2012/09/11
エジプト戦のチーム編成について
本日2本目の更新です。ここではオリンピアードでのエジプト戦を振り返るとともに、次回のオリンピアード以降、チームとしてどう戦うかということを考えてみます。エジプト戦で何があったかご存じない方のために一からご説明しますと、オリンピアードの7R でエジプトとの対戦が決まった後、私たち日本チームは大将の私を抜け番にすること決めました。これに対して、Twitter 上で多少の批判があったという話です。
まず批判が来た理由としては、私が抜ける理由が、「単に疲れたから」という個人的なものであると、誤解されるような内容のツイートをしたためです。私も最初は良く分かっていませんでしたが、先輩から丁寧なメールをいただき、改めて自分のツイートを見直しました。確かに私のツイートは皆さんに誤解を与えるようなものであり、このことは純粋な私のミスで、皆さんには大変申し訳ないと思っています。
実際のところ、私がエジプト戦で抜けることを決めたのは、様々な理由が絡みます。色々悩んだ末に自分から休むことを宣言したわけですが、そこに至った経緯というものをきちんとご説明しなければいけないでしょう。
まずオリンピアードの抜け番を決める主な要因としては、選手のレベル、相手チームのレベル、プレーの調子、体調、カラーバランス、公平性などが挙げられます。これらを考えたうえで、今回のオリンピアードは、私が参加した今まで4回のオリンピアードで最も、男子の抜け番を決めるのに頭を悩ませました。
最初に参加した6年前のトリノのオリンピアードでは、男子メンバーは6人で、実際にプレーするのは4人でした。6人の実力差は大してなかったので、特にトラブルもなく適度に休ませながら、なるべく公平に試合ができるよう交代で抜け番を決めていきました。大会終盤では、6番の中郡さんが調子が良いということで、多めに試合に出すことを決め、無事にFM タイトル獲得となりました。
男子代表が5名に減らされたドレスデンオリンピアードは、不思議なほどにどの選手もプレー内容が良く(もちろん事前にしっかりトレーニングをしていたおかげですが)、多くのラウンドで誰かしらが、格上からポイントを取るアップセットがあり、チーム内もお祭り状態でした。(最後ラウンド前までw)こういった状況であれば、やはり不思議と抜け番決めもスムーズに行われていたように記憶しています。(もちろん私がそう考えているだけで、代わりに誰かが頭を悩ませていたかもしれません)今、当時の抜け番をチェックしてみると、5番の野口さんが5回休みとやや偏りが多く、他の4選手はほぼ均等です。私が抜けたのは、私抜きでも問題なく勝てると判断された、10R のホンジュラス戦のみです。
2年前のハンティマンシスクは逆に、選手の調子はかなり悪かったと言えるでしょう。総合的に勝てると思われた国に負けたことで、私や南條くんが抜けても、問題なく勝てそうなチームに何度も当たりました。これはチームとして喜ぶべきことでは全くありませんが、抜け番を決めるという観点からすれば、楽になります。
そして、ようやく話を今年のイスタンブールオリンピアードに戻します。昨日も書いたとおり、今年のオリンピアードでは試合を重ねても(負けたラウンドの後でも)以前のオリンピアードのように、なかなか対戦相手のレベルが下がりませんでした。そうすると、私と南條くん、暁さんのFM 3人を、どこで休ませれば良いのかという問題が出てきます。別に休ませなくても良いのでは?という意見もあるでしょうが、そうすると下2人の休みが多くなりすぎるので、不満が生じるでしょう。
もしチームとして1p でも多く稼ぐことを目標としているのであれば、上の選手を極力試合に出すべきです。例えば今大会では、アジア勢の中でも劇的な活躍を見せたフィリピンは、5番のIM Oliver Dimakiling を最初の4試合にのみ出場させ、残りの7試合は上4人で戦うという何とも極端な戦い方に出ました。結果を見ればこの作戦は大成功だったと思いますが、もちろんDimakiling の事前の了承と、チームとしてこうして戦おうという意思が必要でしょう。日本チームではこういった極端な作戦を取ったことは、私が知る限りはありません。 同じ選手が2連続で休むことすら、今まではほとんどなかったはずです。
今回のエジプト戦の直前には、Alex が休んでおり、岩崎さんも少し前に3連休があったので、彼らをまた休ませることは公平性に欠きます。南條くんはポイントを重ね続けていたので、チーム内で彼は出し続けるという了解があり、そうなると私と暁さんのどちらかが休むということになります。私は暁さんと話をして、自分が休むのが最もチームが丸くいくと判断しました。もちろんMisha とも話をして、最終的な決定をしています。
相手が強豪エジプト相手だったので、なるべく上を出すのが礼儀だという意見もあるでしょうが、そうすると次にややランクが落ちた相手に、上3人の誰かが抜けて戦うことになり、これもまたリスクが高くなります。後で振り返ってみて、ここで誰を休ませるべきだった、そうすべきでなかったと言うのは簡単ですが、次にどこと当たるか、選手の状態がどう変化するか読めない状況では、その時にベストだと思われる選択をし続けるしかありません。
さて、話が長くなりすぎているうえに、全くまとまっていないですが、エジプト戦で私が休んだのは、個人的な理由からではなく、他の選手とのバランスなども考慮したうえであったことだけでも、ご理解いただければと思います。あとは私が日本に帰国した後に、皆さんの意見も聞いてまた考えてみようと思います。
そして次回以降どう戦うかという話ですが、フィリピンのような大胆な作戦に出るのも、もちろんありですし、そこまで極端でなくても、なるべくチームとしてポイントを稼ぐ(例えば今回の最終戦モナコ戦であれば、南條くんのIM ノームより、チームとしての勝率アップを目指して私が出る等)ことを目指しても良いでしょう。ただどうするにせよ、事前にチームで話し合う必要があります。他の競技に当てはめれば当たり前のことですが、現地に着く前からチームとして活動を始める。まずはそこからスタートすべきでしょう。
ラベル:
Istanbul Chess Olympiad,
雑記
4 件のコメント:
>フィリピンのような大胆な作戦
前回か前々回のオリンピアードでチェスの最上位国の一つで、ある選手が確か1回だけ出てあとは全部休みという例があったと思います。一般にチェス強国の場合、参加の諸費用はそのチェス協会/連盟が全部負担します。日本はJCAの財政基盤が脆弱なので受益者負担ということで全部選手負担です。もっと具体的には航空機代を含めて30万円を越えるはずです。こういう状況では大胆な(極端な)選手起用はできないと思います。
Yamagishiさん、コメントありがとうございます。
私も記事の中で書こうか書くまいか迷いましたが、日本では高い参加費を選手が負担しているため、あまり試合数に偏りが出れば不満が出るのは当然のことです。
毎年日本で行われるチーム選手権では、5人以上のチームはおそらく、参加試合数に応じて参加費を割るでしょう。このアイディアをオリンピアードに適用するのもありえなくはないと思いますが、試合をする権利をお金で買っているとも取られかねないので、なかなか簡単ではないですね。
ただ、公平に選手を起用して負けが込むよりも、偏りを作っても勝つほうがチームとしてベターのはずです。選手に実力差があるならば、参加試合数にばらつきが出るのは仕方のないことなので、それを選手が納得できるよう話し合いをするとともに、この問題をうまく解決する方法を模索する必要がありそうです。
チーム編成等についてのご批判は皆さんの自由ですし、当事者として謹んで拝聴させていただきますが、小島くんご自身も書いているように、それぞれのラウンド、様々な条件を考慮してラインナップを組んでいました。そのあたりについてはご理解を頂きたいと思います。
なお、別に私がわざわざ言うことではないかもしれませんが、小島くんはチーム思いの素晴らしい一番ボードだったと思います。厳しいあたりにもめげず試合に出続け、ほぼレーティング通りの成績を残したのは立派だったと思います。IMノームにあと一歩のところまで迫った南條くんともども、今後のさらなる成長に期待したいと思います。
暁さん、返信が遅くなりました。温かいコメントありがとうございます。
イスタンブールでは大変お世話になりました。次回のノルウェーでのオリンピアードでは、プレーのレベルを上げるだけでなく、今回のオリンピアードで暁さんから教わったことも生かして、チームを率いていければと思います。
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