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2021/03/25

Understanding the Ruy Lopez Vol.6


Vol.5 で説明したAronian Variation の実戦紹介です。私がこの変化を初めて投入したのは、昨年のカペルでした。格下相手とは言え、初めてのオープニングを公式戦で投入するときは、いつでもドキドキです。

Primel, D (FRA, 1893) - Kojima, S (IM, JPN, 2397)
Cappelle la Grande 2020 (3)

1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bb5 g6 4. O-O Bg7 5. c3 a6 6. Ba4 Nge7 7. d4 exd4 8. cxd4 b5 9. Bb3 d6 10. h3 O-O 11. Nc3 Na5 12. Bc2 Bb7 13. Qd3!?

e4 に対するプレッシャーを緩和しつつ、将来的にb1-h7 のダイアゴナルを意識したアタックを目指します。

13... Qd7 14. Bg5 h6 15. Bf4 f5!?


この変化で白のセンターに対する黒の反撃として、非常に魅力的なポーンのブレイクです。f6 ではなくe7 に展開したナイトは、fポーンをブロックすることなく、f7-f5 のサポートに使えます。キングのディフェンスこそ多少弱めますが、fファイルを開いてルーク活用する、e4 ポーンを崩してa8-h1 のダイアゴナルを開く、d5 のマスを得るなど、黒にはメリットがいくつも考えられます。数手前にQd8-Qd7 と上がった手は、f5 のマスを支えると同時に、弱くなったe6 のマスをカバーする働きがあります。

16. e5 Kh7 17. exd6 cxd6 18. Rad1 Nc4

d6 でポーンを交換すれば、fファイルこそ開かなったものの、b7 ビショップの働きが強力なことから黒満足な展開です。dポーンは互いに孤立ですが、白のd4 ポーンのほうがわずかに狙われやすいのではないかと思います。

19. Bc1 Rac8 20. Rfe1 Rfe8?!


しかし、このオープンファイルで張り合う手が緩手で、次の白の手を見落としていることが分かります。20... Nd5! 21. Nxd5 Bxd5 と進めば、d5 のマスをがっちりと抑えて黒にアドバンテージがあったでしょう。

21. h4! Bxf3!? 22. Qxf3 h5

h3-h4-h5 のブレイクを軽視しており、ルークがfファイルから離れてf5 のポーンの守りを減らしてしまったことを後悔しました。そこで強力な白マスビショップとの交換でも、f3 ナイトを消してNf3-Ng5 のチャンスを潰し、h6-h5 でhファイルからのブレイクを止めておきます。

23. Bb1 Nc6! 24. Ne2 Nxd4! 25. Nxd4 Bxd4 26. b3?


バックランクを利用したタクティクスでポーンをかすめ取りましたが、相手の緩手に救われています。26. Rxe8 Rxe8 27. Qf4! Bg7 28. g4! ならば、白の反撃は強力で難しい形勢だったでしょう。

26... Rxe1+ 27. Rxe1 Ne5! 28. Qf4 Qg7!

相手はd4 のビショップに行き場がなく、h6 でのチェックが受けずらいと計算しましたが、この手がディスカバードチェックの狙いでd4 のビショップを守りつつ、ぴったりh6 も抑える手になっています。

29. Rd1 Ng4! 30. Rxd4 Qxd4 0-1


最後もバックランクをうまく活用したタクティクスが決まりました。f7-f5 からe4 のポーンを崩すブレイクは、Vol.5 で紹介したようにリスクが高く、失敗する可能性も大いにあります。だからこそリスクが低く、メリットの多いタイミングを見極められれば、強力な武器になりえるでしょう。このAronian Variation は、f7-f5、c7-c5 の2つのポーンブレイクを武器に黒が戦える、面白い変化であると思います。

2021/03/24

Understanding the Ruy Lopez Vol.5


Vol.3,4 でご紹介したKeres Variation は、私にとって非常に魅力的で、2019年はこの変化をメインに戦おうと考えていました。しかし、Vol.3 の最後に示した最新の変化は評価が難しく、自信をもって指せるとは言えません。そこで黒キングを弱めずともアクティブに戦える変化は他にないかと探していきついたのが、Aronian Variation です。今回はこちらの変化がどういったものか見ていきましょう。

1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bb5 g6!?

私はRuy Lopez に対し、黒の黒マスビショップはフィアンケットが最も強いと考えています。Breyer Variation などではBf8-Be7-Bf8-Bg7 と組みなおす黒マスビショップを、最初からg7 に組んでしまったほうが良いではないかというアイディアはもっともなように思えます。それではなぜ、現代のRuy Lopez ではe7 に出してから組みなおすことが多いのかといえば、黒のキングサイドキャスリングが遅れれば、c2-c3, d2-d4 の際にe5 のディフェンスが間に合わず、黒はe5 にポーンをキープできないためです。それならばいっそ、e5 にポーンを残すことを諦めてしまおうというのが、Aronian Variation の特徴です。

ちなみにこの変化は多くの手順前後が存在し、Aronian が指したゲームでは3... a6 4. Ba4 Nge7 という手順でした。最終的にはそちらに合流するため、この記事ではまとめてAronian Variation として扱います。ちなみにこの名称も正式なものかは分からないのですが、Dangerous Weapon the Ruy Lopez の中で、この名前で紹介されていました。

4. O-O Bg7 5. c3 a6 6. Ba4 Nge7!?


多くのRuy Loepz では、g8 のナイトはf6 に展開してe4 への反撃をまずは狙うのが一般的ですが、この変化ではあえて低く構えることで、フィアンケットビショップの利きを通し、g7-a1 ダイアゴナルのプレッシャーをキープします。

7. d4 exd4!

d4 での早いポーン交換は白にのみ厚いセンターを残すため、一般的には白が良さそうに思えます。しかし、Zaitsev Variation やKeres Variation でも見てきたように、d4 でのポーン交換からc7-c5 の反撃で白のセンターを崩し、e5 のマスを活用できれば黒は積極的な反撃が期待できます。Aronian Variation ではほかの変化で見ないようなタイミングでe5 のポーンを消してしまいますが、タイミングが違うだけでこれまでチェックしてきた変化とアイディアは似ているわけです。

8. cxd4 b5 9. Bb3


この後の変化を考えれば、白は最初から9. Bc2 と退き、1テンポアップしておくほうが得だという考えもあります。しかし、白は本譜より1手早くc2 にビショップを退いていても、有効なピースのセットアップを見つけられなければ黒は十分に戦えます。

9... d6 10. h3 O-O 11. Nc3 Na5

ナイトが一般的には悪い端のマスに跳ぶ代わりに、c7-c5 のポーンを伸ばしてd4 を崩すのは、すでにKeres Variation で見たアイディアです。さらにここでの注目すべきは、d4 でのポーンが早かったためにc3 のマスが空いて白がNb1-Nc3 と指せていることです。一般的なNb1-Nd2-Nf1-Ng3(or Ne3) と比べて、白は早くナイトをバランスの良いマスに展開できていますが、代わりにc4 のマスを抑えていないため、黒のa5 に跳んだいナイトも、Na5-Nc4 ともぐりこむ手を狙うことができます。多くの変化では使いづらい位置で、cポーンを伸ばした後は戻るしかないa5 ナイトが、より活用の幅が広いことは黒にとって面白い武器となるでしょう。

12. Bc2 Bb7!?


名前の由来となったAroanian のゲームでは、黒はすぐに12... c5 を仕掛けてd4 を崩しにいっています。私はそちらも研究しましたが、1手待ってe4 を攻撃しておき、白の出方を伺うのも面白いアイディアだと思っています。白の12手目には多くの選択肢が存在し、ここから黒は幅の広い手の作り方を見せるのですが、それはVol.6 で実戦の解説とともにご紹介します。余談ですが、私が7年前に書いた記事の中にもこの変化は登場します。それは羽生さんがポーンランドで2つ目のIM ノーム獲得を決めた最終戦です。こちらの試合も面白いので、是非チェックしてみてください。

2021/03/22

Understanding the Ruy Lopez Vol.4


久々のブログ更新はこちらの連載再開からです。先週末の東京チェス選手権は自分で参加を表明&大会告知しておきながら、直前にキャンセルしてしまい、ご心配をおかけしました。試合ができなかったのは自分としては残念ですが、気を取り直して色々と書ける記事から進めていきたいと思います。

Aoyama, Y - Kojima, S
Shibuya Weekday Night 2019

1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bb5 a6 4. Ba4 Nf6 5. O-O Be7 6. Re1 b5 7. Bb3 d6 8. c3 O-O 9. h3 Na5 10. Bc2 c5 11. d4 Nd7

はるか昔のことなのでお忘れかもしれませんが、Vol.3 で紹介したKeres Variation です。黒は次にセンターを開き、Benoni defence のポーンストラクチャーを目指して積極的に反撃するプランを目論見ます。青山さんはかつてオリンピアードにも日本代表として参加したベテランで、この日は渋谷の集まりで偶然お会いし、対局することになりました。

12. d5!?


先述の黒の作戦を止めるためには、d4-d5 と白からセンターを閉じてしまうのが1つの作戦です。様々なRuy Lopez の変化では白からセンターを閉じるタイミングがありますが、これに対してどちらのサイドから手を作るかは黒にとってアイディアの練りどころでしょう。

12... Nb6 13. Nbd2 g6!?

次にf7-f5 から白のセンターに再び反撃を見せつつ、fファイルを開くことも視野に入れるアイディアです。古いゲームでは13... f5?! とすぐに仕掛ける手も見られますが、14. exf5 Bxf5 15. Bxf5 Rxf5 16. Ne4+/= と進めばe4 のアウトポストにナイトが居座り、白には手堅いアドバンテージがあるでしょう。他には同じf7-f5 を狙うアイディアでも、13... Qe8!? はひねった手で面白いと思っています。14. Nf1 f5 15. exf5 Bxf5 16. Bxf5 Rxf5 17. Ng3 と進んで上記のライン同様にe4 のアウトポストを与えても、ナイトに手数をかけさせれば戦えるということです。e8 にずれたクイーンは、Qe8-Qg6 のようにキングサイドに来てアタックに使います。

14. Nf1 f5 15. Ng3?!


こうしてナイトが素直に出てくるのは少し早かったと思います。15. Bh6 Rf7 16. exf5 gxf5 と黒にポーンの厚みを与えても、キングの前を弱めて勝負すべきだと思います。

15... f4 16. Nf1 Bd7 17. b3 Nb7

キングサイドを閉じた後は、クイーンサイドで互いに動き始めます。

18. Bd2 a5 19. Qe2 Qc7?! 20. N1h2?!


ここは互いに緩手が入りました。白からは20. c4! として本譜の流れを止めるのが良く、そうされないためには、黒はもう1手早く19... c4! とすべきです。

20... c4 21. Ng4 Nc5

Breyer Variation ではNc6-Nb8-Nd7-Nc5 と跳ぶナイトが、この変化ではNc6-Na5-Nb7-Nc5 とまわり、b3 を攻撃する理想的なc5 に到達します。白もナイトを組み替えていますが、b1-h7, c1-h6 のどちらのダイアゴナルも閉じているため、白の攻撃はさほど怖くないでしょう。

22. g3 fxg3 23. fxg3 cxb3 24. axb3 a4!


センターを閉じた形では、白黒ともに両サイドから様々な手を作る工夫を探します。このゲームでは黒はクイーンサイドの突破チャンスを上手く作り、パスポーンを生み出して優位に立ちます。

25. b4 Nb3 26. Bxb3 axb3 27. Rab1 Ra2

a,fファイルの2つのオープンファイルをルークが占拠している黒は、ルークの力を存分に使ってプレッシャーをかけていきます。

28. Qd3 Qc4 29. Qe3 Na4 30. Rf1 Bxg4 31. hxg4 Bd8! 32. Ng5?? Rxf1+ 33. Rxf1 Bb6 0-1


最後は働きの悪い黒マスビショップをe7-d8-b6 と組み替え、黒マスを強力に抑えて勝ちとなりました。センターを閉じられ、本来黒が望んだようなKeres Variation のゲーム展開にならずとも、キングサイド、クイーンサイドのどちら側でも手を作ることができるという好例でした。

2020/11/19

Understanding the Ruy Lopez Vol.3


ここまでBreyer, Zaitsev とRuy Lopez 対策としては割とポピュラーな変化をご紹介してきました。ならば続くのは、その2つと並ぶ代表的な変化である、Chigorin Variation かと予想したかたは惜しいです。私がZaitsev Variation でBenoni ストラクチャーにする構想を得て、次に目をつけたのはKeres Variation です。どんな変化か、手順を追っていきましょう。

1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bb5 a6 4. Ba4 Nf6 5. O-O Be7 6. Re1 b5 7. Bb3 d6 8. c3 O-O 9. h3 Na5 10. Bc2 c5 11. d4 Nd7!?

9... Na5 と跳び、c7-c5 を早めに進める変化をChigorin Variation と呼びますが、その中でも11... Nd7 と退く変化をKeres Variation と呼びます。エストニアが生んだ偉大なチェスプレーヤー、Paul Keres が研究し、後にドイツのAlexander Graf に手によって発展しました。11... Qc7 がChigorin Variation のメインですが、こちらのKeres Variation は近年になって、トップクラスのGM たちに見直されてきています。

12. Nbd2


最もスタンダードな手ですが、Benoni ストラクチャーへの変化を嫌うのであれば、12. d5 と早めに押し込む選択肢もあります。こちらの実戦紹介は、後の記事でご紹介しようと思います。

12... exd4 13. cxd4 Nc6

a5 のナイトは遅かれ早かれc6 に戻りますが、Keres Variation のメインラインでは、Benoni ストラクチャーに誘導するように早めに下がるのが一般的です。

14. d5


14. Nf1 cxd4 15. Nxd4 Nxd4 16. Qxd4 Ne5! 17. Ne3? Bxh3! は割とレイティングの高いプレーヤーも見落とすタクティクスで、f3 でのナイトフォークがあるために白はh3 のビショップを取ることができません。白が13手目でこのタクティクスに気付いて別の手を指しても、黒はe4 へのプレッシャー、e5 のマスの活用、cファイルからの反撃などを上手く組み合わせ、十分なポジションと考えることができます。

14... Nce5 15. a4 Rb8 16. axb5 axb5

Zaitsev Variation でも白からa2-a4 と突くアイディアを確認しました。このKeres Variation では短期的に見れば、aファイルを開きルークを使いやすくした白に分があるように見えます。しかし、長期的に見ればクイーンサイドのポーンを1つ捌いたことで、黒はb,c ファイルのポーンマジョリティで将来的にパスポーンを作りやすくなったと考えることもできます。

17. Nxe5 Nxe5 18. f4 Ng6


Benoni Defence でも、e5 に跳んだナイトをf2-f4 から追い返すアイディアはよく見かけます。これを嫌い、Nd7-Ne5 を黒側でためらう人もいるかと思いますが、黒としてもe4 が攻撃しやすくなったこと、a7-g1 のダイアゴナルが弱まったことなど、f2-f4 を突かせたメリットはあります。e4-e5 からのブレイクがさほど早くないのであれば、f2-f4 を白から突くように誘うのは勝負に行く方法として悪くないはずです。

19. Nf3 Bh4 20. Rf1 Bg3

早速f2-f4 と突かせて弱くなったキングサイドの黒マスを利用し、f4 のポーンを攻撃します。相手のナイトが利いているマスにビショップを置く手は抵抗があるかもしれませんが、20. Nxh4 Qxh4 は次にBc8-Bxh3 の狙いもあり、白としてはあまり指したくないでしょう。

21. f5 Ne5 22. Ng5 h6


大学生の頃、白を持ってこのポジションを持ちましたが、その際は黒がセオリーを間違えたため、あっさりと試合は終わりました。22... c4? 23. Qh5! h6 24. f6! gxf6 25. Nf3 Ng6 26. e5! f5 27. e6! Nf4 28. Bxf4 Bxf4 29. Qxf5 Be3+ 30. Kh1 Kg7 31. Ng5! 1-0 Kojima, S - Sato, K / Closed Training 2010

23. f6! gxf6!


私が高校生の頃から、このKeres Variation のメインセオリーは23手目付近まで研究されており、このナイト取りを無視したf5-f6 によって白が有利という結論が出ていました。ポイントとしては、23... hxg5 24. Bxg5 g6 25. Ra3!+- が見えづらいスレットで、a1 が突如出てきたルークが3段目を移動し、g3 のビショップを捕まえて白の勝勢となります。しかし、近年になって黒は23... gxf6! で勝負できるという研究が出てきて、このKeres Variation のメインラインも見直されることとなりました。

24. Nf3 Kg7

いかにも黒キングが危なそうな局面ですが、黒はRf8-Rh8f6-f5 の突き捨てなどを駆使してキングを守り抜きます。もし白のアタックを捌ききることができれば、黒にはe5 のアウトポストとクイーンサイドのポーンマジョリティという武器が残り、十分に勝負することができるでしょう。2019年の私のRuy Lopez 対策研究として最も多くの発見があり、1... e5 の奥深さを再認識した変化でした。今後も実戦でお披露目する機会もあるかと思います。

Vol. 4 に続く。

2020/11/14

Understanding the Ruy Lopez Vol.2


Vol.1 で紹介したBreyer は手堅い変化ですが、もう少しアクティブな反撃を作りやすい変化はないかと考えました。そこで1つの発想として、どこかのタイミングでe5 とd4 のポーンを交換し、eファイルを開くことでe4 のポーンへ攻撃しやすいポーンストラクチャーを目指すことにします。そこで目をつけたのは、Breyer Variationと並んで人気のある代表的な変化、Zaitsev Variation です。

1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bb5 a6 4. Ba4 Nf6 5. O-O Be7 6. Re1 b5 7. Bb3 d6 8. c3 O-O 9. h3 Bb7

b7 に早くフィアンケットを組むZaitsev Variation は、Breyer Variation よりも自然に見えます。冷静にZaitsev Variation の初期ポジションを見ると、黒が圧倒的にマイナーピースの展開が早く、優勢であるように思えます。黒のピースの早さに対抗する白の武器は、d2-d4 から厚く広げるセンターのポーンの壁であるため、これをいかに崩すかが黒のコンセプトと考えることができます。

10. d4 Re8 11. Nbd2


ここで11. Ng5 Rf8 12. Nf3 Re8 13. Ng5 としてすぐ同じ局面を繰り返すのを、俗にZaitsev Draw と呼びます。黒で勝ちにいくのであれば、このZaitsev Draw を避けるアイディアも考えておく必要があるでしょう。

11... Bf8 12. a4

b7-b5 とクイーンサイドを広げた黒に対し、白もaポーンで反撃するのはRuy Lopez におけるポピュラーなアイディアです。しかし、これによりb4 のマスが弱くなることが、この後の展開における大きなポイントになります。メインラインの展開を避けるためであれば、12. a3!? としておき、Bb3-Ba2(もしくはBb3-Bc2) と退いてから、b2-b4, c3-c4, a3-a4 などとクイーンサイドのポーンを広げるアイディアも有効です。

12... h6


Breyer Variation では、e4 をカバーするために白が早めにBb3-Bc2 と退いていて、f7 へのプレッシャーが薄いこと、そしてNd2-Nf1-Ng3 が早いことでf5 を早めにカバーすべきであることから、g7-g6 のポーン突きが一般的でした。Zaitsev でもg7-g6 はありえますが、f7 へのプレッシャーを警戒しておくのであれば、本譜のようにhポーンを突くべきです。様々なRuy Lopez の変化でf8 の初期位置にビショップを退いた際、hポーン、gポーンのどちらを突くかは悩むところです。

13. Bc2 exd4! 14. cxd4 Nb4 15. Bb1 c5 16. d5

黒から動き、ポーンストラクチャーを大きく変化させます。e5 とc3 のポーンを交換することでルークの利きを開いてe4 をアタックしやすくし、c7-c5 からクイーンサイドでもアクションを起こします。白はe4 へのプレッシャーを緩和するためにd4-d5 とポーンを突きこしますが、これによりポーンストラクチャーはBenoni Defence のようになります。Ruy Lopez からBenoni Defence のポーンストラクチャーに変化した際のポイントを、以下にようにまとめておきます。

・ e5 のポーンを消したことで、白からのe4-e5 ブレイクを警戒しなければいけないものの、e4 への攻撃やe5 のマスの活用が考えられます。
・ 一般的に白がa2-a4 から止める黒のクイーンサイドのポーンが、b7-b5 とすでに伸ばせており、黒はクイーンサイドにポーンマジョリティという武器を持ちます。
・ f8 に退いた黒マスビショップは、g7-g6, Bf8-Bg7 のように組み直して通常のModern Benoni と同様に使っても、f8 に置いたままでd6 の弱点のディフェンスに使っても良いでしょう。

通常のBenoni Defence との相違点を理解し、上手く指しこなすことができれば、このRuy Lopez におけるBenoni ポーンストラクチャーは、黒が攻撃的に戦える形だと言えると思います。

16... Nd7!


e4 へのプレッシャーを保つか、e5 のマスのコントロールに切り替えるかは悩むところですが、b7 のビショップがe4 に利かない以上、e4 への攻撃には限界があります。ここでのナイト退きは、e5 を抑えるだけでなくもう1つのナイトのマスを見据えています。

17. Ra3 c4!

こうしてd4 のマスを白のナイトに明け渡してでも、Nd7-Nc5-Ncd3(もしくはNbd3) というマヌーバリングのチャンスを作れば、黒はアクティブにプレーして戦うことができます。Kasparov - Karpov のマッチで有名になったfポーンを突くアイディアは、d5 を弱めてb7 のビショップを通すという点で面白いアイディアですが、17... f5 18. Nh2 Nf6 19. Rg3 と進んだ際にキングサイドの攻撃が厳しく、現代ではリスクの高い変化と考えられています。

Zaitsev Variation は今回紹介したメインラインのように、クイーンサイドでアクティブにプレーして戦えるチャンスがあり、とても面白い変化だと思います。ただし、このメインラインもかなり研究が細かく進み、ドロー模様のイコールポジションまで一直線に進んでしまうこともあります。11. Ng5 のドロー変化にどう対応するかという問題もあるでしょう。Zaitsev Variation も1つの武器として使えるように勉強し、Benoni ストラクチャーへの変化というアイディアも学んだうえで、他の変化の研究に移ることを決めました。

Vol.3 に続く。

2020/11/09

Understanding the Ruy Lopez Vol.1


私がここ2年ほどで研究してきた、Ruy Lopez のラインを紹介する新連載を始めようと思います。黒番で1. e4 e5 を指し始める構想は、昨年ハンガリーから戻った直後にスタートしました。実際、昨年の東京チェス選手権では1. e4 e5 を早速試しています。Caro-Kann には大きな不満はありませんでしたが、生徒たちに1. e4 e5 を教えるうえでも、自分のプレーの幅を広げるうえでも、1. e4 e5 を自分で指すことはいつか必要だと感じていました。

1. e4 e5 のレパートリーを作るためには様々な白からの変化に対応できなくてはいけませんが、その筆頭がRuy Lopez (1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bb5) です。3. Bc4 のItalian もトップGM の間で人気が上がっているとはいえ、Ruy Lopez が1. e4 e5 の一番人気であることは変わりません。Ruy Lopez への理解を深めるために、そして黒番でも勝ちにいくためにどんな変化が良いか研究を始め、最初に目をつけたのはBreyer Variation です。

1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bb5 a6 4. Ba4 Nf6 5. O-O Be7 6. Re1 b5 7. Bb3 d6 8. c3 O-O 9. h3 Nb8!?

ナイトが初期位置に戻るBreyer Variation は、初めて見る人にとって驚くべき変化の1つだと思います。黒はナイトをd7 に組み替えることでb7 に組む白マスビショップの利きを通し、e4 にプレッシャーをかけやすくします。

10. d4 Nbd7 11. Nbd2 Bb7 12. Bc2 Re8 13. Nf1


私が白番で1. e4 を指していた際は、13. a4 とクイーンサイドで早めに仕掛けるラインを採用していましたが、Nf1-Ng3-Nf5 を狙うこちらのラインがメインとして考えられています。

13... Bf8 14. Ng3 g6

ビショップを初期位置に退いてルークの利き筋を通し、f5 のマスを抑えてナイトの侵入を防ぐと同時に、様子を見てBf8-Bg7 とフィアンケットに組み直します。この攻防一体のアイディアは1. e4 e5 を指すプレーヤーは特に覚えておくと良いと思います。

15. a4 c5!


私も昨年松尾さんに教えてもらうまできちんと理解していなかったのですが、白がa2-a4 を突いたのを見てからcポーンで反撃するのがポイントで、dポーンの押し込みに対してc5-c4 をすぐ突き、b3 のマスをの弱さを利用することができます。a2 にポーンが残っている段階で、c7-c5-c4 を急ぎすぎると、b2-b4 にアンパッサンをしても、白もaxb3 と取りかえし、再びb3-b4 からc5 のマスをカバーできます。

16. d5 c4 17. Bg5

ここでの黒の手は17... Be7 とすぐ戻るか、17... Nc5 とナイトを跳ばすか、17... h6 と早めにビショップを追い返しておくか、こうした選択肢があります。f8 に退いたビショップはg7 に組むのが自然にも思えますが、e5 ポーンが固定されている(黒からexd4 と開くチャンスがもうない) 状況では、g7 のビショップはあまり利きが良くないと考えられます。

この先のゲーム展開や、他のラインの研究も踏まえ、Breyer Variation は非常にプロフェッショナルな変化だと結論付けました。トップGM にも採用される、手堅く優秀な変化であることは否定しないのですが、自分の好みや求めるものとは少しずれがあり、また各々のラインでのアイディアを正しく理解することは難しいとも思いました。例えば、私がこのBreyer Variation のメインラインを見て、黒側が難しいと思うポイントは、2つのビショップの働きをどのように改善し、具体的にどう試合を進めていくかが見えづらい点です。白もc2 のビショップをどう活用するかなど、課題はありますが、クイーンサイド、キングサイド、どちら側でも仕掛けを行いやすいのは白に見えます。私が求めるのは多少リスクはあっても、もう少し黒側から何をやるかが分かりやすい変化でした。それがどういったものかは、Vol.2 で細かく説明をしようと思います。

Vol.2 へ続く
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