7月のCAISSA も終盤の9R を迎えました。今月3回目、白では初めての対戦となるZhu Yanshen との試合は、思惑とは正反対に、相手キングに猛攻を仕掛けるすさまじいゲーム展開になりました。
Dresden Olympiad でGM Baburin に敗れて以来、封印し続けてきたQGD Bf4 Variation をここで使います。2008年には私のメインレパートリーでしたが、不幸なことに出番はほとんどありませんでした。
私の記憶が正しければ、Zhu Yanshen はSarosi との試合で、6...c6、もしくは6...Nbd7 と指しており、私の準備もそちらのみでした。6...b6 のゲームはPelletier のゲームを一つ見ただけです。
cファイルが開く展開は白に好ましいかと思っていましたが、黒は早々にクイーンをアクティブに使ってきます。
変な形にならないことを心がけてここまで指しましたが、どうやら実戦でも例があるようです。次の手はナイトをどちらに出すかと待っていましたが、予想外の一手が来ます。
一目見て、ルークのダブルアタックにどう対応してくるのか分かりませんでした。しばらく考えても分からないので、実際に指してみることに。
なるほど。これならば次のd4-d3 がビショップ取りのスレットになるので、黒は難を逃れているように見えます。
色々迷いましたが、異色ビショップにしても、7段目のルークで多少チャンスを作れるだろうと思いました。
この手が緩手でした。ゲーム中と検討では全く気がつきませんでしたが、試合後にコンピュータで解析を行ったところ、思いがけない変化が出てきました。
17. Ne5! (私も試合中、当然のように考えましたが、e7 の浮いたルークをどうすれば良いのかが分かりませんでした。) 17... Qf6 18. Rxf7! (これがポイントとなるエクスチェンジサクリファイスです。)18... Rxf7 19. Qxd3 Rf8
こうして見ると、確かに白のピースはセンターを支配しており、クイーンサイドのピースが展開できない黒は苦しそうに見えます。エクスチェンジの代償は十分にありそうです。20. Qe4 Na6 21. Qc4 Nb8 22. Rd1+/-
g2 をサポートして、ナイトを動かせるようにしたつもりでしたが、次の手を見落としていました。
7段目に入ったルークが狙われ、f3、b2 もアタックされています。少し混乱しましたが、冷静に対処できました。
彼はポーンを取る前に、ピースの展開を完了させました。しかし、a6 のナイトは良い位置とは言えず、白から抑え込むことができます。
白はf3 のポーンを犠牲にすることで、bポーンを進める1テンポを稼ぎ、a6 のナイトの行き場を奪うことに成功しました。7段目のルークと、ナイトよりも明らかに強力なビショップの働きにより、1ポーンの代償はあると考えていました。
黒はクイーンだけでは局面を進展させられませんが、a7 とf7 がアタックされている以上、ポーンを返さずに、新たなピースを持ってくることは簡単ではありません。黒がクイーンで手を作ろうとする間、白はシンプルにオープンファイルを取り、ルークの活用を図ります。
この手を見て、おやっ?と思いました。バックランクを外すのは自然なアイディアですが、逆にキング前のディフェンスを緩めてしまいます。私は当初、25.Qd3!? と安全にクイーンをぶつけるつもりでしたが、面白いアタックを思い付き、そちらを試してみることにしました。
ルークを4段目に振り、黒キングにダイレクトアタックを仕掛けます。a3 のポーンはさほど重要な役割を果たしているわけではなく、捨てても問題ないと判断しました。
彼にしては珍しく、時間を使ってポーンを取る決断をしました。私は25.Rd4 の時点で、この変化は早々に勝てるだろうと楽観視していましたが、白が正着を見つけるのはそんなに簡単ではありません。
試合直後は分かりませんでしたが、どうもこれが敗着であるというのが、コンピュータの指摘です。とは言え、かなり強力なエンジンでも本譜通りに進めてみないと、白勝勢にはなりませんでした。
本譜の代わりに27... Qa2 28. e4!? Qe2! (この手でルークをアタックできるのが、本譜との最大の違いです。) 29. Qxe6!? Qf3+! 30. Kxf3 fxe6+ 31. Kg2+/= ならば、確かに白の攻めは決定的ではありません。
黒の狙いである28...Qd5+ を消すことで、クイーンを盤上にキープし、ダイレクトアタックのチャンスを残します。28. Rxg7+ Kxg7 29. Qd4+ Kg6 30. Qg4+ Kh7 31. Qe4+= ならばドローですが、ここはそれ以上を求めるべきポジションです。
残り時間20分を切るまで考え、この手でエクスチェンジアップすることを読み切りました。しかし、試合中は気付きませんでしたが、もう一つ別の勝ち筋もあったようです。
29. Qe5?? f6-+ これでは白の攻めが完全に止まり、大失敗です。
29. Rxg5+! hxg5 30. Qd2 Kh7 31. Qxg5+- いきなりルークを捨てるのがもう一つの正解で、こちらのダイレクトアタックも決定的です。
ここは予想通りの手でした。すでに黒には他に良い受けがありません。
29... Nxb4 30. Qf6 Nd3 31. Qxh6+-
29... Rfe8 30. Qf6 Rxe7 31. Be5+-
この手が勝ちを決める、最も重要な一手です。すぐにルークを交換してしまっては、クイーンがディフェンスに戻ってきてしまいます。
34... Qf7 35. Bxe7+ Ke8 36. Qc6+ Kxe7 37. Qxa8+- このエクスチェンジアップは、白にとって楽勝です。
最後は、36. Qf5+ Kg7 37. Bxg5 からメイトになります。1ポーンが落ちた時はどうなる事かと思いましたが、どうすれば代償が十分かをしっかりと考えることができ、実にうまく指せたと自画自賛のゲームです。
また、注目の最終戦、Zhu Yanshen - Xu Yi は、白のブランダーであっさりと決着です。 これでZhu Yanshen は1勝8敗1ドロー、Xu Yi は5勝5ドローでのフィニッシュとなりました。Xu Yi は2つ目のIM ノーム獲得です。おめでとう!
そして昨日の試合後には、Xu Yi の母親とGupta の母親から、それぞれプレゼントを貰いました。Xu Yi ママからは、左の吊るす飾りを、Gupta ママからは右のインド菓子を貰いました。対戦し、交流した相手から(相手の身内から)こういった贈り物をされるのは、大変嬉しいことです。彼らのように、同じノームという目標を目指して切磋琢磨したライバルたちのことは、10年経っても忘れないでしょう。Xu Yi はまだハンガリーに残るでしょうが、Gupta は今日、インドに帰国するそうなので、今度はアジアのトーナメントで会えることを期待しています!
それではこれから、Sarosi との最終戦です。久々にレイティングを+ にして、トーナメントを終えられるよう、何とか勝利をもぎ取りたいと思います。
Kojima, S (FM, JPN, 2290) - Zhu, Y (CHN, 2176)
CAISSA 2012 July IM (9)
1. d4 d5 2. c4 e6 3. Nf3 Nf6 4. Nc3 Be7 5. Bf4!?
CAISSA 2012 July IM (9)
Dresden Olympiad でGM Baburin に敗れて以来、封印し続けてきたQGD Bf4 Variation をここで使います。2008年には私のメインレパートリーでしたが、不幸なことに出番はほとんどありませんでした。
5... O-O 6. e3 b6!?
私の記憶が正しければ、Zhu Yanshen はSarosi との試合で、6...c6、もしくは6...Nbd7 と指しており、私の準備もそちらのみでした。6...b6 のゲームはPelletier のゲームを一つ見ただけです。
7. Rc1 Bb7 8. cxd5 Nxd5 9. Nxd5 Qxd5
cファイルが開く展開は白に好ましいかと思っていましたが、黒は早々にクイーンをアクティブに使ってきます。
10. a3 c5 11. Bc4 Qh5 12. Be2 Qg6 13. O-O
変な形にならないことを心がけてここまで指しましたが、どうやら実戦でも例があるようです。次の手はナイトをどちらに出すかと待っていましたが、予想外の一手が来ます。
13... cxd4?
一目見て、ルークのダブルアタックにどう対応してくるのか分かりませんでした。しばらく考えても分からないので、実際に指してみることに。
14. Rc7! Be4
なるほど。これならば次のd4-d3 がビショップ取りのスレットになるので、黒は難を逃れているように見えます。
15. Rxe7
色々迷いましたが、異色ビショップにしても、7段目のルークで多少チャンスを作れるだろうと思いました。
15... d3 16. Bxd3 Bxd3 17. Re1?!
この手が緩手でした。ゲーム中と検討では全く気がつきませんでしたが、試合後にコンピュータで解析を行ったところ、思いがけない変化が出てきました。
17. Ne5! (私も試合中、当然のように考えましたが、e7 の浮いたルークをどうすれば良いのかが分かりませんでした。) 17... Qf6 18. Rxf7! (これがポイントとなるエクスチェンジサクリファイスです。)18... Rxf7 19. Qxd3 Rf8
こうして見ると、確かに白のピースはセンターを支配しており、クイーンサイドのピースが展開できない黒は苦しそうに見えます。エクスチェンジの代償は十分にありそうです。20. Qe4 Na6 21. Qc4 Nb8 22. Rd1+/-
17... Be4 18. Bg3!?
g2 をサポートして、ナイトを動かせるようにしたつもりでしたが、次の手を見落としていました。
18... Qf6
7段目に入ったルークが狙われ、f3、b2 もアタックされています。少し混乱しましたが、冷静に対処できました。
19. Qd6!? Bxf3 20. gxf3 Na6
彼はポーンを取る前に、ピースの展開を完了させました。しかし、a6 のナイトは良い位置とは言えず、白から抑え込むことができます。
21. Be5!? Qxf3 22. b4!
白はf3 のポーンを犠牲にすることで、bポーンを進める1テンポを稼ぎ、a6 のナイトの行き場を奪うことに成功しました。7段目のルークと、ナイトよりも明らかに強力なビショップの働きにより、1ポーンの代償はあると考えていました。
22... Qg4+ 23. Bg3 Qc4 24. Rd1!
黒はクイーンだけでは局面を進展させられませんが、a7 とf7 がアタックされている以上、ポーンを返さずに、新たなピースを持ってくることは簡単ではありません。黒がクイーンで手を作ろうとする間、白はシンプルにオープンファイルを取り、ルークの活用を図ります。
24... h6
この手を見て、おやっ?と思いました。バックランクを外すのは自然なアイディアですが、逆にキング前のディフェンスを緩めてしまいます。私は当初、25.Qd3!? と安全にクイーンをぶつけるつもりでしたが、面白いアタックを思い付き、そちらを試してみることにしました。
25. Rd4!?
ルークを4段目に振り、黒キングにダイレクトアタックを仕掛けます。a3 のポーンはさほど重要な役割を果たしているわけではなく、捨てても問題ないと判断しました。
25... Qc1+ 26. Kg2 Qxa3
彼にしては珍しく、時間を使ってポーンを取る決断をしました。私は25.Rd4 の時点で、この変化は早々に勝てるだろうと楽観視していましたが、白が正着を見つけるのはそんなに簡単ではありません。
27. Rg4 Qb3?
試合直後は分かりませんでしたが、どうもこれが敗着であるというのが、コンピュータの指摘です。とは言え、かなり強力なエンジンでも本譜通りに進めてみないと、白勝勢にはなりませんでした。
本譜の代わりに27... Qa2 28. e4!? Qe2! (この手でルークをアタックできるのが、本譜との最大の違いです。) 29. Qxe6!? Qf3+! 30. Kxf3 fxe6+ 31. Kg2+/= ならば、確かに白の攻めは決定的ではありません。
28. e4!
黒の狙いである28...Qd5+ を消すことで、クイーンを盤上にキープし、ダイレクトアタックのチャンスを残します。28. Rxg7+ Kxg7 29. Qd4+ Kg6 30. Qg4+ Kh7 31. Qe4+= ならばドローですが、ここはそれ以上を求めるべきポジションです。
28... g5 29. Qd4!+-
残り時間20分を切るまで考え、この手でエクスチェンジアップすることを読み切りました。しかし、試合中は気付きませんでしたが、もう一つ別の勝ち筋もあったようです。
29. Qe5?? f6-+ これでは白の攻めが完全に止まり、大失敗です。
29. Rxg5+! hxg5 30. Qd2 Kh7 31. Qxg5+- いきなりルークを捨てるのがもう一つの正解で、こちらのダイレクトアタックも決定的です。
29... e5
ここは予想通りの手でした。すでに黒には他に良い受けがありません。
29... Nxb4 30. Qf6 Nd3 31. Qxh6+-
29... Rfe8 30. Qf6 Rxe7 31. Be5+-
30. Qxe5 f6 31. Qf5 Rf7 32. Qg6+ Kf8 33. Bd6!
この手が勝ちを決める、最も重要な一手です。すぐにルークを交換してしまっては、クイーンがディフェンスに戻ってきてしまいます。
33... Rxe7 34. Qxf6+ Kg8
34... Qf7 35. Bxe7+ Ke8 36. Qc6+ Kxe7 37. Qxa8+- このエクスチェンジアップは、白にとって楽勝です。
35. Bxe7 Kh7 36. Qf5+ 1-0
最後は、36. Qf5+ Kg7 37. Bxg5 からメイトになります。1ポーンが落ちた時はどうなる事かと思いましたが、どうすれば代償が十分かをしっかりと考えることができ、実にうまく指せたと自画自賛のゲームです。
また、注目の最終戦、Zhu Yanshen - Xu Yi は、白のブランダーであっさりと決着です。 これでZhu Yanshen は1勝8敗1ドロー、Xu Yi は5勝5ドローでのフィニッシュとなりました。Xu Yi は2つ目のIM ノーム獲得です。おめでとう!
そして昨日の試合後には、Xu Yi の母親とGupta の母親から、それぞれプレゼントを貰いました。Xu Yi ママからは、左の吊るす飾りを、Gupta ママからは右のインド菓子を貰いました。対戦し、交流した相手から(相手の身内から)こういった贈り物をされるのは、大変嬉しいことです。彼らのように、同じノームという目標を目指して切磋琢磨したライバルたちのことは、10年経っても忘れないでしょう。Xu Yi はまだハンガリーに残るでしょうが、Gupta は今日、インドに帰国するそうなので、今度はアジアのトーナメントで会えることを期待しています!
それではこれから、Sarosi との最終戦です。久々にレイティングを+ にして、トーナメントを終えられるよう、何とか勝利をもぎ取りたいと思います。
2 件のコメント:
おめでとうございます^^
コメントありがとうございます!
最終試合の記事も、後ほどアップします。
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