2018/05/18

Opening Preparation for The Next Step


全日本選手権が始まる少し前、自分が使うオープニングを整理し、振り返りやすくするための専用データベースをChessbase で2つほど作りました。1つは白のオープニング、もう1つは黒のオープニングで、それぞれ20~30ほどのラインが入力されています。ひとまず1つのラインとして作り始めたものでも、細かくなりすぎて見にくくなれば、2つに分けるなどの工夫をしています。

他にも自分の指すラインをデータベースで管理しているプレーヤーもいると思いますが、私はここ数年、それをしていませんでした。ここにきてあらためてデータベースを作り始めたのは、その場の発想ではなかなか上手い手が見つけにくいゲームが増えたり、これまで実戦で試してきたアイディアをまとめてみたいと思ったためです。オープニングの研究はもとから好きでしたが、このデータベースの作り込みも最近楽しく、日毎ラインは増殖しています。今夜はまだ公開していなかった全日本のゲームから、自分の事前のオープニング研究がどのようなものだったかご紹介したいと思います。

Kojima, S (IM, JPN, 2400) - Kanda, D (JPN, 1859)
Japan Chess Championship 2018 (1)

1. Nf3 d5 2. d4 Nf6 3. c4 dxc4 4. e3 Bg4



この4... Bg4 のQueen's Gambit Accepted は、今回のデータベース作りで真っ先に取り掛かったラインでした。2016年のラスベガスのZhu, J との試合では、なんとか勝ったもののオープニングでアドバンテージが取れるようなものでなく、その後のオンラインのゲームでもひどい試合展開になったものも多かったです。このデータベース作りでは一念発起し、この変化の対策をしっかりと考えてきました。

5. Bxc4 e6 6. h3 Bh5 7. Nc3 Nc6!?


こちらの手はもう1つに比べ、対策は少なめでした。別のナイトの手に対しては、7... Nbd7 8. O-O Bd6 9. g4! Bg6 10. e4 e5 11. dxe5 Nxe5 12. Nxe5 Bxe5 13. f4 Qd4+ 14. Qxd4 Bxd4+ 15. Kh2 Bxc3 16. bxc3 Bxe4 17. g5 Bd5 18. Re1+ Kf8 19. Bb5 a6 20. Ba4 b5 21. Bc2+/= という面白い変化を見つけています。白はポーンを捨てても、ビショップのペアと不安定な黒キングを攻めて、十分な代償があると考えられそうです。

8. Bb5 a6?!



この手をほぼノーチェックでしたので、ここから考え始めることになります。私が調べてきたのは、8... Bd6 9. e4 Nd7 といった流れで、白はタイミングを見てc6 を交換し、黒のポーンストラクチャーを乱して勝負します。ならば、黒は本譜のように1手かけて交換を促す必要はなく、ありがたくナイトビショップの交換をすることに決めます。

9. Bxc6+ bxc6 10. g4 Bg6 11. Qa4 Nd7


Nf3-Ne5 のアイディアもあるので、黒はc6 を守り切ることはできません。ポーンアップになった後のセットアップにはあまり自信はありませんでしたが、なんとか形にできたと思っています。

12. Qxc6 Bd6 13. b3!? O-O 14. Bb2 e5 15. O-O-O exd4 16. Rxd4 Qf6 17. Nd5! Qe6 18. Rhd1 Ne5 19. Nxe5 Bxe5 20. Qxe6 fxe6 21. Ne7+ Kh8 22. Nxg6+ hxg6 23. R4d2 1-0



このゲームは、ようやくこのQGA のラインにアドバンテージを握って勝てたという感触があり、嬉しかったです。続けて黒番でのゲームも1つご紹介します。

Manabe, H (JPN, 2073) - Kojima, S (IM, JPN, 2400)
Japan Chess Championship 2018 (9)

1. d4 d5 2. c4 c6 3. Nf3 Nf6 4. Nc3 a6 5. c5 g6!?



a6 Slav を指すことは以前から構想にあり、すでにIVL では1試合試しています。メインの5. c5 に何を指すか(他の候補手は5... Nbd75... Bf5)迷いましたが、かなり時間をかけて調べて、自分には5... g6 が合っていると判断しました。

6. Bf4 Bg7 7. e3


正直に言えば、この手順から入られるのが一番嫌でした。真鍋さんはh2-h3 を突かず、Nf6-Nh5 を気にしないというスタンスですが、私は色々とゲームを見ても、ナイトビショップの交換を迫るのはしっくりきていませんでした。本譜の代わりに7. h3 Bf5 8. e3 Nbd7 9. Be2 Be4!? 10. 0-0 Bxf3 11. Bxf3 0-0 という手順を研究しており、Bc8-Bf5-Be4-Bxf3 と手数をかけてもビショップナイトの交換をして、e7-e5 のブレイクを準備しようと考えていました。

7... O-O 8. Bd3?!



この手は研究の中にありませんでしたが、これまで学んだアイディアから考えれば少し妙だと感じました。白がc4-c5 とポーンを押し込んだ場合、黒はe7-e5 のブレイクが強力となります。そのためにf3 のナイトを手数をかけても消しにいくわけですが、本譜では黒は1テンポアップでBc8-Bg4-Bxf3 ができてしまいます。さらに言えば、d3 のビショップは将来的にナイトのターゲットとなる良くない位置です。私が最も嫌だった手順が8. h3 Bf5 9. Be2 Nbd7 で、これだとBc8-Bg4 ができないうえ、10. 0-0 Be4 11. Nd2! が成立するため、上記のビショップナイト交換を避けられてしまいます。

8... Bg4! 9. h3 Bxf3 10. Qxf3 Nbd7 11. O-O Re8!


これで簡単にe7-e5 をつけるようになりました。f3 のクイーンとd3 のビショップは、e7-e5-e4 でポーンフォーク、Nd7-Ne5 でナイトフォークになる位置で、黒の格好の的となります。このことからも、d3 にビショップを配置するプランが白にとって良くなかったと考えられるでしょう。

12. Ne2 e5 13. Bxe5?



どちらで取っても同じだと思うのは間違いで、ここはポーンで取る一択です。それでも、13. dxe5 Nxe5 14. Bxe5 Rxe5 15. Nd4 Ne4 16. Rfc1 Qe7 17. b4 Re8 とeファイルに戦力を集め、黒が指しやすいのは間違いないでしょう。

13... Rxe5! 14. dxe5 Nxe5 15. Qf4 Nxd3!?


こうして黒はルークから取ることで駒得を確定させますが、ここは2ピースルークを取るか、2ポーンを取るか少し悩みました。2ピースルークのほうが一般的には得であるようにも思えますが、本譜のようにf2 やb2 が落ちれば、白にとってはかなり厳しいエンドゲームであるため、今回はそちらを採用することにします。15... Nh5!? 16. Qb4 Nxd3 17. Qxb7 Nxc5-+

16. Qd4 Nxf2! 17. Rxf2 Ne4 18. Qb4 Nxf2 19. Kxf2 Qf6+ 20. Kg1 Qxb2 21. Qxb2 Bxb2 22. Rb1 Ba3 23. Rxb7 Bxc5



15手目の段階でここまで読み、この先はよほどのことがない限り勝てるだろうと判断しました。最後まで油断せず、きちんと勝てるルークエンディングに持っていく流れも良かったと思います。

24. Nd4 Re8 25. Nxc6 Rxe3 26. Kf1 Re6 27. Rc7 Kg7 28. Nd8 Rf6+ 29. Ke2 Bb6 30. Rd7 h5 31. g4 hxg4 32. hxg4 Bxd8 33. Rxd8 Rf4 34. Rxd5 Rxg4 35. Ra5 Re4+ 0-1


結局、いつもの棋譜解説とあまり変わらないようにも思えますが、自分としては事前の研究がどうであったか、そこから実戦で何を考えたかを中心に書いたつもりです。オープニング用のデータベースは今後も更新を続けながら、さらなる大会でも使えるようにしていきたいと思います。

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