2015/09/29

The Highest Level Training in Japan on 28th September


昨日は羽生さんと、今月2回目となるトレーニングを行ってきました。IVL での試合でもそうだったように、時間切迫は私の天敵です。黒番でのゲームを紹介しておきます。

Habu, Y (FM, JPN, 2398) - Kojima, S (IM, JPN, 2400)
Training

1. d4 d5 2. c4 c6 3. Nf3 Nf6 4. Nc3 dxc4 5. a4 Bf5 6. Nh4!?



羽生さんはサイドラインも詳しいですが、この手は私がClassical Slav を指してきて、1回も経験したことがありませんでした。Play the Slav には、6... Bg4 のラインが載っていますが、この日は違った変化を試すことにします。

6... Bc8!? 7. e3 e6!?


試合後、羽生さんからは7... e5 8. Bxc4 exd4 9. exd4 9... Qe7+!? と指す変化があることを教えてもらいました。白のc,eポーンと黒のd,eポーンを交換してIQP にするポーンストラクチャ-は、基本的に黒が満足なことが多いでしょう。

8. Bxc4 c5 9. Nf3 cxd4 10. exd4 Nc6 11. O-O Be7 12. Qe2 O-O 13. Rd1 Nb4 14. Ne5 Bd7 15. a5!?



私がかつて愛用していた、5... Bf5 の代わりに5... e6 と突くラインに手順前後します。このポジションでは、15. d5 と指されてドローになった経験がありますが、白でポジションを単純化せず、勝負にいくのであれば、羽生さんの選んだ15. a5!? は良い手だと思います。黒からのa7-a5 を防ぎつつ、a5-a6 と白から突く狙いも持っています。

15... Be8!? 16. Bg5 Nfd5 17. Bxe7 Qxe7 18. Ne4 Rd8 19. Ra3 a6


6年前に似たポジションで、アイルランドのGM Baburin には、f7-f6 と突いてはどうかと指摘されました。私はe6 のポーンを自ら弱めるのが信じられませんでしたが、e5 とg5 を抑えてしまうほうが重要であるのは、このポジションでも当てはまりそうです。19... f6! 20. Nd3 Nc6! ならば、黒はe6 を狙われる前に、d4 を先にアタックできそうです。本譜ではNb4-Nc6 と退いておきながら、f7-f6 とミックスするアイディアが出てきませんでした。

20. Rg3 Nc6 21. Nxc6 Bxc6 22. Qh5 Nf4



将来的なNe4-Ng5-Nxf7 のアイディアが見え、これが正しいディフェンスなのか自信が持てませんでした。f2 へのカウンターで、黒は大丈夫なはずだと自分に言い聞かせながら決断しますが、ここで時間を使いすぎたのが後々響きました。

23. Qg4 Ng6 24. Ng5 Bd5!


この手を入れなければ、f7 が崩された後でe6 がターゲットになってしまいます。

25. Bd3 Qf6 26. Qh5 h6 27. Nxf7 Rxf7 28. Rxg6?



私は羽生さんがかなり迷った挙句、ルークで取ったことに驚きました。黒キングへのプレッシャーを考えれば、クイーンで取るほうが自然でしょう。28. Qxg6 Qxf2+ 29. Kh1 Kf8 こうなれば互いにキングが危険な状態で、形勢不明でしょう。

28... Qxf2+ 29. Kh1 Rdf8?!


私はfファイルからの攻撃を強めるのが自然だと思いましたが、d4 が孤立している以上、それを狙えるd8 の位置はルークにとって悪くないはずです。さらにはバックランクの弱さを利用し、ここではタクティクスがありました。29... Be4! (これはg6 をクイーン取られた際に考えていたアイディアでしたが、なぜかルークになった瞬間に頭から消えてしまっていました。) 30. Rxg7+ (白はf1 のマスからビショップがそらされてしまっては、バックランクメイトで即負けなので、こうするほかありません。) 30... Kxg7 31. Qg4+ Kf8 32. Qxe4 Rxd4 33. Qxe6 Rxd3 34. Qxh6+ Rg7 35. Qh8+ Kf7 36. Qh5+ Ke6 37. Qe8+ Kf6 38. Qf8+ Kg6-+


Analysis Diagram

こうしてキングが逃げ切り、パペチュアルチェックもなくなれば黒の勝ちでしょう。

30. h3 Qe3 31. Rg4 Rf6 32. Kh2 Qf2??



試合後に羽生さんからは、32... Bb3 で黒勝ちでしょうと指摘されてびっくり。最も前のポジションでは、Bd5-Bb3 を考えていたはずでしたが、ここにきてg2 へ向かうダイアゴナルしか見えていませんでした。本譜の手は駄目なことが分かっていましたが、時間が落ちる寸前で何を指して良いか分からず、つい手が動いてしまいました。

33. Rf1 Qe3 34. Rxf6 Rxf6 35. Qe8+ Rf8 36. Rxg7+ 1-0


最後は綺麗にメイトになりました。1手のチャンスを見逃して負けるのは悔しいですが、やはり羽生さんとのトレーニングはとても勉強になります。また10月も、互いの予定が合えば、こうしたトレーニングの機会を設けたいですね。羽生さん、9月もお世話になりました。

2015/09/25

Dato Arthur Than Malaysian Open 2015


4年前のMalaysian Open

現在、マレーシアの首都クアラルンプールは、毎年この時期恒例の、Malaysian Open が開催されています。私もかつては、2006年から6年連続で参加していましたが、ハンガリー留学を始めてからは足が遠のき、ここ4年は参加を見送っています。今年は日本からは、野口さん、山田くん、篠田くんの3人が参加し、ここまで前半5試合を消化しました。今日はレストデイでリフレッシュできたと思いますので、明日から始まる後半戦、頑張ってほしいですね。

ところで、今回のMalaysian Open には、私もかつて対戦した懐かしい名前が並んでいます。オーストラリアからは、惇多くんやMax、Anton といった、これからのオーストラリアを担う若い代表たちが、そしてインドネシアからも、IM タイトルを獲得したSean を始め、若い強豪たちが参加しているようです。今年はGM の参加が少ないので、後半戦の結果次第では上位、あるいは優勝もあり得るでしょう。実際、ここまではオーストラリアの天才児、14歳のAnton Smirnov がトップにつけています! 今年のマレーシアも、最後まで結果を楽しみに追っていこうと思います。

Dato Arthur Than Malaysian Open 2015 Results

2015/09/23

Weekly Chess Puzzle Vol.13


Kojima, S (IM, JPN, 2456) - Suzuki, M (JPN, 1930)
Club Championship 2015(2) Analysis
White to move

今回は先日指したばかりのクラブ選手権のゲームから、タクティクス一つだけの出題とします。実際の試合では、21... cxd4 の代わりに21... Bxe4 だったため、白はセンターポーンの厚みで押して勝ちましたが、図のようになっていた場合、白はどう指せば良いでしょうか。コメント欄への回答、お待ちしています。

2015/09/22

Club Championship 2015 Day2 Tournament Report


今年の入賞は、麻布OB-A、麻布OB-B、千葉の3チームでした。Photo by Yumiko Hiebert

クラブ選手権2日目、私は4Rで馬場さんとの大事な対戦に敗れ、チームの黒星を決めてしまいました。麻布OB-A との直接対決では、チームメイト3人がいずれも各上のプレーヤーからドローを取ってくれただけに、チームメイトに申し訳ないです。私の馬場さんとの試合は、馬場さんのブログ、Behind the Scene に解説がすでに出ていますので、ここでは割愛しようと思います。

馬場さんとの敗戦のショックからかは分かりませんが、続く2試合でもポイントを落とし、今年の国内大会では初めて勝ち越すことができませんでした。6R で対戦した、麻布チームの大将、部長になったばかりの吉田くんとのゲームのポジションを少し紹介しておきます。


Kojima, S (IM, JPN, 2456) - Yoshida, H (JPN, 1348)
Club Championship 2015 (6)
Position After 19...Ne4

序盤で大きく駒得した白ですが、ちょっとした勘違いから1ポーンアップまで押し返されてしまいました。ここでc5 を狙われ、どうするかですが...

20. Qd4?!


私はc5 のポーンを勝負の生命線と考えて守りにいきますが、これが大きな判断ミスで、完全にイコールにされてしまいます。白の正しい手は20. Qd7! と指して、b5 のポーンを取りにいくことでした。しかし、1ポーンアップとはいえ、キングサイドの4対3で勝つのは簡単ではないでしょう。

20... Rd8 21. Bd6 Qc6



ここまで指して、Rf1-Rd1 が全くディフェンスにならないことに気づいて愕然とします。(ピンを利用し、c5 のポーンを取ることができます。) まだチャンスが出るように一工夫入れたつもりでしたが、吉田くんは正確に対応していました。

22. f3 Nxc5 23. Rc1


23. Qxc5 Rxd6 24. Qxa7 g6 25. e4 Rd2 のラインをコンピュータは指摘してきましたが、駒得はキープしても、7段目にルークに侵入され白キングは危険に見えるので、こうは指したくありませんでした。

23... Qxd6 24. Qxd6 Rxd6 25. Rxc5 g6 26. Rxb5 Rd1+ 27. Kf2 Rd2+ 28. Kg3 Rxa2



こうなってしまっては、どうしようもありません。黒にaポーンが無くとも、黒のドローチャンスは十分です。この後、30手は続けましたが、最終的にはドローでゲームを終わらせました。私にとって、今年のワーストトーナメントになってしまいましたが、全体として結果は出せずとも、勉強になるゲームが多くできた点は、きちんと収穫として受け止めたいと思います。ただしチーム戦ですので、私の敗戦でチームの黒星を決めてしまったことは忘れずに反省します。

優勝は下馬評通りに、井上さんが久々に指揮を執り、2200台を3名集めた麻布OB-Aチームが獲得しました。そして小林くんがポイントゲッターとして活躍した麻布OB-Bチームと、ベトナムのCM Tuさんが、1Bで6連勝した千葉チェスクラブが2位、3位に続いています。入賞チーム、および個人賞を獲得された皆さん、おめでとうございます! やはり大人数での大会は非常に盛り上がりますので、来年も是非、どこかでチームを組んで出場できればと思います。


打ち上げは慶應のメンバーで、チェスプレーヤーにはお馴染みの万豚記蒲田店へ。クラブ選手権は人数が多いので、いくつかの大人数グループが入店できなかったようですが、私たちは6名だったので、なんとか席は足りました。巨大なダーロー担々麺をいただきながら、慶應チェスクラブの近況や、懐かしいメンバーの話などを聞いて、楽しい時間を過ごすことができました。慶應のメンバーとは東京オープンの直前に、OB会でまた会えることを楽しみにしています。

2015/09/20

Club Championship 2015 Day1 Tournament Report


IVL に引き続き、シルバーウィークは次のトーナメント、クラブ選手権が開催されています。私は慶應の後輩4人とチームを作り、久々の参加となりました。初日の今日は、個人で2試合に出て2勝、チームは2勝1ドローとなっています。


Osaka, T (JPN, 1867) - Kojima, S (IM, JPN, 2456)
Club Championship 2015 (3)
Position After 51... Kc7

52. Ra3?!


お互いに時間切迫の中、白は危険な手を指してしまいます。私が試合後に指摘したのは、先に白から52. h4! と突いてしまう手で、こうしておけば本譜の流れはなく、白が優位なエンドゲームだったでしょう。

52... h4!


黒の唯一の反撃です。これでfポーンを取り、ルークをアクティブにして勝負です。

53. g4 Rf6 54. Rxb3 Rxf4 55. Rd3 Rf2 56. b3 Kd6 57. d5?



d6 のマスがブロックされている以上、ポーンだけが先に進んでしまうのは明らかに危険です。

57... Rc2+ 58. Kd4 Rg2 59. Rc3?


これでポーンが落ちることが確定し、黒に勝ちの目が出てきました。しかし、まだ油断はできません。

59... Rd2+ 60. Ke4 Rxd5 61. Rf3 Rb5!



私はこのアイディアが良かったのではないかと思っています。f7 はどうしても負担になるため、守りに固執するよりも、b3, h3 を狙うべきでしょう。

62. Rxf7 Rb4+ 63. Kd3 Rxb3+ 64. Ke4 Ke6 65. Ra7 Rb4+ 66. Kf3 Ra4-+


これで安全にパスポーンを持ちますが、私はさらに黒が勝ちやすいエンドゲームの形を模索します。

67. Kf2 Ra3 68. Kg2 Ke5! 69. Re7+ Kf4 70. Rf7+ Kg5 71. Ra7 Ra2+! 72. Kf3 Rh2!



私が考える、最も明確な黒の勝ちプランは、aポーンを捨てて、白のh,g ポーンを取りにいくことです。

73. Rxa6 Rxh3+ 74. Kg2 Rg3+ 75. Kh2 Rxg4


これで黒はやや面倒な端のファイルではあるものの、2コネクテッドパスポーンを持つルークエンディングになりました。チームメイトから試合後に、あれは勝てるんですか?と聞かれましたが、答えはYes です!

76. Ra5+ Kh6 77. Kh3 Rb4 78. Ra3 Kh5 79. Ra5+ g5



黒はゆっくりとポーンを進めながら、相手キングを押し込んでいきます。

80. Rc5 Rb3+ 81. Kg2 Rg3+ 82. Kh2 Rf3 83. Kg2 Ra3 84. Rc4


白がさらに粘るとすれば、5段目でルークをキープしておくのがベターですが、それでも黒はh4-h3 で勝つことができます。84. Rb5 h3+ 85. Kh2 Kh4 86. Rb4+ g4 87. Rc4 Ra2+ 88. Kg1 Rg2+ 89. Kh1 Re2!


Analysis Diagram

こうしてルークをeファイルに置くのがポイントです。 90. Kg1 Kg3 91. Rc3+ Kf4 92. Rc4+ Kf3 93. Rc3+ Re3 94. Rc1 g3 95. Ra1 h2+ 96. Kh1 Kg4 97. Ra4+ Kh3 98. Ra1 g2# ルークのブロックで白の横利きチェックに対応し、h3,g3 にポーンを並べれば勝負ありでしょう。

84... Ra2+ 85. Kh3 g4+ 86. Rxg4 Ra3+ 0-1



こうして公式戦で初となる師弟対決を制しました。チームはすでに2敗していたため、この白星でスコアは2-2 となり、チームとしての負けを回避です。この1/2ポイントが、最終結果に大きな影響を与えるかもしれませんね。

他のチームは、平均2200の麻布OB-A のみが全勝、私たち慶應OB-A や、千葉、東京A、東京B らが2.5P で続いています。そして明日の4R、私たちはリスト1の麻布OB-A に挑むので、優勝をかけた大一番、頑張ってきます! 皆さん、2日目もよろしくお願い致します。

2015/09/19

17th IVL Tournament Report


4R で、スウェーデンのFM Frisk Kockum Antonさんと対戦する羽生さん

クラブ選手権前日の今日、表参道で17th IVL が開催されました。参加者はレイティング順に、私、羽生さん、Antonさん、唐堂くん、中村くん、汐口くんの6名です。5R のIVL で、参加者が6名になるのは珍しく、久々のラウンドロビンでした。


Kojima, S (IM, JPN, 2465) - Habu, Y (FM, JPN, 2415)
17th IVL (2)
Position After 45... Qf3

リストはレイティング通りにしたため、私と羽生さんは2R から激突です。7段目までパスポーンを伸ばした私は、後は相手のパペチュアルチェックを防ぎ、プロモーションすれば簡単に勝ちでした。ところが...

46. d8=N+?


アンダープロモーション自体珍しいですが、それが悪手になるというさらに珍しい例です。ここは48. Qd2! h4 49. d8=Q で勝ちでした。黒はパペチュアルチェックができません。

46... Ke8 49. Qd2 h4 0-1


このポジションで、どうしたものかと頭をひねっていると、気づけば私の時間が落ちていました。おそらくh4 を取っても、ドローが関の山でしょう。実にもったいない黒星でした。

Kojima, S (IM, JPN, 2465) - Tang, T (JPN, 2195)
17th IVL (4)

1. d4 d5 2. c4 c6 3. Nf3 Nf6 4. Nc3 a6 5. a4 e6 6. g3 Nbd7 7. Bg2 dxc4 8. O-O Bd6? 9. Nd2! Nb6 10. a5 Nbd5 11. Nxc4 Bb4 12. e4!



この日、マスターらしいチェスを見せられたのは、4R の唐堂くんとの試合くらいです。私は黒のピースの展開の遅れに着目し、駒を多少捨てても、黒キングをセンターに縛ることにします。

12... Nxc3 13. bxc3 Bxc3 14. Ba3!


a1 のルークを逃がさず、a3-f8 のダイアゴナルを抑えてしまいうのがポイントです。Nc4-Nd6-Nxf7 の狙いがある白は、いずれエクスチェンジを取り返すことができるでしょう。

14... Qxd4 15. Nd6+ Kd7 16. Rc1 Bb2 17. Nxf7! Ke8 18. Nd6+ Kd7 19. Nc4! 1-0



最後はしっかりと、なるべく黒が続けられなさそうな変化を選ぶことができました。f7 を取ってからナイトが戻り、ピースアップになれば完全に白勝ちでしょう。多少苦手意識のある唐堂くんを、アウトプレーできたのは久しぶりです。


最終戦の検討をする羽生さんと唐堂くん

そして5R を終えての最終結果は、羽生さんが4勝1ドローでの優勝でした。中村くん、私、汐口くん、Antonさん相手に4連勝した羽生さんは、最終戦で4連敗中の唐堂くんと対戦し、苦しい局面でしたが、なんとかドローに持ち込みました。これで羽生さんは、全勝優勝こそ逃したものの、3回連続3回目のIVL 優勝です!

私が羽生さんのプレーで最も感心するのは、これだけ勝つこともそうですが、不利なポジションでも、なるべく相手にとって勝つのが難しいエンドゲームを素早く正確に判断し、実際にそれに持ち込めることです。今回は2ポーンダウンのルークエンディングながら、相手のポーンがfファイルとhファイルに分かれている形に持ち込みました。相手のhファイルのパスポーンをキングでブロックしていれば、理論上はドローですが、私はGM が間違えて負けた試合も見たことがあります。持ち時間のほとんどない中、唐堂くん相手にこのf,h ポーンのルークエンディングに持ち込み、負けを回避したことは、羽生さんの高い実力を示すものだと思っています。さらに試合後には、黒の正確なディフェンスのアイディアを確認しています。

今回のIVL は、クラブ選手権の直前であることや、急なキャンセルによって人数が減ってしまいましたが、また次回は10名の参加者を目指したいですね。20回目の開催も見えてきましたので、そこでは何か企画も考えるかもしれません。今後もIVL をよろしくお願い致します。

2015/09/17

FIDE World Cup 2015


現在行われている海外大会の中で、最も注目が高いものと言えば、当然、FIDE World Cup でしょう。World Cup は、128名の予選を勝ち抜いたプレーヤーが1名になるまで戦う、チェス界では珍しいトーナメント形式の大会です。一昨年はトロムソ、今年はバクーで開催なので、翌年のオリンピアード開催地が選ばれていますね。

今年はここまで2R を終え、128名のプレーヤーは1/4 の32名まで減っています。2013年の世界チャンピオン挑戦者、イスラエルのGelfand と、2014年のWorld Cup 優勝者、ウズベキスタンのKasimdzhanov は1R で姿を消しました。さらに昨夜は優勝候補の大本命、Aronian が敗れる波乱も起こっています。

World Cup の形式はクラシカルを白黒1試合ずつ指し、それで決着がつかなければ、翌日のラピッドとブリッツに移行します。ラピッド2試合でも決着がつかなければ、ブリッツは最大で4試合、それでもタイのスコアであれば、1発勝負のアルマゲドンです。昨晩はイングランドのAdams とチェコのLaznicka の対戦がもつれにもつれ、9試合目のアルマゲドンに突入しました。

Adams, M (GM, ENG, 2742) - Laznicka, V (GM, CZE, 2676)
FIDE World Cup 2015 (2,9)

1. e4 d5 2. exd5 Qxd5 3. Nc3 Qa5 4. d4 Nf6 5. Nf3 Bf5 6. Bd2 e6 7. Bc4 Bb4 8. Ne5 Nbd7 9. Nxd7 Nxd7 10. a3 Bxc3 11. Bxc3 Qb6 12. O-O O-O 13. d5! Rfd8 14. Qf3 Nf8 15. Rfe1 Bxc2 16. dxe6 fxe6 17. Qg3 Bg6 18. h4!?



18. Rxe6! Nxe6 19. Qe5 Kh8 20. Bxe6 Rg8 21. Bxg8 Rxg8 22. Rd1+- という変化もありそうです。白は異色ビショップで駒数はイコールですが、g7 へのプレッシャーは強力で、非常にアクティブにプレーできます。

18... Qc5 19. Ba2 Qe7 20. Re5 Rd3 21. f3 h5 22. Rae1 Qf7 23. Rxe6!+- Rxc3 24. bxc3 Kh8 25. R6e2 Qf6 26. Re5 c6 27. Qg5 1-0


こうして白で勝たなければいけないゲームを勝ち(ドローならば、黒のLaznicka の勝ち扱いとなるのが、アルマゲドンのルールです。)、Adams が3R へと駒を進めました。今夜は早速、その3R のゲームが行われており、2年前の決勝と同じ、Kramnik - Andreikin が激突するなど、面白いペアリングになっています。最後の1人が決まるまで、しばらく目が離せない戦いが続きそうです!

FIDE World Cup 2015 Live

2015/09/15

CHESS THE MUSICAL - A Dynamic Chess Performance -


すでにTwitter では告知していますが、今月末から東京、大阪で公演されるミュージカル CHESS の制作に協力しています。東京では9月27日から10月12日まで、池袋の東京芸術劇場 プレイハウス、大阪では10月19日から25日まで、梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティでの公演となります。2013年にはコンサート版が日本で公開され、今回はそれに続くミュージカル版となります。フィッシャーやカルポフといった、実在した(実在する)世界チャンピオンたちをモデルに、史実と創作を織り交ぜたチェスの世界と複雑な人間模様が描かれます。


私はこれまでミュージカルの稽古場に2回足を運び、出演する俳優さんらにチェスのレッスンを行っています。チェスとミュージカルという、普段は交わらない2つの世界の人間同士の交流ですので、非常に新鮮で、驚きと楽しみがあります。昨日はレッスンの直後に、通し稽古の様子を見せてもらい、プロの俳優さんたちの演技の迫力を間近で味わうことができました。ミュージカルファンとチェスファン、どちらにとっても楽しめる作品になっていると思いますので、公演期間中、是非どちらかの会場に足を運んでみてください。

また、私は9月30日の昼公演直前と、10月7日の夜公演直前の2回、短い時間ですが、出演する俳優さんたちとともに舞台でトークも行います。プロの俳優さんと一緒に舞台に上がるというのはとても緊張しますが、精一杯頑張りますので、そちらもよろしくお願い致します! 以下のリンクも、よろしければチェックしてみてください。

CHESS THE MUSICAL 公式HP
CHESS THE MUSICAL メインキャストコメント & 稽古映像
メインキャスト 石井一孝さんのブログ 石井一孝の情熱マニア日記

2015/09/12

Saturday Lecture on September 26th 2015


実際にはピースは残っていますが、わざと消しています。

【日時】 2015年9月26日(土) 13:00~15:00
【会場】 チェスセンター(最寄駅:池上駅)
【形式】 レクチャー+質疑応答
【テーマ】 Strategic Play with Typical Pawn Structure
【テーマ詳細】

チェスの試合では、実に様々なポーンストラクチャーが現れますが、それらはその後の互いの作戦を決めていくうえで、非常に重要なファクターとなります。そこで今回は、ポーンストラクチャーから、どういったピースの配置にするべきか、どこを中心に手を作っていくか、何に気を付ければ良いかといった話をしようと思います。典型的ないくつかのポーンストラクチャーを見る中で、お気に入りの作戦を見つけたり、様々な作戦を考えられるような力を身に着けていきましょう。

【参加費】 一律1200円
【参加資格】なし
【対象】 レイティング2000未満


2015/09/11

The Highest Level Training in Japan on 10th September


昨日は久々に、羽生さんとのトレーニングに臨んできました。8月にJapan League、名古屋オープンの連続優勝と好調だったため、そろそろ羽生さん相手の連敗も止めたいところでしたが、黒番では肝心なポジションでブランダーが出てしまい、あえなく負け。局面が見えていません。そして昼食後の午後の試合は、またいつもとは違った感じのゲームになりました。

Kojima, S (IM, JPN, 2400) - Habu, Y (FM, JPN, 2398)
Training

1. Nf3 d5 2. d4 Nf6 3. c4 e6 4. Nc3 Bb4!?



羽生さんが黒を持ってQueen's Gambit Ragozin を指すのを見るのは、今回が初めてです。Semi-Slav やKing's Indian の他にも、黒番で使える強力なレパートリーを模索しているようです。

5. Bg5 Nbd7 6. cxd5 exd5 7. e3 c5 8. dxc5!?


これまで私が白を持って指したゲームでは、8. Bd3 c4 9. Bf5 Qa5 10. Qc2 O-O 11. O-O Re8 12. Nd2 g6 13. Bxd7 Nxd7 14. e4!? と進めて、2ゲームドローになっています。今回はこうした大人しいメインラインではなく、少し冒険してみようと思っていました。

8... Qa5 9. Rc1 O-O 10. a3 Bxc3+ 11. Rxc3 Ne4 12. b4 Nxc3 13. Qa1 Qa4 14. Qxc3 a5 15. b5 Nxc5!?



数年前、私も初めて見たときはこれは何なのかと目を疑いました。白がエクスチェンジを捨て、黒がピースを捨て返すこの激しい変化は、詳しく知らなければキャスリングの遅い白が一瞬で潰れてしまうでしょう。

16. Qxc5 Bd7 17. Be2!


試合後の検討戦では、17. Qc3!? Rac8 18. Qa1 Bxb5 19. Nd4 Bxf1 20. Rxf1+/= という変化を考えましたが、17. Be2 はそれよりも、白が良いのではないかと思います。

17... Rfc8 18. Qd4?



しかし、これがひどい手で、白は全てのアドバンテージを放棄してしまうことになります。18. Qxd5! Rc1+ 19. Bd1 Qxb5 (19... Bxb5 20. Kd2!! が私の見落とした手で、ビショップでb6 を取られたうえでキャスリングできないのは、かなり白がまずいと思ってしまいました。) 20. Qxb5 Bxb5 21. Nd4+/- このように進めば、白は2ピースルークで優位に試合を進めることができたでしょう。

18... Rc1+ 19. Bd1 Qxb5 20. Qd2 Rac8 21. Nd4 Qb1?!


ここは羽生さんに緩手が出ます。21... Qc4! 22. Ne2 Ra1 23. O-O Bb5!=/+ ならば、黒は全ての駒がよく働き、白にプレッシャーをかけている状態になります。

22. O-O??



それにしても、このブランダーはひどすぎました。きちんと確認をしたつもりでしたが、大事なところで読み抜けがあります。22. Ne2! であれば、勝負はまだまだ分かりません。

22... Ba4 23. Be2 Rxf1+ 24. Bxf1 Rc1 0-1


25. Qe2 Re1 でゲームオーバーです。負けは悔しいものですが、なかなか指す機会の無かったオープニングを試せましたし、サイドラインも色々と一緒に考えることができました。他にもa6 Slav や、Queen's Gambit Bf4 ラインでも、アイディアをお互いに出しあって勉強ができました。いつも思うのですが、一体いつチェスの勉強をしてるんでしょうか...


お昼ご飯は、最近のトレーニングで定番の沖縄料理。今回は映画や登山、他の店の沖縄料理など、チェスや将棋と関係ないことも多かったですかね(笑) また近く、羽生さんと指せる機会を楽しみにしています。

2015/09/09

クラブ選手権 2015 Tournament Preview


優勝した3年前のチーム選手権

シルバーウィークの中間、9月20、21日には、2回目を迎えるクラブ選手権が開催されます。以前はチーム選手権と呼ばれたこの大会、私も後輩たちと組み、3年ぶりの参加を決めました。いくつかのチーム編成については、情報も集まりつつありますので、今夜はこの大会についての記事にします。ちなみに私のチームは、以下のようなメンバーです。

1B 小島慎也 2465
2B 古谷昌洋 2005
3B 勝田裕貴 1864
4B 岡部渓 1400


この慶應OB のメンバー4人でチームを作り、平均は1933となります。1900前半のチームは、リストが5番前後になるでしょうかね。他にメンバーをすでに把握できているのは、麻布OB 2チーム、松戸2チーム、東京3チームといったところでしょうか。1番ボードのレイティングトップは私でしょうが、2番ボード、3番ボードのトップは別チームで、それぞれ散っています。3番で2200を超えるメンバーを入れてきた強豪チームもありますので、そういったチームとどう戦うかがトーナメントの鍵になるでしょう。

他には、東大、慶應、上智、筑波、東北、麻布、暁星、札幌、名古屋、8x8 などのクラブがチームを出し、参加チームは20を超えるでしょう。日本で参加人数が最も多いクラブ選手権、今年は私も楽しませてもらうつもりです。皆さん、よろしくお願い致します。

2015/09/08

中部快速オープン2015 Tournament Information


昨年の中部快速オープン入賞者たち

名古屋オープンが終わって2週間弱が経ち、名古屋チェスクラブは次のトーナメントに動き出しています。1日で6試合のラピッドを戦い、優勝者を決める中部快速オープンは、今年は少し早い10月の開催となります。昨年は私が全勝したこの大会、今年は参加するかどうかまだ決めかねていますが、興味のある方は是非、大会情報をチェックしてみください。

Place: 東桜会館 第2会議室 (最寄り駅、新栄町)
Data: 2015/10/18(Sun)
Time Control: 25m+10s/m
Entry Fee: 8000円(18歳未満5000円)
Prize 優勝40000円、2位25000円、3位15000円、Aクラス(1700未満)優勝15000円

たいして参考にならないかもしれませんが、昨年の私の参加レポートも、よろしければご覧ください。今年も遠征者が集まり、盛り上がることを期待しています。大会詳細は、名古屋チェスクラブのHP で、チェックできます。

名古屋チェスクラブ、中部快速オープン2015

2015/09/03

暁星学園チェス部夏合宿 2015


先週の麻布学園チェス部の夏合宿に引き続き、今週は昨日、今日の2日間、暁星学園チェス部の夏合宿に行ってきました。場所は山梨県西桂町の三つ峠です。家からは横浜、東神奈川、八王子、大月と乗り換えを繰り返し、3時間と少しで到着しました。東京は午前中、雨が強く降っていたそうですが、三つ峠は幸いにも雨が途切れ、青空を仰ぐことができました。


大月から乗ったのは、富士急行線河口湖行きの電車です。昨年の夏合宿の舞台となった、河口湖へはこの電車で向かいます。新宿と河口湖は高速バスでも繋がっていますので、そちらを利用する人も多いですが、そのバスは三つ峠には止まりません。三つ峠を訪れる多くの方は、この富士急行線を使うのはないでしょうか。


富士急行線は短い四両編成で、三つ峠駅自体も非常に小さな作りになっています。ハンガリーのケチケメート駅を少し思い出しますが、それよりずっと小さく、レトロな駅舎です。


三つ峠駅に到着したのは午前9時半頃。それから町役場で地図を貰い、合宿場となる三つ峠グリーンセンターを目指します。グリーンセンターは三つ峠の登山客にはお馴染みの場所で、三つ峠登山道の少し手前にあり、大浴場やスポーツのできる施設もそろっています。1800m を超えるハードな登山に臨む人たちが一息つくほかは、地元のご老人たちがのんびり滞在しています。私たちのような若い利用者は他に見られませんが、夏休み中の大学生たちも訪れるのでしょうかね。


ゆっくり写真を撮りながら歩き、10時半頃にグリーンセンターに到着です。私と顧問の先生はふれあい館というグリーンセンターの本館に泊まりですが、生徒たちはこうしたコテージに滞在します。この中がチェスのトレーニングをする場にもなるわけです。


私は荷物を置いてから、昼食の時間までもう少し散策することに。三つ峠の本格的な登山道にはとても入れませんが、その手前までは時間的にも体力的にも問題ないだろうと、歩みを進めます。三つ峠さくら公園は、春の時期には花見を楽しむお客さんで賑わいそうです。


さくら公園内の川で一息つき、のんびりするまでは私の予定内の行動でした。川の水はとても冷たくて心地よく、童心に帰ったような気持ちになります。予定外だったのは、足を滑らせて両足からダイブしたこと(笑)靴が濡れてしまっては、さくら公園より先の散策は諦めるしかなく、グリーンセンターに戻って、トレーニングを始めることにしたのでした。 


Black to move

生徒は7人なので、私も試合に入ることになります。最初の試合、相手はこの1年ではっきりと成長の見える中学生ですが、ここは典型的なミスをしてしまいます。

7... Ne5?


ピンを利用し、e5 にナイトを置きたくなります。しかし、奥にいるのがキングではなく、クイーンの場合、ピンにしたナイトが本当に動けないのか、しっかりと確認しなければいけません。

8. Nxe5! Bxd1 9. Bb5+!


クイーンを捨てても、メイトにするか、クイーンを取り戻せれば、サクリファイスは成功です。黒にはうまい受けが無く、クイーンを返したうえに、駒損が避けられません。

9... c6 10. dxc6 Qc7?


白はc6-c7cxb7 の2つのディスカバードチェック&チェックメイトのスレットがあります。この2つに対応してメイトを防ぎつつ、なるべく駒損の被害が少なくなる変化がどれなのかは、意外と見つけるのが難しいかもしれません。是非、考えてみてください。

11. cxb7+ 1-0


11... Kd8 12. Nxf7# で終わりです。プロモーションしてクイーンを取り返すのではなく、メイトにしてしまうのがベストです!


Photo by Maehara

合宿2日目の今日は、朝、1時間半のレクチャーをこなした後で、高校生3人と同時対局を行いました。4年前の合宿からの付き合いとなる現部長も、今回が現役最後の合宿となります。彼は重要なポジションでの判断ミスで形勢を悪くしてしまいましたが、全体的には良いプレーを見せてくれました。これから部を担う後輩たちが、彼のプレーから自分たちに活かせるものを、学び取ってくれると良いですね。

先程、私は三つ峠の合宿から帰宅し、この1週間での遠征を全て終えました。鬼怒川温泉、名古屋、三つ峠でお世話になった皆さんには、あらためてお礼を申し上げます。3つのチェスクラブのメンバーとは、今月のクラブ選手権で再び会うことになるでしょう。東京での再会を楽しみにしています。

2015/09/01

FIDE Rating in September 2015


ジャパンリーグの最終ラウンド photo by Hasegawa

月が替わり、9月のFIDE レイティングが更新されました。日本のプレーヤーたちは、8月のビッグトーナメント、ジャパンリーグの結果を受け、レイティングが増減しています。今回、試合をした日本のプレーヤーの上位10名は、以下の通りです。

Kojima, S (IM, JPN, 2400) +11
Nanjo, R (IM, JPN, 2330) +-0
Baba, M (CM, JPN, 2262) -30
Aoshima, M (JPN, 2167) New
Kuwata S (JPN, 2156) +21
Shiomi, R (JPN, 2124) -9
Tang, T (JPN, 2103) +12
Mitsuya, N (JPN, 2100) -8
Yamada, K (CM, JPN, 2097) +9
Kobayashi, A (JPN, 2088) +8


私はすでにお伝えしていた通り、レイティングを+11 とし、2400ジャストに戻りました。羽生さんを抜き、5月以来の日本ランキング1位に返り咲きです! 2100弱のメンバーは、ことごとく数字を上げ、唐堂くんが初の2100台に到達ですね。桑田くんも2150を超え、2200への道が見えてきています。

さらに注目は、プロ棋士の青嶋くんに新規FIDE レイティングがつき、日本のトップ10にランクインしたことでしょう。青嶋くんのレイティングは、ジャパンリーグ7試合の結果で、2167 となり、日本のアクティブランキング7位に入りました。この数字は、青嶋くんの実力からすれば低すぎるくらいですので(実際は2300ぐらい?)、これからの試合でどんどん上げていくのが楽しみですね。

また、今回の更新で青嶋くんを含む7人のプレーヤーが、新規FIDE レイティングを獲得しました。大学生を中心に、若いメンバーが多いです。皆さん、レイティング獲得おめでとうございます! 日本国内のFIDE公式戦は、来年の全日本選手権までしばらく間が空きますので、それまでに海外大会に挑戦するプレーヤーが、名乗りを上げていくと良いですね。今月、マレーシアで開催されるトーナメントにも日本からプレーヤーが参加しますので、そちらの結果も楽しみにしています。

Japan FIDE Rating List

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