11月のFSもいよいよ最終戦。対戦するのはオーストリアのベテランマスター、IM Wittmannです。別の月にはGMクラスに参加していた実力者も、今大会は下位に沈んでおり、三連勝で波に乗る私としては勝って大会を締めくくりたいところです。
Wittmann, W (IM, AUT, 2245) - Kojima, S (FM, JPN, 2339)
First Saturday IM November (11)
1. e4 c6 2. d4 d5 3. Nd2 dxe4 4. Nxe4 Bf5 5. Ng3 Bg6 6. h4 h6 7. Bc4!?
First Saturday IM November (11)
Wittmann のCaro-Kannに対するレパートリーの一つ。私も指された経験はほとんどないですが、この試合のためにみっちり準備してきました。
7... e6 8. N1e2 Bd6 9. Nf4 Bxf4
Caro-Kann Classical では、黒が早々にダブルビショップを放棄するラインがいくつかありますが、どちらのビショップを残しておくべきかというのは難しいテーマです。ここでは黒マスビショップを消し、b1-h7 のダイアゴナルを抑える、強力な白マスビショップを残しておきます。
10. Bxf4 Nf6 11. Qd2 Nbd7 12. h5!?
メインラインと比較して、この手を入れておくべきかは一概には言えません。白はキングサイドのスペースを確保し、h4 にルークを上げる可能性を作りますが、h4 よりh5 にいるほうが、ポーンが狙われやすいのは間違いありません。私は試合前にGM Grospeter のアイディアをチェックしており、そこから考えるとh5 にポーンがいてくれたほうが、黒としてはありがたいと思いました。
12... Bh7 13. Bd3!
一般的にダブルビショップを持っている側は、自ら積極的に一組のビショップを交換しにいかないものです。しかしここでは、c2 を狙う黒のビショップが強力なため、c4 のビショップを下げてでも、ビショップ交換を行います。
13... Bxd3 14. Qxd3 Qa5+ 15. Bd2 Qd5 16. c4 Ne5!?
このタイミングでクイーン交換を行うのが、事前に調べたGrospeter のアイディアです。(その試合では、ポーンはh4 でしたが)先日手に入れたばかりのチェスソフト、フーディーニは16... Qxg2! を推しますが、このクイーンはすぐにゲームに戻ってこられないため、人間の感覚では指しづらいと思います。
このポジションまで、私はほぼ準備どおりで、ここまでくればWittmann に負けることはほぼないと思っていました。ところが完全に準備どおりだったのは、どうやら相手側だったようで、次の手をほぼノータイムで指されました。
17. Qh7!!
この手を指された瞬間の私の驚きを言葉で表現するのは、なかなか難しいと思います。分かりやすくイメージでお伝えすると、
オォォーーー!! w(゚ロ゚;w(゚ロ゚)w;゚ロ゚)w オォォーーー!! ←これの5倍くらいです。(私はあまり顔文字は使いませんが、ここでは他にお伝えする方法が分かりません。)少し考えてみて、この手のアイディアが分からない方には、後ほどご説明します。チェスの奥深さや魅力を、改めて知ることができるような一手でした。
17... Nxh7 18. cxd5 Nd3+ 19. Ke2 Nxb2 20. dxc6!?
20. dxe6 Nc4! ならば、黒はポーンストラクチャーの良さで、ややチャンスのあるエンドゲームを迎えることができます。
20... bxc6 21. Rhc1 Na4!
ここは気付きにくいですが、白のメインの狙いはc6 を取ることではなく、22. a4! からb2 のナイトをトラップすることにあります。c4 に退くことのできなくなったナイトは、a4 経由でd5 のアウトポストを目指します。
22. Rxc6 Nf6!?
この地味そうなポジションが、黒のプランを決める分岐点となります。私は白のナイトがe4 に来ることを防ぐ、本譜の手が最も良いと試合中は判断しましたが、h8 のルークを活用するほうが優先度が高いと考えれば、キャスリングもありえる手です。22... O-O 23. Ne4 Rfd8 24. Rac1 Nb6=
そしてもうお気づきかもしれませんが、17. Qh7!! を入れないで17. cxd5?! ならば、この本譜のポジションで黒番となります。ナイトを退かせ、一手稼ぐためのクイーン飛び込みでした。
23. Rac1 Nb6!
黒は早々にキャスリングしたいところですが、Rc6-Ra6、Rc1-Rc7 からa7 のポーンが受からなくなるため、ここはナイトを退く一手です。
24. Bb4 Nbd5 25. Ba3 a5!
また面白いポジションになりました。白は黒のキャスリングを妨害し、ルークもアクティブですが、私はb4 のマスにナイトを置けばキャスリングが可能になり、その後はポーンストラクチャーの良さで、黒にチャンスがあるだろうと思っていました。ところが、私のこの試合最大のミスとして、すぐにb4 にナイトが置けると勘違いしていました。
26. R1c2 Nb4?
振り返ってみると時間切迫でもないのに、なぜこんな読み落としをしたのか分かりません。しかし一方で、代わりに黒が指すべき手を見つけるのは簡単ではありません。コンピュータは26... Kd7!? 27. Rd6+ Ke8= との評価... キャスリングができなくなっても、白からはアクティブなプランが作りにくいということでしょう。人間的には非常に指しづらい手です。
27. Rc8+ Kd7 28. R2c7+!
c7 への利きがなくなったので、当然の一手です。これでポーンが落ち、苦しい展開になることを覚悟しました。
28... Kd6 29. Rc6+ Kd7 30. R6c7+ Kd6 31. Rxh8 Rxh8 32. Ra7?!
この手を見て、助かるチャンスが出てきたと思いました。32. Rxf7! Rc8 33. Ra7 Rc2+ 34. Kd1 Rc4 35. Ne2+/- ならば、何の問題もなく白が勝つでしょう。
32... Rc8! 33. Rxa5 Rc2+ 34. Kf3
34. Kd1 Rc4 35. Ne2 Kc6! 36. Ra7 Nd3!? ならば、白やや優勢であることは間違いありませんが、きっちり勝ちきるのはそう簡単ではありません。Wittmann は勝負にくる気はなかったようで、ここで早々にドローを決めました。
34... Rc3+ 35. Ke2 Rc2+ 36. Kf3 Rc3+ 1/2-1/2
ひどい勘違いからブランダーを出したものの、相手から恵んでもらうような形でドローになりました。どうもWittmann は17. Qh7!! を指せただけで、もう満足だったようです。チェスプレーヤーとしてそれで良いのか?という気もしますが、私にとっては勉強にもなりつつ、ラッキーな一局でした。
最終戦は意外にも半分のボードで決着がつきました。11歳のAryan Chopra はHou Qiang をRuy Lopez で撃破。私も含めて皆で2日後にはケチケメートに行くため、またこの組み合わせがどういったゲームになるか楽しみです。
そして最後にリストトップの意地を見せたのは、この日25歳の誕生日を迎えたKislik Erik Andrew(右手前) です。単独2位を走るMassoni を白番で破り、なんとか勝ち越しグループに入ってのフィニッシュとなりました。今大会不調だったとは言え、やはり2400クラスの実力を持つプレーヤーです。
Massoni も最終戦に敗れたとはいえ、8/11でIMノームのスコアをクリア。試合後に話をしたところ、今回で3つ目のノーム獲得だそうです。次回どこかで会うときは(早くてカペルかな?)、彼はIM になっているでしょう。
GMクラスではハンガリーのU14チャンピオン、Gledura Benjamin が早々にドローにし、6.5/12でIMノームを獲得しました。GMクラスは終わってみれば、6人の参加者中、Benjamin のみがレイティングがプラスになるという、まさに一人勝ち状態でした。ハンガリーに来て最初のFS で対戦した彼とも、再戦の機会を楽しみにしています。
私は最終的に5勝2敗4ドローで、レイティングはプラス8.4、単独3位でのフィニッシュとなりました。悪い数字ではないですが、連勝スタートでIMノームへの期待も高かったため、中盤で失速したのは残念でした。また、3つ勝ち越しでレイティングがたったの8しか上がらないというのも、自身のレイティングが伸びてきたことの影響を感じます。今後はさらに、レイティングを稼ぐのが難しくなってくるでしょう。今後は一層頑張らなければいけませんね。
そしてコメント欄やFacebook を見てご存じの方も多いかと思いますが、私は今日で24歳になりました。チェスを始めたのが12歳なので、今後はチェス歴が人生の半分以上になってきます。ちょっとしたきっかけで始めたチェスが、ここまで自分の人生を左右するものになるとは、自分自身でも予想できなかったことです。チェス関係者の皆さんも、それ以外の友人の皆さんも、今後ともよろしくお願い致します。
8 件のコメント:
すごい…17.Qh7なんて手初めて見ました…
チェスにおいてまだまだ浅い私ですけどもっとチェスに没頭したいって思わせてくれる棋譜でした!
一手のためにしのぎを削り合い、またそれがどんどん対局者同士にしかわからないくらいわずかな微差をつけるために試行錯誤を繰り返す…神秘です!
ブログこれからも楽しみにしてます。
それから24歳のお誕生日おめでとうございます。
戸川、コメント一番乗りおめでとう!(?!)
すごい手が出たのは良いけど、その後の自分の対応がイマイチだったね。自分もまだまだだよ。
あと誕生日のことはありがとう。今年も一年頑張ります!
遅れまして、お誕生日おめでとうございます。
顔文字は笑っちゃいましたねw
Qh7指して相手を驚かせただけで満足、って気持ちもわかる気がします。
大きな驚愕から立ち直るのは容易じゃありませんね・・・
プレパレーションだけでここまで来るのか、と
チェスの深さ、面白さを再確認できました。
お疲れさまです。&お誕生日おめでとうございます。Houdini ゲットですか。くりりんに対抗してきたとしか思えません・・?汗 Polgar Chess Festivalは行けるんでしょうか。 huge chess cake が気になります
チェスというものの奥の深さを改めて見せられたような感じです。
四角いボードの上のいくつかの駒だけの世界なのに、その世界の広さ、深さ、
神秘さ、入り込んでしまう気持ちがわかるようになってきました。
これから先もずっとその神秘のすごさを引き出してください‼
次も楽しみにしています。
Pontx109
おー、コメントありがとう。元気にしてるか~。
自分の棋譜で刺激を受けてくれればなにより!そっちも東京で頑張ってくれ。
電車賃多少高くても、試合は積極的に出たほうがよいぞ~(笑)
匿名さん
ありがとうございます!Houdini は無料版のVer.1.5 ですね。まだ分からないですが、気にいったら最新のVer.3 も購入してみようかと思います。
そしてPolgar Chess Festival の情報ありがとうございます!これですね。http://susanpolgar.blogspot.hu/2012/11/polgar-chess-festival-extravaganza.html
ケチケメートへの移動日+初戦なので、それほど時間はないですが、オープニングから顔を出してみようと思います!むしろブダペストにいて、これを見に行かない選択肢はないですね(笑)
Yumiさん
いやー、何度見ても不可思議な手ですね。用意ではなく、盤上でこのような手を思い付き、バンバン指してみたいものです。またこれからのトーナメントも、応援よろしくお願いします~。
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