2014/11/30

Denousen Special Match - Kasparov vs. Habu Event Report -


昨日、六本木のニコファーレにて、電王戦の特別企画、Kasparov と羽生さんの対局イベントが開催されました。来年の電王戦Final の、振り駒役を務めるために来日したKasparov が、羽生さんとの対局イベントも行うと急に聞き、驚いたチェスファン、将棋ファンも多かったと思います。対局の結果は、すでに多くのメディアで伝えられているため、ご存じの方も多いでしょうが、ゆっくりと昨日のイベントを振り返っていきましょう。


イベントは28日の午前10時スタートでした。今イベントの司会、聞き手は女流棋士の藤田綾さんが務め、イベント開始の挨拶とKasparov と羽生さんの紹介などの後、2人の対局が始まります。持ち時間は25分+1手10秒増加のラピッドで、1局目はKasparov が白を持ちます。解説の塩見さんと聞き手の藤田さんの掛け合いで、1局目は初心者向けにルール説明を交え、簡単な解説でゲームを追っていきます。こちらの記事では、多少詳しく解説を入れていきましょう。

Kasparov, G (GM, RUS, 2812) - Habu, Y (FM, JPN, 2415)
Denousen Special Match (1)

1. Nf3 Nf6 2. g3 b6 3. Bg2 Bb7 4. O-O e6 5. d3 d5 6. Nbd2 Be7



オープニングは、まさかのKing's Indian Attack です。試合後にKasparov は、定跡での研究勝負を避け、地力が出るような勝負にするつもりだった述べています。ちなみにここでは、6... Nbd7 と指すほうがフレキシブルで、本譜では白がキングサイドを攻めるクラシカルなプランで優位を築きます。

7. e4! O-O


7... dxe4 8. dxe4 Nxe4? 9. Ne5! Nd6 10. Bxb7 Nxb7 11. Qf3!+- というKasparov の試合後の指摘には、羽生さんも含めてなるほど!という反応でした。「あ、指さなくて良かった」と、こっそり羽生さんが呟いたのも面白かったですね。

8. e5 Nfd7 9. Re1 c5 10. Nf1 Nc6 11. h4 Nd4?!



控室でライブを見ながら、おやっと思ったのがこの手からです。黒は積極的にナイトが跳びこみますが、d4 のポーンは守りづらく、すぐに落ちてしまいます。ちなみに奇しくも、私が2年7か月前にNigel Short と指した際、最初に出た疑問手も、11... Nd4 というナイトの跳びこみでした!(偶然、手数まで同じです。) 私たちにとって、つい指してしまう魔の手でしょうか(笑)

12. Nxd4 cxd4 13. Qg4 Re8 14. Qxd4 Qc7 15. c3 f6!


黒としては、なんとかカウンタープレーを作らなくてはいけません。Rf8-Re8 でe6 のポーンを守ったので、ここは白のセンターポーンを消し、逆に黒がポーンの厚みを作ることで反撃を試みます。

16. exf6 Bxf6 17. Qg4 Ne5 18. Bf4!?



ここはクイーンが逃げても良い局面ですが、Kasparov はクイーンを交換してエンドゲームに持ち込みます。第2局ではさらに顕著になりますが、経験豊富なマスターと、そうではないプレーヤーの差は、特にエンドゲームで出ると言えるでしょう。

18... Nxg4 19. Bxc7 Rac8 20. Bf4 e5 21. Bd2 e4 22. dxe4 dxe4 23. Bf4 Rcd8 24. Re2?!


しかし、Kasparov にも多少緩手が出ます。ここは24. Rad1 と指して、ピース交換を進めれば、e4 が弱点になっている黒は、粘るのが相当厳しいでしょう。

24... Be5 25. Ne3!?



Kasparov はかなり考えたのち、黒マスビショップを諦め、g4 の強力なナイトとの交換を決断しました。ここから続くKasaprov のフィ二ッシュは、見事なものでした。

25... Bxf4 26. Nxg4 Bc7 27. Rae1 h5 28. Nh2 b5 29. Bxe4!


ここでe4 をすぐ取って問題なく勝てるのかは、しっかりと読む必要があるでしょう。ポイントは、Rd8-Rd2 にどう対処するかです。

29... Bxe4 30. Rxe4 Rxe4 31. Rxe4 Rd2 32. Nf3!



指されてみれば、自然ですし、なるほどと思えます。この戻ってきたナイトと、ルークに組合せによるアタックで、白のアドバンテージは決定的なものとなります。

32... Rxb2 33. Ng5! Bd6 34. Re8+ Bf8 35. Rb8!


35. Ne6?! Kf7 では、多少勝負は長引くでしょう。ルークを一度離しておき、あらためてNg5-Ne6 の狙いを作ります。

35... Re2 36. Kf1 Re7 37. Rxb5 g6 38. Rb8 Kg7 39. c4 1-0



最後は単にcポーンを伸ばしていけば、黒には抵抗する方法が残っていません。序盤でのミスが最後まで痛手となり、挽回はできませんでしたね。それにしても、Kasparov の優勢を勝ちに結びつけるテクニックには、舌を巻くほかありません。


視聴者に見えているモニターには現局面に加え、世界最強のチェスエンジン、Houdini 4 の評価がバーになって映っています。これはチェスに詳しくなくても、形勢を目視しやすいようにという工夫ですね。最近のチェスライブサイトでも見かけるサービスですが、ここ2回の電王戦でも、このシステムを採用しています。また、会場の360度ディスプレーには、ヨーロッパの城をイメージした映像を流しており、一体どこで対局を行っているのかと驚いた視聴者も多かったでしょう。


1局目で試合開始の合図を出した私は、解説の塩見さんの様子を見守りつつ、南條くんと控室で待機します。控室には2人のプロ棋士が来ており、南條くんが細かくレクチャーを行っていました。先日、将棋会館に足を運んだ際もそうでしたが、こうしてプロ棋士と話をし、将棋とチェスの話ができるのは大変楽しい時間です。

カスパロフ相手の緊張からか、黒では羽生さんらしくない試合運びでしたが、白ではそれを挽回するような良いプレーを見せてくれました。続いて羽生さんが白を持つ、第2局の解説へ移りましょう。

Habu, Y (FM, JPN, 2415) - Kasparov, G (GM, RUS, 2812)
Denousen Special Match (2)

1. e4 g6!?



私は2局目の開始合図を出してからしばらく、Kasparov の初手を待ちましたが、まさかの1... g6 です! 羽生さんは直前のトレーニングでは、1... e5 が予想で、伝家の宝刀、1... c5 が来るなら光栄だと言っていました。

2. d4 Bg7 3. Nc3 d6 4. Be3 a6 5. Qd2 Nd7 6. h4!?


羽生さんはこの試合、白で攻撃的なセットアップを採用します。

6... h6 7. O-O-O b5 8. Nh3 Ngf6 9. f3 Nb6 10. Nf4 b4 11. Nce2?!



これは解説をしていて作戦ミスだと思ったところです。f1-a6 のビショップのダイアゴナルをカットしてしまえば、Nb6-Nc4 からのナイトビショップの交換が入り、黒にイコアライズのチャンスを与えてしまうでしょう。ここは思い切って、11. Ncd5 と跳びこむべきだと思います。

11... Nc4 12. Qd3 Nxe3 13. Qxe3 c6 14. Kb1 Qb6 15. Qd2 h5?!


ここでポーンを突き直し、ビショップをc1-h6 のダイアゴナルに使い直すアイディアは、なかなか巧妙だと感じました。しかし、この後の展開から振り返れば、15... Ra7! と指して、e4-e5 を防いでおくほうが黒にとって安全策だと、Kasparov は検討で述べています。しかし、Ra8-Ra7 というやや特殊なルークの動きは、私にはぱっと思いつかないでしょう。

16. e5!



黒マスビショップこそ失ったものの、キャスリングをしてキングが安全になり、dファイルのコントロールが強い白にとって、センターを開くことは大きなプラスになります。

16... dxe5


イベント後、夜にKasparov に会った際、ポーンを交換せずに16... Nd5! 17. exd6 Ra7 ならば、黒にはポーンの代償があり、本譜よりも良いと言われました。それを聞いた私と羽生さんは「??」といった状態でしたが、今並べてみてもはっきりとは分かりません。おそらく、キングさえ安全になれば、黒のダブルビショップが生きてくるということだと思いますが、それが十分にポーンの代償になるのかの判断は、非常に難解です。

17. dxe5 Nd5 18. Nxd5 cxd5 19. Qxd5 Ra7?!


ここでルークが上がる手は小さなミスでした。明らかに黒にとってベターなのは、19... O-O! 20. Qxa8 Bb7 21. Qxf8+ Kxf8 という変化で、2ルークとクイーンの交換であっても、キングが安全になり、ダブルビショップも持っている黒は、満足に戦えるでしょう。

20. Qd4 Qc7 21. Nf4!?



コンピュータは、21. f4 O-O と進めるほうが白にとって良いと判断しますが、人間の感覚からすれば、黒にダブルビショップを残させ、逆サイドキャスリングからの攻め合いで戦うのは(特にKasparov が相手では!)、少し嫌な感じがするでしょう。羽生さんの指した手は、ポーンを返しても黒マスビショップを返してもらう安全策で、実戦的にありだと思います。

21... Bxe5 22. Nd5 Bxd4 23. Nxc7+ Rxc7 24. Rxd4 a5 25. Rd5 Ra7 26. Bb5+ Kf8 27. Rhd1 Kg7 28. Bc4 Be6 29. R5d4 Bf5 30. Bd3


ここで羽生さんが再びビショップをぶつけたことで、ドローの可能性が高いと解説中は思いました。黒からビショップ交換を避け続けることはできないですし、かと言ってd3 を取ってもドローが濃厚です。しかし、この数手後、Kasparov が指した手に、私と塩見さんは度肝を抜かれます。

30... Be6 31. Bc4 Bf5 32. Bd3 Rc8!!



ダブルポーンを作らせる手はないと思っていたため、恥ずかしながら私は、この手はライブのミスだと思いました。しかし深く考えてみれば、f5 にポーンが移動してダブルポーンができても、黒はe7-e5-e4 とポーンを伸ばし、パスポーンを作るチャンスが早くなります!

33. Bxf5 gxf5 34. b3 Rac7 35. R1d2 e6 36. Kb2 Kf6 37. Rd6 Ke5!


そして、Kasparov はキングを素早くセンターに運びます。これに対して白は、キングがクイーンサイドから離れることができず、キングの働きに差が出始めます。

38. Ra6 Rc5 39. Ra7 R8c7 40. Rxc7?



そして、このルーク交換は白の決定的なミスとなります。「全てのダブルルークエンディングはドロー」という格言があるように(実際はもちろん違いますが)、白はルーク2つ残すほうが、ドローを取る可能性が高かったでしょう。40. Ra8! とルーク交換を避け、h ファイルにまわるなどして反撃を作るプランが有効そうです。

40... Rxc7 41. a3 Kf4!


黒のキングはさらに前進します! こうしたキングの使い方はエンドゲームの基本として学びはしますが、時間の無い中で10手近く前から構想を練り、それを実行するマスターの決断力と勇気には、ただただ感服するのみです。

42. axb4 axb4 43. Rd4+ Kg3 44. Rxb4 e5!



私はまず、44... Kxg2 とポーンを掠め取ると思いましたが、素早くパスポーンを作るアイディアのほうがシンプルです。

45. Rc4 Re7! 46. b4 e4 47. fxe4 fxe4 48. b5 e3 0-1


後ろからルークでサポートされた理想的なパスポーンを止めることはできず、白はリザインするほかありません。3回同一局面のドローを蹴り、素晴らしいアイディアをKasparov は見せてくれました。


2局目からは私も解説役に加わり、塩見さん、藤田さんとの3人体制で試合を中継していきました。自分で動画を見直し、何回「そうですね」って言ってるんだろうと苦笑しつつも、解説が分かりやすいというコメントを多く目にし、とても嬉しかったです。直接、感想のコメントをくれた友人たちも、ありがとうございます!


対局と検討戦の後は、Kasparov と羽生さんの対談、そしてインタビューが行われました。対談の中では色々と面白い話が飛び交いましたが「いくらコンピュータが発達しても、チェスは人と人との勝負であり、そこから生まれる感情や熱狂が大切である」というフレーズは印象的でした。これは思い付いた人であれば、誰にでも口にできることではありますが、実際にIBM と死闘を繰り広げ、その後も発達を続けてきたコンピュータと、人間にチェスプレーヤーの関わり方を見続けてきたKasparov が述べるからこそ、聞き入ってしまう言葉でしょう。今後、将棋の世界では、どのように人とコンピュータが関わりを持つか、私も見届けさせてもらうつもりです。


イベント後の打ち上げは、Kasparov 夫妻、羽生さん、南條くんたちと表参道の日本食へ。ここでの話題は、チェスや将棋のルーツとなるチャトランガや、そこから派生したアジアのボードゲームたちの話、日本の話、ロシアの現状の話など、多岐に渡りました。緊張する席ではありましたが、とても有意義な時間でした。

今回のKasparov の電撃来日とイベントに、まだ日本のチェス界と将棋界は興奮冷めやらぬという状況で、そこからまたどんな波紋が生まれるかは、まだまだ予想できません。私も今まで以上に多くの人と関わり、チェスと将棋のことについて考えさせられた期間でした。単純な感想ではありますが、今後ますます、チェスと将棋に興味と関わりを持つ人が増え、互いの交流となる活動を続けられればと思います。最後になりましたが、今回のイベントでご協力くださった多くの皆さん、本当にありがとうございました。

2014/11/26

Former World Champion Garry Kasparov vs. Yoshiharu Habu


今日は、来年4月に開催される電王戦 Final の記者発表会に出席するため、六本木のニコファーレに塩見さんと足を運んできました。電王戦が5対5の団体戦形式になって3回目となる今回、連敗中のプロ棋士側はなんとしても白星を挙げたいでしょうが、コンピュータ側も強豪ソフトが揃っています。


マイクを持っている平岡さんは、今回の先鋒を務めるApery の開発者です。平岡さんはHEROZ のメンバーであり、CHESS HEROZ の開発にも携わっています。先週金曜日には、一緒に三田祭に足を運び、チェスと将棋の出展に顔を出してきました。第24回世界コンピュータ将棋選手権の優勝ソフトであるApery に対するプロ棋士は、斉藤慎太郎五段です。


電王戦ではすっかりお馴染みとなった、Ponanza 開発者の山本さんとは今年の4月に知り合い、4日前のニコ生でもお世話になりました。副将のPonanza に対するのは、村山慈明七段です。他の開発者とプロ棋士が頭を下げ合う中、ファイティングポーズを取り合ったのは、粋な演出でしたね。

そして5人ずつのプロ棋士と開発者による、組み合わせ発表と挨拶が終わると、次はどちらが先手を多く持つか決める振り駒です。前回は安倍晋三首相が登場したということで、一体今回は誰が振り駒を行うのかに注目が集まる中、壇上に現れたのは...


Garry Kasparov です!


Kasparov と言えば、チェスファンならば知らぬ人はいない、伝説的な強さを持つ元世界チャンピオンです。Kramnik に敗れるまで、15年世界チャンピオンの座に君臨し、2005年に世界ランキング1位を保ったまま、現役引退を表明しました。その後は政治家としての活動を続けながら、各国で時々、エキシビジョンの対局や同時対局を行ってきました。

そしてなにより、Kasparov は、IBM の開発したチェスプログラム、Deep Blue に敗れたことで、一般の人にも知られているのではないでしょうか。それだけ20世紀末に、チェスのチャンピオンがコンピュータに敗れたことは、チェスファンにとどまらず、多くの人に衝撃を与えた出来事だったと思います。そんな経験を持つKasparov だからこそ、プロ棋士が将棋プログラムに押されつつある電王戦に関わる意義があるでしょう。今後、人間と将棋がコンピュータを介し、どのように繋がっていくべきかを伝える役割として、ぴったりの人選です。


振り駒の結果は、歩が3枚でプロ棋士側が先手を多く持つこととなりました。団体戦になって3回目の電王戦ですが、ここまでは全てプロ棋士側が多く先手を持っています。振り駒後はKasparov から「今回のイベントでの人間の勝利とは、5試合で1勝でもすることだ。なぜならば、それは人間の全力中の全力が、まだコンピュータを上回ることの証明になるからだ」とコメントしました。これを将棋ファンがどのように受け止めるかは、皆さんの判断にお任せしますが、私はそう言う考え方もあるかと納得しています。


そしてKasparov の来日目的は、当然のことながら、電王戦の振り駒だけではありません。この気になるテロップと...


この見覚えのありそうな手の映像の後に登場するのは...


羽生さんです! このKasparov と羽生さんの対局こそ、今年の日本で行われる最大のビッグチェスイベントです。後で将棋連盟の谷川会長もおっしゃっていましたが、このイベント発表時が最も盛り上がったように感じます。それだけ、羽生さんに人気は絶大ですね。

当たり前ですが、このイベントについては私も知っていましたが、ドワンゴから関係者以外、内密にと念を押されていましたので黙っていました。もっと早く知りたかった!と思ってらっしゃる日本のチェスファン、将棋ファンの皆さんには、申し訳ないです。今夜は情報解禁ということで、詳細について語りましょう。

イベント内容: Garry Kasparov vs. 羽生善治
日時: 2014年11月28日、10時~13時
ゲーム形式: 25分+1手10秒 × 2試合(色を交代して白黒1局ずつ)
解説: 塩見亮(2003全日本チャンピオン)、小島慎也(2005-2008,2010全日本チャンピオン)
聞き手: 藤田綾(女流初段)
通訳: 南條遼介(2010,2012,2014全日本チャンピオン)
電子ボード担当: 中村尚広

このような内容とメンバーでお送りします。急すぎて驚きだと思いますが、明後日金曜日の午前中からスタートです! イベント公式ページでは、私はゲストとなっていますが、1試合目を藤田さんと塩見さんにお願いし、私は2試合から解説役として加わる予定です。イベント内容や、Kasparov と羽生さんのプロフィールなどについては、以下のページをご参照ください。

Denousen Special Chess Match
【電王戦特別企画】ガルリ・カスパロフ vs 羽生善治チェス対局

今回のイベントは一般観戦は無しで、ニコ生での放送のみとなります。ご了承ください。それでは皆さん、急な発表となりましたが、今回のイベントを楽しみましょう! 明後日は3時間、よろしくお願い致します。


発表会の締めは、Kasparov を中心に、電王戦Final のメンバー全員で!

2014/11/25

A Special Shogi Day


ジャパンオープン終了直後の今日は、千駄ヶ谷の将棋会館に足を運んできました。羽生さんの招待を受け、来日中のブラジルのIM James Mann さんたちと一緒に、プロ棋士の対局観戦をするためです。案内された対局室では、森下さんや塚田さんが対局をちょうど始めるところでした。わずかな時間でしたが、プロ棋士が真剣に対局する、緊張感のある空気を感じることができました。


4階の対局室見学の後は地下のスタジオを案内され、さらに実際に将棋を指すこととなりました。私は主にカメラマンに徹し、James Mann さんとポーランドのStanaszek さんが、羽生さん、野月さんと対局する様子を見守ります。野月さんは、昨年の電王戦で解説をしている姿を見かけましたが、実際にお話しするのは初めてのことです。James さんは2人のプロ棋士の平手で挑み、当然2戦とも敗れましたが、非常に高い実力があることが分かりました。

そして羽生さんとは2010年からの付き合いですが、実際に目の前で将棋を指している姿を見るのは初めてでした。私と羽生さんの付き合いや、ブログへの登場頻度を考えれば、これを聞いた読者の皆さんにとって、なにより私自身にとっても、とても意外なことだと思います(笑) 他にも蒲田にお住まいで、以前私のレクチャーに参加してくださったプロ棋士の藤森哲也さんも、顔を見せてくれました。久々の再会、とても嬉しかったです!

対局後は羽生さん、野月さんのお2人とも、とても丁寧に検討と指導を行っていました。プロ棋士による英語と日本語での将棋の指導も、目にするのは初めてのことです。チェスのプレーヤーに対しては、ポーン、ルーク、ビショップ、プロモーションといったチェスの用語を使うんですね。チェスプレーヤーとしては、知らなかったことが少し恥ずかしいです(笑) 私自身も少し将棋を嗜むので、技術的な内容ももちろん面白かったです。

そしてさらに思ったことですが、国際将棋フォーラムの各国代表とは言え、プロ棋士が(特に日本トップの棋士である羽生さん自ら!)、アマチュア相手にこれほど丁寧に指導をするということ自体にも驚きました。例えばトロムソのオリンピアードで、私たち日本代表がカールセンに会えたとして、時間を割いて指導をしてくれるでしょうか。オリンピアードと国際将棋フォーラムでの参加選手の数の違いや、イベント内での羽生さんとカールセンの立場の違いもあるので、完全に同じようには考えられないですが、海外のファンに対するプロの接し方を考える、良いきっかけになったことは間違いありません。今日、将棋会館に足を運んだ最大の成果です。


対局後はピノーさんも駆けつけてくれ、一緒に昼食へ。ここでもブラジルやポーランドでのチェス、将棋の話が中心で、とても面白かったです。私もロンドンで森内さんと一緒に、Kramnik に将棋のルールを教えたことを、懐かしみながら話したりしました。James Mann さんとは、ジャパンオープン中はゆっくり話ができませんでしたので、この日、時間を取れて良かったです。今日お世話になった皆さん、本当にありがとうございました!

Japan Open 2014 Day3


Photo by Hiebert

私にとって今年最後の国内公式戦、ジャパンオープンが終わりました。結果は5勝3ドローの6.5/8 で、無事に優勝することができました! ハンガリーに戻る直前の公式戦で、こうして結果を出すことができたことは、素直に嬉しいですね。

1st Place 小島慎也 (FM, JPN, 2441) 6.5/8
2nd Place Averbukh Alexander (JPN, 2294) 6/8
3rd Place 小林厚彦 (JPN, 2182) 6/8
4th Place 中村龍二 (JPN, 2140) 5.5/8


他には南條くん、James Mann さん、杉本さんの3人が、5.5P で賞金を獲得しています。入賞者の皆さん、おめでとうございます! そして参加者の皆さん、お疲れ様でした。7R の南條くんとの試合を載せておきます。

Kojima, S (FM, JPN, 2441) - Nanjo, R (IM, JPN, 2449)
Japan Open 2014 (7)

1. Nf3 d6 2. d4 Nf6 3. c4 g6 4. g3 Bg7 5. Bg2 O-O 6. O-O Nbd7 7. Nc3 e5 8. e4 c6



南條くんとは初のKing's Indian です。このクラシカルなラインは、ハンガリーでの多くの実戦を経て、ある程度の自信をつけています。

9. h3 exd4 10. Nxd4 Nc5 11. Be3 Re8 12. Qc2 Qe7 13. Rfe1 Ne6 14. Rad1 Nxd4 15. Bxd4


白はナイトを1組交換してしまっても、スペースとセンターのコントロール、長期的なd6 へのプレッシャーなどでアドバンテージを保ち続けることができるでしょう。そして、ここからの南條くんのプランは不正確なものでした。

15... Be6 16. b3 a6 17. f4 Nh5 18. Bf2 b5?



a7-a6 を見たときはまさかと思いましたが、やはり突いてきました。しかし、h1-a8 のダイアゴナルが危険な状況では、このポーン突きは早すぎます。

19. c5!


白は一時的にポーンを捨てますが、その後でe4-e5 とポーンを進めると、以下のようなアドバンテージを得ることができます。

h1-a8 のダイアゴナルを開いて、c6 のポーンをアタックできる。
② d6 のマスをコントロールし、Rd1-Rd6 や、Nc3-Ne4-Nd6 を狙うことができる。
③ 黒の黒マスビショップの利きを遮断できる。
④ 黒のナイトの行き場を奪い、将来的にg3-g4 のスレットを作ることができる。

これが分かっていても、d6 を取られるわけにはいかないため、黒はこのポーンサクリファイスを受け入れるしかありません。

19... dxc5 20. e5 c4 21. bxc4 Bxc4 22. Bxc6 Rac8 23. Bxe8 Qxe8+-



ビショップがc4 に行き、h3 が当たらなくなったため、白は安心してエクスチェンジを取ることができます。黒は黒マスビショップとナイトの働きが大いに不満であるため、十分な反撃を作ることも難しいでしょう。

24. Qd2 Be6 25. Kh2 f5 26. Nd5 Qf7 27. Nb6 Re8 28. a4 bxa4 29. Nxa4 Bb3 30. Ra1 g5


唯一、おやっと思った反撃ですが、gファイルを開けばルークを持っている白もアタックのチャンスが増えるので、f4 のポーンの弱さはさほど気にせず、攻撃中心でプランを考えます。

31. Nc5 Bc4 32. Rac1 gxf4 33. gxf4 Bh6 34. e6!



これを読み切っての32. Rac1 でした。白はポーンを返してしまうことでf4 への反撃を遅らせ、その隙に決定的な攻撃のチャンスを得ます。

34... Bxe6 35. Nxe6 Rxe6 36. Rc8+ Bf8 37. Bc5 Rxe1 38. Qxe1 Qa2+ 39. Kg1 Nxf4 40. Rxf8+ Kg7 41. Qe5+ Kg6 42. Qxf5+ 1-0


この試合の後、最終戦は危ない内容ながら、Alex 相手に黒でドローを取り、単独優勝を決めることができました。2000オーバー、2200オーバーも多かった今大会、きっちりと勝つことができたことは、今後の良い自信になりそうです。私はこれで今年の公式戦は終わりですので、後日、戦績をまとめた記事もアップしようと思います。

私は来週の火曜日、12/2 の夜にハンガリーに戻ります。今日が年内最後に会う機会になった人も多いかと思いますので、少し早いですが、皆さん良いお年をお迎えください。あと1週間、もう少し細々とした仕事やイベントをこなしてから日本を発ちますので、まだ会う機会のある方は、引き続きそちらでもよろしくお願いします。

2014/11/24

Japan Open 2014 Day2


Photo by Uesugi

ジャパンオープン2日目のレポートは、時間がないのでさっくりいきます。私はSimon とドローの後、来月ともにハンガリーで試合をする酒井くんに勝ち。彼は初日に南條くん、2日目にJames Mann と2人のIM を破っており、最近の好調ぶりが伺えます。私も酒井くんとの試合では、勝勢の中盤から粘られ、最後は怪しくされてしまいました。そして3R は龍二さんに黒を持っての勝負です。

Nakamura, R (JPN, 2140) - Kojima, S (FM, JPN, 2441)
Japan Open 2014 (6)

1. d4 Nf6 2. c4 e6 3. Nc3 Bb4 4. Nf3 d5 5. e3 O-O 6. Bd3 c5 7. O-O dxc4 8. Bxc4 Nbd7



黒で勝ちにいくつもりだったこの試合、Nimzo-Indian をチョイスします。以前、吉村先輩と指した形を研究し直し、新しいRubinstein Variation 対策を投入しました。

9. a3 Ba5 10. Qe2 cxd4 11. exd4 Bxc3 12. bxc3 Qc7 13. Bb2!?


ここは13. Bd2 と指す形がよりポピュラーですが、指されてみてb2 も嫌な位置だと感じました。c3-c4 から、d4-d5 と仕掛けるブレイクに黒は常に注意しなければいけません。

13... b6 14. Bd3 Bb7 15. c4 Rac8 16. Rac1 Rfe8 17. Rfe1 Nh5?!



h7 のサクリファイスはできないと読んで、Nf6-Nh5-Nf4 というスタンダードなマヌーバリングで仕掛けますが、これが有効ではありませんでした。

18. Ng5 Nf4?! 19. Bxh7+ Kf8 20. Qg4?


ここは、20. Qd2! Nxg2 21. Qb4+ Re7 22. Rxe6!+- という変化を互いに見落としていました... 本譜では白は良くなりません。

20... Nf6 21. Qg3 Nxg2 22. Re5 Nh5 23. Qg4 Nf6 24. Qg3 Nh5 25. Qg4 Nf6 26. Qg3 1/2-1/2



最後はお互いどうしようもありません。3回同一を避けて勝負をするのは、リスクが高いでしょう。早い段階で勝ちにいけなくなってしまったのは残念ですが、新しい発見があったので良しとします。

明日は1B で南條くんに白を持ち、再び勝負のラウンドを迎えます。対戦相手はAlex だとばかり思っていたので、少し意外でしたが、半年ぶりの南條くんとの公式戦、楽しんでこようと思います。


Photo by Okabe

そして今日は試合後、慶應チェスクラブの後輩である古谷くん、時田さんとともにニコ生に出演してきました。私が担当したのは、一昨日リリースされたCHESS HEROZ の宣伝コーナーです。生放送で多くの読者が見守る中、チェスのルール説明をしながら後輩と指すのはとても緊張しましたが、終わってみればとても楽しかったです。現役の2人からは、明日まで開催されている、三田祭のチェスカフェの宣伝もしてもらいました。最終日の明日、放送を見て足を運んでくれるお客さんがいると良いですね。ドワンゴ、HEROZ、そして視聴者の皆さん、今日はありがとうございました!

2014/11/22

Japan Open 2014 Day1


Photo by Yumiko Hiebert

今日からの3連休、私はジャパンオープンに参加します。東京での公式戦は、7月のサマーオープン以来4か月ぶりとなります。事前のエントリーに加え、南條くんや小林くんも参加することとなり、上位の厚さは相当なものになっています。

私は初戦で蒔田くん、2戦目で東芝さんに勝ち。3試合目では初めて松尾さんに白を持っての対戦です。

Kojima, S (FM, JPN, 2441) - Matsuo, T (CM, JPN, 2247)
Japan Open 2014 (3)

1. Nf3 Nf6 2. c4 c5 3. Nc3 g6 4. d4 Bg7 5. e4 cxd4 6. Nxd4 Nc6 7. Nc2 d6 8. Be2 O-O 9. O-O Nd7 10. Bd2 a5!?



今日は気分を変えてNd4-Nc2 と退く変化を指してみます。かつてアメリカで、FM Shahade(先日来日したGreg Shahade の父親)に、10... Nc5 と指さされたことがありますが、松尾さんはb2-b4 を止める本譜の手を選びました。c5 のマスを抑える代わりに、b5 が弱くなるので、白はそれを利用します。

11. Na3 Nc5 12. Nab5 Be6


私がかつて勉強したBologan の試合は、12... Nd4 13. Nxd4 Bxd4 14. Bh6 Bg7 15. Bxg7 Kxg7 16. Bg4!? と進むものでした。本譜ではd4 にナイトが跳びこんでこなかったため、ビショップでそのマスを抑えてしまい、b5 に強いナイトを残すことにします。

13. Be3! Ne5 14. b3 f5 15. exf5 Bxf5 16. f4 Nc6 17. Rc1 Nb4 18. g4!



f7-f5 から手を作るアイディアは、野口さんや岸川くんと指したときに学びました。白はd3 へのピースの侵入をうまく捌けば、b6, d5, e6 といった重要なマスのコントロールと、e7 へのプレッシャーで、優位に試合を進めることができます。

18... Bd3 19. a3! Bxe2 20. Qxe2 Nc6 21. Rb1+/=


私の持っている最新ではにエンジンは曖昧な評価を続けていましたが、ここではっきりと白の優勢を示しました。次にNc3-Nd5 と跳びこむプランは白にとって明確で、黒が困るものでしょう。

21... Rf7 22. Nd5 e6 23. Bxc5!



少し悩みましたが、ここはマテリアルを取りにいって問題ないと判断しました。d5 のナイトは厄介な存在ですが、e7-e6 とポーンを進めれば、d6 のポーンが弱くなってしまいます。

23... exd5 24. Nxd6 Re7 25. Qf3! dxc4 26. Qd5+ Kh8 27. bxc4+-


1ポーンアップでナイトが理想的な位置に居座り、b7 にもプレッシャーをかけているので、これでゲームオーバーです。

27... Qd7 28. h3 Rd8 29. Rxb7 Qxb7 30. Nxb7 Rxd5 31. cxd5 Bd4+ 32. Kh1 Bxc5 33. Nxc5 Nd4 34. Rd1 1-0



最後は34... Nf3 35. Kg2 ぐらいで終わりでしょう。35. d6?? ならば大逆転で黒勝ちですね(笑) Maroczy Bind は、長年指し続けていて好感触ですので、余裕ができ次第、何か連載を書くかもしれません。


ブラジルのIM James Mann さんは、3R で塩見さんとドロー。最近は将棋の活動がもっぱらで、チェスの公式戦は久々とのことです。

他の上位勢は、Simon と龍二さんが3連勝で、4R はSimon - 小島、塩見 - 中村(龍) というペアリングになっています。突如参加を決めた南條くんは、2R で酒井くんに負け。リガ以降、なかなかぱっとしないですね。


初日の夕飯は、ゆみさんとケンジくんの行きつけである蒲田のインドレストラン、エベレストへ。ゆみさんにはこの日、素敵な誕生日プレゼントもいただきました。ありがとうございます!

2014/11/21

A New Chess Application Released - CHESS HEROZ -


本日、Google Play で新しいチェスアプリ、CHESS HEROZ が公開されました。将棋ウォーズで有名なHEROZ が開発したこちらのアプリは、私が春から監修をしており、ようやく皆さんのお手元に届けられることとなりました! 是非、インストールをして遊んでみてください。

CHESS HEROZ

CHESS HEROZ では、将棋ウォーズ開発のノウハウを生かして、定跡の確定や駒の捕獲時、チェックメイトの際などに特別なエフェクトがかかるようになっており、従来のオンラインチェス対戦サービスよりも、ゲーム中のビジュアルが楽しめるようになっています。また、将棋ウォーズでいう棋神の機能もあり、好きなタイミングでコンピュータに3手連続で手を指してもらうことができます。この機能はチェスの女神の名前を取り、Caissa と名付けられています。対戦中の画面や、Caissa については、上記リンク先の動画をご参照ください。

私も今日、早速無料アカウントの1日のリミットである、10試合を指しています。明日からも少しずつ指していくつもりですので、CHESS HEROZ 上で私とマッチングした人は、よろしくお願いします! 今日はコンピュータとの対戦ばかりで少し寂しかったです... さらに明後日の23日21時からは、ニコ生にも出演して宣伝させていただきますので、よろしければそちらもご覧ください。

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