2020/05/24

【おうちで棋譜ならべ】シリーズ


現在はコロナの影響でいっぷくでのチェスレッスンはできていませんが、その代わりにいっぷくの藤田さんがYouTube で様々なボードゲームを紹介する、【おうちで棋譜ならべ】シリーズに出演させていただきました。将棋、囲碁、バックギャモン、連珠などのゲームが並び、プロ棋士のかたも多く登場する中、チェスをご紹介することができて光栄です。棋譜紹介は5年前に羽生さんとトレーニングで対戦した際のゲームを使わせていただきました。同じシリーズのチェス以外のゲームもとても面白いですので、そちらと併せてご覧ください。

【おうちで棋譜ならべ】チェスIM 小島慎也【チェス】

2020/05/05

Basic and Advanced Strategies in QGD Vol.11


これまで10回に渡り、白がビショップをg5 に展開するQGD を紹介してきましたが、今回は少し違った変化の登場です。

Bacrot, E (GM, FRA, 2749) - Aronian, L (GM, ARM, 2801)
European Teams 2013 (8)

1. Nf3 d5 2. d4 Nf6 3. c4 e6 4. Nc3 Be7 5. Bf4!?



QGD 対策を大雑把に分けるのであれば、Bg5 のメインライン、Exchange Variation、Catalan などがありますが、この5. Bf4!? の変化も近年とても人気があり、QGD プレーヤーにとっては対策が必須となっています。私も2008年に1. Nf3 を指し始め、QGD 対策を何にするか悩んできました。最初は全てCatalan にしていましたが、一部のラインは指しこなすのが難しいと実感し、今は黒の手順によって上記の変化を使い分けるようにしています。5. Bf45. Bg5 と違い、f6 のナイト、さらにはd5 のポーンにプレッシャーをかけませんが、その代わりにe5 のマスを強力に抑えているため、e6-e5 のブレイクは難しいでしょう。

5... O-O 6. e3 Nbd7


黒は6手目で何を選ぶかによって、その後の展開が大きく変わってきます。6... c5 はこの変化を代表する手で、黒はd5 へのプレッシャーが緩いことを利用して素早くセンターに反撃します。6... c5 7. dxc5 Bxc5 8. Qc2 Nc6 9. a3 Qa5 10. Rd1 Re8!? 11. Nd2 e5 12. Bg5 Nd4! 13. Qb1 Bf5 などは古くからありますが、またここ数年で見直されています。

6... Nbd7 はトップレベルでも最も手堅い手として考えられており、黒はナイトの準備をしてからc7-c5 からのセンターブレイクを狙います。Vol.7 で紹介した変化とアイディアは似ており、 黒は白の7手目が何かにほぼ関係なく、c7-c5 のブレイクができることも分かりやすい点でしょう。私は7手目で7. Rc1, 7. Qc2, 7. a3 といくつかの手を試してきましたが、本譜の手も代表的です。

7. c5!?



これまでのQGD では一切出てこなかった、白からc4-c5 を押し込む手は、この変化でとてもポピュラーです。白のアイディアはクイーンサイドでのスペースを確保するとともに、黒のc7-c5e6-e5 のブレイクを防ぎ、c8 のビショップの活用を許さないことです。

7... c6 8. h3 b6!


黒が白マスビショップの活用を図るためには、a6 からの白マスビショップ交換しかありません。次にa7-a5 からクイーンサイドを開くことを狙い、a8 のルークも捌けるようにします。

9. b4 a5 10. a3 h6!?



黒は1手待ち、Bc8-Ba6 の白マスビショップ交換を遅らせます。10... Ba6 とすぐに指すのも問題ありませんが、白からは難しい変化に誘導する手があり、それを避けたい場合、黒は本譜の1手待ちが有効になります。10... Ba6 11. Bxa6 Rxa6 12. b5!?


Reference Diagram

2013年のAnand-Carlsen のマッチで、Anand がこの手を用い勝利を挙げたことで当時注目されました。現在は色々と研究が進み、黒は安全策でイコールに落ち着けることが分かっていますが、それでも面白いアイディアに富んだ変化です。12... cxb5 13. c6 Qc8! (ナイトが逃げてもc6-c7 がポーンフォークになるため、この手しかありません。) 14. c7 b4! 15. Nb5 Ne4 16. Rc1 a4 17. Nd2 Nc3 18. Nxc3 bxc3 19. Rxc3 Qb7 20. O-O b5= Kojima - Golubov / First Saturday GM 2014 Dec

11. Qc1!?


黒が1手待つならこちらも待つぞ、という手で、白はf1 の白マスビショップを展開するのを遅らせます。cファイルにクイーンを置いているのがポイントで、上記のアイディアのようにcポーンを押し込んだ際、c3 のナイトはすでに守られています。

11... Bb7


11... Ba6? 12. Bxa6! Rxa6 13. b5! cxb5 14. c6+- 上記の変化と違い、黒はd7 のナイトを生かす手が無く困っています。

12. Bd3 Qc8 13. O-O Ba6



b7 を経由し、1テンポロスでビショップ交換となりましたが、黒はひとまずこれでQGD における最も厄介なピースを捌けることになります。閉じたポジションでは、ピースの展開の早さは開いたポジションに比べてさほど重要ではなく、スピードよりもお互いにどこでチャンスを作るかという構想の勝負になってきます。

14. Bxa6 Rxa6 15. Qc2 Qb7 16. Rab1


黒からaポーンを大きく進めてポーンのぶつかりを作っている状況では、aファイルをいつ開くか、または閉じたままにするかという決定権は黒にあります。将来的に黒がaファイルを開き、オープンファイルの奪い合いのために白ルークはaファイルに戻るとしても、ここは一度aファイルから離れ、黒がどう動くのか様子を見ます。

16... axb4 17. axb4 Ra3



白ルークがbファイルに避けたタイミングでaファイルを開き、ルークを侵入させてた黒が調子よく指しているようにも見えますが、白にはルークに狙われて困るターゲットは特になく、問題ない状況です。

18. Rfc1 bxc5 19. bxc5 Qa6


黒からbファイルを開くことは、bファイルにルークを置いている白を助けているように見えますが、ポーンをぶつけたままにしておくと、どこかで白からb4-b5 と仕掛けるチャンスが生まれてしまいます。b6-b5 と固めるアイディアもありそうですが、b4 に白ポーンを残しておくとa5 が抑えられたままであるため、Nf3-Nd2-Nb3-Na5 といったマヌーバリングでaファイルをブロックされたうえ、c6 を狙われる恐れがあります。c6 に必ず残るポーンをいかに白に狙わせないか、または狙わせても十分守り切れる状況にするかは、このポーンストラクチャーでの黒の課題と言えるでしょう。

20. Ne1 Ra8 21. Qb2 Qc8 22. Qb7 Qxb7 23. Rxb7 Bd8!



d6 のマスやa3-f8 のダイアゴナルが抑えられたこのポーンストラクチャーでは、黒の黒マスビショップは大人しく、どう使うか悩むとこでしょう。Be7-Bd8 は一般的には次にBd8-Bc7 と黒マスビショップ同士をぶつけ、f4 から長く利く白のアクティブなビショップを消しますが、ここではc7 のマスを抑え、c6 ポーンをルークで裏からアタックされないようにします。

24. Bc7 Bxc7 25. Rxc7 R8a6


通常、黒からBe7-Bd8-Bc7 と当てて捌く黒マスビショップを、ここでは白から当てて交換しました。f4 のアクティブなビショップを消してしまいますが、その代わりに白はc6 をルークでアタックするチャンスを得ます。

26. Nd3 Rb3 27. Ne5 Nxe5 28. dxe5 Raa3! 29. Ne2



ナイトを取り合うとc6 のポーンは落ちそうですが、相手ルークに後ろからパスポーンを狙われているルークエンディングは勝つことができないでしょう。ここはお互いにナイトを逃がし、白はピースを残した状態でc6 を取って勝負にいきますが、f6 のナイトが跳び込めるようになるため、黒にも反撃のチャンスが十分に生まれています。

29... Ne4! 30. Rxc6 Rb2 31. Rc8+ Kh7 32. Re1 Raa2 33. Kf1?


こうしてe2 のナイトを守ってしまえば、2段目にルークを2つ侵入されていても守り切ることができ、c6 のパスポーンで勝負にいけるというのがBacrot のアイディアでしょう。しかし、実際には黒には上手い構想があり、33. Nc1 Ra3 34. Ne2= としてドローで満足するべきでした。

33... Rc2 34. c6 Nc5! 35. c7 Nd3!



Aronian はcポーンを完全に無視し、白のディフェンスを剥がしにいきます。33手目の時点で白のプロモーション狙いと黒の反撃が、どういった決着を迎えるのかを読み切るのは大変だと思います。

36. Rd1 Rxe2 37. Rh8+ Kxh8 38. c8=Q+ Kh7 39. Rxd3 Rxf2+


白はクイーンを作り、はっきりと駒得になりましたが、黒にはダブルルークによる2段目の強力な支配があり、ポーンを消して白キングを無防備にすることで、メイトスレットを作るチャンスがあります。

40. Ke1 Rxg2 41. Kf1 Rgc2 0-1



メイトとクイーン取りのスレットを同時に作ればクイーンルークの交換となり、黒は勝勢のルークエンディングへと持ち込めます。Bf4 QGD は細かくラインをチェックするとそれだけで膨大な記事になるため、今回はちょっとしたアイディアの紹介ということで、この1つの記事のみとしておきます。

2020/05/04

第2回NCSオンラインチェス大会


以前も告知したNCS 主催のlichess でのオンライン大会は、4月末のトライアルを経て無事にスタートしています。先週末に開催された第1回大会では、弘平くんが行っているYoutube での実況に、トライアルで優勝した南條くんが登場して解説を行い、視聴者、参加者ともに楽しめたようです。

そして今週末の第2回大会では、私が解説をすることが決まりました。17時からのU1600、18時からのOpen どちらも解説をする予定ですので、視聴者の皆さんはよろしくお願い致します。参加者の皆さんも良いプレーができるよう頑張ってください。今週末の5/9 (土) を楽しみにしています。

NCSオンラインチェス大会要項
第2回NCSオンラインチェストーナメント Live ページ

2020/05/02

Basic and Advanced Strategies in QGD Vol.10


この記事でQGD シリーズも10回目に突入です。もう少しだけお付き合いください。Vol.10 では、前回の続きでQGD Exchange Variation を扱いますが、白がキングサイドのナイトをどこに展開するかで、ゲームは全く違った様相を見せます。

Rios, C (GM, COL, 2465) - Matamoros F (GM, ECU, 2494)
43rd Olympiad 2018 (11)

1. d4 Nf6 2. c4 e6 3. Nc3 d5 4. cxd5 exd5 5. Bg5 c6 6. e3 Be7 7. Qc2 Nbd7 8. Bd3 O-O 9. Nge2!?



今回のシリーズでは初めて、白がナイトをf3 に展開しない形です。基本的にはf3 のほうがキングサイドの守りや、Nf3-Ne5, Nf3-Ng5 といった攻撃に優れたバランスの良い位置ですが、f2-f3, e3-e4 といったセンターポーンでの仕掛けを考えるのであれば、Ng1-Ne2 は面白いセットアップです。私たちの世代でも南條くんがかつて好んで使っており、日本のチェス界に大きな影響を与えていた印象があります。

9... Re8 10. O-O Nf8 11. f3


e3 のマスを弱めても、黒にはそれをすぐ利用する方法はないでしょう。白はNf6-Ne4 の跳び込みを防ぎつつ、eポーンを伸ばす準備を整えます。

11... g6



黒のセットアップは、Vol.9 で紹介したNg1-Nf3 のExchange Variation と同じです。ただし、Nf8-Ne6 のアイディアは良いとしても、e3-e4 と白のポーンが伸びてくることを踏まえると、Bc8-Bf5 からすんなり白マスビショップを交換できるとは思えません。このビショップをどう捌くかは、このラインでも大きなテーマと言えそうです。

12. Rad1


先述の通り、白のメインの狙いはe3-e4 とポーンを押し進めることですが、そのためにはいくらか準備が必要です。ルークをd1 に回す手は将来的にd4 を守る狙いがありますが、ルークの位置としては12. Rae1 もありえそうです。その場合でも、本譜と同じアイディアで黒は対応できると私は考えています。ルークを回すかわりにセンターで早々に仕掛けるのは焦りすぎで、12. e4?! dxe4 13. fxe4 Ne6! 14. Be3 Ng4 と進めば、センターの厚みを与えても白の黒マスビショップを消すことができます。

12... Ne6 13. Bh4 b5!



b7-b6 のセットアップや、c6-c5 からの反撃は知っていましたが、いずれも白のセンターの厚みに抵抗するには不十分だったり、ポーンを捌かれた際にd5 が弱くなりすぎたりと、黒にはなにかしらの問題が残ります。bポーンを思い切って2マス伸ばす手は近年人気が伸びてきており、アイディアも分かりやすいと思います。

14. Kh1 Bb7 15. Bf2 Rc8 16. Qb1


後の展開を考えるのであればクイーンをd2 に避けておき、d4 のマスのコントロールを強化して戦う作戦もあったと思います。

16... b4! 17. Na4 Qa5 18. b3 c5!



黒はb7 のビショップでd5 を守っておき、十分な準備の後にc6-c5 のブレイクを決行します。この際、c5 でナイトの交換も挟めるのは、黒にとってプレーが楽になるポイントです。

19. dxc5 Nxc5 20. Nxc5 Bxc5 21. Nd4?!


もっとc6-c5 のブレイクが早いタイミングであった時も同様ですが、白はc5 でポーン交換をして黒のd5 を孤立ポーンに、d4 をアウトポストにして戦います。しかし、ここではc3 のナイトをすでに捌かれていてd5 へのプレッシャーは弱く、d4 のコントロールも不十分です。21. Qb2 としてf6 のナイトを当てておき、d4 にクイーンを利かせてからNe2-Nd4 をするほうが良かったでしょう。

21... Bxd4!



ここはビショップを諦めても強いナイトを消し、黒だけが孤立ポーンを抱える展開を解消します。ピースの交換を進めた結果、黒は全く不満のないエンドゲームを迎えることになります。

22. exd4 Ba6!


白のダブルビショップを消すため、すぐに白マスビショップの交換を仕掛けるのは、当然と言えば当然ですが上手い構想です。これまでのシリーズでは登場しなかった方法で、黒は最も厄介なマイナーピースを捌くこと成功します。

23. Rfe1 Bxd3 24. Rxd3 Rxe1+ 25. Bxe1 Qb5=/+



白の黒マスビショップは黒のセンターポーンを攻撃できないのに対し、白マス黒マスを行き来できる黒のナイトは、白のd4 をアタックできます。加えて白はc3 に弱点を抱えるため、黒はルーク、クイーン、ナイト全てのピースをこのマスで活用するチャンスがあります。

26. Kg1 Nh5! 27. Bd2 Ng7 28. Bf4 Ne6 29. Be3 a5 30. Kf2 h5 31. Rd1 Qb8 32. g3 Rc3 33. Bd2 Rc6 34. Rc1 Nxd4


白がd4 を落としたのは時間の問題という判断なのか、時間切迫による見落としなのかは定かではありませんが、34. Be3 などで守っても、cファイルを強くコントロールする黒が依然として有利であることは変わりません。

35. Qd3 Qb6 36. Kg2 Ne6 37. Re1 Qc5 38. Re5 Qc2 39. Qe2 Qxa2 40. Rxd5 Qxb3 41. Qb5 Qc4 42. Qxa5 Qe2+ 43. Kh3 Qf1+ 44. Kh4 Qxf3 45. Kh3 Qf1+ 46. Kh4 Rc4+ 0-1



b7-b5 からの構想は、Nge2 Exchange Variation には使いやすく、今後も頻繁に指されるのではないかと思います。Exchange Variation の研究も、まだまだ奥が深そうですね。次回は私のメインレパートリーである、5. Bf4 Variation を扱います。

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