9日間に渡るマン島のトーナメントも、昨日最終戦を迎え、無事に全ラウンドが終わりました。リスト5位だったウクライナのGM Pavel Eljanov が、6勝3ドローの7.5P という戦績で堂々の優勝です。リストトップのCaruana も、最終戦で勝ってポイントでは追いつきましたが、6R から1B でプレーを続けてきたEljanov にはタイブレークで敗れ、準優勝にとどまっています。直前のBaku Olympiad では、直接対決でCaruana に敗れ、アメリカの優勝を許してしまったEljanov としては、この優勝はとても嬉しいものでしょう。
一方、私は2連敗の後の最終戦、イギリスのFM Jackson James との対戦になりました。レイティングは2311 ですが、ベストは2380 を超えており、今大会不調でも侮れない相手です。私と似て、きっちりとセオリーを調べて指してくるプレーヤーだと前夜にわかり、私もそれなりの準備をしてゲームに臨みます。
Kojima, S (IM, JPN, 2399) - Jackson, J (FM, ENG, 2311)
Chess.com Isle of Man International (9)
1. Nf3 Nf6 2. c4 g6 3. d4 Bg7 4. g3 O-O 5. Bg2 d6 6. O-O Nbd7 7. Nc3 e5 8. e4 c6 9. h3 Qb6 10. c5!?
Chess.com Isle of Man International (9)
去年のJapan League で南條くんに勝ったラインを、どうしても勝ちたい大事な最終戦で復活させます。白は1ポーンをギャンビットし、アクティブなピースでバランスを取ります。
10,,, dxc5 11. dxe5 Ne8 12. e6 fxe6 13. Ng5 Ne5 14. f4 Nf7 15. Nxf7 Bd4+ 16. Kh2 Rxf7 17. e5 Qc7!?
南條くんは早めに17... Nc7 からセンターにナイトを置くことを目指しましたが、その変化ではc8 のビショップがアクティブに使えません。彼の指した変化のポイントは、クイーンをb6 から退くことでb7-b6 を可能にし、ビショップをa6 で使えるようにすることです。
18. Ne4 b6 19. Qc2 a5!?
この手は前日の研究で見つけることのできなかったアイディアです。19... Ba6 20. Rf3!? Rd8 21. a4 からa4-a5 とaファイルを開き、aファイルにルークを2つ重ねて戦うのが私が準備していたアイディアで、これならば1ポーンの代償ははっきりあると言えそうです。本譜では、先に黒からa7-a5 と突いているために、このアイディアが使えません。そこでf1 のルークをどこで活用するか、頭をひねります。
20. h4 Ba6 21. Rd1
21. Re1 Rd8 22. Ng5 Bd3!=/+ を嫌った私は、一度ルークをdファイルに置き、d3 のマスをコントロールすることにします。
21... Ng7 22. a4 Re7 23. Ra3 Rf8 24. Ng5!?
f6 でのチェックも考えられますが、決定的な攻撃につながるか自信がなかった私は、e6, h7 を狙え、追い返されにくいg5 のマスを選ぶことにします。南條くんとの試合では、白マスビショップはBc8-Bd7-Be8 と動いていたため、黒はh7-h6 と突いても、g6 をなんとか守ることができました。しかし、ビショップがa6 にいる形では、黒はh7-h6 はやりづらいでしょう。
24... Rd8 25. Be4 Kh8 26. Kg2!?
ここはとても迷いました。Bg2-Be4 を指した時点で、g6 へのサクリファイスは白の狙いに含まれています。26. Bxg6 hxg6 27. Qxg6 Ne8 28. Qh6+ Kg8 29. Nxe6 Rxe6 30. Qxe6+ Qf7 31. Qxf7+ Kxf7 32. Be3+/- と進めば、3ポーン+ルークvs. 2ピースの駒割となり、白はキングサイドの4コネクテッドパスポーンもあって、十分に優勢だと言えるでしょう。しかし、私はそのマテリアルよりも、シンプルにhファイルを開いて黒キングの頭を叩くプランを選びました。
26... b5 27. g4! b4 28. Rh3 h5?
すでにh4-h5 からhファイルを開く準備のできている白に対し、黒は何らかの対策をしなければいけません。しかし、本譜は不正確で、28... h6 29. Nf3 h5 30. Rg3+/- とするほうがまだ戦えたでしょう。
29. Bxg6?!
この手も悪くないですが、29. Bf3! 狙いはクイーンでg6 のポーンを取ることです。 29... Nf5 30. gxf5 exf5 31. Rg3+- としてピースをもらったほうが、確実に勝勢でした。
29... hxg4 30. Rg3 c4?
黒は30... Qd7 で耐える展開を選ばなければいけません。本譜は一気に白が勝負を仕掛けます。
31. Bf7!+-
ここは時間を使い、丁寧に読んでこの手を選びました。h7 でのメイトがある以上、黒のディフェンスは限られています。
31... Nf5 32. Nxe6 Nxh4+
32... Rxe6 33. Qxf5! Rh6 34. Qg5+- はもう一つの私の読み筋で、白の勝ちは確定です。
33. Kh1 Rxe6 34. Bxe6 c5
もちろん、この手も読みの範囲内です。黒はエクスチェンジを捨てた以上、とにかく反撃を作るしかありません。a8-h1 のダイアゴナルを開く手は素直な反撃のアイディアですが、私はこれに対してg3 のマスを空けることで、キングの逃走経路を得ます。
35. Rxg4 Qe7
しかし、ここでクイーンがナイトを守る手が私の読みになく、少し焦ってしまいます。35... Bb7+ 36. Kh2 Nf3+ 37. Kg3+- ならば、完全に白キングは安全で、次のRd1-Rh1 で勝負は決まっています。本譜でも、この変化のようにキングが先に逃げることも考えましたが、b4-b3 とされた際に少し自信がありませんでした。そこで残り時間5分を切るまで読んで、正解の手を見つけます。
36. Rxd4!!
このエクスチェンジサクリファイスが最も確実に白の勝ちを手繰り寄せるアイディアです。36. Qh2?? Bb7+ はキングが逃げられずに逆転負けですが、先にd4 の黒マスビショップを消しておけば、Qc2-Qh2 が有効になります。
36... Bb7+
先述の通り、36... cxd4 37. Qh2+- ならばナイトを取って勝ち、36... Rxd4 37. Rg8# は即白勝ちですので、黒には選択の余地がありません。
37. Kh2!?
キングはどちらに避けても勝ちで、37. Kg1 Nf3+ 38. Kf2 cxd4 39. Qg6!+- もありえたでしょう。
37... cxd4 38. Kg3!+-
時間の増える直前、このキングの上がる手で勝ちを確信しました。キングでもナイトをアタックすることで、39. Rxh4 をスレットにします。
38... Qxe6
38... Nf3 39. Qg6!+- となっても、白のアタックは決定的です。Qg6-Qh6-Qf6+ が止まらず、メイトになるでしょう。
39. Rxh4+ Kg8 40. Qh7+ Kf8 41. Qxb7+-
時間も増え、ピースアップになったところで一安心です。黒はここでリザインしてもおかしくありません。
41... Qg6+ 42. Rg4 Qd3+ 43. Kh4 Qf5 44. Qg7+ Ke8 45. Rg6 Rc8 46. Rf6 1-0
この大事な試合を気合でねじ伏せ、4.5P でのフィニッシュです! オリンピアードでもそうでしたが、大事な最終戦で同じ2300 台に勝てたのは嬉しいですね。この勝利でレイティングも+4 で終わることができました。10月の頭にはベストレイティングである2403 ジャストに戻し、久々の2400 台と日本ランキング単独1位に復帰です。
マイナークラスでは、なつみが4.5/7 で全試合を終え、単独4位となりました。惜しくも賞金獲得には届きませんでしたが、レイティングを20稼ぎ、彼女にとっても参加した甲斐のあるトーナメントだったと言えるでしょう。また次に2人で参加するトーナメントも、満足のいく結果を獲得したいと思います!
試合後は20時から会場の地下ホールでパーティー、そして表彰式です。パーティー中、一部のGM たちは食事や酒をそっちのけで、ブリッツに興じていました。指したいプレーヤーが増えてくると、通常のブリッツから2人組でのペアチェスへと移行。Caruana、Bok Benjamin、Vidit ら豪華なメンバーが、楽しげにプレーする貴重な様子を見ることができました。私が言うのもなんですが、皆さん本当にチェスが好きですね!
そしてこちらはスウェーデンのGM Tiger が、スコットランドのGM Arakhamia-Grant(奥の女性のほうです)に囲碁を教えているところです。日本語が分からないながらも、NHK の囲碁対局をYoutube で見て勉強しているというTiger は、囲碁のレクチャーも上手で、私も聞き入ってしまいました。他にはドイツのGM Georg Meier とは語学や経済の話を、イギリスのJovanka Houska とは、Caro-Kann の話をしたりと、試合後の交流をパーティーでは楽しむことができました。また次の海外大会でも、こうした機会があると良いですね。
オリンピアードに引き続き、このマン島での大会もライブでゲームをご覧いただいたり、応援メッセージをいただいたりと、本当にありがとうございました。次の国内、海外大会も参加が決まり次第、お知らせしたいと思います。
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