私も2年半ほど前まで知りませんでしたが、Lasker、Tartakower と並び、トップレベルでもじりじりと人気の上がっているQGD の変化があります。それを今夜は黒の3つ目の主流ラインとしてご紹介しようと思います。
Jankovic, A (GM, CRO, 2575) - Berkes, F (GM, HUN, 2661)
21st European Teams 2017 (6)
1. d4 Nf6 2. c4 e6 3. Nf3 d5 4. Nc3 Nbd7 5. Bg5 h6
21st European Teams 2017 (6)
紹介したい純粋なムーブオーダーは、5... Be7 6. e3 h6 ですが、いずれにせよNb8-Nd7, h7-h6 の順番(0-0 は早くても遅くても、どちらでもOK) がポイントです。黒はh7-h6 を遅らせることにより、前回のTartakower の記事で紹介したような、ナイトビショップの交換を許しません。白はd7 のナイトがf6 に入れ替わるだけならば、黒マスビショップを諦めて手に入るメリットはあまりないでしょう。ここは退く一手です。
6. Bh4 Be7 7. e3 O-O 8. Qc2
この試合では白は、Vol. 4 で見たRubinstein Variation のQd1-Qc2 セットアップを選びました。もちろん、これまで見たようなルークをc1 に早く決める手もポピュラーです。8. Rc1 c5! 9. cxd5 Nxd5 10. Bxe7 Nxe7 11. Bb5 cxd4 12. Qxd4 Nf6 13. O-O Qxd4 14. Nxd4 Rd8 15. Rfd1 Bd7 16. Be2 Rac8 17. Nf3 Bc6 18. Nd4 Bd7 19. Nf3 1/2-1/2 / Eljanov, P - Gelfand, B / Palma De Mallorca GP 2017 (9) これに対しても、黒は早いc7-c5 から十分にイコアライズのチャンスを得るでしょう。
8... c5!
このラインの黒のアイディアはシンプルで、白の8手目がどうであろうと基本的にはcポーンをぶつけて早めのセンターブレイクを狙います。私は以前、このタイミングだとd5 に孤立ポーンが残ってしまうために少し早すぎると思っていましたが、2017年に出版されたPlaying 1.d4 d5: A Classical Repertoire を読んで以来、このタイミングでも黒は大丈夫だと認識しています。
9. cxd5 Nxd5 10. Bxe7 Qxe7 11. Nxd5 exd5 12. dxc5 Nxc5
黒は2ピースを捌き、c8 もアクティブにしましたが、その代わりにd5 に弱いポーンを抱えています。それでもバランスを取って戦えるのは、開いたcファイルに回したルークが、早めに位置を決めた白クイーンをターゲットにできるためです。
13. Be2 Bg4!
このポーンストラクチャーと残りピースの位置では、とても有効なアイディアです。黒はd4 のナイトを消し、白がd4 のアウトポストを抑える力を弱めることを狙います。場合によっては、Nc5-Ne6, d5-d4 というアイディアと組み合わせ、黒は弱点のポーンを捌いて完全にイコアライズを狙います。
14. O-O Rac8 15. Rfd1 Rfd8 16. Rac1 Qf6 17. Qd2 Ne4 18. Qd4 Bxf3!?
ここでBerkes はビショップナイトを交換し、ゲームはこれまで連続で見てきたように落ち着いた収束に向かいそうに見えます。
19. Qxf6 Nxf6 20. Bxf3 Kf8 21. Kf1 Ke7 22. Rxc8?!
しかし、白がここでd5 を取りにいく手がリスクが大きく、黒にチャンスが生まれます。黒ルークのcファイルからの侵入は、十分にポーンを捨てた代償のある反撃となります。
22... Rxc8 23. Bxd5 Rc2 24. Bb3 Rxb2 25. Rc1 a5!
おそらくJankovic が見落としたのはこの構想でしょう。黒はクイーンサイドのポーンマジョリティを、強力なパスポーンというさらに具体的なアドバンテージに変化させます。
26. Rc7+ Kd6 27. Rxb7 a4 28. Bd5 a3!
ピンを外した白に対し、無慈悲にaポーンを3段目に刺して黒は優位をはっきりさせます。白はルーク交換を避けてビショップを逃がすほかなく、黒はa2 を取ることができます。
29. Bf3 Rxa2 30. Ra7 Nd7 31. g4 Nc5 32. Kg2 Nd3 33. Kg3 Ra1 34. Ra5 a2 35. Kh4 Nb4 0-1
白キングは黒のパスポーンから遠すぎ、これを抑えにいくことはできませんので、ルークとナイトにサポートされたパスポーンを止めることはできません。私も一度対戦して敗れましたが、ソリッドなプレーが持ち味のBerkes は、ハンガリー代表の座を勝ち取る確かな実力があると思います。
他にも細々したラインはありますが、黒でこれからQGD を勉強するのであれば、この3回の中で紹介した変化のいずれかを試してみるのが良いと思います。他のさらにひねった変化やサイドラインは、基本を抑えてから指してみることをお勧めします。
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