先月からハンガリーで、共にIMノームを競い合っている中国のHou Qiang とは、すでに四度目の対戦となります。試合前にはオーガナイザーのLaszlo 氏から、「ここにはFriend だけで、Enemy はいない。握手を忘れないように」と冗談交じりに言われ、和やかにゲームがスタート。しかし、試合内容は和やかとは程遠いものでした。
前回の対戦では、流行の最先端である8. Bf4!? を試して勝利を収めましたが、オープニングが満足なものであったかと聞かれると疑問なところです。そこで、試合当日の朝に発見したライン(8. h3 自体は以前から研究していました。)を試してみることに。
これがHou Qiang 戦のために用意した新ラインです。11. e5!? Nd7 12. Ng5 dxe5! と黒がピースを切るラインは、Panno Variation (6... Nc6) の中でも、最もシャープなものの一つです。こちらはベオグラードでMisha と散々検討をしましたが、Chess.com の実戦では、あまり良い感触が掴めませんでした。そこでセンターのテンションをキープし、シャープなラインを避けることにします。
ナイトを交換しない変化として、12... Nd7 13. Bg5 h6 14. Rc1!?+/= ブラジルのGM Leitao の今年のゲームを1つチェックしていました。d5 でナイト交換するラインはほぼノーチェックだったので、ここから考え始めます。白の武器は、早い展開と2つのオープンファイルです。
14... Re8 15. Rc1+/= が自然な流れに見えますが、Hou Qiang はビショップをぶつけてきました。少し考えましたが、黒のポーンストラクチャーを乱しておいて白に悪いことはないので、相手の狙いに乗ることにします。
このようなポーンストラクチャーでは、f6-f5 とポーンを突くのは自然な手ですが、この後の展開を考えれば、黒はルークを一枚交換しておくべきだったと思います。17... Re8 18. Rxe8+ Bxe8 19. Ne1+/= と進めば、白には明らかなポジショナルアドバンテージがありますが、本譜ほど強力かつ明確なプランはすぐに思い浮かびません。
このゲームで私が最も気に入っている手です。cファイルにルークを重ねて、c7にプレッシャーをかけると同時に、黒からのルーク交換を避けます。そしてここからいくつかの段階を経て、白はアドバンテージを拡大していきます。
次に跳ぶマスのないナイトは、f3 よりベターなポジションを求めて旅立ちます。
このポジションを冷静に分析してみると、黒の伸びすぎたbポーンと、逆に出遅れたcポーンは明らかにターゲットになっており、黒はそのディフェンスに縛られていることが分かります。(両方とも落ちると致命的な痛手になることもポイント。)加えてa5 に跳んだナイトはどこにも行くことができず、すでに黒は身動きがほぼ取れない状態です。戦略的にはすでに白勝勢と言えるこの状況で、次にどこから手を作るかが、このゲームでのさらなるポイントとなります。
白が次にアクションを起こすのはキングサイドです。忘れがちですが、盤全体でプレーすることは、チェスでは非常に重要なアイディアです。
ここは次のh4-h5 を止めておくために、23... h6 が必須でした。それでも時間をかければ、白はキングサイドで決定的なチャンスを掴めるでしょう。
f3 のナイトは3手掛けてf4 に到達し、最終的なゴールであるe6 に跳び込みます。白がhポーンを進めて、f7 のポーンを消したことが、このナイトのマヌーバリングをさらに強力なものにしています。
27... Kh7 28. Bf3 Ra7 29. Kg2 (次に30. Qxh6! がメイトスレットになっていることに注目!)29... Bxe6 30. dxe6 Rxe6 31. Rh1 Qf8 32. Qxb4+/- という変化も試合中考えていました。こちらであれば、白は強力な白マスビショップで、盤面を支配することになります。
キングに迫ってきたナイトを排除したものの、黒のポジションは相当厳しいものです。e6 に突き刺さったプロテクテッドパスポーンは、黒のピースを身動きが取れない状態にし、a5 のナイトも未だゲームに参加することはできません。ここからはいよいよ、黒キングを仕留めるゲームの最終段階に入ります。
白は三番目のオープンファイルを活用して、黒キングへのアタックチャンスを作り出します。
b2 のマスを空けつつ、2つ目のルークもhファイルに回せるようにして、最後の攻撃準備が完了しました。後は引き金を引くだけです。
ルークを捨てる手からのメイティングアタックが決まり、勝負あり。今年のベストゲームに挙げても良い鮮やかなフィニッシュでした。振り返ってみて、自分のチェスの技術が、以前よりはるかに高くなっていることを感じます。しかしその反面、なぜこのような指し回しが6R、7R で出来なかったのかと、空しく感じます(笑)
試合後には東北大学の三村くんと、このゲームを振り返りながら話をしました。そこで、将棋連盟米長会長の「自分にとっては消化試合だが、相手にとって重要な対局であれば、相手を全力で負かす」という、米長哲学なるものを教えてもらいました。レイティングも稼がなければいけない私にとって、このゲームは消化試合ではありません。それでもわずかなIM ノームのチャンスが、この敗北で消えたHou Qiang のことを考えれば、なかなか感慨深い言葉です。
さて、長かった今月のFirst Saturday も残りは2試合で、今日はインドの11歳、Aryan Chopra との対戦です。リスト最下位の彼ですが、ここまではイーブンの戦績とかなり健闘しており、レイティングは+40 近くとなっています。私もレイティングを献上する要因とならぬよう、ここはびしっと締めてこようと思います。
Kojima, S (FM, JPN, 2339) - Hou, Q (FM, CHN, 2289)
First Saturday IM November (9)
1. Nf3 Nf6 2. c4 g6 3. g3 Bg7 4. Bg2 O-O 5. O-O d6 6. d4 Nc6 7. Nc3 a6 8. h3!?
First Saturday IM November (9)
前回の対戦では、流行の最先端である8. Bf4!? を試して勝利を収めましたが、オープニングが満足なものであったかと聞かれると疑問なところです。そこで、試合当日の朝に発見したライン(8. h3 自体は以前から研究していました。)を試してみることに。
8... Rb8 9. e4 b5 10. cxb5 axb5 11. Re1!?
これがHou Qiang 戦のために用意した新ラインです。11. e5!? Nd7 12. Ng5 dxe5! と黒がピースを切るラインは、Panno Variation (6... Nc6) の中でも、最もシャープなものの一つです。こちらはベオグラードでMisha と散々検討をしましたが、Chess.com の実戦では、あまり良い感触が掴めませんでした。そこでセンターのテンションをキープし、シャープなラインを避けることにします。
11... b4 12. Nd5 Nxd5
ナイトを交換しない変化として、12... Nd7 13. Bg5 h6 14. Rc1!?+/= ブラジルのGM Leitao の今年のゲームを1つチェックしていました。d5 でナイト交換するラインはほぼノーチェックだったので、ここから考え始めます。白の武器は、早い展開と2つのオープンファイルです。
13. exd5 Na5 14. Bg5 Bf6!?
14... Re8 15. Rc1+/= が自然な流れに見えますが、Hou Qiang はビショップをぶつけてきました。少し考えましたが、黒のポーンストラクチャーを乱しておいて白に悪いことはないので、相手の狙いに乗ることにします。
15. Bxf6 exf6 16. Rc1 Bd7 17. b3 f5?!
このようなポーンストラクチャーでは、f6-f5 とポーンを突くのは自然な手ですが、この後の展開を考えれば、黒はルークを一枚交換しておくべきだったと思います。17... Re8 18. Rxe8+ Bxe8 19. Ne1+/= と進めば、白には明らかなポジショナルアドバンテージがありますが、本譜ほど強力かつ明確なプランはすぐに思い浮かびません。
18. Qd2 Kg7 19. Rc2!!
このゲームで私が最も気に入っている手です。cファイルにルークを重ねて、c7にプレッシャーをかけると同時に、黒からのルーク交換を避けます。そしてここからいくつかの段階を経て、白はアドバンテージを拡大していきます。
19... Rb7 20. Rec1 Re8 21. Ne1!
次に跳ぶマスのないナイトは、f3 よりベターなポジションを求めて旅立ちます。
21... Re7 22. Nd3 Qb8
このポジションを冷静に分析してみると、黒の伸びすぎたbポーンと、逆に出遅れたcポーンは明らかにターゲットになっており、黒はそのディフェンスに縛られていることが分かります。(両方とも落ちると致命的な痛手になることもポイント。)加えてa5 に跳んだナイトはどこにも行くことができず、すでに黒は身動きがほぼ取れない状態です。戦略的にはすでに白勝勢と言えるこの状況で、次にどこから手を作るかが、このゲームでのさらなるポイントとなります。
23. h4!+/-
白が次にアクションを起こすのはキングサイドです。忘れがちですが、盤全体でプレーすることは、チェスでは非常に重要なアイディアです。
23... Be8?
ここは次のh4-h5 を止めておくために、23... h6 が必須でした。それでも時間をかければ、白はキングサイドで決定的なチャンスを掴めるでしょう。
24. h5! h6 25. hxg6 fxg6 26. Nf4!
f3 のナイトは3手掛けてf4 に到達し、最終的なゴールであるe6 に跳び込みます。白がhポーンを進めて、f7 のポーンを消したことが、このナイトのマヌーバリングをさらに強力なものにしています。
26... Bf7 27. Ne6+! Bxe6
27... Kh7 28. Bf3 Ra7 29. Kg2 (次に30. Qxh6! がメイトスレットになっていることに注目!)29... Bxe6 30. dxe6 Rxe6 31. Rh1 Qf8 32. Qxb4+/- という変化も試合中考えていました。こちらであれば、白は強力な白マスビショップで、盤面を支配することになります。
28. dxe6 Ra7 29. d5+-
キングに迫ってきたナイトを排除したものの、黒のポジションは相当厳しいものです。e6 に突き刺さったプロテクテッドパスポーンは、黒のピースを身動きが取れない状態にし、a5 のナイトも未だゲームに参加することはできません。ここからはいよいよ、黒キングを仕留めるゲームの最終段階に入ります。
29... Qb6 30. Bf3!
白は三番目のオープンファイルを活用して、黒キングへのアタックチャンスを作り出します。
30... Ra8 31. Kg2! Rf8 32. Rh1 g5 33. Rcc1! Rf6
b2 のマスを空けつつ、2つ目のルークもhファイルに回せるようにして、最後の攻撃準備が完了しました。後は引き金を引くだけです。
34. Rxh6! Kxh6 35. Rh1+ Kg6 36. Bh5+ Kh7 37. Bf7+ Rh6 38. Qxg5 1-0
ルークを捨てる手からのメイティングアタックが決まり、勝負あり。今年のベストゲームに挙げても良い鮮やかなフィニッシュでした。振り返ってみて、自分のチェスの技術が、以前よりはるかに高くなっていることを感じます。しかしその反面、なぜこのような指し回しが6R、7R で出来なかったのかと、空しく感じます(笑)
試合後には東北大学の三村くんと、このゲームを振り返りながら話をしました。そこで、将棋連盟米長会長の「自分にとっては消化試合だが、相手にとって重要な対局であれば、相手を全力で負かす」という、米長哲学なるものを教えてもらいました。レイティングも稼がなければいけない私にとって、このゲームは消化試合ではありません。それでもわずかなIM ノームのチャンスが、この敗北で消えたHou Qiang のことを考えれば、なかなか感慨深い言葉です。
さて、長かった今月のFirst Saturday も残りは2試合で、今日はインドの11歳、Aryan Chopra との対戦です。リスト最下位の彼ですが、ここまではイーブンの戦績とかなり健闘しており、レイティングは+40 近くとなっています。私もレイティングを献上する要因とならぬよう、ここはびしっと締めてこようと思います。
8 件のコメント:
すばらしい勝利、おめでとうございます。
将棋連盟米長会長ですね。
ありがとうございます!
Twitter でも指摘されたので、誤字は直しておきました。
おめでとうございます‼
台本通りの締めのようでした。
このまま残り2試合を突っ走っていけるといいですね(*^^*)
今度の相手は11歳ですか!! でもチェスは相手の顔ではなく盤面を見ての
勝負ですから、年齢はあってないようなものなのですね。
チェス、というスポーツの素晴らしさの一面ですね!
頑張ってきてください‼
3連勝、次を勝って、もし、前の試合の一つ、どれかがdrawだったら… と思ってしまったりするのでしょうか…
でも、次への大きなステップになった大会のような気がします。
次はロンドンですか? そこでは思いっきり楽しんできてくださいね!!
あと一試合、最高の締めくくりを期待しています‼
(プレッシャーではないですよ(^^))
大勝利おめでとうございます。まあ若いんですから目の前に現れたopponentは全員ブッ倒すぐらいの気合でお願いします。(週刊ヤングジャンプの読みすぎ)さて将棋の名言というと坂田三吉の「銀が泣いている」が思い浮かびますが誰か「ナイトが泣いとる」とか言った人はいるんでしょうか。汗
Yumiさん 10R も良い勝ち方ができました。
IM ノームを逃したことは悔しいですが、実力があればまたチャンスは巡ってきます。
ブダペスト後はケチケメート&ロンドンなので、ばてないように頑張ります!
匿名さん コメントありがとうございます!最近は体力的に余裕が出てきて、試合をきっちりできるようになってきました(笑)
銀が泣いているというのは、使われずに終わるということですかね。
私たちは端からルークが動かずに試合が終わったりすると、それらを給料泥棒と読んだりします。
立ち往生していた坂田三吉の銀は馬と交換になり勝ったみたいです。汗 ハンガリーでのオフの楽しみ方は温泉でしょうか?
何だか今回の大会の結果報告をずっと読ませていただいて、こんな初心者の私でも、小島さんの成長を感じたような気がします。
まだまだ先があって、いくらでも上を目指せる、というのはとっても素晴らしいことですね!
最後の報告、楽しみにしています‼
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