2018/11/29

World Chess Championship Match 2018


色々と書きたい記事はあるのですが、今夜はこの話題以外ないでしょう。昨日、ロンドンで行われていたCarlsen - Caruana の世界チャンピオンマッチに決着がつきました。クラシカルで異例の12戦連続ドローとなり、1日休みをおいて行われた昨日のラピッドタイブレークで、現チャンピオンのCarlsen は3連勝とCaruana を圧倒し、世界チャンピオンのタイトル防衛に成功しました。ポイントとなった13R のゲームをご紹介します。

Calrsen, M (GM, NOR, 2880) - Caruana, F (GM, USA, 2789)
Carlsen - Caruana World Championship Match (13.1)

1. c4 e5 2. Nc3 Nf6 3. g3 Bb4 4. e4 O-O 5. Nge2 c6 6. Bg2 a6 7. O-O b5 8. d4 d6 9. a3 Bxc3 10. Nxc3 bxc4 11. dxe5 dxe5 12. Na4!



このマッチでCarlsen は1. e4 も使いましたが、Caruana のPetrov を崩すことはできず、この1. c4 をもう1つの武器としています。黒はこの局面で1ポーンアップですが、クイーンサイドのポーンはバラバラで、b6, c5 といった黒マスが弱くなっています。Carlsen はこれを利用することで、ポーンを取りかえすだけでなく、ゆっくりでアドバンテージを取ることを狙います。

12... Be6 13. Qxd8 Rxd8 14. Be3 Nbd7 15. f3


堅実ですね。これでNf6-Ng4 を防いでおき、g1-a7 のダイアゴナルのコントロール、および黒マスの利きを確保しておきます。

15... Rab8 16. Rac1 Rb3 17. Rfe1 Ne8 18. Bf1 Nd6 19. Rcd1 Nb5 20. Nc5!



Caruana としては、どこかでポーンを返しても(さらに取られても)、なんとか戦える形を模索したいところですが、ここでナイトに跳びこまれる手がきつく、一気に駒数でも白がリードを奪います。

20... Rxb2 21. Nxe6 fxe6 22. Bxc4


ここは1つ面白いトリックがあります。22. Bg5 Nd4! 23. Bxd8?? Nxf3+ 24. Kh1 Rxh2# ならば黒は大逆転です。

22... Nd4 23. Bxd4 exd4 24. Bxe6+



私は昨夜観戦していて、dファイルにルークを重ねるプランはどうかと考えていました。これには24. Rxd4 Kf7 25. Red1 Ne5! 26. Rxd8 Nxf3+ 27. Kf1 Nxh2+ 28. Ke1 Nf3+= この反撃がありました。上記と同じ、f3 をナイトで狙う反撃は、白が最も警戒すべきものです。

24... Kf8 25. Rxd4 Ke7 26. Rxd7+


ここも悩むところですが、ポーンアップになった白はピースを捌き、ルークのエンドゲームで戦います。

26... Rxd7 27. Bxd7 Kxd7 28. Rd1+ Ke6 29. f4 c5 30. Rd5 Rc2 31. h4 c4



さぁ問題はこのルークエンディングが勝てるかどうかです。キングサイドはポーンが4対2ですが、黒キングは白のポーンを止めやすい好位置におり、白キングは2段目でカットオフされています。

32. f5+ Kf6 33. Rc5 h5 34. Kf1 Rc3 35. Kg2 Rxa3 36. Rxc4 Ke5 37. Rc7 Kxe4?


この試合が前の12試合と同じでクラシカルであり、増加が30秒で残り時間にも余裕があれば、Caruana もここでベストの手を見つけられたかもしれません。37... Ra2+! 38. Kh3 Kxe4 39. Re7+ Kf3! 40. Rxg7 Ra1= であれば、白はパペチュアルチェックを防ぐことはできず、本譜のようにポーン交換が進むことはありませんでした。

38. Re7+ Kxf5 39. Rxg7 Kf6 40. Rg5 a5 41. Rxh5 a4 42. Ra5



10年ほど前、ルークエンディングでは2コネクテッドパスポーンがあり、相手の単独パスポーンをルークで後ろから止めていれば勝てると教わりました。もちろんいくつか例外はありますが、これはまさにそのお手本のような形になっています。縦と横、相手のパスポーンのアタックと、相手キングへの攻撃に広く利く白のルークと、段々行き場が狭まり、横にしか利かない黒のルークで、働きに差が出てきます。

42... Ra1 43. Kf3 a3 44. Ra6+ Kg7 45. Kg2!


私がこのルークエンディングで、最も大きなポイントだと感じたのがここです。一度f3 にキングを上げてから6段目でチェックし、黒キングを7段目に押し込みます。その後、キングをg2 に下げて黒キングの動きを封じます。45. Kg4? a2 46. h5 Kh7 47. Kg5 Rg1 48. Ra7+ Kg8 49. Rxa2 Rxg3+= 焦ってキングをg4 に上げてしまうと、どこかで白キングはg3 のポーンから離れなければならず、それを見て黒はルークでgポーンをアタックすれば、ポーンを交換してドローです。

45... Ra2+ 46. Kh3 Ra1 47. h5 Kh7 48. g4 Kg7



48... a2 49. Kg2!+- ならば黒はルークをa1 から抜きつつ、白のポーンに反撃ができません。白はキングの協力なしでも、2コネクテッドパスポーンとルークの横利きで勝つことができます。

49. Kh4 a2 50. Kg5 Kf7 51. h6 Rb1


51... Kf8 52. Ra8+ Kf7 53. h7 Rh1 54. Rxa2 Rxh7 55. Ra7+ Kg8 56. Rxh7 Kxh7 57. Kf6+- 本譜のようにaポーンを諦めるのは絶望的に思えますが、ただ待っているだけでも白勝ちのポーンエンディングにされるだけです。

52. Ra7+ Kg8 53. Rxa2 Rb5+ 54. Kg6 Rb6+ 55. Kh5 1-0



続けるとしても、55... Rb5+ 56. g5 Rb8 57. Ra5 Rc8 58. g6 Rb8 59. Kg5 Rc8 60. h7+ Kg7 61. Ra7+ Kh8 62. Kh6 Rb8 63. g7# くらいで白は勝ちです。クラシカル12戦では一切決着がつきませんでしたが、続く14,15R も勝って、Carlsen は防衛に成功しました。

Caruana ならばあるいはと思われた今回のマッチですが、結局Carlsen の牙城は崩せませんでした。次の挑戦者は誰になるのか、楽しみにしつつ、また自分のチェスも精進し続けられればと思います。

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