2017/12/30

Saturday Lecture on 13th January 2018


Najdorf, M - NN
Rafaela 1942

【日時】 2018年1月13日(土) 13:00~15:00
【会場】 チェスセンター(最寄駅:池上駅)
【形式】 レクチャー+質疑応答
【テーマ】 Knight Mate
【テーマ詳細】

ナイトでの窒息メイトは、初めて知った際にはとても驚き、ナイトというピースの面白さを知る良いきっかけになるでしょう。典型的なナイトのメイトは、クイーンサクリファイスからのコンビネーションで生まれますが、もちろんそれだけではありません。今回はいくつかのパターンでのナイトのメイトを紹介し、ナイトの力を確認したいと思います。

【参加費】 レクチャー代1200円+飲み物代200円
【参加資格】なし
【対象】 レイティング2000未満

2017/12/26

Jolimark International Open Chess Championship 2017


香港の試合会場 Photo by Nakamura, N

2017年の最後を締めくくる大会として、海外大会を選んだ日本選手たちがいます。23日から香港で開催されているトーナメントには、日本から青嶋くんと中村くんが参加しています。今日までで全9R中、8Rまでを消化し、2人とも6/8 と良い数字を残しています。青嶋くんはリスト1 のGM Grigoryan に敗れこそしたものの、フィリピンのIM Pascua とドロー、中国のIM Li Bo に勝ち。中村くんもIM Pascua に敗れたものの、下5人に勝ち、上2人とドローで、日本勢は両者とも大きくレイティングを上げています。

Aoshima, M (JPN, 2265) - Li, B (IM, CHN, 2344)
Jolimark (HK) International Open Chess Championship 2017 (5)

1. d4 Nf6 2. c4 g6 3. Nc3 Bg7 4. e4 d6 5. h3 O-O 6. Nge2 c5 7. d5 e6 8. Ng3 e5?!



e7-e6 と仕掛けた以上、8... exd5 9. cxd5 h5 と進めてBenoni Structure にするのが自然に思えます。センターから反撃がないことが分かれば、白はキングサイドの攻撃に集中できそうです。

9. Be2 h6 10. Be3 Kh7 11. Qd2 a6 12. Nf1 Bd7 13. g4 b5!


これはクイーンサイドからの反撃として有効です。e4 のポーンが落ちては不利になるため、白はナイトをb5 への利きとしてカウントできません。

14. Ng3 b4 15. Nd1 a5 16. f3 Ng8 17. h4 Ne7 18. Bd3 a4 19. Nf2 Bc8 20. Nh3 a3 21. b3



センターとクイーンサイドがここまで固まり、1つも駒交換が起こっていないのは珍しいゲーム展開だと思います。白はキングサイドでまだ打開のチャンスがありますので、どういった準備の後、h4-h5 を仕掛けるか少し考えるでしょう。しかし、Li Bo のミスでゲームは大きく動きます。

21... f5?


King's Indian ではポピュラーな手ですが、ここでキングサイドを開くことは、黒キングの守りのみを薄くしてしまうため、リスクが高すぎます。開いたgファイルとb1-h7 のダイアゴナルは、白にとってありがたい攻撃のラインとなります。

22. gxf5 gxf5 23. exf5 Nxf5 24. O-O-O Ra7 25. Rdg1! Kh8



いつまでもf5 のナイトをピンにしたままでいるのも苦しいですが、これはh6 のポーンが落ちるため黒は厳しいでしょう。

26. Nxf5 Bxf5 27. Bxf5 Rxf5 28. Bxh6 Qf8


ポーンを取りかえそうとする28... Rxf3 には、29. Bxg7+ Rxg7 30. Rxg7 Kxg7 31. Rg1+ Kf7 32. Qh6+- と進んで、白のアタックが決まってしまいます。

29. Bxg7+ Rxg7 30. Ng5!



駒得した白がさらにアドバンテージを拡大するために重要な1手です。白マスビショップを交換した後では、黒はe6 の弱点をカバーしきれません。白はこのマスにナイトを向かわせれば、さらに黒にプレッシャーをかけることができます。

30... Nd7 31. Ne6 Rxg1+ 32. Rxg1 Qf6 33. Qg2 Qh6+ 34. Kd1 Qh7 35. Ke2 Rh5 36. Qg7+!


このクイーン交換も実に効果的です。白のf,hポーンは不安定にも見えますが、クイーンを消して黒の反撃を抑えこみ、7段目にルークを入れれば白のアドバンテージは決定的でしょう。

36... Qxg7 37. Rxg7 Nf8



ナイトの逃げ場所は迷うところですが、37... Nf6 38. Rf7 Ng8 39. f4 exf4 40. Nxf4 Nh6 41. Rd7 Re5+ 42. Kd3+- これでもd6 が落ちて白勝勢です。

38. Rg5! Rxh4


黒としては38... Rxg5 39. Nxg5 Kg7 40. Ne4+- と進むナイトエンディングも望みがないため、苦渋の決断ですがナイトを捨てます。

39. Nxf8 Rh2+ 40. Ke3 Rxa2 41. Nd7 Kh7 42. Ke4 Kh6 43. Kf5 Rf2 44. Rg6+ Kh5 45. Nf6+ Kh4 46. Rh6+ Kg3 47. Ne4+



これで黒が頼みの綱にしていたルークも取ってしまい、白の勝ちが決まります。黒はよほど悔しかったのか、メイトまで続けました。

47... Kxf3 48. Nxf2 a2 49. Rh1 Kxf2 50. Rh2+ Ke3 51. Rxa2 Kd4 52. Rh2 e4 53. Ke6 e3 54. Kxd6 Kc3 55. Kxc5 Kxb3 56. Rh3 Kc2 57. Rxe3 b3 58. Rxb3 Kxb3 59. d6 Kc3 60. d7 Kd3 61. d8=Q+ Ke4 62. Qd5+ Ke3 63. Qd4+ Kf3 64. Kd5 Kg3 65. Qf6 Kg4 66. Ke4 Kg3 67. Qf4+ Kg2 68. Qf3+ Kh2 69. Qg4 Kh1 70. Kf3 Kh2 71. Qg2# 1-0


青嶋くん、これが海外公式戦でのIM 戦初勝利でした! 海外公式戦と書いたのは、国内の公式戦ではすでにIM に勝っているためです。説明しなくとも、誰のことかはわかりますね(笑)

明日の最終戦を前にして、青嶋くんと中村くんは互いに6P で3位タイ。タイブレークを踏まえると、青嶋くんが4位、中村くんが8位という素晴らしい順位につけています。しかし、入賞をかけた最後の試合は2人とも簡単な相手ではありません。青嶋くんは中国のGM Zeng Chongsheng に黒、中村くんは青嶋くんが破ったIM Li Bo に白と発表されています。2人には最終戦、ぜひともポイントを取って(願わくば勝って!)、日本に帰ってきてほしいですね。明日は日本時間の朝10時スタートで、2人ともゲームが中継されます。お時間のあるかたは両者がポイントを取れるよう、ライブを見ながら応援しましょう!

Jolimark International Open Chess Championship 2017 R9 Pairings
Jolimark International Open Chess Championship 2017 Live Games

2017/12/24

Japan Chess Magazine

Twitter では先行して発信しましたが、あらためてこちらのブログでもお伝えします。日本のチェスファンの皆様にクリスマスプレゼントとして、本日、情報解禁となりました。

2018年4月に、競う!鍛える!プロジェクトから、日本で初となるチェス専門誌、ジャパンチェスマガジンが発刊されることが決定しました! こちらの専門誌は4月以降、3か月ごとの季刊で、私が監修を務めさせていただきます。これまでにないチェスの新たな媒体として、多くの人にチェスに触れ、チェスを楽しむきっかけにしていただければと思います。

創刊号では巻頭企画として、永世七冠を獲得された将棋棋士の羽生善治さんと、私とのスペシャル対談を予定しています。私としては、羽生さんと個人的にチェスの話をする機会はこれまでたくさんありましたが、あらためて対談という席でどういった話ができるか、とても楽しみにしています。他の企画としては、国内外の棋譜の解説やプレーヤーの紹介、大会の告知&レポート、ニュースやトピックスなどを用意しています。

発行・発売元である競う!鍛える!プロジェクトは、これまでシャンソンマガジンや季刊リコーダーを発刊してきた、歌う!奏でる!プロジェクトから派生した新プロジェクトです! 今後、ジャパンチェスマガジンの情報は、以下のサイトで随時更新されますので、是非チェックしてみてください。4月の創刊号発刊に向け、私も準備を進めていきたいと思います。皆さんの期待に副えるような専門誌をお届けしたいと思いますので、来年4月を楽しみにお待ちください。これからジャパンチェスマガジンを、よろしくお願い致します!

歌う!奏でる!プロジェクト オフィシャルサイト

2017/12/22

2017 公式戦戦績


マン島での初戦 Photo by Alena Vasilevskaya

久々の更新です。明日のクリスマスオープンには参加しないことを決めたので、自分にとっての2017年の国内外公式戦は、先月の函館チェス大会で全て終了となりました。そこで例年通り、公式戦の戦績をまとめたいと思います。今年1年間の戦績は以下の通りです。

JCA 公式戦 52勝8敗5ドロー、勝率 83.8%
FIDE 公式戦 18勝5敗4ドロー、勝率 73%


今年は参加した海外大会がマン島のみだったため、去年よりもFIDE 公式戦の数は少なく、全日本とジャパンリーグで稼いだ分が効いて勝率は上がりました。しかし、レイティング変動はほぼなく横ばいです。国内公式戦は勝ち数、勝率ともにほぼ昨年と同じですが、レイティングは多少上がっています。web上での発表はまだですが、今月20日締め切りで計算されたS116 も、明日クリスマスオープンの会場に足を運んだプレーヤーは確認できるでしょう。私は今期、14勝2敗1ドローなので、さほど上がっていないかな...?

公式戦以外は羽生さんとのトレーニングやIVL がありましたが、後者は南條くんに負けのみの7勝1敗と、良い数字を残せたと思います。ただ今年はIVL にフル出場が1回もなく、毎回の途中交代になってしまっているので、2018年は5試合フルで参加できる機会を増やしたいですね。

来年の予定もまた後日記事にしますが、3月のカペルを始めとし、海外大会にも積極的に参加しようと思っています。2018年こそ、FIDE レイティングのベスト更新、そしてGM ノームを狙っていきたいですね。少し早いですが2018年の試合でも、よろしくお願い致します。明日、クリスマスオープンに参加される皆さんは、年内最後の公式戦、頑張ってください!

2017/12/13

26th IVL Tournament Report


先週末の日曜日に久々の、そして今年最後のIVL が開催されました。私は前半の3試合を指し、後半は篠田くんに交代することにして参加してきました。10名でのスイス式ですが、参加者のレベルが高いため、前半から当たりはかなり厳しいものになります。私は初戦で東野さんに勝った後、馬場さんとの対戦になりました。今年はJapan League、名古屋オープンと、大事な試合で敗れています。

Baba, M (FM, JPN, 2306)- Kojima, S (IM, JPN, 2402)
26th IVL (2)

1. e4 c6 2. d4 d5 3. Nc3 dxe4 4. Nxe4 Bf5 5. Ng3 Bg6 6. h4 h6 7. Nf3 e6 8. h5



少し考えて、7... Nd7 ではなく7... e6 のラインにしてみることにしました。馬場さんは7... Nd7 と同じようにh4-h5 と進めますが、私は8. Ne5 と指すほうが良いと思っています。(黒がd7 にナイトを出すのを遅らせたため、この手が可能になります。) 7... Nd7 のラインに手順前後することも十分あり得ますが、私は途中で外します。

8... Bh7 9. Bd3 Bxd3 10. Qxd3 Nf6 11. Bd2 Be7 12. O-O-O c5!?


b8 のナイトの位置を決めていないため、早いのこのブレイクが面白いと思っています。

13. Be3 Qa5 14. Kb1 Nc6 15. Ne5?!



アグレッシブではありますが、黒マスビショップを諦めてしまうのは、キングサイドを攻めようとしても、エンドゲームを戦ううえでも白にとって得策とは言えないでしょう。

15... Nxd4 16. Bxd4 cxd4 17. f4 Rd8 18. Ne2 O-O 19. g4 Nd5


私はナイトをアクティブに使おうとしましたが、e5 のナイトを交換するのが安全、という判断もあったようです。19... Nd7 20. Nxd7 Rxd7 21. Nxd4 Rfd8 22. c3 Bf6 23. Qe3 Bxd4 24. cxd4 Qa4-/+ とすれば、ポーンを返しても黒が有利なエンドゲームであることは間違いありません。

20. Qg3 Nc3+!?



時間を使い、このアイディアを見つけました。黒はポーンを返しても、エンドゲームに持ち込むアイディアが安全です。

21. bxc3?


白はキングを危険にさらして攻め合うのは少し無茶でしょう。ここは21. Nxc3 dxc3 22. Qxc3 Qxc3 23. bxc3 Bd6 として、ポーンストラクチャーの乱れたエンドゲームを戦うべきだったと思います。

21... Qb5+ 22. Ka1 Qxe2 23. Qd3 Qxd3 24. Rxd3 dxc3 25. Rxc3 Bf6



e2 に侵入してきたクイーンを無視できないため、白は気が進まなくともクイーンを交換するしかありません。こうなれば黒ははっきり駒得のエンドゲームで、上記の変化よりも勝ちやすいでしょう。

26. Rc4 Rc8! 27. Rxc8 Rxc8 28. Kb1 Bxe5 29. fxe5 Rc4


ビショップナイトを交換しても、g4、e5 を弱点にし、ルークエンディングでの勝ちを目指します。これはさらに駒得を拡大し、勝てるだろうと読みましたが、ここから少し不正確なプレーで局面を難しくしてしまいます。

30. Rd1 Rxg4 31. Rd8+ Kh7 32. Rd7 Rb4+



32... b5! 33. Rxa7 Rg5 34. Rxf7 Rxh5 35. Kb2 Rxe5-+ ならば、本譜と違いaポーンではなくbポーンが黒に残るため、白にはまだパスポーンができておらず、黒の勝勢だったでしょう。

33. Kc1 Rb5 34. Rxf7 a5 35. Kd2 Rxe5 36. Rxb7 Rxh5 37. c4 Rh2+?


ここでaポーンを取りにいったのが大きな判断ミスでした。白は残ったcポーンと、aポーンを犠牲にする間に上がったキングで勝負ができます。代わりに37... Kg6! 38. Kc3 Kf6 39. Kd4 Rh2 40. c5 Rxa2 41. c6 Rc2 42. c7 g5-+ ならば、黒のパスポーンも早く、本譜よりも難しくなかったと思います。

38. Kd3 Rxa2 39. c5 Ra1 40. Rb2! Rf1 41. c6 Rf8 42. Kd4 g5 43. Ke5 Kg6



私は白のパスポーンを正面からルークで攻撃する必要はないと感じました。43... Rc8!? 44. Kd6 g4 45. c7 h5 46. Kd7 Rxc7+ 47. Kxc7 h4 48. Kd6 g3 49. Kxe6 h3 50. Rb7+ Kh6 51. Kf6 g2 52. Rb8 Kh5 53. Kf5 Kh6 54. Kf6= こうしてメイトスレットを絡めながらドローにするアイディアは、ぜひとも覚えておきたいと思います。

44. Kxe6 h5 45. Ke7 Rg8?!


ここは45... Rf7+! 46. Kd6 g4 47. Rb7 Rf6+ 48. Kd7 g3 49. c7 Rf8! 50. Rb8 Rf7+ 51. Kd8 Rxc7 52. Kxc7 h4-+ と指していれば、白はルークでも黒の2コネクテッドパスポーンを止めることができず、黒勝ちでした。本譜ではチェックでテンポを稼いでいない分、1手遅くなっています。

46. c7 g4 47. Rb8 Rg7+ 48. Kd6 Rxc7 49. Kxc7 Kg5?



残り時間の少ない中、正しい手を選べませんでした。こういったルークvs. コネクテッドパスポーンの勝負では、ポーンを先に進めるかキングを先に進めるか悩むものですが、ここではポーンを単に進めるだけで白は困っていました。49... h4! 50. Kd6 h3 51. Ke5 h2 52. Rh8 g3-+ 確かにこれでプロモーションは防げません。

50. Kd6 Kf4 51. Rf8+ Kg3 52. Ke5 h4 53. Ke4?


最後は馬場さんから決定的なミスで勝負ありです。試合後に私が指摘したのは、53. Kf5! からg4 のポーンを狙うアイディアで、これならばドローになります。53. Kf5 Kh3 (53... h3 54. Rg8 h2 55. Rxg4+ Kh3 56. Rg8=) 54. Rd8 g3 55. Rd3 a4 56. Kg5 Kh2 57. Kxh4 g2 58. Rh3+ Kg1 59. Ra3 Kf2 60. Ra2+ Kf3 61. Ra1=

53... h3 54. Ke3 h2 55. Rf1 Kg2 0-1



最後は相手のミスに助けられはしましたが、非公式戦とはいえ久々に馬場さんに黒で勝てたのは嬉しかったです。それにしても、ルークvs. パスポーンの計算は難しいですね。私はこの後の3R では青嶋くんに勝ち、3連勝で篠田くんにバトンタッチとなりました。私と代わった篠田くんは汐口くんに敗れたものの、最終戦で塩見さんに勝って小島、篠田組が4/5 でフィニッシュ。一方で馬場さんは私に敗れた後、Antonさん、東芝さん、汐口くんに3連勝で4/5 となり、ダブル優勝となっています。

3R での交代後、私は妻と生徒宅のクリスクマス会へ。その会終了後はIVL の集まりに戻り、忘年会でした。(写真を撮り忘れたのは失敗でした...) 今年もまだ残っていますが、忘年会をやると1年の締めという気がして、今年を振り返ってしまいますね。来年も国内外の公式戦、そしてIVL でも良い試合と結果を出せるようにしたいと思います! IVL メンバーの皆さん、2017年もありがとうございました!


忘年会解散後は三々五々、麻雀組、帰宅組などに分かれます。私は馬場夫妻たちと新宿のタピオカミルクティーの有名店、春水堂へ。私はお酒を飲まないので、飲み会の後は2次会というよりも、一杯お茶やコーヒーが欲しくなります。

2017/12/09

What AlphaZero shows us

すでにご存じのかたも多いかと思いますが、水曜日に世界のボードゲーム界を賑わすニュースが流れました。Google 傘下のDeep Mind が開発したAlphaZero というAI が、チェスと将棋、それぞれでトップクラスの実力を持つとされていたStockfish、elmo と対局をし、大きく勝ち越したという話題です。AlphaZero は、昨年から今年にかけてプロ棋士を破り、囲碁界を賑わせたAlphaGo と同系統のAI で、それがチェス、将棋にも乗り出したといわけです。チェスではStockfish と白黒50局ずつ、計100試合を行い、28勝72ドローという恐るべき戦績を残しました。Chessgames やChess24 などのサイトでは、AlphaZero とStockfish の対局のうち、AlphaZero が勝った10局の棋譜を公開しています。

AlphaZero (Computer) - Stockfish (Computer)
AlphaZero - Stockfish

1. Nf3 Nf6 2. d4 e6 3. c4 b6 4. g3 Bb7 5. Bg2 Be7 6. O-O O-O 7. d5 exd5 8. Nh4 c6 9. cxd5 Nxd5 10. Nf5 Nc7 11. e4 d5 12. exd5 Nxd5 13. Nc3 Nxc3 14. Qg4 g6 15. Nh6+ Kg7 16. bxc3 Bc8 17. Qf4 Qd6 18. Qa4 g5 19. Re1!?


19... Kxh6 20. h4 f6 21. Be3 Bf5 22. Rad1 Qa3 23. Qc4 b5 24. hxg5+ fxg5 25. Qh4+ Kg6 26. Qh1 Kg7 27. Be4 Bg6 28. Bxg6 hxg6 29. Qh3 Bf6 30. Kg2 Qxa2 31. Rh1 Qg8 32. c4 Re8 33. Bd4 Bxd4 34. Rxd4 Rd8 35. Rxd8 Qxd8 36. Qe6 Nd7 37. Rd1 Nc5 38. Rxd8 Nxe6 39. Rxa8 Kf6 40. cxb5 cxb5 41. Kf3 Nd4+ 42. Ke4 Nc6 43. Rc8 Ne7 44. Rb8 Nf5 45. g4 Nh6 46. f3 Nf7 47. Ra8 Nd6+ 48. Kd5 Nc4 49. Rxa7 Ne3+ 50. Ke4 Nc4 51. Ra6+ Kg7 52. Rc6 Kf7 53. Rc5 Ke6 54. Rxg5 Kf6 55. Rc5 g5 56. Kd4 1-0


AlphaZero (Computer) - Stockfish (Computer)
AlphaZero - Stockfish

1. Nf3 Nf6 2. c4 b6 3. d4 e6 4. g3 Ba6 5. Qc2 c5 6. d5 exd5 7. cxd5 Bb7 8. Bg2 Nxd5 9. O-O Nc6 10. Rd1 Be7 11. Qf5 Nf6 12. e4 g6 13. Qf4 O-O 14. e5 Nh5 15. Qg4 Re8 16. Nc3 Qb8 17. Nd5 Bf8 18. Bf4 Qc8 19. h3 Ne7 20. Ne3 Bc6 21. Rd6 Ng7 22. Rf6 Qb7 23. Bh6 Nd5 24. Nxd5 Bxd5 25. Rd1 Ne6 26. Bxf8 Rxf8 27. Qh4 Bc6 28. Qh6 Rae8 29. Rd6 Bxf3 30. Bxf3 Qa6 31. h4 Qa5 32. Rd1 c4 33. Rd5 Qe1+ 34. Kg2 c3 35. bxc3 Qxc3 36. h5 Re7 37. Bd1 Qe1 38. Bb3 Rd8 39. Rf3 Qe4 40. Qd2 Qg4 41. Bd1 Qe4 42. h6 Nc7 43. Rd6 Ne6 44. Bb3 Qxe5


45. Rd5 Qh8 46. Qb4 Nc5 47. Rxc5 bxc5 48. Qh4 Rde8 49. Rf6 Rf8 50. Qf4 a5 51. g4 d5 52. Bxd5 Rd7 53. Bc4 a4 54. g5 a3 55. Qf3 Rc7 56. Qxa3 Qxf6 57. gxf6 Rfc8 58. Qd3 Rf8 59. Qd6 Rfc8 60. a4 1-0


いくつかのサイトを見ていると世間の関心が高そうなのは、この2つのゲームであるような印象を受けます。今回公開されたゲームの中で、AlphaZero は白番ではラインは違えど、ポーンをギャンビットしてピースの展開の早さを得るオープニングを採用していました。ここに載せている1つ目のゲームに登場する、Polugayevsky Gambit は私も白番で指したことがあり、なかなか面白いと思っています。そしてポーンを捨ててピースの展開の早さや、ピースの働きの良さ(相手のピースと自分のピースの働きの差)を求める指し方、別の言い方をすればマテリアルよりもイニシアチヴ優先の指し方は、コンピュータというよりも、人間の指し方に近いと私は感じました。

私は最近行われたコンピュータ同士の別の対局にも目を通していましたが、人間の目からすると明らかに損で、オープニングのセオリーを早くに外れる手が登場するものが結構あります。それに対してAlphaZero は、中盤の駒の捨て方には理解しがたいものもありますが、オープニングのチョイス(Quenn's Indian のGambit Line とRuy Lopez Berlin)はかなり人間の感覚に近いですし、ピースを活かすプレーや、形勢判断のやりかたで参考になる点は多々あると思っています。それが最も顕著だったのは、公開された10局の中で以下のゲームではないでしょうか。

AlphaZero (Computer) - Stockfish (Computer)
AlphaZero - Stockfish

1. d4 Nf6 2. c4 e6 3. Nf3 b6 4. g3 Bb7 5. Bg2 Bb4+ 6. Bd2 Be7 7. Nc3 c6 8. e4 d5 9. e5 Ne4 10. O-O Ba6 11. b3 Nxc3 12. Bxc3 dxc4 13. b4



このゲームでもAlphaZero はポーンを捨てます。しかし、このポーンの捨て方は人間のゲームにもしばしば登場するもので、白はe4 のマスを使ったプレー、c6 へのプレッシャー、黒の白マスビショップを使いづらくすることなどで、ポーンの代償を図ります。もし黒がd5 のマスを活用したうえで、キングサイドを守り切れれば黒が有利になりそうですが、それを白は上手く封じます。

13... b5 14. Nd2 O-O 15. Ne4 Bb7 16. Qg4 Nd7 17. Nc5!


c5 のマスを抑えることで、c6-c5 のブレイクを防ぎ、b7 のビショップの働きを抑え、c6 をターゲットとして残します。人間のプレーでは、ナイトはボード上に残しておき、キングサイドへのアタックチャンスを残す選択肢と迷いそうですが、それは黒のナイトがd5 にくることを許すリスクもあります。AlphaZero のプレーはリスクを抑え、ピースの働きの差で勝負するものです。

17... Nxc5 18. dxc5 a5 19. a3 axb4 20. axb4 Rxa1 21. Rxa1 Qd3 22. Rc1 Ra8



この辺りでは黒は2つのオープンファイルを抑え、使いづらいb7 のビショップの働きの悪さを補っているようにも見えます。しかし、白はここからキングサイドでアクションを起こし、オープンファイルを取りかえします。

23. h4 Qd8 24. Be4 Qc8 25. Kg2 Qc7 26. Qh5 g6 27. Qg4 Bf8 28. h5


h5 まで進んだポーンは、新たなオープンファイルを作るために交換しても、様子を見てh6 に指しても良いでしょう。先程のポジションから5手進んだだけですが、白のイニチアチヴと面白みが分かりやすい局面になりました。

28... Rd8 29. Qh4 Qe7 30. Qf6!



ナイト交換の時もそうでしたが、人間であれば駒損している側は、反撃のためにクイーンを残そうと考えがちです。ただ冷静に考えてみると、黒はf6 でクイーンを交換してしまうと、f6 に刺さったポーンにe7、g7 のマスを奪われることになり、黒マスビショップの働きが悪くなったうえで、バックランクも弱くなります。さらにクイーンを交換してオープンファイルを取れるピースがルークのみになれば、白は黒のルークがaファイルにいればdファイルから、dファイルにいればaファイルからのルークの侵入を見せることができるようになります。そうしてb7 のビショップとバックランクにプレッシャーをかけられれば、1ポーン以上の見返りがあることは明らかでしょう。

30... Qe8 31. Rh1 Rd7 32. hxg6 fxg6


白が選択したのはhファイルをオープンにすることで、これによりルークの働きが良くなり、黒キングへのプレッシャーが増えました。e6 も弱くなったことで黒はディフェンス面で負担が増え、ピースを自由に使いづらくなります。

33. Qh4 Qe7 34. Qg4 Rd8 35. Bb2 Qf7 36. Bc1 c3?!



ここでポーンを返す手はリスクがあるように見えますが、代わりに黒は何ができるでしょうか? 36... Rd4!? 37. Be3 Rd7 38. Bg5 Rd4 39. Be3 Rd7 (39... Rd8? 40. Rxh7!! Qxh7 41. Bxg6 Qg7 42. Qxe6+ Kh8 43. Qg4 Ra8 44. Qh5+ Kg8 45. e6+- こうしたアタックチャンスは白が期待するものです。) 40. Bg5= こう進んでドローという選択は人間同士の試合でいかにもありそうですが、黒が何もアクションを起こせない以上、ゆっくりと白はプランを練っても良いでしょう。ゲームをどのように進めるかは白に選択権があります。

37. Be3 Be7 38. Qe2 Bf8 39. Qc2 Bg7 40. Qxc3 Qd7 41. Rc1


ポーンを取りかえせば、ポーンストラクチャーの良さとピースの働きで白優勢であることは疑いようがありません。

41... Qc7 42. Bg5 Rf8 43. f4 h6? 44. Bf6+-



黒マスビショップを交換すれば、白マスビショップの働きの差は顕著になります。c6、e6、g6 の弱い黒にとっては、厳しいポジションでしょう。

44... Bxf6 45. exf6 Qf7 46. Ra1 Qxf6 47. Qxf6 Rxf6 48. Ra7 Rf7 49. Bxg6 Rd7 50. Kf2 Kf8 51. g4 Bc8 52. Ra8 Rc7 53. Ke3


ここまでくれば、黒はもはや何もできません。エンドゲームは白の勝ちです。

53... h5 54. gxh5 Kg7 55. Ra2 Re7 56. Be4 e5 57. Bxc6 exf4+ 58. Kxf4 Rf7+ 59. Ke5 Rf5+ 60. Kd6 Rxh5 61. Rg2+ Kf6 62. Kc7 Bf5 63. Kb6 Rh4 64. Ka5 Bg4 65. Bxb5 Ke7 66. Rg3 Bc8 67. Re3+ Kf7 68. Be2 1-0



いくつかの記事やコメントを見ていると、チェスや将棋が完全解析されるのではないか、突然こんな強いプログラムが現れるなんて、今までのはなんだったのか、ゲームとしての魅力は今後どうなるか、といった意見がありました。今回のゲームを見て、チェスに関しての私の個人的な意見をまとめます。

(1) これまで人間が培ってきたチェスのアイディア、研究は正しく、そして尊いものである

私が解説を書いたゲームでは特に、人間の感覚で理解できる部分が多く、コンピュータのチェスは異次元で、人間のチェスが終わったなどということは一切ないと断言できます。むしろこれまでのプログラムよりも、人間的な指し方を感じられる部分の多いAlphaZero のプレーに、大きく安堵している一面があります。チェスプレーヤーはコンピュータのない時代から、様々なアイディアを盤上で組み合わせ、実践と検証をし、チェスのより良い指し方を研究してきました。そうしたこれまでの人間のチェスの価値を再認識でき、自信を持ってこれからもチェスに励むことができると自分では思っています。

(2) コンピュータプログラムも人間も、これからもまだ強くなる

私の手元にあり、解析に普段使っているエンジンはStockfish とは違いますが、かなりそれに近い性能を持ち、人間のトップクラスよりも遙かに強いものです。そのエンジンでも今回のゲームは分からない局面が多く、評価が急に覆ることも多かったです。(長い時間、解析にかければまた結果は違うかもしれませんが) チェスのエンジンが人間よりも強くなって20年、Chess24 ではStockfish の評価が出て、私たちは試合を観戦します。そうした状態に慣れすぎると、コンピュータの示すことは常に正しく、人間の判断は間違いであると思い込みがちです。しかし、今回のマッチでStockfish が大敗を喫し、これまでのトップクラスのエンジンも完璧ではないと分かると、そうした思い込み、錯覚から私たちは覚めることになります。Deep Mind が今後もチェス、将棋のプログラムとして、AlphaZero の開発を進めるかは分かりませんが、もし進められれば今以上に強くなるでしょうし、そうでなくともいずれは、別のプログラムが今のAlphaZero よりも強くなるでしょう。そしてその時々で一番強い(とされる)何者かの評価、判断が必ずしも正しいわけではないと意識できれば、人間もこれまで以上に強くなれると思います。もちろん、強くなるスピードはコンピュータほどではないでしょうけどね。

(3) チェスは思っている以上に奥深いものである

今回のマッチの結果とゲームを見て、人間の考え方の価値が再認識できたり、一方で人間では理解しがたい面も見えたりと、様々な刺激を受けることができました。AlphaZero はこれまでのプログラムに一線を画す強さを示していますが、それでもStockfish 相手に全勝はできませんし、まだまだチェスを完全解析する存在ではないでしょう。チェスは世界中で多くの人が人生をかけてもわからないことが多く、人間の遥か先を行く最新のプログラムでも、最深部へは届きません。今回のニュースを知って、多くの人は、AlphaZero は、Google は、デミスハサビスはすごい! と思ったことでしょう。私ももちろんそれは感じますが、それ以上にチェスはすごい! そしてそんなゲームを作り、研究してきた人間という存在もすごい! と思うわけです。だから私は、チェスの魅力が失われるということはないと思っていますし、今後もこうしてチェスの魅力を感じられる機会を楽しみにしています。

ひとまずは以上です。もちろんチェスに携わる人間としての私の個人的な見解ですし、そう考える根拠は何? と聞かれると答えられない点も多々ありますが、その辺りはご容赦ください。将棋も対局も棋譜が公開され、将棋ファンが将棋というゲームを見つめる一つの機会になると良いですね。

2017/12/01

A New Ranker in Japan

12月になり、FIDE レイティングリストが更新されました。日本で変動のあったプレーヤーの中で目を引くのが、17歳のヒーバートケンジくんです。ドイツのトーナメント後、イタリアで開催されたWorld Junior に参加したケンジくんは、3連敗も途中ありながら、最後の3連勝で5.5/11 とイーブンの戦績になり、パフォーマンスは2300を超えました! 2大会の結果でレイティングは+162 となり、現在は2179、日本のランキング5位まで上がっています。

馬場さんのBehind the Scene では、ケンジくんの10R のゲームが取り上げられていますが、私が注目したのは別のゲームです。

Hiebert, K (JPN, 2017) - Brazdzionis, A (LTU, 2322)
World Junior under 20 Championship 2017 (2)

1. Nf3 Nf6 2. c4 c5 3. Nc3 d5 4. cxd5 Nxd5 5. e3 e6 6. Bc4 Nb6 7. Be2 Nc6 8. O-O Be7 9. b3 O-O 10. Bb2 e5 11. d4 exd4 12. exd4 cxd4 13. Nb5 Bg4 14. Nbxd4 Bf6 15. Rb1 Nxd4 16. Nxd4 Bxe2 17. Nxe2 Re8 18. Nf4 Bxb2 19. Rxb2 Qf6 20. Nd3 Red8 21. Rd2 Qc3 22. Re1 Rd5 23. Qe2 g6 24. Rc1 Qd4 25. Rcd1 Rad8 26. g3 Na8?



オープニングでは特に何かを得たというわけではないですが、ケンジくんは黒のブランダーを見逃さず、ワンチャンスをものにします。

27. Ne5!


黒はおそらく、dファイルに重ねたヘビーピースの力により、d3 のナイトは動けないと思っていたのでしょう。しかし、直前でa8 の悪い位置に行ってしまったナイトのせいで、2ルークとクイーンの交換が十分成立します。

27... Qxd2


27... Qc5 28. b4! Rxd2 29. bxc5 Rxd1+ 30. Kg2 R1d5 (30... Nc7 31. Qf3 f6 32. Qxf6 Rf8 33. Qe7+-) 31. c6 b6 32. Nd7!+- このように進んでも、白は黒の2ルークを分断し、勝つことができるでしょう。

28. Rxd2 Rxd2 29. Qf3!



黒の2ルークに対してクイーンを持つ白は、a8 のナイトの位置が悪いうちに早い攻撃を見つけなければいけません。b7、f7 への攻撃は有効そうに見えますが、白にはさらに隠された狙いがあります。

29... Rf8 30. Qf6!


このマスを抑え込まれてしまうと、黒はキングの身動きが取れなくなります。次はNe5-Ng4-Nh6 が強力です。

30... Rd4 31. f4!


キングを多少弱めますが、e5 のナイトを支え、さらに4段目をカットすることでNe5-Ng4 の狙いを復活させる素晴らしいアイディアです!

31... h6 32. Nxg6! Rd1+ 33. Kf2 1-0



g6, h6 のポーンをチェックしながら連続で取り、最後はh5 でチェックすれば、d1 のルークを取って白勝ちです。

今年は逢坂くんがモンゴルでCM タイトルを獲得、大多和くんがジャパンオープンの最終戦勝利で逆転の同時優勝、ケンジくんが今回の日本ランキングトップ10入りと、日本のジュニア勢の目覚ましい活躍が多い年になっています。彼らには私や南條くんに続く世代として、日本代表に入って日本のチェスプレーヤーを率いる存在になってもらいたいですね。もちろん、他の世代も彼らの活躍に刺激を受けて、奮起してもらえればと思います。

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