昨日は久々に、羽生さんと1対1のトレーニングをしてきました。いつも通り午前と午後で色を変え、計2局を指します。今回はどちらのゲームも面白かったため、2回に分けて解説記事を書こうと思います。まずは午前のゲームからです。
Habu, Y (FM, JPN, 2399) - Kojima, S (IM, JPN, 2401)
Training (1)
1. d4 Nf6 2. c4 e6 3. Nf3 c5!? 4. d5 exd5 5. cxd5 d6 6. Nc3 g6 7. Bf4!?
Benoni Defence に対して、
e2-e4 を遅らせて
Bc1-Bf4 と指す変化は、近年トップのGM の間でも流行のラインです。白はゆっくりとした駒組みをし、黒にピースをなるべく捌かせないようにします。
7... a6
7... Bg7 8. Qa4+ Bd7 9. Qb3 b5!? というギャンビットラインも面白いですが、しっかり研究はしていなかったために今回は断念します。本譜では
a7-a6 を挟むことで、白のクイーンチェックを止めておきます。
8. a4 Bg7 9. h3 O-O 10. e3 Qe7!?
ここはどう指すか黒の作戦の分かれ目です。
10... Nh5 11. Bh2 f5 がメインラインですが、あまりこうしたアクションは好きではありません。
e2-e4 を将来的に許しても、よりスタンダードなベノニのポジションを目指すことにします。
11. Be2 Nbd7 12. O-O b6!?
以前の研究で、
b7-b6, Bc8-Bb7 は意外と悪くなかったため、それを採用してみることにします。白の組み方によっては、
Ra8-Rb8 から
b6-b5 とbポーンを伸ばすことも考えられます。この際に白が
a4-a5 とできないのが、黒がわざわざb7-b6 を挟んでおくメリットとなります。
13. Nd2 Ne5
13... Rb8 14. Nc4 Ne8 15. Qb3!+/- ならば、黒は2つのナイトがどちらも守りに縛られて身動きが取れなくなるため、面白くないでしょう。ここはビショップにとられることを覚悟のうえで、そうそうにセンターにナイトを運びます。
14. e4!?
ここも白はどう指すか作戦が分かれそうです。
14. Bxe5!? dxe5 (14... Qxe5 15. Nc4 はb6 が落ちるのでもちろんダメ)
15... Nc4 Rb8 16. Qb3 Qc7 17. Rfd1+/= これでも少し白が指しやすそうですが、黒マスビショップを失ったダメージが後半で出てくる可能性はありえます。
14... Nfd7 15. Be3 g5!
こうしたポジションではスタンダードなポーンの突きです。
f2-f4 を止め、e5 のマスにナイトを残せるようにしておくと同時に、g6 にマスを作り、タイミングを見てナイトを組み替えます。
16. Re1 Ng6 17. Nc4 Rb8 18. Qd2 h6 19. Bf1 Nde5 20. Nxe5 Bxe5
一般的にベノニではe5 のマスで1枚ナイトを捌けば、黒はぐっと楽になると考えられています。このポジションではe5 に置かれたビショップが両サイドに伸び、黒はすでに満足だと判断できそうです。
21. g3 Kh7!? 22. Bg2
f2-f4 を誘ってみましたが、羽生さんはこれには乗ってきません。
22. f4 gxf4 23. gxf4 Nh4 24. Qf2 Rg8+ 25. Kh2 Bf6=/+ と進めば、白はビショップをe5 から追い返せても、自信のキングの守りを弱めてしまったデメリットのほうが大きそうです。
22... Qf6 23. Rf1 Nf4!
この手は自信をもって指すことができました。このナイトは取られてもビショップを取りかえせるため、黒は全く問題ありません。これで黒が少し有利になったと感じましたが、慣れないベノニで持ち時間がすでに残り少なかったことから、ミスをしてしまいます。
24. Ne2 Nxe2+?!
ここでさらに時間を使ったにもかかわらず、ベストの手を逃してしまいました。
24... Nxg2 25. Kxg2 Bxb2 26. Rab1 Be5 27. f4 gxf4 28. Nxf4 Rg8-/+ ならば、カウンターも抑え込み、本譜よりも良いポーンアップです。他にも、
24... Nxh3+ 25. Kh2 Qg6!(これが試合中見落とした手で、h3 を取ることをあきらめてしまいました。)
26. Bxh3 Qh5 27. Ng1 Bxh3 28. Nxh3 g4 29. Rh1 gxh3 30. Rhg1 Rfe8-/+ も黒良しの変化です。
25. Qxe2 Bxb2 26. Rad1 b5 27. f4?
これは黒が最も警戒すべきアイディアでしたが、タイミングが少し変でした。
27. axb5 Rxb5 28. f4 gxf4 29. Bxf4 Qg6=/+ ならば、黒はやや有利ですが、fファイルからのカウンタープレーに十分気をつけないければいけません。
27... Bd4?
時間のない中での判断でしたが、これで白に逆転されてしまいました。
27... bxa4! 28. fxg5 Qg6!-/+ が正解で、bファイルを開いてルークでビショップを守ることで、クイーンを
a1-h8 のダイアゴナルから逸らすことができます。h6 を取られてもg3 を取れますし、
a4-a3-a2-a1 という単純な狙いも強力です。
28. Bxd4 cxd4 29. e5! dxe5
ベノニでもっと警戒しなければいけないブレイクを許してしまいました。
29... Qg7 30. e6+/- でも白が有利であることは疑いようがありません。
30. fxe5 Qb6 31. Qd3+ Kg7 32. Rf6 Qc5 33. axb5 axb5 34. Rc6 Qb4 35. e6!+-
強力なセンターポーンを伸ばされ、駒も取りかえされてしまうようであれば、すでに黒は敗勢です。この先は挽回が難しいと分かっていましたが、続けてみることにします。
35... Bb7 36. Rc7 Ba8 37. Qf5 Rb7 38. Qe5+ Kg8 39. Rxb7 Bxb7 40. e7 Re8 41. d6 Bxg2 42. d7 Bc6 43. d8=Q Qb2 44. Qe4 Bxe4 45. Qxe8+ Kg7 46. Qf8+ Kg6 47. Qg8+ Kf6 48. Qh8+ Kg6 49. Qg8+ Kf6 50. Rf1+
このチェックにより、黒の負けが確定しました。g2 のメイト狙いもすぐに防がれてしまいます。
50... Kxe7 51. Qxf7+ Kd6 52. Rf6+ Kc5 53. Qe7+ Kc4 54. Qxe4 Qc1+ 55. Kg2 Kb3 56. Qxd4 1-0
前日の小林くんとの試合でも、黒でチャンスを作っただけに、ベストの手が見えなかったのはもったいなかったです。それでも、久々に指したベノニで好感触だったのは嬉しかったですね。Nimzo-Indian との併用で、今後も活躍の機会があるかもしれません。午後のゲームについては、また明日以降の記事でご紹介します。
お昼はトレーニングの際によく行く焼肉屋さんでしたが、この日はすき焼きと和風ステーキで、互いに網を使わないメニューでした。お昼の話題は日露の交流会や、最近の囲碁、将棋、チェスのAI についてなど。羽生さん、専門分野以外のことも詳しくて、いつも驚かされます。