1日遅れですが、全日本選手権最終日のレポートです。優勝のかけた最終戦、1Bの私はScottさんとドロー、2BのTuさんは塩見さんを下し、今大会後半戦で初めてポイント差がつきました。これによりTuさんが10/11で、2年前に続いて今年の全日本選手権の優勝を決めています。Tuさん、おめでとうございます!
1st Place Tran Thanh Tu (CM, VIE, 2319) 10/11
2nd Place Kojima Shinya (IM, JPN, 2400) 9.5/11
3rd Place Aoshima Mirai (JPN, 2280) 9/11
4th Place Higashino Tetsuo (JPN, 1978) 7/11
2nd Place Kojima Shinya (IM, JPN, 2400) 9.5/11
3rd Place Aoshima Mirai (JPN, 2280) 9/11
4th Place Higashino Tetsuo (JPN, 1978) 7/11
入賞者個人について振り返る前に、先に私の最終戦をご紹介したいと思います。2年前から日本に住んでいるScottさんとは、昨年名古屋で初顔合わせ&初対戦で、その際は私が勝っています。今大会は直前のレイティング大幅アップでリスト8スタートとなり、最終戦で遅ればせながら1Bまで上がってきました。
Kojima, S (IM, JPN, 2400) - Scott, T (JPN, UR)
Japan Chess Championship 2018 (6)
1. Nf3 d6 2. d4 f5 3. Nc3!?
Japan Chess Championship 2018 (6)
今大会、Scottさんはこの手順で、Leningrad Dutch に持ち込もうとするのは分かっていました。メインラインで受けても良かったのですが、前夜の調査でこうしたAnti-Dutch のラインがあることを発見し、ぶっつけ本番で試してみることにします。
3... Nf6 4. Bg5 Nbd7 5. Qd3 g6 6. e4 fxe4 7. Nxe4 Bg7 8. O-O-O c6!?
私が調べてきたラインは8... 0-0 9. h4 で白攻勢というものでした。Scottさんはこれを恐れ、キングサイドへのキャスリングに慎重になっていましたが、それならばe8 に残った黒キングへの攻撃チャンスはありそうです。
9. h4!?
ここは少し迷いました。黒の狙いがQd8-Qa5 であることは分かっていたため、h2-h4-h5 を狙いつつ、g5 のビショップを守っておく本譜はありだと思います。他には9. Re1 はかなり直接的な攻撃で、Ne4-Nxd6+ をスレットにしつつ、e7 へのプレッシャーを増します。ただ私は、どこかでRh1-Re1 のほうが自然だと思い、こちらをイメージしていました。
9... Qa5 10. Kb1 Nxe4 11. Qxe4 Nf6 12. Qe3 Nd5 13. Qb3 Bf5
自然にも見えるピースの展開ですが、ここは黒からのダイレクトアタックのプレッシャーを緩和するため、13... Qb6 とクイーン交換を持ち掛けるほうが良かったかもしれません。
14. Bd3 Bg4
この試合での大きなクリティカルポジションでした。白マスビショップの交換は、e6 のマスを決定的に弱くするため、黒としては避けなくてはいけません。そこでビショップをかわしますが、それに対して白はどうするか悩みます。黒のビショップの手損により、私はe8 のキングへのダイレクトアタックのチャンスだと思いましたが、そのためのアイディアが安直すぎました。
15. Rhe1?!
私は念願のこの手を指すことができ、e7 へのサクリファイスができるかを丁寧に読みます。しかし、長い目でゲームを見れば、f3 でのピースの交換からのポーンストラクチャーの乱れはもう少し気にすべきでした。15. c4! Nf6 16. Qxb7! O-O 17. Qxe7+/- ならば、黒のbファイルからの反撃は遅く、白は2ポーンを取って大丈夫でした。相手の反撃を過剰に恐れすぎたために、大事なポーンを取れなかったのは大きな反省点です。
15... Bxf3 16. gxf3 Qb6 17. Rxe7+
この手が決まり、私が白が有利になったと思いました。しかし、先まで進めてみると私に落とし穴が待ち構えていました。
17... Nxe7 18. Qe6 Qc7 19. Re1 Bf8 20. Bf6
黒がキングの即死を避けるためにはこの手順しかありませんが、白はこのビショップの手でルークを取り返すことができます。
20... Qd7 21. Qb3 O-O-O 22. Bxh8 Nd5!
私がルークサクリファイスを仕掛ける前、さらに言えば15. Rhe1 と指す前に正確にイメージし、評価しなければいけなかったのはこのポジションです。白は無事に捨てたルークを取りかえしていますが、h8 にいってしまったビショップは一時的に動くマスが無くなっています。トラップになることはなさそうですが、h8 のビショップを気にしている間にf3 やh4 に反撃を食らい、せっかくの駒得が消えてしまう恐れがあります。そうなればエンドゲームではポーンストラクチャーの乱れた白に分が悪く、なんとしてもそれは避けなくてはいけません。
23. Bc4?!
私は一刻も早くd5 のナイトを消すべきだと考えましたが、それならばポーンのほうが当然簡単です。しかし、23. c4 Nf4 24. d5 c5 25. Bf6 Re8 26. Be4 と進んでも、f4 のアウトポストに入り込んだナイトは、見事に白の白マスビショップに対抗しており、ポーンの代償は十分と考えられそうです。白はポーンアップでも、h4 が将来的に落ちないように気を遣わなければいけないため、簡単に優勢だとは判断できません。
23... Re8
ここは正直助かったと思いました。23... Be7! はScottさんが見落としたシンプルなアイディアで、白がビショップをh8-g7-h6 と逃がす間に、h4、f2 を連続で取ることができました。
24. Rxe8+ Qxe8 25. a3 Bh6
ここも25... Be7 としてh4 をすぐ狙っておくほうが良いと思います。しかし、白はその手を指されなかった本譜でも、異色ビショップで勝つことはかなり困難になります。
26. Bxd5 Qxh8 27. Be6+ Kc7 28. c3?!
こうしたポジションで、いかにわずかでも勝ちのチャンスを残すかは私の苦手とするところです。本譜は3段目が止まり、クイーンが動けなくなることは理解していながら、他にどうすべきか分かりませんでした。28. Qb4! ならば、d4 を守りながらQb4-Qa5+ の準備となります。
28... Qf6 29. Bg4 d5 30. c4
少しずつ雲行きが怪しくなり、h4 をうっかり取られて負け、という展開にも気を付けなくてはいけません。d4 を取られのは仕方ないと割り切り、黒キングの前を崩しにいきます。
30... Qxd4 31. cxd5 cxd5!?
31... Qxd5 からクイーン交換で、完全にドロー模様だと思っていたので、この手には驚きました。d5 は落ちそうですが、それでもb2 への反撃で全く問題なしというのが、Scottさんの評価です。
32. Be6 Bg7! 33. Bxd5 b6 34. Be4
リスクを減らすためには34. Bg8! h6 35. Bh7 g5 36. hxg5 hxg5 と進め、h4 の孤立ポーンを捌いておいたほうが良かったでしょう。それでもfファイルのダブルポーンは役に立たず、白が勝つことは難しそうです。
34... Kd8 35. Qc2 Be5 36. Ka2 Ke7 37. Qe2 Kf6 38. Kb1 Kg7 39. Qc2 Kh6 40. Qc1+ Kg7 41. Qc2 Kh6 42. Qc1+ Kg7 43. Qc2 Kh6 44. Qe2
パペチュアルチェックを蹴り、勝負にいけるアイディアをもう少し探します。しかし特に何もありません。
44... Bf6 45. Qe3+ Kg7 46. Qc1 Qxf2 47. Qc7+ Kh6 48. Qf4+ Kg7 49. Qc7+ Kh6 50. Qf4+ Kg7 1/2-1/2
こうして私の全日本選手権は終わりました。最後はもう少し指さないんですか?と聞かれましたが、さすがに続けようがありません。h4 も取られては完全に負け模様です。
R1 Kojima, S (IM, JPN, 2400) - Kanda, D (JPN, 1859) 1-0
R2 Kobayashi, A (JPN, 2061) - Kojima, S (IM, JPN, 2400) 0-1
R3 Kojima, S (IM, JPN, 2400) - Shiomi, R (JPN, 2085) 1-0
R4 Aoshima, M (JPN, 2280) - Kojima, S (IM, JPN, 2400) 1/2-1/2
R5 Kojima, S (IM, JPN, 2400) - Higashino, T (JPN, 1978) 1-0
R6 Kojima, S (IM, JPN, 2400) - Tran, T T (CM, VIE, 2319) 1/2-1/2
R7 Otawa, Y (JPN, 1895) - Kojima, S (IM, JPN, 2400) 0-1
R8 Kojima, S (IM, JPN, 2400) - Matsuo, T (CM, JPN, 2242) 1-0
R9 Manabe, H (JPN, 2071) - Kojima, S (IM, JPN, 2400) 0-1
R10 Yamada, K (FM, JPN, 2162) - Kojima, S (IM, JPN, 2400) 0-1
R11 Kojima, S (IM, JPN, 2400) - Scott, T (JPN, UR) 1/2-1/2
Japan Chess Championship 2018 Final Standings
振り返ってみれば、今年もTuさんは強かったの一言だと思います。今年の全日本では初戦で1/2を落とし、苦しい展開になるかと思いましたが、その後は私以外に綺麗に9勝で見事に優勝をかっさらっていきましたね。今大会、全て初手を変えたということで私も確認してみましたが、確かにそうでした。時には妙にも思えるオープニングを使い、自力勝負に引き込んで難しいポジションを制す。Tuさんのチェスからは、私を始め日本のプレーヤーが学ぶことが、まだまだたくさんあると思います。
私はポイントこそ昨年と同じでしたが、久々の8勝3ドロー、負けなしで大会を終えました。最終戦の後は周りの皆さんに、いろいろと慰めの言葉をかけてもらいました。私としては、8年ぶりの優勝を逃がしたことは残念ではありながらも、2400台で参加した国内のFIDE公式戦で、久々に大きくレイティングを稼ぐ+8で終えられたことに安堵しています。ゆっくりでもFIDEレイティングを伸ばしていき、2500に着実に近づいていければと思います。来年の全日本だけでなく、次のFIDE公式戦も頑張ります!
全日本3年目となる青嶋くんも、8勝1敗2ドローと好成績でフィニッシュ。昨年より順位を1つ上げて、初の3位入賞となりました。Tuさんに負け、大多和くんにドローになった日には、「今年も終わった...」 みたいな雰囲気をかもし出していましたが、そこからきちんと立ちなおして5連勝と数字を残すのは、大したものだと思います。レイティングも大きくアップで、FMの基準である2300にあと本当に一歩のところまで来ています。
4位の東野さんんは写真が無くてごめんなさい! 混戦の4位争いを制したのは、最終戦、黒番で勝利を収めた東野さんでした。山田くん、Scottさんと7Pで並びましたが、2人に直接対決で勝っているためにタイブレークで4位です。東野さんも青嶋くんとチェスを始めたのは同時期で、チェス歴3年半弱にして全日本初入賞は見事なものです! 他の国内大会での活躍、数字の伸びを見ていれば、東野さんの入賞も納得の結果だと思います。
最後になりますが、今年も全日本選手権、お疲れ様でした。選手の皆さんにとっても、運営の皆さんにとっても長かった1週間だと思います。特に今年は運営が大幅改善され、とても良かったという声をたくさん聞いています。当然、私もそう思っています。アービターセミナーが日本国内で開催され、アービター資格を取得した人が多く誕生した今年、日本の大会もどんどん国際大会の水準になっていくものと期待しています。それでは皆さん、また次の大会でも、よろしくお願い致します!
2 件のコメント:
お疲れ様でございました。大会での素晴らしい活躍を大変嬉しく思います。また、ご指導いただける事を楽しみにしております。これからも、頑張ってくださいね。
ありがとうございます! こちらこそ、よろしくお願い致します。
コメントを投稿