日本時間の昨日朝、長かったCarlsen - Karjakin のマッチに決着がつきました。8R を黒番でKarjakin が勝ち、一時はCarlsen の王座交代かとも思われましたが、10R の白番でCarlsen が勝ちをもぎ取り、タイのスコアでタイブレークのラピッドに持ち込みます。そして昨日行われたラピッド4局のうち、3ゲーム目と4ゲーム目をCarlsen が勝って、王座防衛を決めました。多くの人がすでに目にしていると思いますが、4ゲーム目のフィニッシュは実に見事でした。
最終戦、勝つしか道のないKarjakin は、このマッチで初めてのSicilian を投入します。おそらく選ぶラインはNajdorf のつもりだったと思いますが、Carlsen は5. f3!? のポジショナルな変化になる手を選び、Karjakin が望むシャープな展開を避けにいきます。
このようなd5 に白がアウトポストを持つ展開は白が指しやすいでしょう。c1 に一時的に退いたナイトも、将来的にd5 に運べるようにCarlsen は工夫を凝らします。
b6,d6,d5 を弱点にし、2つのナイトがd5 を抑えた形で、白には特に危ない点が見当たりません。さらにここから白は、キングサイドでも手をかけて盤全体でのプレーを行います。
c4,e4 のMaroczy Bind 型では、白の白マスビショップはこのように使いなおされることが多く、私も何度も経験があります。白が懸念するとすれば、黒のナイトがc5 からb3 を狙ってきたり、d4 のアウトポストに跳びこんでくることだと思いますが、白はそれを抑え込み、黒に反撃を作らせません。
勝ちにいかなければいけない黒は、リスクを冒しても手を変えるしかありません。しかし、b6 にポーンを進めることは、c5 のマスを抑えるメリットよりも、ポーン自体がターゲットになるというデメリットのほうが大きいように見えます。
このポーン取りは、キングやf4 のマスを弱めますが、白は1つポーンを得します。私であれば躊躇うポーン取りですが、Carlsen はここから見事にキングの弱さをカバーしつつ、自身の強みが生きるようなポジションを目指していきます。
ピースを交換してポジションをシンプルにすると同時に、d5 のアウトポストを抑えられる黒のピースを減らしておき、白のナイトがセンターで活躍しやすいようにします。
こうして局面は大きく動きました。黒はエクスチェンジを捨てて勝負に出ますが、f8 のビショップが十分にアクティブではなく、駒損を補うのは少し無理があるように見えます。
ドローを回避するKarjakin に対し、Carlsen はルークを5段目でアクティブに使うことでチャンスを拡大します。
試合後、多くのプレーヤーが最後のCarlsen の1手が素晴らしいと称賛していますが、私は試合を見返していて、ここで白がポーンを取れると読み切っている点に最も驚きました。29. gxh4!? の影響で、薄くなった白キングの守りを、白は最後の最後まで気にしなければいけません。最後の1手が見えなければ、危ないのは白のキングですので、Carlsen はこのポーンを取った時点で、最後の芸術的な形まで予想できるということです!
最後はクイーンをサクリファイスし、50... gxh6 51. Rxf7#、50... Kxh6 51. Rh8# のどちらもメイトです。まるで教科書に載っているようなサクリファイスでマッチを締めたCarlsen は、二度目の防衛線に成功し、世界チャンピオンの座を守り続けることになります。今回のマッチでは、クラシカルで互角の戦いを見せ、一時はCarlsen をロープ際まで追いつめたKarjakin のプレーも称賛されるべきでしょう。次のマッチの挑戦者が誰になるかはまだわかりませんが、またこうして白熱した世界最高峰の戦いが見られることを期待しています。
Carlsen, M (GM, NOR, 2853) - Karjakin, S (GM, RUS, 2772)
Carlsen - Karjakin World Championship (16)
1. e4 c5 2. Nf3 d6 3. d4 cxd4 4. Nxd4 Nf6 5. f3!?
Carlsen - Karjakin World Championship (16)
最終戦、勝つしか道のないKarjakin は、このマッチで初めてのSicilian を投入します。おそらく選ぶラインはNajdorf のつもりだったと思いますが、Carlsen は5. f3!? のポジショナルな変化になる手を選び、Karjakin が望むシャープな展開を避けにいきます。
5... e5 6. Nb3 Be7 7. c4 a5 8. Be3 a4 9. Nc1 O-O 10. Nc3 Qa5 11. Qd2
このようなd5 に白がアウトポストを持つ展開は白が指しやすいでしょう。c1 に一時的に退いたナイトも、将来的にd5 に運べるようにCarlsen は工夫を凝らします。
11... Na6 12. Be2 Nc5 13. O-O Bd7 14. Rb1 Rfc8 15. b4 axb3 16. axb3 Qd8 17. Nd3 Ne6 18. Nb4
b6,d6,d5 を弱点にし、2つのナイトがd5 を抑えた形で、白には特に危ない点が見当たりません。さらにここから白は、キングサイドでも手をかけて盤全体でのプレーを行います。
18... Bc6 19. Rfd1 h5 20. Bf1 h4 21. Qf2 Nd7 22. g3 Ra3 23. Bh3
c4,e4 のMaroczy Bind 型では、白の白マスビショップはこのように使いなおされることが多く、私も何度も経験があります。白が懸念するとすれば、黒のナイトがc5 からb3 を狙ってきたり、d4 のアウトポストに跳びこんでくることだと思いますが、白はそれを抑え込み、黒に反撃を作らせません。
23... Rca8 24. Nc2 R3a6 25. Nb4 Ra5 26. Nc2 b6
勝ちにいかなければいけない黒は、リスクを冒しても手を変えるしかありません。しかし、b6 にポーンを進めることは、c5 のマスを抑えるメリットよりも、ポーン自体がターゲットになるというデメリットのほうが大きいように見えます。
27. Rd2 Qc7 28. Rbd1 Bf8 29. gxh4!?
このポーン取りは、キングやf4 のマスを弱めますが、白は1つポーンを得します。私であれば躊躇うポーン取りですが、Carlsen はここから見事にキングの弱さをカバーしつつ、自身の強みが生きるようなポジションを目指していきます。
29... Nf4 30. Bxf4 exf4 31. Bxd7!
ピースを交換してポジションをシンプルにすると同時に、d5 のアウトポストを抑えられる黒のピースを減らしておき、白のナイトがセンターで活躍しやすいようにします。
31... Qxd7 32. Nb4 Ra3 33. Nxc6 Qxc6 34. Nb5 Rxb3 35. Nd4 Qxc4 36. Nxb3 Qxb3
こうして局面は大きく動きました。黒はエクスチェンジを捨てて勝負に出ますが、f8 のビショップが十分にアクティブではなく、駒損を補うのは少し無理があるように見えます。
37. Qe2 Be7 38. Kg2 Qe6 39. h5 Ra3 40. Rd3 Ra2 41. R3d2 Ra3 42. Rd3 Ra7 43. Rd5!
ドローを回避するKarjakin に対し、Carlsen はルークを5段目でアクティブに使うことでチャンスを拡大します。
43... Rc7 44. Qd2 Qf6 45. Rf5 Qh4 46. Rc1 Ra7 47. Qxf4!
試合後、多くのプレーヤーが最後のCarlsen の1手が素晴らしいと称賛していますが、私は試合を見返していて、ここで白がポーンを取れると読み切っている点に最も驚きました。29. gxh4!? の影響で、薄くなった白キングの守りを、白は最後の最後まで気にしなければいけません。最後の1手が見えなければ、危ないのは白のキングですので、Carlsen はこのポーンを取った時点で、最後の芸術的な形まで予想できるということです!
47... Ra2+ 48. Kh1 Qf2 49. Rc8+ Kh7 50. Qh6+! 1-0
最後はクイーンをサクリファイスし、50... gxh6 51. Rxf7#、50... Kxh6 51. Rh8# のどちらもメイトです。まるで教科書に載っているようなサクリファイスでマッチを締めたCarlsen は、二度目の防衛線に成功し、世界チャンピオンの座を守り続けることになります。今回のマッチでは、クラシカルで互角の戦いを見せ、一時はCarlsen をロープ際まで追いつめたKarjakin のプレーも称賛されるべきでしょう。次のマッチの挑戦者が誰になるかはまだわかりませんが、またこうして白熱した世界最高峰の戦いが見られることを期待しています。
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