2023/11/08

Japan Open 2023 Deep Game Analysis


ジャパンオープン最終戦で指した試合は学びが多く、埋もれさせてしまうには惜しいと思ったので、あらためて解説記事を書こうと思います。対戦相手の中原くんは、小学生~高校生まで私がチェスを教えており、こうした元教え子が大学生になってもチェス界に復活し、活躍してくれることをとても嬉しく思います。現在の大学生のトップたち、大塚くん、長瀧くん、中原くん、松山くん、米満くんたちはかなり力をつけてきており、私たちからもポイントを取りうる油断できないプレーヤーです。将来、この中から次の日本代表が生まれることを期待しています。

Nakahara, K (CM, JPN, 2052) - Kojima, S (IM, JPN, 2306)
Japan Open 2023 (7)

1. e4 c6 2. d4 d5 3. e5 Bf5 4. Nf3 e6 5. Be2 Ne7 6. O-O c5!?

全日本選手権では米満くん相手に6... Bg6を指しましたが、複数の変化を研究して今回はよりメジャーな6... c5を試すことにしました。こちらの変化は実に13年ぶりで、当時は何もわからず指して弘平くんに敗れました。

7. c3


7. c4 Nbc6 8. Na3 a6 9. dxc5 d4 10. Qa4 Ng6 11. Rd1 Bxc5などと進む変化を予想していましたが、c2-c3からd4を支えるのもさほど悪くありません。黒は白マスビショップを上手く展開できたFrench Advanceのように指したいですが、f5のビショップはターゲットにもなりうるため、そう単純ではないでしょう。

7... Nec6


ナイトはd7、c6に2つ展開するのが良い組み合わせなので、こちらのナイトをc6へ運びます。

8. Be3 cxd4!?


ポーン交換をどのタイミングでするかは迷いましたが、今回は早めにしました。試合後にポーンを交換しなかったらどうかも話しましたが、その場合はc3-c4と白が突き直すこともありえるでしょう。ただしその突き直しの良いタイミングは判断の難しいところです。8... Nd7 9. Nbd2 Be7 10. a3と進んだ場合、白はb2-b4からクイーンサイドでまずは仕掛けると予想できます。

9. Nxd4!

おそらくナイトから取るのが正解です。一般的にd4にポーンが残るストラクチャーでは、マイナーピースをある程度捌けているほうが白のアタックチャンスを限定でき黒は安全です。一方で早めにf3のナイトを捌くことで、f2-f4-f5という仕掛けのチャンスが生まれることも見逃せません。

9... Nxd4 10. cxd4 Nc6


c6のナイトが1回捌けたため、予定変更で再度c6にナイトを展開します。この局面は1. e4 c6 2. d4 d5 3. e5 Bf5 4. Nf3 e6 5. Be2 c5 6. c3 Nc6 7. O-O Bg6 8. Be3 cxd4 9. cxd4 Nge7 10. Nh4 Nf5 11. Nxf5 Bxf5から発生することが多いと、試合後に調べて気づきました。黒はc2に利きを集中させるか、d4への反撃でひとまずは十分な局面に思えます。

11. Nd2 Be7 12. f4 O-O 13. Rc1

13. g4 Be4 14. Nxe4 dxe4と進む変化はポーンを崩しても、d4への反撃がやりやすくなり、d5のマスの活用チャンスもあって黒が面白いと感じていました。本譜のようにゆっくりくるのであれば、黒もg2-g4の仕掛けを警戒しておきます。

13... h6 14. Nb3 Rc8 15. a3 Qb6!


a2-a3はNc6-Nb4を防ぐために仕方なくも思えますが、b3のナイトが浮くのが気がかりです。そこでクイーンをb6に配置し、d4,b3,b2へのプレッシャーを作ります。白がキングサイドから仕掛けてこなければ、a7-a5-a4としてナイトをどかし、b2を取りにいくつもりでした。

16. g4 Be4 17. Bd3

白マスビショップの交換は白のアタックチャンスをさらに限定するうえ、ポーンストラクチャーの観点から白にバッドビショップ、黒にグッドビショップを残すため、黒にとって基本的に歓迎するべきものです。一方、白はそんなことも言っていられず、f4-f5の押し込みチャンスを作られなければクイーンサイドが単に崩壊して終わります。

17... Bxd3 18. Qxd3 f5!?


f4-f5の押し込みを止める最もスタンダードなアクションですが、ここはクイーンサイドで攻め合うのもありでした。18... a5 19. f5 a4 20. f6 (20. Nd2? Qxb2 21. f6 Nxe5! 22. dxe5 Rxc1 23. fxe7 Re8-+) 20... Qxb3 21. Qd2 Rfe8= 黒はこのようにしてピースを返して戦うのがコンピュータの示す変化ですが、人間的には少し守り間違えるとキングがつかまりそうなので、これを選ぶのはかなり勇気が要ります。

19. Rc2? a6?!

g4を取る変化は少し考えましたが、b3のナイトが浮いており、クイーンがg6へ入れないうちにやっておくべきでした。19... fxg4! 20. Rg2 Rf7 21. Rxg4 Bf8-/+ こうしてg7を受けておけば、gファイルからの攻撃をさほど気にせず、クイーンサイドでのアクションに集中できるというコンピュータの評価です。確かに本譜で白がgファイルを開くタイミングをコントロールできるようにするくらいなら、早めに黒から開くべきでした。これを避けるのであれば、白も19.h3を先に指すのが良かったでしょう。

20. h3 Na7?


この辺りの数手で怪しい手が出て白に形勢は傾き始めます。私はルーク、クイーン交換からキングサイドのプレッシャーを緩和するつもりでしたが、白は当然その誘いに乗るはずもありません。gファイルからの攻めが明らかなのであれば、先にそちらを受けておくべきでした。20... Rf7 21. Rg2 Na5 22. Nxa5 Qxa5=

21. Rg2! Qb5 22. Qd1 Qe8

かつて馬場さんや羽生さんとの試合でも、f4,f5でポーンがぶつかり合う同じストラクチャーでクイーンをこのように使い、キングのディフェンスを行いました。ところがこのクイーンがこの後、大変な問題を引き起こすことになります。

23. Kh2 Qg6 24. Rfg1 Rf7?


g4を取る手はこの試合でどうしてか踏み切れませんでした。24... fxg4! 25. Qxg4 Qxg4 26. hxg4 Nb5=と進んだ場合、黒はキングサイドを満足に守り切って戦えます。

25. Qd3! Qh7

g6の浮いたクイーンをキングで守れるようにしました。25... Bf8 26. g5! h5 27. Nd2!はナイトがh4への移動を見せるアイディアが嫌でした。

26. gxf5 Rxf5 27. Na5


2ルークvs.クイーンの評価は難しいですが、思い切って仕掛けても黒は2ルークが連携できておらず、白は勝負できたようです。27. Rxg7+ Qxg7 28. Rxg7+ Kxg7 29. Na5 Rc7 30. Qb3!+/-

27... Rf7 28. Rg6!

ターゲットにならないようg6からクイーンを逃がしましたが、代わりにg6のマスにルークが跳びこんでくるアイディアをうっかり見逃していました。h6、e6にプレッシャーをかけつつ、クイーンをh7に閉じ込める白ルークの存在は脅威です。

28... Bf8 29. R1g2


次にf4-f5と押し込み、ビショップをh6に利かせてRg6-Rxh6としたいところですが、Rf7-Rxf5-Rf2+がチェックとなれば、黒はd3のクイーンを取って勝勢です。本譜のR1g2はそれを防ぐために2段目をカバーする手で、時間がない中でも冷静だと感じました。

29... Kh8 30. Qd1 Nc6

この手ではだめだと自分で思いながらも、e6を消極的に守るだけではナイトの位置の改善も遅れ、どうしようもないだろうとの判断です。

31. Nb3??


この悪手で黒は完全に息を吹き返しました。ナイトを捌いた際にe6をテンポで守られると「もったいない」と感じるのは理解できます。しかし、実際には本譜のように閉じ込めたクイーンに復活のチャンスを与えるほうが「もったいない」でしょう。31. Nxc6 Rxc6 32. Qg4+-と進めれば黒はクイーンをゲームに戻すことができず、白勝勢です。

31... Ne7! 32. Rxe6 Qe4!

e6を捨ててでも、クイーンをh7から脱出させなければ黒はどうしようもないと感じていました。実際こうして進んでみると、白はビショップ、ナイトが浮いたピースとして負担になり、f4、d4もターゲットになってどう指すかの判断が難しい状況です。

33. Bc1?


33. Qh5!ならば白はまだ戦えたようです。以下33... g6 34. Qe2 Nf5 35. Bc1 Qxe2 36. Rxe2 Kh7 37. Rb6 Rcc7と進み、黒はポーンの代償ありで勝負です。

33... Nf5! 34. Qg4?

上記の変化と違い、g7-g6を誘ってg6ポーンを弱めてはいないですが、それでも34. Qe2からクイーンを交換すべきでした。攻め合うのはキングが不安定な白にとってリスクが高すぎます。

34... Rc2


g2のルークに当てておくことで、白クイーンをg4から離れられないようにする狙いでしたが、もっと良い決め手がありました。34... Rxc1! 35. Nxc1 Ne3 (このナイトフォークは考えていましたが、f4から守りの白クイーンを引き離すことで、f4取りチェックからc1が最終的に落ちるのが互いに見えていませんでした) 36. Rxh6+ Kg8 37. Qg6 Qxg2+ 38. Qxg2 Nxg2-+ h6を取らせる変化は最後にそのルークが当たりになっており、白は厳しい駒損です。

35. Bd2 Rxb2 36. Qg6?

時間切迫でさらなるミスが出るのは仕方ありません。36. Re8 Rxb3 37. e6 Rf6 38. Bb4が白が生き延びるラストチャンスです。

36... Nh4!


他にも候補手はあったようですが、一番わかりやすいと思います。白はクイーンが6段目の邪魔になっており、Re6-Rxh6+ができなくなっています。ここがナイトがh6のディフェンスから離れ、アタックに切り替えるベストのタイミングでしょう。白はクイーン交換後、決定的な駒損が避けられません。

37. Qxe4 dxe4 38. Re2 Rxb3 39. Bc1 Nf3+ 0-1

ナイトに続き、d4でのフォークからルークが落ちて決着です。40手には満たないですが、内容の濃い試合でした。

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