利用したインドのオンライントーナメントに参加してきましたが、GM、IM 多数でとてもレベルが高く、楽しかったです。日本でも先月記事にしたALCOT は、順調に続いているようでなによりです。

そんな中、日本のチェス団体であるNCS も遅ればせながらオンラインでのブリッツトーナメントをlichess でスタートさせました。昨日の土曜日には、NSC レイティング1800未満を対象として、第1回のトライアルが開催され、40人以上の参加者を集めたようです。来週末からはU1800、O1800 とレイティングでクラス分けをして、全てのレベルを対象として誰でも参加できるようになるとのこと。参加費は無料で、NCS 会員であれば誰でも参加できるようですので、lichess のアカウントをお持ちでないかたは是非この機会に作ってみてください。オンライントーナメントの詳細はNCS のページで確認できます。私もせっかくですので、25日のO1800 には参加してみようと思います。

NCSオンラインチェス大会 on lichess.org

2020/04/18

Basic and Advanced Strategies in QGD Vol.8


メインラインは前回まででひとまず終わりとし、今回からサブラインを扱います。一応今回のシリーズではサブ扱いですが、白黒、互いに勉強になるアイディアを引き続きご紹介していければと思います。

Erdos, V (GM, HUN, 2609) - Kaczur, F (IM, HUN, 2478)
68th ch-HUN 2019 (1)

1. Nf3 d5 2. d4 Nf6 3. c4 e6 4. Nc3 Be7 5. Bg5 h6 6. Bxf6!?



このビショップナイト交換はTartakower Variation で紹介したものと似ていますが、黒がまだb7-b6 を決めていないことが大きな違いです。Vol.7 で紹介した変化に確実に入りたければ、このピース交換を避けるために、Nb8-Nd7 を挟んでからh7-h6 を突くことが推奨されます。

6... Bxf6 7. e3 O-O 8. Rc1


8. Qd2!?8. Qc2 からクイーンサイドキャスリングを狙うアグレッシブなセットアップもありますが、今回は基本的にRa1-Rc1 でなるべく統一します。白としては最も大人しい変化でしょう。

8... c6 9. Bd3 Nd7 10. O-O dxc4 11. Bxc4 e5



b7-b6 からのクイーンサイドフィアンケットは、Tartakower Variation で紹介したゲームと比べ、白がBg5-Bh4-Bxf6 のビショップ退きによるテンポロスをしていないため、白の得が明らかです。それであれば、Orthodox Variation で見たようなe6-e5 のセンターブレイクから白マスビショップ活用を狙うのが黒としては自然な作戦と言えるでしょう。

12. d5!?


かつて日本でMisha と試合をした際は、12. Ne4!? exd4 13. Nxf6+ Nxf6 14. Qxd4 Qxd4 15. Nxd4 と一気にピースが消えてエンドゲームに突入しました。白のナイトとビショップがともにe6 を抑えていれば、黒の白マスビショップは依然として展開するマスに困り、わずかに白がアドバンテージを保てるというアイディアです。他に全く違う特徴を持つ有名な変化としては、12. h3 exd4 13. exd4 Nb6 14. Bb3 Bf5 15. Re1 というKasparov-Karpov のマッチで登場したラインがあります。こちらは黒がダブルビショップでIQP にプレッシャーをかけて指しやすそうに見えますが、白もNf3-Ne5 からf7 へのアタックがあるため、バランスが取れていると言えそうです。

12... Nb6 13. b3!?



今回、私が注目したのはこの変化です。2011年にRadjabov が指したことで有名になった手で、白はd5 にポーン、ないしはピースを残すことにこだわって戦います。f6 のビショップの利きがイマイチですが、e5 のポーンを守るためにはすぐに切り替えができないことがポイントです。

13... e4


局面を単純化する手ですが、黒マスビショップを返してしまって白が指しやすい局面になると個人的には思うので、あまり好きではありません。13... cxd5 14. Bxd5 Qe7!? と指し、ポーンストラクチャーを対称にしてからじっくり白マスビショップの展開を狙うのは、黒が十分手堅く見えます。

14. Nxe4 cxd5 15. Nxf6+ Qxf6 16. Be2+/=



これは後に紹介する5. Bf4 Variation で登場しそうな形で、白は満足なポーンストラクチャーとピースが残り、d4 のアウトポスト活用で十分なアドバンテージを取れそうです。ポーンストラクチャーだけを見ればVol.7 で紹介したものと同じですが、黒のナイトがb6 であまり働いていないことが大きな違いとなっています。

16... Be6 17. Qd2 Rfc8 18. Nd4 Rxc1 19. Rxc1 Rc8 20. Rd1!?


オープンファイルを明け渡すアイディアにはリスクもありますが、c2, c4 などの重要なマスは抑えており、Nf6-Ne4-Nc3 などでc3 を使われる危険もありません。ここはルークを残し、d5 へのプレッシャーを保って白は勝負できます。

20... Nd7 21. Qa5! a6 22. Qb4 Nc5 23. Bf3 Qe7 24. Rc1 Qc7?



白のルークのライン上にくるのは見た目通り危険で、白は駒得が確定します。

25. Nxe6! fxe6 26. Qd4 a5 27. a3+-


単純にb3-b4 を受ける手が無く、勝負ありです。

27... Nxb3 28. Rxc7 Rxc7 29. Qg4 Rc1+ 30. Bd1 Nc5 31. g3 Kf7 32. e4 1-0



今回の変化はTartakower やLasker を指すプレーヤーにとっては避けることのできないものですので、黒としては対策が必要です。白がクイーンサイドへキャスリングするようなシャープな変化もチェックしておくと良いでしょう。


2020/04/12

Basic and Advanced Strategies in QGD Vol.7


私も2年半ほど前まで知りませんでしたが、Lasker、Tartakower と並び、トップレベルでもじりじりと人気の上がっているQGD の変化があります。それを今夜は黒の3つ目の主流ラインとしてご紹介しようと思います。

Jankovic, A (GM, CRO, 2575) - Berkes, F (GM, HUN, 2661)
21st European Teams 2017 (6)

1. d4 Nf6 2. c4 e6 3. Nf3 d5 4. Nc3 Nbd7 5. Bg5 h6



紹介したい純粋なムーブオーダーは、5... Be7 6. e3 h6 ですが、いずれにせよNb8-Nd7, h7-h6 の順番(0-0 は早くても遅くても、どちらでもOK) がポイントです。黒はh7-h6 を遅らせることにより、前回のTartakower の記事で紹介したような、ナイトビショップの交換を許しません。白はd7 のナイトがf6 に入れ替わるだけならば、黒マスビショップを諦めて手に入るメリットはあまりないでしょう。ここは退く一手です。

6. Bh4 Be7 7. e3 O-O 8. Qc2


この試合では白は、Vol. 4 で見たRubinstein Variation のQd1-Qc2 セットアップを選びました。もちろん、これまで見たようなルークをc1 に早く決める手もポピュラーです。8. Rc1 c5! 9. cxd5 Nxd5 10. Bxe7 Nxe7 11. Bb5 cxd4 12. Qxd4 Nf6 13. O-O Qxd4 14. Nxd4 Rd8 15. Rfd1 Bd7 16. Be2 Rac8 17. Nf3 Bc6 18. Nd4 Bd7 19. Nf3 1/2-1/2 / Eljanov, P - Gelfand, B / Palma De Mallorca GP 2017 (9) これに対しても、黒は早いc7-c5 から十分にイコアライズのチャンスを得るでしょう。

8... c5!



このラインの黒のアイディアはシンプルで、白の8手目がどうであろうと基本的にはcポーンをぶつけて早めのセンターブレイクを狙います。私は以前、このタイミングだとd5 に孤立ポーンが残ってしまうために少し早すぎると思っていましたが、2017年に出版されたPlaying 1.d4 d5: A Classical Repertoire を読んで以来、このタイミングでも黒は大丈夫だと認識しています。

9. cxd5 Nxd5 10. Bxe7 Qxe7 11. Nxd5 exd5 12. dxc5 Nxc5


黒は2ピースを捌き、c8 もアクティブにしましたが、その代わりにd5 に弱いポーンを抱えています。それでもバランスを取って戦えるのは、開いたcファイルに回したルークが、早めに位置を決めた白クイーンをターゲットにできるためです。

13. Be2 Bg4!



このポーンストラクチャーと残りピースの位置では、とても有効なアイディアです。黒はd4 のナイトを消し、白がd4 のアウトポストを抑える力を弱めることを狙います。場合によっては、Nc5-Ne6, d5-d4 というアイディアと組み合わせ、黒は弱点のポーンを捌いて完全にイコアライズを狙います。

14. O-O Rac8 15. Rfd1 Rfd8 16. Rac1 Qf6 17. Qd2 Ne4 18. Qd4 Bxf3!?


ここでBerkes はビショップナイトを交換し、ゲームはこれまで連続で見てきたように落ち着いた収束に向かいそうに見えます。

19. Qxf6 Nxf6 20. Bxf3 Kf8 21. Kf1 Ke7 22. Rxc8?!



しかし、白がここでd5 を取りにいく手がリスクが大きく、黒にチャンスが生まれます。黒ルークのcファイルからの侵入は、十分にポーンを捨てた代償のある反撃となります。

22... Rxc8 23. Bxd5 Rc2 24. Bb3 Rxb2 25. Rc1 a5!


おそらくJankovic が見落としたのはこの構想でしょう。黒はクイーンサイドのポーンマジョリティを、強力なパスポーンというさらに具体的なアドバンテージに変化させます。

26. Rc7+ Kd6 27. Rxb7 a4 28. Bd5 a3!



ピンを外した白に対し、無慈悲にaポーンを3段目に刺して黒は優位をはっきりさせます。白はルーク交換を避けてビショップを逃がすほかなく、黒はa2 を取ることができます。

29. Bf3 Rxa2 30. Ra7 Nd7 31. g4 Nc5 32. Kg2 Nd3 33. Kg3 Ra1 34. Ra5 a2 35. Kh4 Nb4 0-1


白キングは黒のパスポーンから遠すぎ、これを抑えにいくことはできませんので、ルークとナイトにサポートされたパスポーンを止めることはできません。私も一度対戦して敗れましたが、ソリッドなプレーが持ち味のBerkes は、ハンガリー代表の座を勝ち取る確かな実力があると思います。

他にも細々したラインはありますが、黒でこれからQGD を勉強するのであれば、この3回の中で紹介した変化のいずれかを試してみるのが良いと思います。他のさらにひねった変化やサイドラインは、基本を抑えてから指してみることをお勧めします。

2020/04/11

Basic and Advanced Strategies in QGD Vol.6


黒の主流変化の2つ目は、Tartakower Variation です。Vol.1,2 で紹介したゲームとどういった違いがあるのか、併せてチェックしてみてください。

Nikolic, P (GM, BIH, 2669) - Berkes, F (GM, HUN, 2645)
Bundesliga 2009 (15)

1. d4 Nf6 2. c4 e6 3. Nf3 d5 4. Nc3 Be7 5. Bg5 h6 6. Bh4 O-O 7. e3 b6



Lasker Variation と並んで人気、信用が高いのが早めのクイーンサイドフィアンケットを組む、Tartakower Variation です。日本ではこちらのラインのほうが人気があるように思えますね。これまで述べてきたとおり、h7-h6 を入れ、Nb8-Nd7 の前にクイーンサイドフィアンケットを準備するのがポイントです。

8. Rc1 Bb7 9. Bxf6!?


Tartakower Variation でチェックすべき戦略が、このビショップナイト交換です。f6 のビショップは堅いd4 に大したプレッシャーを持たないという白の判断で、このピース交換を入れてからセンターポーンを交換します。8. cxd5 Nxd5 9. Bxe7 Qxe7 10. Nxd5 exd5 11. Rc1 Be6! ならば、これまで見てきたようにb7 でビショップが働きに困ることはありません。ビショップナイト交換を挟まないポーン交換も、9. cxd5 Nxd5 10. Bxe7 Qxe7 11. Nxd5 Bxd5! と進み、黒は満足な2ピース交換からc7-c5 のブレイクでイコアライズに成功するでしょう。d7 にナイトを展開するのを遅らせたため、c7 のポーンが落ちないのがポイントです。

9... Bxf6 10. cxd5 exd5 11. b4!?



Nikolic は早い段階でクイーンサイドのアクションを起こしますが、これには本譜で見られる黒の反撃があります。11. Be2 とピース展開、キャスリングで様子を見て、その後にb2-b4 をするかどうか見極める変化も良いでしょう。

11... c6


b7 のビショップとc6 の組み合わせは変なように思えますが、白にb4-b5 を許すとその後でどうcポーンを突いても、ポーン交換からd5 が弱い孤立ポーンになってしまいます。そうなると、白はf6 のナイトを消したことも効果が出てくるでしょう。黒は一旦c6 でポーンを止めておき、白のb4-b5c6-c5 と突き直せるようにするのが本譜のアイディアです。代わりにいきなり12... c5!? とセンターポーンを捌き、c5 のポーンはゆっくりNb8-Nd7 から回収する変化もあります。黒はf6 のビショップをアクティブにして十分に戦えますが、d5 のポーンが孤立することや、bファイルが開くために多少無防備になるb7 のビショップに気をつけなければいけません。

12. Bd3 Be7!



早いc7-c5 を仕掛けないのであれば、黒マスビショップはf6 で大した仕事はありません。元のダイアゴナルに戻してクイーンサイドの反撃に使います。c5 のマスに利かせることで、c6-c5 のサポートの働きがあることも、このビショップ退きのポイントです。

13. Qb3 a5!


白がb2-b4 からc5 を抑え込むアイディアには、黒はa7-a5 からbポーンを崩して対応するのがオーソドックスなアイディアです。ここでbポーンをどう捌くかは白にとって迷うところです。

14. bxa5


14. b5 c5! ならば12... c5 とはまた違う状況でc5 にポーンが伸び、白のセンターに反撃ができます。これであれば黒はd5 が孤立になることもなく、またbファイルも開いていないために、b7 のビショップがアタックされることもありません。本譜のようなa,bファイルの交換は、互いにa,bポーンが弱点になりますが、黒がトータルで悪いということはないでしょう。

14... Rxa5 15. a4 Na6 16. O-O Nb4 17. Be2 Bd6 18. Rfd1 Qe7



展開を遅らせていたナイトは珍しいルートでb4 に入り、黒マスビショップもd6 のアクティブな位置に組み直せば、黒はほぼ全ての問題を解決するのにあと一歩です。扱いが難しいのはb7 のビショップで、b7 に置いたままでは働きが悪いですが、ダイアゴナルを切り替えるとc6 のポーンが弱くなってしまいます。そう考えると、b4 のナイトがc6, b6 の弱いポーンをサポートする大きな役割を担っていることが分かります。

19. Ne1 Rfa8 20. Bf3 Ba6 21. Qb2 Bc4 22. e4


黒がc7-c6, b7-b6 のポーンストラクチャーの際、白はこのセンターブレイクを利用します。ポーンを捌いた際はd4 が孤立ポーンになりますが、その代わりにd5 を消せればc6 が攻撃しやすくなるため、バランスはとれていると判断できます。

22... dxe4 23. Nxe4 Bd5 24. Nc3 Qf6 25. Bxd5 Nxd5 26. Nf3 Nxc3 27. Rxc3 c5



ピースが捌け、一つ前のゲームのような穏やかな収束が見えてきました。a-dファイルの互いのポーンは弱く、これらを全て取り合えばドローに落ち着くでしょう。

28. Rb3 Rxa4 29. Rxb6 Ra2 30. Qb5 c4 31. Rf1 c3 32. Rc6 c2 33. Qd5 R8a5 34. Qe4 Qg6 35. Qxg6 fxg6 36. Ne1 Rc5 37. Rxc5 Bxc5 38. Nxc2 Rxc2 39. dxc5 Rxc5 40. h4 1/2-1/2


黒から早い2マイナーピース交換を仕掛けるLasker Variation とは異なりますが、Tartakower Variation も黒が丁寧に問題解決に努める優れた変化であると言えます。覚えておいてほしいポイントは、Tartakower Variation では白からビショップナイト交換を仕掛けるアイディアがあり、評価の難しい局面になりやすいということです。指しこなせれば、黒からも勝ちが狙いやすいと思いますので、それらの点を踏まえ、Tartakower Variation にチャレンジするかどうかを考えてみてください。

2020/04/08

Basic and Advanced Strategies in QGD Vol.5


今回から3回に渡り、現在のQGD 主流のラインをご紹介する予定です。一つ目は私が最もお勧めする、Lasker Variation です。

Akobian, V (GM, USA, 2647) - Fridman, D (GM, GER, 2636)
St Louis Summer A 2018 (9)

1. d4 d5 2. c4 e6 3. Nc3 Nf6 4. Nf3 Be7 5. Bg5 h6 6. Bh4 O-O 7. e3 Ne4!



このタイミングでナイトがe4 に跳んで、2ピース交換を狙う変化こそ、私が最もQGD で最もソリッドだと考えるLasker Variation です。第2代世界チャンピオンの名を冠するほど古い時代から指されながら、現在もトップレベルで愛用されるほど人気の高い変化です。

8. Bxe7 Qxe7


d5 にナイトが跳ぶOrthodox Variation と違い、e4 にナイトが跳ぶLasker Variation では、h7-h6 を入れてビショップを退かせたことが、ピース強制交換のポイントとなります。

9. Rc1 c6 10. Bd3 Nxc3 11. Rxc3 dxc4 12. Bxc4 Nd7 13. O-O b6!



9. Qc2, 9. cxd5 などの変化もありますが、今回は最もポピュラーな9. Rc1 を扱います。13手目では13... e5 も可能ですが、Vol.3 で扱ったゲームと、h7-h6 が入っているだけで、ほぼ同じポジションになります。そこでVol.1,2 では失敗だった、b7-b6 からのクイーンサイドフィアンケットのアイディアを見てみることにしましょう。

14. Bd3 c5!


これもVol.4 で見たアイディアで、白にBd3-Be4 と組み直され、c6 のポーンが弱点やピンにされないうち早めにセンターブレイクを仕掛けておきます。

15. Qc2 Bb7 16. Bh7+ Kh8 17. Be4



h7 でのチェックを入れておくのは小さいですが有効なアイディアで、エンドゲームになった際に黒キングをセンターから遠ざけておきます。またこのh7 でのチェックの際にポーン取りのスレットになっていないことも、h7-h6 を入れた大きな意味になります。つまりOrthodox Variation でb7-b6 のアイディアを使おうとしても、h7 のポーンを受けるのに1手かけなければいけない分、このLasker Variation よりも損であることが、ここで確認することができます。

17... cxd4! 18. Nxd4 Bxe4 19. Qxe4 Nc5 20. Qc2 a5!


Lasker Variation では2ピース交換とc6-c5 のブレイクを入れてb7 からビショップを活用しても、まだ黒は油断はできません。cファイルをコントロールされ、c6 のマスにナイトを入れられて、黒が苦しい展開になることもあるからです。ここでは黒はb2-b4 を防いでナイトをc5 に残せるようにすることで、白にcファイルやc6 のマスを活用するチャンスを与えないようにします。

21. h3 Qb7 22. Rc1 Rfd8 23. Nb3 Na6 24. Nd4 Nc5 25. Nb3 Na6 26. a3 a4



アンパッサンを利用し、a4 まで進めたポーンで白のbポーンを抑え込めば、再びc5 でのブロックを続けることができます。

27. Nd4 Nc5 28. b4 axb3 29. Nxb3 Nxb3 30. Qxb3 Rdc8


a,bポーンと最後のマイナーピースを交換してしまえば、局面は完全にドロー模様です。

31. Rxc8+ Rxc8 32. Rxc8+ Qxc8 33. Qxb6 Qc1+ 34. Kh2 Qxa3 35. Qb8+ Kh7 36. Qf4 Kg8 37. Qb8+ Kh7 38. Qf4 Kg8 39. Qb8+ 1/2-1/2



Lasker Variation は7手目の時点でほぼ2ピース交換が確定し、その後、e6-e5 かc6-c5 のどちらかのブレイクを狙い、白マスビショップを活用します。黒が負けにくいソリッドな変化でありながら、決してドロー狙いの消極的な作戦というわけでもなく、エンドゲームのテクニック次第で黒から勝ちも十分に狙えるでしょう。日本でもっと指されてほしい変化の1つです。

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