2014/01/28

Caro-Kann Classical Move by Move Vol.3

Caro-Kann Classical Main Line with 7... Nd7


Vol.2 を公開した直後、Twitter にて、この連載ってMove by Move じゃないよね(笑) と指摘を受けました。確かにその通り、最初の2回は導入であり、Vol.2 に至っては、Classical Variation ですらありませんでした。そこで、Vol.3 の今回はタイトルに偽りのない記事にしつつ、Vol.4 からの細かいアイディア紹介への繋ぎとしようと思います。

1. e4 c6



Vol.2 で書いた通り、私がCaro-Kann Defence の研究を始めたのは2010年の春のこと。黒はe4,d4 と白が並べるであろうポーンを崩すべく、c7-c6 のポーンを、次のd7-d5 の支えとします。白のe4 のポーンを崩そうというのは、French Defence とアイディアが同じですが、Caro-Kann のメリットとしては、白マスビショップをポーンストラクチャーの外で使えるチャンスを残していることが挙げられます。

2. d4 d5 3. Nc3


e4 のポーンをナイトで支えるのは、最も自然なアイディアに見えますが、最近は3. e5 と突き越すAdvanced Variation の人気が非常に伸びており、こちらがメインラインと言えるほどの割合になっているかもしれません。ちなみにAdvanced Variation については、この連載で特に解説するつもりはないので、タグから検索して私の過去のゲームをご覧下さい。Caro-Kann タグも増えてきたので、近いうちにVariation ごとにタグ分けをし直そうと思います。

3... dxe4 4. Nxe4 Bf5



この手をもって、Classical Variation に突入します。黒はビショップをポーンストラクチャーの外に展開しつつ、ナイトをアタックしてテンポを稼ぎます。私はこのように悪い位置にピースを残さないオープニングを最近は黒で好んで使いますが(1... d4 にはClassical Slav)、こうしたビショップを早めに展開するオープニングの弱点としては、ビショップがナイトやポーンによって狙われる可能性があることが挙げられるでしょう。それでも、Caro-Kann Classical のような堅いポーンストラクチャー(d5 とe4 を交換したうえで、c6, e6 にポーンを置く形) では、白のダブルビショップはさほど働かないというのが、Caro-Kann Player の共通見解です。(私の最近のゲームでは、チェコでのGrove, M とのゲームが参考にしやすいかと思います。)

ちなみに私は、このClassical Variation に絶大の信頼を寄せており、公式戦での勝率は他のオープニングと比べても群を抜いて高くなっています。私のデータベースで記録が残っている試合では、黒番で27勝4敗8ドローで、FIDE 公式戦に絞っても14勝1敗8ドローです。私に勝った4人は、馬場さん、井上さん、吉村先輩、そして元ドイツ代表のGM Luther ですね。これらは全て2011年の春以前のゲームですので、ここ3年近くはCaro-Kann Classical で負けていないことになります。(こう書くと、近いうちに負ける予感がしますw)

5. Ng3



白はナイトを逃がしつつ、ビショップをアタックすることでテンポを得ます。5. Nc5!? という珍しい手は、白で1回、黒で1回指したことがありますが、黒は5... b6!? でも、5... e5!? でも、さほど問題ないだろうというのが私の意見です。GM Sax とのゲームは、私にとって思い出深い2つ目のIM ノーム獲得のCAISSA でした。

5... Bg6 6. h4


この手は中学1年生の頃に初めて勉強しましたが、当初は深い意味まで理解していませんでした。次にh4-h5 までポーンを突いてビショップを捕獲できれば、白としてはもちろん楽な展開ですが、6. h4 はそんなセコイだけの手ではありません(笑) h5 まで伸ばしたポーンは、黒がショートキャスリングした際には、キングサイドを攻める重要な武器となり、クイーンサイドにキャスリングした際は、黒がgポーンを突きにくくする狙いがあります。(意外と後者は分かりにくい狙いでしょう。)

私にとって1つ印象的だったのは、篠田くんが初めて全日本選手権に出場し、唯一の白星となった桑田くんとのゲームです。キングの位置は忘れましたが、以下のようなポーンストラクチャーで桑田くんは大きな勘違いをして、勝負は一瞬で決しました。


Reference Diagram

1... g6?? 2. g5! 1-0

ブレイクスルーが決まり、白の勝ちです。桑田くんはどうか知りませんが、私はこのゲームでh5 のポーンの強さを再確認したのでした。

6... h6 7. Nf3 Nd7



私が白番で適当なCaro-Kann の研究しかしていなかった中学3年生当時、Caro-Kann Classical をメインの武器としている桑田くんが、夏の柏オープンで神戸の岡田さんと試合をしました。そのゲームは6... e6 7. Ne5 Bh7 と進み、白がナイトをセンターに運ぶ1テンポを得している(h4-h5 を省いているという点で) ので、e5 を先に守る6... Nd7 がベターなんだと、桑田くんは岡田さんに説明されたそうです。その説明自体は間違いではないですが、現在はこのナイトを敢えて早く跳ばせておき、それを捌きにいく、6... e6 もよく指されています。先日のAnand - Carlsen のマッチでは、Carlsen がこのラインを採用したことで驚いた人も多かったでしょう。

7... e6 8. Ne5 Bh7 9. Bd3 Bxd3 10. Qxd3 Nd7 11. f4 Bb4+ 12. c3 Be7 13. Bd2 Ngf6 14. O-O-O O-O 15. Ne4 Nxe4 16. Qxe4 Nxe5 17. fxe5 Qd5 18. Qxd5 cxd5 19. h5 b5 20. Rh3 a5 21. Rf1 Rac8 22. Rg3 Kh7 23. Rgf3 Kg8 24. Rg3 Kh7 25. Rgf3 Kg8 1/2-1/2 Anand,V (2775) - Carlsen,M (2870)/Chennai IND 2013

私もこの7... e6 には多少の興味がありますが、先述の通り7... Nd7 で十分な勝率を誇っているために、さほど真剣に研究しようという気には今のところなっていません。それでも、いずれはこちらのラインも使うようになるかもしれませんね。

8. h5 Bh7 9. Bd3 Bxd3 10. Qxd3 e6



白としては、b1-h7 のダイアゴナルを抑える強力なビショップを交換しにいき、テンポ良くクイーンをd3 に上げるのは良いアイディアでしょう。このポジションだけ見れば、白はピースの展開で勝っていますが、黒はc6, e6 の堅いポーンストラクチャーであるため、多少の展開の遅れは気にしなくても大丈夫です。

11. Bd2


白はh5 までポーンを進めているため、クイーンサイドにキャスリングするのが自然です。そうなると問題となるのは、最後のマイナーピースである黒マスビショップをどこに展開するかですが、ここはf4 も有力な選択肢です。11. Bf4 Qa5+ 12. Bd2 Bb4 (12... Qc7!? ならば、Vol.1 で紹介した、黒がクイーンサイドにキャスリングするラインになります。) 13. c3 Be7 14. c4 Qc7 白にcポーンを突かせるこのラインは、今回の連載後半で扱います。

11... Ngf6 12. O-O-O Be7



ようやくVol.3 の終着となる、このポジションに到着しました。この形は、7... Nd7 からショートキャスリングを目指すCaro-Kann Player には、お馴染みすぎるポジションで、ここから白黒の様々なアイディアと思惑が交錯し、ゲームが動き出すことになります。次の白の代表的な手は、13. Ne4, 13. Kb1, 13. Qe2 の3種類ですが、Vol.4 からは、これらラインを個別に解説するよりも、その中に隠れるお互いのアイディアをゆっくりと紹介していこうと思います。

Vol.4 に続く

2 件のコメント:

R.T さんのコメント...

7...e6 line にて、8.Ne5 Bh7 9.Bd3 Bxd3 10.Qxd3 Qa5?! line ・・・データベース(Chessbase 10)には載ってなかったけど、11.Bd2 Qa6(白マスへの狙いの1手)12.c4 Nf6 13.0-0 Nd7 ...。白のクイーンの位置が悪いので、d5ブレークが出来ない。黒の主張はこれを含み3点
2つ、d-fileが使える(...Rd8)
3つ、白のh4が弱い。例えば

ここから14.f4 Be7 15.f5 と単調に来たら 15...Nxe5 16.dxe5 Qb6!
A. 17.Kh1 Rd8. B. 17.Be3 Bc5
A1. 17.Kh1 Rd8 18.Qc2 Ng4 19.Ne4 Nxe5 形勢不明
A2. 17.Kh1 Rd8 18.Qf3 Rxd2 19.exf6 Rd4! (△...Rxh4#)20.Ne4 gxf6 形勢不明
B.17.Be3 Bc5 18.exf6 Bxe3 19.Kh1 Qd4! 形勢不明
と、直ぐに白は利を失います。

で、14手目に戻って 14.b3? Be7(14...Rd8? 15.Ng6! fxg6 16.Bb4 c5 17.dxc5 Ne5 18.c6+-)
という感じなら、黒戦える。

あくまで奇手・嘘手の類ですが、白から0-0-0したい派や、キングサイドポーンストームを仕掛けるパターンしか知らない相手には効果抜群です。

Shinya_Kojima さんのコメント...

このライン、ロンドンで見せてくれましたね。懐かしいです。

この変化もそうですし、もう少し先で紹介するラインもそうですが、黒はクイーンを交換した変かも受け入れるべきなので、エンドゲームは多少自信がないとさせないかもしれないですね。

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