2013/09/30

Polgar Chess Festival 2013 - Event Report Vol.1 -


ケチケメートでのトーナメントを終え、ブダペストに戻ってきた翌日の29日、私にとって待ちに待ったイベントが開催されました。それはハンガリーでも最大規模のチェスイベント、Polgar Chess Festival です。ハンガリーの伝説とも言えるPolgar 3姉妹のイベントに、今年は丸一日参加するために、わざわざ28日を1日2試合のスケジュールに切り替えたのでした。(Polgar 姉妹についての詳しい説明は、過去の記事をご覧ください。)

会場はドナウ川沿いの美術館、Palace of Arts。アンダンテから、4番6番トラムのいずれかと、2番トラムを乗り継いで20分ほどで到着します。数人の友人を誘いましたが、朝から乗ってきたのはこちらで獣医学を学ぶ大学生のみ。まずは2人で会場へ向かいます。


会場に到着してすぐに目についたのは、エントランスの巨大チェスセットです。オリンピアードなど、こうした大きなチェスイベントには不可欠な道具ですが、やはりこの日も子供たちに大人気でした。


10時のオープン直後は、さほど大きなイベントがまだ開始されていなかったため、会場内の展示を軽く見て回ることにします。昨年は巨大な体育館が会場でしたが、今年は美術館の一階、二階が会場であるため、それに関連付けた催しが多くみられました。こちらは木製のチェスピース制作コーナー。


風船によるチェスセットの制作コーナー。このような子供が喜ぶチェス関連の出し物のアイディアには、ただ驚くばかりです。


ショップに並ぶのは、チェスピースを模した陶器製の食器たち。こちらは昨年も見かけましたが、やはりポーンの形をした塩コショウの瓶は少し欲しくなります。


今イベントのために運び込まれた商品は少数で、普段、美術館として営業している際に販売されているものが、ショップの大半を占めていました。その半分はこうした美術書です。


しばらくするとメインのイベントホールである2階では、子供たちによる10分切れ負けのミニトーナメントが開催されていました。参加している子供たちも、後ろで見守る保護者たちも真剣そのものです。


子供たちの対局場を離れてさらに奥に進むと、サイン入りのチェスボードを発見します。Polgar 3姉妹は当然として、他に誰のサインがあるのか聞いたところ、現世界チャンピオンのVishy Anand だという回答が! このボードはお客さんの誰かがゲットしたのでしょうか。


こちらがこのイベントメインの3姉妹。左から三女のJudit Polgar、次女のSofia Polgar、長女のSusan Polgar です。


会場の最も奥、2階の突当りが3人のPolgar たちが30面同時対局を行うホールでした。最初に行われるSusan Polgar の同時対局前に、使用されるチェスセットをチェックしてみると、なんとこのイベントのための特別仕様であることに気づきます! 普通に購入すれば、1つ1万~2万円近くはするであろうこの高級セットが、さらに特別製になって30面も用意されているとは舌を巻くばかりです。


予定の10時半を少し過ぎた頃、長女で元女子の世界チャンピオン、Susan Polgar の30面同時対局がスタートしました。参加者はすべて事前エントリーで、飛び込みはキャンセル待ち扱いということでしたが、このスペシャルイベントをキャンセルする人はほぼいなかったでしょう。


姉のSusan が対局を行う中、次女のSofia は子供たちからのサインねだり攻撃を捌いているところでした。メインとお客さんの距離の近さは、このイベントの1つの魅力であると感じます。


Photo by Imazeki

2階にはさほど広いスペースではありませんでしたが、フリー対局コーナーも設置されていました。しばらく見ていて、かなり強いなと思ったハンガリーのプレーヤーは、後で話をしに行ったところ2300クラスだという回答が。彼と指せなかったのは残念でしたが、代わりに4人のプレーヤーとブリッツを行いました。上の写真はFirst Saturday FM クラスの常連で、カメラマンでもあるMiklos さんとの試合の様子です。


会場には高めの軽食しかなかったため、昼過ぎに一度会場を離れて昼食を探しに行きます。多少中心街に戻っても、この日は日曜であまり店が開いておらず、結局マクドナルドに入ることにしました。ここでセットを頼んだはずでしたが、しきりにポテトは?と聞かれるので、じゃあそれもと答えると、トレーには2つのポテトが(笑) ここで文句を言ってキャンセルにしないあたり、私もまだまだです。

昼食後には友人と別れ、1人で会場に戻ります。ここまでは軽いウォームアップ。午後しばらくしてからが、このイベントの本番です! 使いたいすべての写真を1つの記事に乗せると読みづらくなるため、今回のレポートは2回に分けることにします。

Vol.2 へ続く

2013/09/29

CAISSA 2013 September IM 8th and 9th rounds - Good Ending -


9月のCAISSA 最終日は、午前と午後で1日2試合をこなし、夜にはブダペストに帰ります。いつも行くトルティーヤハウスの隣は、朝から昼まで時間限定オープンのパン屋さん。こちらで朝食を購入し、8R のVamos 戦に向かいます。


朝食から戻ってきたところ、会場謙宿泊所であるCAISSA PANZIO の前で、なにやらたくさんの木の実が転がっているのを発見します。はて、これは...?と拾い上げてみると


日本のものとは少し形が違いますが、これは栗でしょう。(見てわかると思いますが、左が殻で右が実です。) ちょうど1年前、イスタンブールでも多くの焼き栗屋台を見かけましたが、ハンガリーでも秋は栗の季節なのでしょうかね。こんな朝の発見があるのであれば、もう少し普段も早起きしてみるべきだったかもしれません。(いつもは起きやしないw)

Vamos, V (HUN, 2187) - Kojima, S (FM, JPN, 2357)
CAISSA 2013 September IM (8)

1. d4 d5 2. c4 c6 3. cxd5 cxd5 4. Nc3 Nf6 5. Bf4 Nc6 6. e3 Bf5



相手がExchange Variation を使うことは知っていましたが、敢えて勝ちに行きたいこのラウンド、十八番のSalv をチョイスしました。2100台のExchange を恐れているようでは、これから先、Salv をパートナーとして使うことはできません!

7. Qb3!?


昨年、ハンガリーで3回遭遇した流行のラインをVamos も指してくるとは。完全にビショップ交換からの消極的なラインを選択してくると思っていました。7. Bd3 Bxd3 8. Qxd3 e6 9. Nf3 Be7 10. O-O O-O= 黒は黒マスビショップを残して勝負です。

7... Na5 8. Bb5+!?



昨年夏にTo Nhat Minh も指してきたこのビショップチェックは、黒に大きな脅威をもたらさないでしょう。8. Qa4+ Bd7 9. Qc2 Rc8 10. Nf3 e6 11. Bd3 Bb4!? IM Kislik, E - FM Kojima, S / First Saturday 2012 November IM

8... Bd7 9. Bxd7+ Qxd7 10. Qb5 Nc6 11. Nf3 e6 12. Ne5!?


Vamos がピースをサクサク交換してドロー狙いなのはわかっていましたが、私はなんとか小さなチャンスを掴もうと画策します。

12... Nxe5 13. Bxe5 Ng4!?



試合前の準備でSlav Exchange のゲームをいくつか並べ、その中でウクライナのGM Stanislav Savchenko が、非常に似た形でこの手を指していたことを覚えていました。黒はe5 のビショップを追い返してf8 のビショップをフリーにし、ナイトは様子を見ながら、Ng4-Nh6-Nf5 と組み替えることも頭に置いておきます。

14. Bg3 Rc8 15. Qxd7+ Kxd7


白はRc8-Rc6 と指される前にクイーンを交換しておきますが、d7 の位置のキングは、黒にとって決して悪くないでしょう。もしa7-a6 と突いている形であれば、Nc3-Na4-Nb6 が厄介であるため、この手を挟まずにクイーンを交換したことは、黒にとって成功のポイントでもあります。(クイーンを交換しつつも、a7-a6 から出来たb6 のマスを利用するというアイディアは、インドのIM Lahiri とのゲームから学びました。)

16. Kd2 Bb4 17. Rac1 h5!?



これもSavchenko のアイディアですが、このポジションではさほど有効に働かないことは承知していました。それでも、何かしらアクションを起こさなければチャンスは作れないでしょう。17... Nf6 18. f3 Rc4 19. a3 Be7 20. Be5!=

18. h4?!


こうしたイマイチな応手を期待しての(実際は、まさか指してくるとは思いませんでしたが...)、18. h4 でした。黒マスビショップしか残っていないポジションで、黒マスに積極的にポーンを置くのは、あまり感心できる手ではありません。18. f3! Nh6 19. e4 dxe4 20. fxe4 f5!? 21. Kd3 Rhf8 黒は多少形を崩しますが、勝負にいくならばこうでしょう。

18... Nh6!


当然と言えば当然の一手! h4 のポーンを将来的なターゲットにすべく、今こそナイトを組み替えるときです。

19. a3 Be7 20. Nb5?!



実は試合中、この手を見て19... Be7 はミスだったのではないかと少しだけ考えました。しかし、ポジションを進めてみて、すぐにそれは杞憂に終わります。20. Bf4 Nf5 21. g3 Rc4 22. Kd3 Rhc8 23. f3 b5 これならば、黒が主導権を握ったままゲームは続くでしょう。

20... a6 21. Na7??


この思い切ったナイトの飛び込みが生きれば良かったのですが... 私も彼も、最初はこれで白の最悪ドローはあると勘違いしていました。

21... Rxc1 22. Rxc1 Bd8!-+



私も直前まで見落としていましたが、c7 をビショップで守れるマスは、d6 だけではありませんでした! 22... Bd6? 23. Bxd6 Kxd6 24. Nc8+ Kd7 25. Nb6+ Kd6 26. g3+/= (26. Nc8+= ならば、パペチュアルチェックでドロー))

23. Rc8


23. Nc8 Nf5 24. Bf4 Ba5+ 25.b4 Rxc8 26. Rxc8 Kxc8 27. bxa5 Nxh4 こちらのエンドゲームも、白にとって絶望的です。

23... Ba5+! 24. b4 Rxc8 25. Nxc8 Bc7! 26. Na7 Bxg3 27. fxg3 Kc7 28. b5 Nf5 29. a4 Nd6 0-1



哀れa7 に飛び込んだナイトは、そこで何もできずに力尽きたのでした。こうした勝ち方はラッキーでしたが、なんにせよこれでハンガリーで自身初の同大会4連勝!(大会をまたいでであれば、これまでも経験があります。) ノームのチャンスが消えたことで、逆に肩の力が抜けたのかもしれません。次のトーナメントからは、あまりノームのことを考えずにプレーしてみるつもりです。


午前の試合を終えて5階に上がると、そこではSean とGM Sax がコンピュータを使った研究を行っているところでした。かつてハンガリーを世界一に導いた名プレーヤーのレッスンは、私も機会があれば受けてみたいですね。

さて、通常通りの時間帯、午後3時からは逆転優勝と更なる記録更新をかけ、最終戦に臨みます。最後の相手は、ここまで1勝1敗1ドローのIM Sarosi です。

Kojima, S (FM, JPN, 2357) - Sarosi, Z (IM, HUN, 2257)
CAISSA 2013 September IM (9)

1. Nf3 Nf6 2. c4 e6 3. Nc3 d5 4. d4 Be7 5. Bf4 O-O 6. e3 c6 7. h3 Nbd7 8. Qc2



久々のQueen's Gambit Declined Bf4 ラインになりました。このポジションでは、8. c5 b6 9. b4 a5 10. a3 Ba6 11. Bxa6 Rxa6 12. b5 cxb5 13. c6 Qc8 14. c7 b4 15. Nb5 a4 というラインも調べていましたが、昨年の夏に成功した8. Qc2 を再び試してみることにします。

8... b6 9. Rd1


9. cxd5 exd5 10. Bd3+/- ここは早めにセンターのテンションを解放したうえで、積極的に組むのがベストとのコンピュータの評価。確かにこちらのほうがシンプルでした。

9... Bb7 10. a3 Rc8 11. Be2 a5 12. O-O Re8 13. cxd5



今度はここでは開くのがベストかやや怪しく、13. e4! dxe4 14. Nxe4 Nxe4 15. Qxe4 Nf6 16. Qc2 ならば、すでに黒マスビショップがポーンの外に出ているSemi-Slav Meran のようで、白としては満足な流れでしょう。この辺りがぱっとわからないのは、まだ私もQGD の理解が浅いということですかね...

13... exd5 14. Bd3 g6 15. Rc1 Nf8 16. Rfd1 Ne6 17. Bh2 b5 18. Ne5 Nd7 19. Nf3 Nf6 20. Qe2


この辺りは、ゆっくりと理想的なポジションを模索して細かくピースを動かします。

20... Bf8 21. a4?


あとで振り返ってみれば、このポーン突きから仕掛けるのはおかしかったのですが、代わりにどのようなプランがベストなのかよくわかりません。

21... b4 22. Nb1 Ne4?!



コンピュータの評価を見て目を丸くしました。ここは黒が多少良くなる変化があります。22... Nd7! 23. Nbd2 c5! 24. dxc5 Nexc5 25. Bb5 Bg7=/+ こうなると、21. a4 から仕掛けたプランが完全に失敗であることがわかります。

23. Nbd2 Nxd2 24. Rxd2 f6 25. Rdc2 Qb6 26. Qd1 c5 27. Bb5 Red8 28. dxc5


ここは28. b3 で待つ手もあったようですが、いずにせよ白はd4 のアウトポストと、d5 の将来的なターゲットを得たことで満足します。

28... Bxc5 29. Qe2 Kg7 30. Bg3 Kf7 31. Rd1 Kg7 32. Rdc1 Kf7 33. Nd2!



勝負にいくナイトのマヌーバリングは正しい判断でしょう! a3-a4 の最初のコンセプトである、a5 のポーンをターゲットにするプランが現実味を帯びてきました。

33... Be7 34. Nb3 Rxc2 35. Rxc2 Rc8 36. Bd7?!


この手ではアドバンテージを得られないことはわかっていたのですが、どうしても正解がわかりませんでした。36. Rxc8 Bxc8 37. Qd3! Nc5 (自然に見えるビショップ戻りには、驚きの応手がありました。37... Bb7? 38. e4! dxe4 39. Qd7! Ng7 40. Bc4+ Kf8 41. Nxa5 Qxa5 42. Bd6+- 全く見えません。) 38. Qd4+/= 確かにこうなれば、白はd4 のマスをしっかり抑えて、やや優勢で試合を続けられそうです。

36... Rxc2 37. Qxc2 Nc5! 38. Nxc5 Bxc5



ナイトまで捌いてしまうと、黒の問題はさほど気にならなくなります。(a5 のポーンの弱さなど) ほぼイコールに近そうですが、それでも試合は当然続けます。

39. Qe2 Ke7 40. Bb5 Kf7 41. Qg4 Bc6 42. Qh4 Kg7 43. Bxc6 Qxc6 44. Qf4


シンプルな44. b3 よりも、b8-h2 のダイアゴナルを先に抑えてしまうことのほうが重要に思ってこの手を指したのですが、次の黒の当然の一手を過小評価していました。

44... b3!



Oops! a4 のポーンを弱くするだけでなく、Bc5-Bb4 からa5 を守り、さらにはBb4-Bc3 という危険なスレットまで作れる可能性を含んでいます。こうなっては仕方がないので、パペチュアルによるFight for a draw にプランを切り替えます。

45. h4 h5 46. Qb8 Bb4 47. Bf4 Qd7 48. Qb6 1/2-1/2


ここでドローで合意しました。結局、連勝は4でストップ。なかなかマーくんのように、記録を更新し続けるのは簡単ではありません。このドローで今大会の通算成績は4勝2敗3ドローとなり、今日のRudakov とSean の試合結果を待って、最終順位が決まります。

9/21 15:30 FM Kojima, S 2357 - FM Lyell, M 2220 0-1
9/22 16:30 IM Meszaros, A 2273 - FM Kojima, S 2357 1/2-1/2
9/23 15:00 FM Kojima, S 2357 - Bird, A 2203 1/2-1/2
9/24 15:00 FM Kojima, S 2357 - Rudakov, A 2209 0-1
9/25 15:00 IM Farkas, T 2255 - FM Kojima, S 2357 0-1
9/26 15:00 FM Kojima, S 2357 - FM Keresztes, R 2237 1-0
9/27 15:00 FM Sean, W 2338 - FM Kojima, S 2357 0-1
9/28 10:00 Vamos, V 2181 - FM Kojima, S 2357 0-1
9/28 15:00 FM Kojima, S 2357 - IM Sarosi, Z 2265 1/2-1/2


アンダンテに戻って10分後、お寿司の差し入れが到着。なんという間の良い男(笑) 奥山さん、いつもありがとうございます!

2013/09/28

CAISSA 2013 September IM 7th round - Strong Passed Pawns -


日本のガイドブックには古い教会と記されている建物。正式名称がそうなんでしょうか...

5,6R で連勝となり、ようやく本来の自分のチェスが戻ってきたような気がします。昨年からのハンガリーでの最高連勝記録は3連勝なので、それに並びたい後半の7R ですが、相手はすでに3つ勝ち越しで、IM ノームのかかったインドネシアのSean です。Sean は午前10時からGM Gyula Sax のレッスンを受け、気合は十分といったところ。対して私は、セルビアに住むコーチ、Misha の1. d4 d5 のゲームにざっと目を通し、彼を迎えつつ準備を整えます。

Sean, W (FM, INA, 2338) - Kojima, S (FM, JPN, 2357)
CAISSA 2013 September IM (7)

1. d4 d5 2. Bf4!?



London System! 1. d4 にはこうしたサイドラインが多く存在するため、ある程度どのような駒組みで戦うか、誰しも考えておくと良いでしょう。私はしばらく前から、f4 のビショップに対しては、c7-c5 と決めています。

2... c5 3. e3 Nc6


3... cxd4!? 4. exd4 Nc6 ならば、Caro-Kann Exchange Variation になるため、Caro-Kann プレーヤーとしては、このチョイスもあり得るでしょう。しかし、わざわざポーンの交換を早めにしなくとも、イコアライズできるラインを考えてきました。

4. c3 Nf6 5. Nd2 Bf5 6. Qb3 Qd7 7. Ngf3 c4 8. Qd1 e6 9. Be2 h6



思い描いていた形の1つに到達しました。黒は展開、スペースいずれにおいても、全く不満がありません。

10. b4?!


試合後に彼がミスだったと指摘したのが、このクイーンサイドでスペースを確保するプランです。黒の将来的なb7-b5-b4 を止めるためにはシンプルそうな答えに見えますが、新しく別の問題を抱えることになります。

10... a6 11. a4 Be7!



黒として難しいのは、黒マスビショップを交換するべきか否かですが、私はここはビショップキープを選択しました。理由は後ほど。もちろん、11... Bd6 から黒マスビショップを交換して、e5 を巡る争いに入るのもありだと思います。

12. O-O O-O 13. h3 b5 14. Nh2


アタッキングプレーヤーの彼らしい手ですが、私ならばもう少しシンプルに指すでしょう。14. Ne5 Nxe5 15. Bxe5 a5!=/+

14... Qb7!



ここでクイーンの位置を変え、a6-a5 からのクイーンサイドのブレイクを狙うとともに、d7 のマスをナイトのために空けておくことにします。

15. a5 Rac8!?


白がクイーンサイドのポーンを固めてきたことで、少し頭にあったプランが現実味を帯びてきました。代わりに15... Nd7 からe6-e5 を狙うのもありでしょう。

16. Ng4 Rfe8 17. Bf3 Nxg4 18. hxg4 Bd3 19. Re1 Nxb4!!



私が黒マスビショップをキープしておいた1つの理由は、どこかでこのピースサクリファイスが有効に働くのではないかと考えたためです。このアイディアはかつて、2009年のベストゲームであるLi Hanbin 戦で成功させたことがあります。このタイミングでのサクリファイスを読み切っていたわけではないのですが、実戦的には黒の2コネクテッドパスポーンを止めなくてはいけない白の負担は、決して小さくないだろう考えていました。

20. cxb4 Bxb4 21. Be2 Bg6! 22. Rf1 Bf8!


1つ目はともかく、2つ目のビショップ退きはなかなか渋い1手だと自画自賛します。黒はゆっくりでも、黒マスのコントロールをキープしたうえで、bポーンを伸ばすことにします。

23. g5?!



この手は全く予想していなかったのでかなり面喰いましたが、決して良いアイディアではなかったでしょう。私が試合中、メインで考えていたのはルークをまわす手です。23. Rc1!? c3! (23... b4?! 24. Nxc4! dxc4 25. Bxc4=/=/+ このようにピースを切り返すのが、23. Rc1 のアイディアです。) 24. Nb3 c2 25. Qd2 Qc6!=/+ このようにして小骨のように突き刺さったc2 のパスポーンは、ピースの代償を補って余りあるものでしょう。

もう1つ、面白い変化としてコンピュータが挙げたのは、23. Bf3!? b4 24. Qa4 b3 25. Nxc4 Rxc4 26. Qxc4 (26. Qxe8 Rc8 27. Qa4 b2 28. Rae1 b1=Q 29. Rxb1 Bxb1=/+) 26... Rc8! 27. Qa4 b2 28. Qa2 ( 28. Rae1?! Bd3!-/+) 28... bxa1=Q 29. Rxa1 Rc6=/+ という変化です。こちらはピースを返すことで、最も危険な2コネクテッドパスポーンを消し去ってしまうプランです。ポーンストラクチャーの良さから、コンピュータは以前黒やや優勢評価ですが、実戦的にはこれが一番勝負できそうです。

23... hxg5 24. Bxg5 b4!-/+


白の手は明らかに遅く、黒のパスポーンに対抗する力を持っていません。こうしたポジションで黒にとってありがたいのは、黒はパスポーンを進めるというプランがわかりやすいことだと思います。私の経験上、このようなポジションではディフェンス側の白のほうが、正解である手を見つけるのが難しいものです。

25. Qa4 b3 26. Nb1 b2 27. Ra2 c3 28. Nxc3 f6!-+



e8 のルークにビショップで紐をつける同時に、g5 のビショップをアタックします。この美しい1手で白の29. Qxe8 のスレットは消滅し、黒からはナイト取り、ビショップ取り、プロモーションのトリプルスレットとなります! 28... Rxc3? 29. Rxb2 Qxb2 30. Qxe8 Qxe2 31. Be7 Kh7 32. Qxf8 Bd3 33. Ra1=

29. Bxa6 Qxa6 30. Rxb2 Rxc3 0-1


Sean はこの黒星で、今大会のノームチャンスを失いました。今月のFirst Saturday でも、0.5P 足りずにノームを取り損ねた彼には同情しますが、私もかつてこの地で涙をのんだ先輩プレーヤーです。私にも彼にも、まだ今後のチャンスがあるので、この悔しさをバネにまた頑張るしかありません。

一方で私は3連勝となり、ようやく勝ち越しに入りました。明日は1日2試合のハードスケジュールですが、午前中はレイティング最下位のVamos ですので、なんとか記録更新の4連勝を目指したいと思います!

9/21 15:30 FM Kojima, S 2357 - FM Lyell, M 2220 0-1
9/22 16:30 IM Meszaros, A 2273 - FM Kojima, S 2357 1/2-1/2
9/23 15:00 FM Kojima, S 2357 - Bird, A 2203 1/2-1/2
9/24 15:00 FM Kojima, S 2357 - Rudakov, A 2209 0-1
9/25 15:00 IM Farkas, T 2255 - FM Kojima, S 2357 0-1
9/26 15:00 FM Kojima, S 2357 - FM Keresztes, R 2237 1-0
9/27 15:00 FM Sean, W 2338 - FM Kojima, S 2357 0-1
9/28 10:00 Vamos, V 2181 - FM Kojima, S 2357
9/28 15:00 FM Kojima, S 2357 - IM Sarosi, Z 2265


夕飯は久々にSean と2人でトルティーヤを。彼は多少落ち込んでいるようでしたが、ノームチャンスを潰したばかりの私に対して、どこが自分の欠点なのかと素直に聞いてくるあたり、タフさとチェスへの深い情熱が伺えます。10月のFirst Saturday では、彼はGM クラスに初挑戦するそうなので、互いに研究を晒して困ることはありません。ブダペストに戻ってから、彼とのトレーニングの機会を設けようと考えています。


こちらは今日、会場に運び込まれたAndras Miszaros 氏の新刊のようです。内容は初心者向けのタクティクスですが、なかなかよくまとまっています。今回参加しているMeszaros, Sarosi, Farkas は、ここまで3人とも勝ちなしと大変苦戦していますが、このようにハンガリーのチェス発展のために貢献できるということは、素晴らしいことでしょう。


2013/09/27

CAISSA 2013 September IM 6th round - Compensation -


ハンバーガーやランゴッシュショップの並ぶ広場。なぜか3匹の子豚の小屋を連想させます(笑)

前日の5R にようやくCAISSA での初白星を挙げ、少しは気が晴れてきました。すでにノームのチャンスはなく、レイティングをプラスにするにはまだまだ頑張らなければいけませんが、それでもやはり1つの勝ち星で気分は一新します。いつも昼食はパンとバナナぐらいで簡単に済ませますが、この日は昼ハンバーガーをチャレンジしに、こちらに足を運んでみました。


しかし、一番高い全部乗せを頼んだのはやりすぎました。パテが2つ、サラミ、ベーコン、そして大量のチーズ... 連勝への景気づけということで、きれいに平らげました。そして、この日の対戦相手はケチケメートに住む青年、Keresztes, R です。去年の5月からの通算戦績は1勝1敗1ドロー。互いに勝ち越しをかけた対戦となります。

Kojima, S (FM, JPN, 2357) - Keresztes, R (FM, HUN, 2237)
CAISSA 2013 September IM (6)

1. Nf3 Nf6 2. c4 d6 3. d4 Nc6 4. g3 Bg4 5. Bg2 e5 6. d5 Nb8 7. h3 Bh5 8. Nc3 Nbd7 9. g4 Bg6 10. Nh4



King's Indian 崩れの謎のオープニングでしたが、白マスビショップを捕獲できれば、白としては満足な展開だと考えました。しかし、ここから予想より難解なポジションが現れます。

10... Ne4 11. Nxe4


11. Nxg6 Nxc3 12. Qb3 hxg6 13. Qxc3 Be7+/= これでもやや白良しですが、黒は一番の問題である黒マスビショップをBe7-Bg5 から交換できれば、さほど大きな問題は抱えないでしょう。

11... Bxe4 12. Bxe4 Qxh4 13. Qa4!?



これが私のアイディアで、とりあえずキャスリングを封じておき、あなたのキングどうするんですか?と訴えかけてみます。

13... g6! 14. Be3 Bh6 15. Bxh6 Qxh6 16. e3 Ke7


彼の回答はシンプルなもので、バッドビショップを交換したうえでピンを外し、ナイトをフリーにします。すでにイコールに近いかもしれないとは思いつつ、キングを安全にし、ルークをセンターに運べる白のほうがまだ指しやすいはずだと自分に言い聞かせ、手を続けます。

17. O-O-O a6!? 18. Kb1 b5 19. cxb5 axb5!?



彼はc5 のマスを抑えたうえで、クイーンサイドでポーンを捨てる決断をしました。これは少し足りていないだろうとも思いながら、キングの前に2つのオープンファイルを作られるのは、やはり嫌なものです。ただ、ここは19... Nc5 20. Qc2 axb5 21. b4 Nxe4 22. Qxe4 Ra4 23. Rc1 Kd8 として、ポーンを捨てずに戦うのもありだったでしょう。c7 へのアタックは、問題なく捌くことができそうです。

20. Qxb5 Nc5 21. Bc2 Rhb8 22. Qc4 Ra7 23. Ka1 Rba8 24. a3 Qf8


黒は唯一戦いに参加していないクイーンを、バックランクを回すように展開することで、クイーンサイドまで運ぼうとします。この辺りまでは予想通りでしたが、ここから少しディフェンスに走りすぎました。

25. Rc1?!



ここはセンターにいる黒キングめがけて、もう少し積極的に手を作りに行くべきでした。25. f4! Qg7 (黒クイーンが完全にクイーンサイドに回るまで、a1-h8 のダイアゴナルは開くべきではないと考えていましたが...) 26. Qc3! これでロングダイアゴナルもカバーし、e5 を攻める形を作れています。

25... Qb8 26. Ka2 Rb7 27. Qc3 Na6 28. Rhd1 Qa7 29. Rd2 Rab8 30. Bd1 Nc5!


黒はルークをbファイルに重ね直したうえで、ナイトもアクティブなマスに戻します。私はビショップでb3,a4 はカバーし続けるつもりでしたが、2段目をルークのために空けたために、e4 がカバーできなくなりました。これをどう解決するかが、白の次なる課題になります。

31. Qc4?!



31. f3?! e4! は、d3 へのナイトの侵入を許してしまうため、良くありません。代わりに31. Re2! Kf8= と指すべきで、ナイトフォークから逃れるこのシンプルなアイディアを見落としていました! しかし、黒もキングを安全圏に逃がすことで、1ポーン分の代償を伴ったまま、ゲームを続けることができそうです。

31... Rb4 32. Qc3 Kd8?!


c7 を守られた際にはなるほどと思いましたが、やはりキングがセンターにとどまるのは危険です。32... Kf8! から黒はじっくりとチャンスを待つべきでしょう。

33. Re2! Qa6?!



この手は私に、待ちに待った手を指すチャンスを与えてしまうことになります。33... Ne4 34. Qd3 Nc5 35. Rxc5!? (勝負のエクスチェンジサクリファイス! 白は最も厄介な黒のピースを取り除きます。) 35... dxc5 36. d6 cxd6 37. Qxd6+ Ke8 38. Qxe5+ Kf8 39. Rd2 これはまだまだアンクリアーですが、今度は白がエクスチェンジの代償を十分に得てプレーできるでしょう。

34. f4!


25手目で躊躇したこのブレイクを、今度こそ実行に移します。今度はa1-h8 のダイアゴナルが開くことは白にとってのみ好ましく、e2 に回ったルークもさらに活躍のチャンスを拡大できそうです。

34... e4??


Keresztes は残念ながら時間切迫のため、ここで力尽きました。白はシンプルなタクティクスでピースアップとなります。代わりに34... R8b7! 35. fxe5 Nd3! 36. Rb1 Nxe5 37. Rf2+/= ならば、黒はなんとかe5 のポーンを取り返し、1ポーンダウンで試合を続けられたでしょう。

35. Qf6+ Ke8 36. Rxc5!+-



彼はキングの守りばかりをチェックしていて、6段目の利きが見えていなかったのでしょう。ここまではうまく指していただけに、ちょっぴり悲しい結末です。

36... Rc4 37. Rc2 Rxc5 38. Rxc5 Qa7 39. Rc4 Kf8 40. Qh8+ Ke7 41. Rxe4+ 1-0


久々の連勝でようやく流れを掴めてきた気がします。しかし、今日は我が親友にして最大のライバルである、インドネシアのSean との直接対決! 彼は午前中にGM Sax とのトレーニングをこなしてくるというタフぶりですが、なんとか彼のノーム獲得を阻むつもりで、しっかりプレーしてこようと思います。

9/21 15:30 FM Kojima, S 2357 - FM Lyell, M 2220 0-1
9/22 16:30 IM Meszaros, A 2273 - FM Kojima, S 2357 1/2-1/2
9/23 15:00 FM Kojima, S 2357 - Bird, A 2203 1/2-1/2
9/24 15:00 FM Kojima, S 2357 - Rudakov, A 2209 0-1
9/25 15:00 IM Farkas, T 2255 - FM Kojima, S 2357 0-1
9/26 15:00 FM Kojima, S 2357 - FM Keresztes, R 2237 1-0
9/27 15:00 FM Sean, W 2338 - FM Kojima, S 2357
9/28 10:00 Vamos, V 2181 - FM Kojima, S 2357
9/28 15:00 FM Kojima, S 2357 - IM Sarosi, Z 2265

この日、周りのゲームはと言えば、ノームのチャンスが残るSean が午前中にIM Farkas を退け、勝ち越しを3つに伸ばします。すでに勝ち越し3のRudakov は、あっさりFarkas とドロー。ここを勝ちにいってノームに王手をかけるかと思っていたので (チェスプレーヤー的には、チェックをかけると言うべきかw)、 少し意外な結果でした。最も白熱したのはLyell - Meszaros 戦で、序盤で白がポーンアップしましたが、最終的には以下のようなドローの異色ビショップエンディングになりました。


FM Lyell, M - IM Meszaros, A

Mark にとっては惜しいゲームでしたが、私はMeszaros の粘りに一番感心しました。もう1列、左にすべての駒がずれていれば勝てるんですけどね。やはり劣勢でも諦めずに、一番ドローの可能性がある形を模索しなければいけません。


Mark の長い試合が終わるのを待ち、再びSean と3人で夕飯へ出かけました。この日はMark の案内で、ケチケメートに何軒かあるうち、お気に入りだというイタリアンレストランへ。ケチケメートのイタリアンと言えば、2月にブダペストから遊びに来てくれた友人2人と、会場近くのお店に足を運んだことを、懐かしく思い出します。

ここでは3人とも、3サイズあるうち最大であるXL のピザを頼みました。そしてSean が、さっきちょっと食べてきたんだよね~と私に一部をお裾分け。だったら最初からサイズ落とせよ!と突っ込みたくなりますが、ありがたくいただいておきました。

この日もチェスを始めとした日本のボードゲーム事情や、デリバリーピザの話など話題はいろいろでしたが、一番印象的だったのは、Mark から英語のレッスンを受けたこと。彼は生粋のイギリス人で、本職は英語教師です。私が「2004年のWorld Chess Championship で、Leko が最終戦、Kramnik にドローを取っていたら、ハンガリーチェスの歴史も変わっていただろうね」と話したところ、時勢がおかしいと突っ込みを受けました(笑) 私もSean も、時々Mark からは英語のミスの指摘を受け、会話を続けています。


そして夕食後、Sean が「ケーキ食べに行こう!」と我々を誘います。お前、さっき満腹だって言ってピザ分けたじゃねーかよ(笑) と苦笑しつつ、3人で夜遅くでも開いているケーキ屋へ。Sean は過去にアメリカのプレーヤーとこの店に足を運んだことがあり、ウエイトレスのお姉さんが美人なので、またここを選んだそうです。


結局、3人で1つずつ好きなケーキを選び、会場に買って帰ってきました。私はティラミスをチョイスし、これをつつきながら今日のSean - Farkas 戦を振り返りました。前回、2月の1人で黙々と鶏肉を煮る日々も良い経験ではあるのですが、今回のCAISSAは、間違いなくこれまでで一番楽しいケチケメート滞在になっています。でも、この日は明らかに食べすぎですね!

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