2016/12/31

North American Open 2016 Day4


Bally's の14階からは、世界最大の観覧車、ハイローラーを見ることができます。

遅くなりましたが、ラスベガス4日目の記事です。私は1勝1ドローを3日間繰り返し、迎えた4日目でようやく格上のプレーヤーにヒットしました。Joshua Friedel はアメリカのGM で、5年前のNorth American Open にも参加していました。Friedel とのゲームはビショップvs. ナイトのエンドゲームで、劣勢の中で1つベストの手を逃がした後は、粘ったつもりでしたが敗れてしまいました。そして続く、Li Zhaozhi とのゲームも、奇しくもビショップvs. ナイトのエンドゲームとなります!

Li, Z (FM, JPN, 2313) - Kojima, S (IM, JPN, 2403)
North American Open 2016 (8)

1. d4 d5 2. c4 c6 3. Nf3 Nf6 4. Nc3 dxc4 5. a4 e6 6. e3 c5 7. Bxc4 Nc6 8. O-O cxd4 9. Nxd4 Bd7 10. Qe2 Qb8 11. Nxc6 Bxc6 12. e4 Bd6 13. f4 e5 14. f5 h6 15. Rd1 a6 16. Nd5 Bxd5 17. Bxd5 Bc5+ 18. Be3 Bxe3+ 19. Qxe3 O-O 20. Rac1 Rd8 21. Qb6 Rd7 22. Bb3 Qd8 23. Qxd8+ Raxd8 24. Rxd7 Rxd7 25. Rc8+ Kh7 26. Rf8 Nxe4 27. Rxf7 Rxf7 28. Bxf7 Nd6 29. Be6 g6



この試合はここから解説をスタートしようと思います。黒は序盤を乗り切り、ドローは確保できそうなエンドゲームに突入しました。この直後、白に大きなミスが出ます。

30. f6?


彼が何を勘違いしたのかは定かではありませんが、このポーンはすぐに落ちてしまいます。30. fxg6+ とポーンを交換すれば、ドローに落ち着くでしょう。

30... g5 31. Kf2 Kg6 32. f7 Nxf7 33. Ke3 Kf6 34. Bd5 Nd6 35. a5



もう1手余裕があれば、黒からa6-a5 と突き、ポーンを相手ビショップと逆の黒マスに固定できていました。b7,a6 のポーンを白マスに縛り付ける作戦はOKですが、それでも黒はeファイルのポーンを利用してチャンスを作ることができます。

35... Kf5 36. b4?


36. Bb3 h5 37. Bc2+ e4 38. Kd4 Kf4 39. g3+ Kg4 40. Bd1+ Kh3 41. Bxh5 Kxh2 42. g4 Kg3 43. Ke3-/+ とすれば黒の優位は揺るぎませんが、まだ白は粘ることができたでしょう。しかし、b7 からビショップの利きを自ら外す手は、指しづらいようにも思えます。

36... h5?



ここで私は、e5-e4 と押し込むベストのタイミングを見極めるため、少し手を待ってみようと考えました。ところがこれが大失敗で、eポーンを押し込むタイミングはここしかありませんでした。36... e4! 37. Kd4 h5!-+ これで黒は勝勢で、白キングはd4 に上がったもののここから何もできません。再びe3 に下がるようであれば、今度は黒からKf5-Ke5 として、ナイトのチェックからさらにキングを前進させることができます。

37. Kf2!=


驚いたことに、このように先に白キングに下がられてしまっただけでポジションはイコールになってしまいます。エンドゲームにおいて、キングを自ら下げる手は不自然にも思えますが、ナイトが回ってきた際に、チェックになることを外す狙いです。

37... e4 38. b5!



もちろん、b2-b4 とポーンを固定された直後にはこのアイディアを私も見つけていましたが、こうして適切なタイミングで仕掛け、ポーンを捌けばドローにできるということはとても勉強になりました。もしキングを下げる前にこの手を入れようとすると、37. b5? axb5! 38. Bxb7 Nxb7 39. a6 Nd6 40. a7 Nc4+ 41. Kd3 Nb6 で、ポーンを止められてしまいます。

38... Nxb5 39. Bxb7 Nc7 40. Ke3 Ke5 41. Bxe4 Nd5+ 42. Bxd5 Kxd5 43. h4


このポーンレースはもちろんドローです。試合中はうまく指されたと思っていましたが、キングに引かれる前にe5-e4 と押し込めば勝ちであったことに気付いてがっくりです。

43... gxh4 44. Kf4 Kc5 45. Kg5 Kb5 46. Kxh4 Kxa5 47. Kxh5 Kb6 48. g4 a5 49. g5 a4 50. g6 a3 51. g7 a2 52. g8=Q a1=Q 53. Qb8+ Kc6 54. Qc8+ Kb6 55. Qb8+ Kc6 1/2-1/2



まさか同じ日に黒を連続で引き、しかも同じオープンニング、さらにはビショップvs. ナイトのエンドゲームになるとは思ってもみませんでした。ビショップを持った際にはドローのチャンスを逃し、ビショップを持たれた際にはその利を活かされてしまうという結果でした。それでも、こうしたマイナーピースエンディングはなかなか機会に恵まれませんので、勉強になりました。

Kojima, S (IM, JPN, 2403) - Feng, M (WCM, USA, 2120) 1-0
Kumar, N (FM, USA, 2251) - Kojima, S (IM, JPN, 2403) 1/2-1/2
Kojima, S (IM, JPN, 2403) - Zhang, P (CHN, 2278) 1/2-1/2
Mousseri, D (FM, USA, 2161) - Kojima, S (IM, JPN, 2403) 0-1
Chen, P (CHN, 2297) - Kojima, S (IM, JPN, 2403) 1/2-1/2
Kojima, S (IM, JPN, 2403) - Zhu, J Q (USA, 2288) 1-0
Friedel, J (GM, USA, 2510) - Kojima, S (IM, JPN, 2403) 1-0
Li, Z (FM, JPN, 2313) - Kojima, S (IM, JPN, 2403) 1/2-1/2


そしてこの日はオープンよりも1日日程の短かった、U2300 以下のクラスが4日間で7R の日程を全て終えました。U1900 に参加していたなつみは、連勝連敗の後、後半を3連勝で締めて5/7 となり、150人中17位と健闘しました。マン島に続き、賞金獲得まではあと一歩でしたが、それでも十分に素晴らしい戦績だったと思います。


この日の夕飯は東野さんの勧めで、ヴェネチアンのレストラン、Bouchon にお邪魔してステーキをいただきました。


ホテルに戻ると、日付も変わっているというのにブリッツ大会の真っ最中でした! アメリカのトーナメントは、本当にタフです。

2016/12/29

North American Open 2016 Day3


朝食はBally's ロビー階のカフェ、Nosh でいつも食べています。チェックインの際にもらった朝食券で1人$9分の食事を頼むことができ、オーバーした場合は超えた分を現金で払えばオッケーです。ここまでの朝食メニューは、ベーグル、クロワッサン、ホットドッグと続いています。

ラスベガスも3日目を迎え、折り返しと後半戦を迎えます。私は2日目同様、午前のラウンドは中国のプレーヤーとドロー。午後のラウンドでまたもやアメリカのジュニアと対戦します。上位に挑むためには、ここを勝って3つ勝ち越しにするしかありません。

Kojima, S (IM, JPN, 2403) - Zhu, J Q (USA, 2288)
North American Open 2016(6)

1. Nf3 d5 2. d4 Nf6 3. c4 dxc4 4. e3 Bg4!?



以前にも指されたことがありますが、何が白のベストかわかりづらいQDA の一変化です。

5. Bxc4 e6 6. O-O Nbd7 7. Nc3 Bd6 8. h3 Bh5 9. Be2 c5 10. Nb5!?


何かしら仕掛けてみようと早めに動きます。c3 のナイトをd4 に切り替え、何かしらのチャンスを待つことにします。

10... Be7 11. dxc5 O-O 12. b3 a6 13. Nbd4 Bxc5 14. Bb2 Qe7 15. Rc1 Rfd8 16. Ne1



ここはどうするか迷いましたが、白マスビショップの交換を狙い、クイーンを危険なdファイルから逃がすことを優先します。

16... Bg6 17. Bd3 Ba3 18. Qc2 e5!?


ビショップをg6 で交換する前にe6-e5 と仕掛けることは、f5 にマスを作るので危険だと考えていました。実際にはf5 のナイトは負担にもなるため、ここは難しい判断です。

19. Nf5 Qf8 20. Bxa3 Qxa3 21. Nf3!



一度へ退いたナイトを戻し、ルークをつなげることに成功します。2つのナイトがアクティブなマスに到達できれば、白は少し苦しかった序盤を乗り切り、流れをつかむことができるでしょう。

21... Re8 22. Nd2 Nb6 23. Ne4 Nbd5?!


検討戦で私は、同じNd5-Nb4 を狙うにしても、23... Nfd5 のほうが良いだろうと指摘しました。彼はb6 のナイトがプレーに使えていないことを気にしたようですが、f6 でナイトを交換をしてポーンストラクチャーを乱してしまうことのほうが問題です。

24. Rfd1! Nb4?



ここはこのナイトの跳び込みを誘いました。d3 のビショップを失うと、白は厳しいようにも見えますが、きちんと対応を考えてあります。代わりに24... Bxf5 25. Nxf6+ Nxf6 26. Bxf5 g6 27. Be4 Nxe4 28. Qxe4 Qxa2 29. Qxb7= と進めば、ドローにしかならなかったでしょう。

25. Nxf6+ gxf6 26. Qc5!


クイーンがこのマスに逃げるのがポイントで、黒はb4 のナイトがピンのためにビショップを取ることができません。黒はピンを外そうとしますが、f5 に刺さったナイトがここで力を発揮します。

26... b6 27. Qd6 e4??



期待した通りの悪手を相手は指してきました。一見するとこれでf5 のナイトの守りが消え、白はピースを失ってしまうようにも思えます。ところがこれは白の罠で、黒は一気に望みのないポジションに陥ってしまいます。正しくは、27... Re6 28. Qd7 Nxd3 29. Qxd3 Qxa2 (29... Bxf5 30. Qxf5 b5 31. Qg4+ Kh8 32. Rc7 Re7 33. Rc8+ Re8 34. Rxa8 Rxa8 35. Qf3+-) 30. Ra1 Qb2 31. Rxa6 Rf8 32. Rb1+/- と指すべきでしたが、これでも白の優位は揺るぎありません。

28. Bxe4!


ここは28. Qxf6!? Bxf5 29. Rc7 Bg6 30. Bc4 Rf8 31. Rdd7+- という変化もあったようですが、本譜のほうが分かりやすいでしょう。

28... Rxe4 29. Qxf6 Bxf5 30. Qxf5+-



こうしてみると黒はピースアップですが、キングが危ないうえにナイトとクイーンがプレーに参加できません。ここからキングとルークを守り切ることは不可能です。

30... Re7


30... Rae8 31. Rc7 R4e7 32. Rxe7 Rxe7 33. Rd8+ Kg7 34. Qg5#

31. Rc4 Re6 32. Rd7 1-0



最後は32... Rf8 33. Rc8!+= でf7 の受けがなく、白の勝ちとなります。少し苦しい序盤を乗り切り、大きな白星を掴むことができました!

Kojima, S (IM, JPN, 2403) - Feng, M (WCM, USA, 2120) 1-0
Kumar, N (FM, USA, 2251) - Kojima, S (IM, JPN, 2403) 1/2-1/2
Kojima, S (IM, JPN, 2403) - Zhang, P (CHN, 2278) 1/2-1/2
Mousseri, D (FM, USA, 2161) - Kojima, S (IM, JPN, 2403) 0-1
Chen, P (CHN, 2297) - Kojima, S (IM, JPN, 2403) 1/2-1/2
Kojima, S (IM, JPN, 2403) - Zhu, J Q (USA, 2288) 1-0

ここまでの試合結果はこのようになっています。残りの3試合、悔いのないようにしっかりと指して上位を狙えればと思います!

2016/12/28

North American Open 2016 Day2


ラスベガス2日目のレポートです。この日は朝、時差ぼけの影響でふらふらしていましたが、午前中の3R は中国のZhang Xiaopeng とドロー。遅い昼食を探して3時台に隣のホテル、ベラージオへと向かいます。5年前はカジノを少し覗くだけだったベラージオですが、奥へ奥へと進むとその巨大さが分かります。ロビー隣の特設スペースでは、大きなツリーを中心に北極をモデルにした空間が作られており、多くの観光客を楽しませていました。ベラージオのクリスマスは、年末まで続くようです。

さて、4R の相手はまたもやアメリカのジュニア、Mousseri Daniel Youseff となりました。17歳の彼はまだ2100台ですが、11月にはGM Yemolinsky に勝っており、油断のできない相手です。


Mousseri, D (FM, USA, 2161) - Kojima, S (IM, JPN, 2403)
North American Open 2016 (4)

1. e4 c6 2. d4 d5 3. Nc3 dxe4 4. Nxe4 Bf5 5. Ng3 Bg6 6. Nf3 Nd7 7. h4 h6 8. h5 Bh7 9. Bd3 Bxd3 10. Qxd3 e6 11. Bd2 Ngf6 12. O-O-O Be7 13. Qe2 Qb6 14. Ne5 Rd8 15. Rhe1 O-O 16. Ng6 Rfe8 17. Nxe7+ Rxe7 18. Nf5 Ree8 19. Nd6 Rf8



5年前に見つけて何回か指しているラインです。黒は黒マスビショップを失いますが、c6-c5 の用意ができており、大きな問題なく指せるでしょう。

20. Bf4 c5 21. Nc4 Qa6 22. Bd6?


22. Kb1 cxd4 23. Rxd4 Nb6= ならば、黒満足だと試合中は読んでいました。

22... Rfe8?!



22... Nb6! 23. Nxb6 (23. Bxf8 Nxc4 24. Bxc5 Qxa2 25. c3 Qa1+ 26. Kc2 Qxb2+ 27. Kd3 Qb5-+ こうして黒は一時的にエクスチェンジを捨てても、後で取り返して勝勢でした。) 23... Qxe2 24. Rxe2 Rxd6 25. Nc4 Rxd4 26. Rxd4 cxd4 27. Re5 Rd8-/+ こちらもポーンをタダで取り、黒が大きく優勢です。

23. dxc5 Qxa2 24. Na3 Qa1+ 25. Nb1 Qa5 26. Qc4 Nd5 27. Re4 Rc8!


ここはb2-b4 からc5 を守らせて勝負です。駒得にはなりませんが、白の乱れたクイーンサイドのポーンを利用するチャンスはあるだろうと判断しました。

28. b4 Qd8 29. Nc3 N7f6 30. Red4 b6 31. Nxd5 Nxd5 32. Qa6 Qg5+



ここでようやく駒得を狙いにいきます。d8 にクイーンを退いたのは、このようなチェックから白のキングサイドのポーンを取りにいくためでした。

33. Kb2 Qxg2 34. Qe2 Qh3 35. R1d3 Qf5 36. Rg3 Kh8 37. Rdg4 Rg8 38. Qe5 Qxe5+


ここは安全にクイーンを交換し、1ポーンアップで黒が有利だと思っていました。しかし、コンピュータの判断は違います。38... bxc5! 39. Rxg7 Qxe5+ 40. Bxe5 Rxg7! 41. Bxg7+ Kh7=/+ こうしてg7 を捨ててもポーンを取りあって白優勢と評価します。これは少し怪しいため、本譜でも良いと思っていましたが、進めてみるとさほど黒が良いわけではないことが分かります。

39. Bxe5 f6 40. Bd6 bxc5 41. Bxc5?



これが、勝負を決める悪手でした。ビショップで取り返す手は自然に見えますが、黒にa7-a5 を許し、黒の弱点をすべて消してしまうことになります。ダブルポーンをキープする41. bxc5! が正解で、これならば黒にa7 のポーンが残るため、これをルークでアタックするチャンスが残ります。

41... a5! 42. c4?!


42. c3 も苦しいですが、これは黒が勝ちのエンドゲームに突入でき、楽になったと感じました。

42... axb4 43. cxd5 Rxc5 44. dxe6 Rxh5 45. f4 f5!



最後はどのようにe6 のポーンを回収するかですが、白からのf4-f5 をストップし、f4 をターゲットにするのが最も簡単でしょう。

46. Rg6 Rh4 47. e7 Rh2+!


47... Rxf4?? 48. Rxg7!+- と進もうものなら、黒は大変です。これだけ気を付けて、eポーンを回収すれば、完全に黒勝ちのエンドゲームです。

48. Kb3 Re2 49. Kxb4 Rxe7 50. Kc5 Kh7 51. Kd6 Re4 52. Rg1 Rxf4 53. Ke6 Rg4 54. R6xg4 fxg4 55. Rxg4 Rf8 56. Ke5 g5 57. Ke4 Kg6 58. Ke3 h5 0-1



私はこれで2勝2ドロー。まだまだ上位勢に食い込むチャンスを残しています。ハードなスケジュールではありますが、明日も頑張ってこようと思います!


夕飯はハワイから参加しているポールとその友人も加わり、6人でバリーズ内のメキシカンレストランにいきました。

2016/12/27

North American Open 2016 Day1


今日からラスベガスで、North American Open がスタートしました。今日はOpen セクションが2試合、それ以外のセクションが1試合行われています。私は初戦、インディアナ州のK9 チャンピオン、WCM Feng Maggie と対戦し、辛くも勝利。2R ではまだ記憶に新しいCadets U12 の優勝者、Kumar Nikhil と対戦してドローでした。アメリカはジュニアがとても強く、上位ボードでもGM が敗れるアップセットが出ています。

Kumar, N (FM, USA, 2251) - Kojima, S (IM, JPN, 2403)
North American Open 2016 (2)

1. d4 d5 2. c4 c6 3. Nf3 Nf6 4. e3 g6 5. Nc3 Bg7 6. Bd3 O-O 7. O-O Bg4 8. h3 Bxf3 9. Qxf3 e6



マン島のSuniduth Lyna との試合では、9... dxc4 を試して敗れたため、かつて使っていたメインラインに戻します。いずれにせよ黒は少し押され気味ではありますが、ナイトのマヌーバリングで白のダブルビショップに対抗します。

10. b3 Nbd7 11. Bb2 Re8 12. Rad1 a6 13. g4!?


2013年にGM Barbosa Oliver と対戦した際も、こうしたキングサイドからのアタックでつぶされてしまいましたが、このタイミングはさすがに早く、黒は色々と対策ができそうに見えます。

13... Qc7 14. Be2 h5



ここは少し考え、g4-g5 の押し込みを許しても良いと判断しましたが、よりシンプルなのは14... b5! 15. g5 b4 16. gxf6 bxc3 17. fxg7 cxb2= と進める変化で、これならば黒は全く問題のないポジションになるでしょう。a7-a6 をやっておきながら、bポーンを伸ばすことは全く頭にありませんでした。

15. Qg2 hxg4 16. hxg4 Rad8 17. g5 Nh7 18. f4 Nb6!


g4-g5 からスペースを取られると多少苦しいようにも見えますが、ナイトとビショップがh7, h8 を守っている以上、開いたhファイルからのアタックを過剰に恐れる必要はないでしょう。そこでナイトを手数をかけても、f5 の好位置に切り替えます。このようなマヌーバリングは、Kamsky のゲームから学びました。

19. c5 Nc8 20. Qg4 Ne7 21. Bd3 Nf5 22. Kf2 Nf8



白の黒マスビショップの働きが悪いことを踏まえれば、黒はf5 に刺した絶好のナイトでバランスを取れているように思えます。続いてもう1つのナイトをプレーに戻します。ポイントはd7 に戻った時点で、Nd7-Nxc5 がスレットになることです。

23. Ne2 Nd7 24. Bc3 Kf8!


白がhファイルからの突入を見せる前に、キングをセンターに脱出させておきます。hファイル以外は開いていないことを考えれば、hファイルでヘビーピースをすべて交換してしまえば、黒に危険はないでしょう。

25. Rh1 Ke7 26. Rh7 Rh8 27. Rdh1 Rxh7 28. Rxh7 Rh8 29. Qh3 Qd8 30. Ng1 Rxh7



ここは一瞬相手がミスをしたのかと思いましたが、30... Nxc5?? 31. Bb4!+- はナイトがただ落ちですので、当然だめです。そのため、予定通りにヘビーピースを交換しておきます。

31. Qxh7 Qh8 32. Qxh8 Bxh8


ここで私からドローオファーをします。一度は蹴られますが、ポジションを改善する方法はなく、すぐにドローとなりました。

33. Nf3 Bg7 34. Ne5 Nxe5 35. fxe5 Kd7 36. Kf3 Bf8 37. Kf4 Be7 38. Be1 Bd8 39. Bc3 Bc7 40. b4 Bd8 41. Bd2 Bc7 42. Bc3 Bd8 43. Bd2 Bc7 1/2-1/2



試合が終わってから、彼のことを調べてびっくり。Cadets U12 では、U12 世界ランキング1位、世界最年少IM の記録を持つPraggnanandhaa を破り、優勝を果たした少年でした。今月もレイティングを130以上上げるようで、その更新がすんでから当たりたかったですね(笑)


会場隣の部屋のチェスショップには、チェスの書籍がずらり。他にもDVD やチェスセットも販売されています。


アメリカの大会でおなじみなのは、モンロイと呼ばれる小型の機械でプレーヤーが棋譜を取り、それをライブで中継するシステムです。ライブを見るためには、アカウントが必要なようですね。

2016/12/26

North American Open 2016 Arrival


12/25 は私たちにとって、とても長い1日でした。ラスベガスで毎年クリスマス後に開催される、North American Open に参加するため、25日の朝に羽田を発ち、韓国経由でラスベガスに向かいます。韓国ではまず、ソウル市街に近い金浦空港に着き、そこから時間があるため市内に出てから、夜に仁川空港に向かう予定でした。金浦空港から明洞にあるロッテ百貨店までは、バスで1人7000ウォン(700円)ほどです。


13時半頃にはロッテ百貨店に到着します。ここに来た目的は、トランクを預けて自由に動き回れるようにすることでした。しかし、クリスマスの混雑が予想以上だったか、荷物預かり所ではトランクを受け入れてもらえませんでした。(事前に調べでは、買い物客の荷物だけでなく、旅行者のトランクも預かるとのことでした。) コインロッカーも全滅だったため、荷物を預けて明洞を観光するプランは断念し、早めに仁川空港へと向かいます。


仁川空港に早めに来て正解だったのは、地下1階にある焼肉店、ボンピヤンによることができたことです。ここでは豚の三枚肉の焼肉、サムギョプサルと迷いましたが、韓国風すき焼き、プルコギをチョイスしました。日本の韓国料理店では、調理場で調理済みのプルコギが出てくることが多いため、目の前で店員さんが調理してくれるのを見るのは、これが初めてです。生の牛肉を目の前で焼き、手頃な大きさに切ってから、鍋の隅のスープに落として煮込みます。これを食べることができただけでも、韓国経由にして正解だったと思いました!


食後は少し時間があったため、仁川空港の中を見ていましたが、なんと自動チェス指しマシーンを発見! 将棋の世界でも、数年前にデンソーが開発した将棋指しロボットアーム、電王手くんが話題になりましたが、今回見つけたものもそれに近く、駒の移動や盤外への除外もスムーズでした。チェスのほうが駒を裏返す動作がない分、将棋よりもロボットの動作、開発は簡単だと聞いたことがあります。


そして仁川を発ってから11時間ほどで、ラスベガスに到着します。ラスベガスの空港からはタクシーで、今回の試合会場兼宿泊先であるBally's へと移動。ここで別ルートでラスベガスに向かっていた、東野さん、青嶋くんと合流します。2人はそれぞれ、U2300 とOpen に参加することになります。試合のスケジュールは以下の通りです。

12/26(Mon) 11:00 Open R1
18:00 Open R2, U2300, 1900 R1
12/27(Tue) 11:00 Open R3, U2300, 1900 R2
18:00 Open R4, U2300, 1900 R3
12/28(Wed) 11:00 Open R5, U2300, 1900 R4
18:00 Open R6, U2300, 1900 R5
12/29(Thu) 10:00 Open R7, U2300, 1900 R6
16:30 Open R8, U2300, 1900 R7
12/30(Fri) 10:00 Open R9

U2300 以下のセクションは7R ですので、オープンよりもラウンド数が少なく、このようなスケジュールになっています。私と青嶋くんは明日の11時から試合がスタート、日本との時差は17時間ですので、日本時間の午前4時からとなります。皆さん、応援よろしくお願い致します。


日本から参加する4人が揃ってから、買い物と夕飯を目的に外出することにします。着いた直後はさほど感じませんでしたが、夜になると砂漠地帯のラスベガスはかなり冷え込んできます。それでも、クリスマスのラスベガスの大通りは、多くの観光客でにぎわいを見せていました。

2016/12/17

London Chess Classic 2016 Vol.2

Classic セクションが終了する前に、参加資格なしのOpen セクションが終了しました。9R を終えて単独優勝を果たしたのは、フランスのトップGM Bacrot です。8R でトップを走っていた、インドのAravindh を下しての逆転優勝でした。ゲームの紹介は、7R のBogner 戦にします。

Bacrot, E (GM, FRA, 2689) - Bogner, S (GM, SUI, 2564)
London Chess Classic FIDE Open (7)

1. e4 e5 2. Nf3 Nf6 3. Nxe5 d6 4. Nf3 Nxe4 5. d4 d5 6. Bd3 Bd6 7. c4 c6 8. O-O O-O 9. Nc3 Nxc3 10. bxc3 dxc4 11. Bxc4 Bf5 12. Re1



Petrov Defence に対してどのラインで勝ちを目指すかは、1. e4 プレーヤーの悩みどころです。私も3. d4 のModern Variarion や、5. Nc3 も試してきましたが、Bacrot はメインラインで勝負します。10手目のナイト交換により、ポーンストラクチャーを非対称になり、互いに主張するポイントができました。

12... Nd7 13. Bg5 Qa5 14. Qd2 Nb6 15. Bb3 Nd5 16. Bxd5!?


Bacrot はビショップナイトの交換をしても、eファイルを抑えることで主導権を握ろうとします。

16... cxd5 17. Be7! Bxe7 18. Rxe7 b6 19. Rae1 Rac8 20. Nh4!



ここからの攻防がこのゲームの一番面白いポイントです。白はc3 のポーンが弱点になっていますが、それを守らずにナイトで仕掛けます。黒はビショップをどこに逃がすか迷うところでしょう。

20... Be4


20... Be6 21. R1xe6! fxe6 22. Qg5 Rf7 23. Nf5! exf5 24. Rxf7 Kxf7 25. Qxf5+ Ke7 26. Qxc8 と進めば、白に少しアドバンテージがあるでしょう。

21. f3 Qa3 22. Re5 f6 23. Rh5 g6 24. fxe4!



Bacrot は勝負をかけ、エクスチェンジサクリファイスを決行します。fファイルが開き、f5 にナイトの侵入を許すようであれば、黒キングは非常に危なくなるでしょう。

24... gxh5 25. Re3!


c3 を守りつつ、3段目を移動して黒キングを狙うルークは非常に強力です。

25... dxe4?



25... Kh8! 26. exd5 でも白は十分にエクスチェンジを捨てた代償がありそうですが、黒キングへの決定的なアタックはすぐにありません。

26. Rg3+ Kf7 27. Nf5 Ke8 28. c4!


3段目を開き、クイーンをアタックすることで、黒クイーンをa3-f8 のダイアゴナルから外し、Nf5-Nd6 を実現し、黒キングを攻撃します。

28... Qa5 29. Nd6+ Kd7 30. Rg7+ Kc6 31. Qe3 Rce8 32. Nb5 1-0



白がRg7-Rc7 のメイトスレットを作れば、黒はどうすることもできません。鮮やかな勝利でした。

そして、Bacrot と並んで7.5/9 でフィニッシュとなったのは、同じくフランスのGM Maze です。彼は3,4R で2400台にドロー、負けとなり、この大会は完全に沈んだものと思っていましたが、そこから驚異の5連勝で上位まで戻ってきました。フランスGM の1,2 フィニッシュでOpen セクションは幕を閉じ、現在はGM からUR までが入り混じる、Super RapidPlay がスタートしています。参加者には是非最後まで、このロンドンのイベントを楽しんでもらいたいですね。

2016/12/16

Yu Yangyi Wins 1st Hainan International Open

最近注目のトーナメントが1つ終わりました。中国の海南島で開催されていたHainan International Open は、リストトップのYu Yangyi が8/9 という驚異的なスコアで優勝です! 2年前にQatar Masters で優勝した際は、意外なプレーヤーが勝ったという印象でしたが、現在はどこのオープン大会で優勝してもおかしくないほど、Yu Yangyi は実力を伸ばしましたね。中国の代表メンバーとして、すでに欠かすことはできない存在だと思います。

Yu Y (GM, CHN, 2729) - Tan, Z (WGM, CHN, 2496)
1st Hainan International Open (5)

1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bb5 Nf6 4. d3 Bc5 5. c3 O-O 6. O-O d6 7. Nbd2 Bb6 8. Bxc6!?



オリンピアードで南條くんも指していましたが、Ruy Lopez Berlin 4. d3 の変化は、白がどのような作戦を選ぶか迷うところだと思います。Yu Yangyi はここでダブルビショップを放棄して、黒のポーンストラクチャーを乱す作戦に出ます。

8... bxc6 9. h3 Ba6 10. c4 Bb7 11. Qc2 a5 12. c5!?


少し早いかもしれませんが、白から仕掛け、駒交換を進めます。

12... Bxc5 13. Nxe5 dxe5 14. Qxc5 Qxd3 15. Qxe5 Rfe8 16. Qxc7 Ba6 17. Re1 Nd5 18. Qxa5 Bb5 19. Qxa8!?



白はクイーンを捨て、ポジションを複雑にします! 駒数はやや足りていないようにも見えますが、ここから白は2つのルークが連結し、力を発揮することになります。

19... Rxa8 20. exd5 Qxd5 21. Nb1!


ナイトは初期位置から好位置のc3 に切り替えて、ビショップを出す準備も同時に整えます。

21.. Qd3 22. a4 h6 23. Nc3 Bc4 24. a5 Qc2 25. Ra3 Ba6 26. Ne4 Rd8 27. Rc3 Qa4 28. Bd2 f5 29. Nc5 Qxa5 30. Rd3 Qb6 31. Nd7 Qxb2 32. Rd6 Kh8 33. Re7
Bc8?! 34. Nf6!



Tan Zhongyi はこのディスカバードアタックを軽視していたのでしょう。白のピースは見事に6、7段目で働き、黒キングにプレッシャーをかけています。

34... Rf8?


34... Qb1+ 35. Kh2 Qb8 36. Bf4! Qxd6 37. Bxd6 gxf6 38. Bf4+/= が黒の生きる道でした。それでも白はポーンダウンながら、黒の形の悪さをついて優位に試合を進められるでしょう。

35. Nh5 Ba6 36. Rxg7 1-0



g7、f7 が落ちてしまえば、勝負ありです。クイーンを捨てた時点の形勢は難しいですが、それを力でねじ伏せたゲームでした。

今大会は、中国では珍しいオープントーナメントでした。実を言えば、私も11月の終わりの時点で招待を受けていたのですが、何分スケジュールが急で参加は断念せざるをえませんでした。来年、第2回大会が開催されるようであれば、参加を検討してみたいですね。ハンガリーでもIM ノームを争っていた、Xu Yi やLiu Guanchu とも、再会&再戦できることを楽しみにしています。

海南島の試合が終わり、チェックしているのはロンドン、オーストラリアぐらいでしょうか。ラスベガスの大会が始まるまでは、日本国内から海外の面白い大会をチェックし続けたいと思います。

2016/12/10

London Chess Classic 2016 Vol.1


4年前のLondon Chess Classic の顔ぶれ

世界選手権が終わってつかの間、また面白い大会がスタートしました。現在、結果とゲームを追っているのは、昨日スタートしたばかりのLondon Chess Classic です。この大会は招待された世界のトッププレーヤーが集まるClassic セクションと、誰でも参加できるOpen セクション、そしてレイティングや日程で区分されたいくつかのセクションに分けられています。自分のレベルやスケジュールに合わせて、誰もが参加しやすく、ヨーロッパではもはや毎年12月の定番トーナメントと言えるでしょう。私も4年前、森内さん、高橋さんらと参加したことを懐かしく思い出します。

今年のClassic のメンバーは、オリンピアード優勝のアメリカトップ3、Caruana、So、Nakamura に、Anand、Kramnik ら10人という豪華な顔ぶれです。この大会が始まった当初は、海外のトップGM をイングランドのトップGM 数人が迎え撃つという構図でしたが、今年はイングランドからはAdams しか参加しておらず、その点に関しては少し寂しいですね。それでも昨日の初戦から3試合で決着がつき、大会は大きな盛り上がりを見せています。

Nakamura, H (GM, USA, 2779) - So, W (GM, USA, 2794)
London Chess Classic 2016 (1)

1. d4 Nf6 2. c4 g6 3. Nc3 d5 4. cxd5 Nxd5 5. e4 Nxc3 6. bxc3 Bg7 7. Be3 c5 8. Rc1 O-O 9. Qd2 e5 10. d5 Nd7 11. c4 f5 12. Bg5 Nf6 13. Ne2? Nxe4!



驚いたことに、Hikaru から序盤に飛び出したこのブランダーで、ゲームは一気に黒に傾きました。トップレベルの試合でこうした序盤のブランダーは、かなり珍しいと思います。

14. Bxd8 Nxd2 15. Be7 Rf7 16. Bxc5 Nxf1 17. Rxf1 b6


こうしてクイーンを交換した黒は、c5 でポーンを返しても、その後でc4 を取り返すことで、再び駒得を得て優位に立ちます。白はf1 でビショップナイト交換を許しており、ダブルビショップを失っていることも痛手となります。

18. Bb4 Ba6 19. f4 Rc8 20. fxe5 Bxe5 21. Rf3 Bxc4-+



こうしてc4 を落としてしまえば、d5 も弱く白陣はボロボロです。すでに勝負は決したと言えるでしょう。

22. Re3 Bg7 23. Nf4 Rd7 24. a4 Bh6 25. g3 Bxf4 26. gxf4 Rxd5 27. Re7 Rd4 28. Bd2 Kf8 29. Bb4 Re8 0-1


マン島では、この2人は同じ色で試合をし、簡単にドローにしていましたが、今回はこのように決着がつきました。10人のラウンドロビンはまだまだ先が長いので、Hikaru はここから挽回できると良いですね。ちなみに私はKramnik を応援しているので、明日以降で彼のゲームや、他のセクションで気になったゲームの紹介もできればと思います。

London Chess Classic R2 Live Games


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