報告が1日遅くなりましたが、4日間にわたって開催されたジャパンオープンが昨日無事に閉幕しました。私は最終戦、篠田くんとのドローで6/7 となり、タイブレークでわずかにTuさんを上回って優勝を決めました。オープンクラスおよび、各カテゴリー入賞者の皆さん、おめでとうございます!
1st Place Kojima Shinya (IM, JPN, 2389) 6/7
2nd Place Tran Thanh Tu (CM, JPN, 2374) 6/7
3rd Place Yamada Kohei (FM, JPN, 2131) 5.5/7
4th Place Aoshima Mirai (FM, JPN, 2342) 5.5/7
5th Place Otawa Yuto (JPN, 2128) 5.5/7
Japan Open 2021 Final Standings
2nd Place Tran Thanh Tu (CM, JPN, 2374) 6/7
3rd Place Yamada Kohei (FM, JPN, 2131) 5.5/7
4th Place Aoshima Mirai (FM, JPN, 2342) 5.5/7
5th Place Otawa Yuto (JPN, 2128) 5.5/7
Japan Open 2021 Final Standings
東京でのビッグトーナメント優勝は前回のオリンピアード直前、2018年のジャパンリーグ以来でしょうか。実に久々でとても嬉しいです! 来年ロシアで開催されるチェスオリンピアードの日本代表権も獲得できましたので、他のメンバー確定を待って良いチーム作りをしていければと思います。
最終戦、篠田くんとの試合はドローで優勝確定は高確率であることは分かっていながら、おとなしい展開とは程遠いファイティングゲームになりました。とても長いゲームですが、要所を踏まえて解説をしていこうと思います。
Shinoda, T (JPN, 2002) - Kojima, S (IM, JPN, 2389)
Japan Open 2021 (7)
1. d4 d5 2. c4 c6 3. Nf3 Nf6 4. Nc3 e6 5. Bg5 Nbd7 6. e3 Qa5 7. Qb3!?
QGD Cambridge Springs Variation は、この1年で準備してきた新しい取り組みの1つです。6... Qa5 はf6 ナイトのピンを外しつつ、Nf6-Ne4 を狙う分かりやすいアイディアだと思います。Japan Open 2021 (7)
7... Ne4 8. Bf4 g5!
夏の中部快速オープンでは、小川さんを相手にCambridge Springs を指してこのアイディアを発見しました。キングサイドのポーンを伸ばすのは互いのポーンストラクチャーを乱す難しいアクションですが、別の変化でもそうしたアイディアを研究しているため、思い切って試してみることにしました。
9. Bg3 h5 10. h3 Nxg3?!
こうしてh2-h3 を突かせてg3 を弱めてからビショップナイトを交換すれば黒が良いと安直に考えてしまいましたが、ここはもう一ひねりする必要がありました。10... Bb4! 11. Rc1 Nxg3 12. fxg3 Bd6 13. Bd3 Bxg3+ 14. Kd1 こうしてBf8-Bb4-Bd6 と本譜と比べてあえてビショップ動かし直しのテンポロスをすることで、白にRa1-Rc1 を決めさせ、クイーンサイドキャスリングを封じるというアイディアがありました。しかしそれで黒優勢になるかは判断が難しく、白キングはKd1-Kc2-Kb1 と逃げていって勝負できそうです。11. fxg3 Bd6 12. O-O-O! Bxg3 13. Bd3 Rg8 14. Rdf1 h4
白はポーンダウンですが、キングは安全で使いづらいピースもあまりありません。私は自分の序盤の作戦が予想より上手くいっていないことを自覚し、時間を多めに使ってアイディアを探すことにしました。h5-h4 は白のg2ポーンを抑え込み、将来的なg2-g4 のようなアクションを防ぐ狙いで、場合によってはNd7-Nf6-Nh5 のような構想も頭にありました。しかし、試合中諦めたアイディアは試してみる価値がありました。14... b5! 15. cxd5 cxd5 16. e4 (16. Qxb5 Qxb5 17. Bxb5 Ke7!=/+ ポーンを返してもクイーンを交換できれば、ビショップのペアで黒が多少良いでしょう) 16... b4 17. exd5 bxc3 18. dxe6 Rf8!!
ここまで進んでみればこの1手なのは分かりますが、18. dxe6 まで読んでこの局面を持つ気にはなれませんでした。19. exd7+ Bxd7=/+ で黒が指しやすいというコンピュータ評価ですが、少し人間には指しづらいです。
15. e4 Nf6?!
15... dxc4! 16. Bxc4 Nb6 17. e5! Bd7 18. Ne4 Bf4+ 19. Kb1 O-O-O 20. Nd6+ Kb8 21. Nxf7 Rde8 22. Nd6 Re7 23. Nf5 Ree8 24. Nd6= 試合中、e3-e4 を待つことですぐに白がNc3-Ne4 とできなくなるのは分かっていました。しかし、この変化でe4-e5 からNc3-Ne4-Nd6 ができると白が良いと思ったのですが、実際にはf7 を諦めても互角の形勢のようです。さらに黒はここでドローを受け入れるも、24... c5!? 25. Nxe8 Rxe8 とエクスチェンジ捨てて勝負にいくこともできるそうです。16. cxd5 exd5 17. Nxg5 Rxg5 18. Rxf6 Qb6?!
私はポーンを返してもクイーンを交換することが黒キングの安全を確保し、ひとまず大きな脅威を取り去る最善の方法だと考えていました。コンピュータの指摘する変化は驚くべきもので、18... Be6! 19. Qxb7 Rb8 20. Rxe6+! (20. Qxc6+ Bd7 21. Qc5 Qxc5 22. dxc5 Be5 23. Rf2 Bxc3 24. bxc3 dxe4 25. Bxe4 Rxc5=) 20... fxe6 21. Qxc6+ Ke7 22. exd5 Qb6 23. Qxb6 Rxb6 24. dxe6 Rxe6+/= ならば白やや優勢のエンドゲームとのことです。クイーンを残した状態でb7, c6 を次々に捨てるのは怖くて指せません。
19. Qxb6 axb6 20. exd5 cxd5 21. Rhf1! Be6 22. Rh6?!
本譜では白に緩手があり、黒が息を吹き返しました。22. Bf5! Bxf5 23. R6xf5 Rxf5 24. Rxf5+/- ならばd5 が落ち、黒はかなり粘るのが大変なエンドゲームです。22... Ke7 23. Kd1 Bd6
指した直後にg1 からd4ポーン取りを狙うビショップ飛び込みのほうが良いかとおまいましたが、23... Bh2 24. Bf5!= という驚きの手がありました。黒はf5 でピースを捌くとd5 をナイトに取られてキングとルークがピンチになるため、白はビショップを捌いて互角に戦えます。
24. Rf2 Rag8 25. Bf1 Bg3 26. Rf3 R8g6 27. Rh8 Rf6!
ここでg6 とg8 でルークを往復させてゲームを終わらせることも少し考えました。しかし、上手くルークを捌いてfファイルを抑えられれば黒にチャンスがあると思い、時間が無くてもまだまだ勝負を続けることにします。28. Re8+ Kxe8 29. Rxf6 Ke7 30. Rf3 Bd6 31. Ke2 Rg8 32. Nd1 Ra8 33. a3 Ra4 34. Ke3 Bh2!? 35. Bb5 Bg1+ 36. Nf2
この辺りはビショップを押し戻し、ナイトをピンにして上手く白を困らせていると思っていました。しかし、実際にはあと一押しが無く互角の形勢のようです。
36... Ra8 37. Rf4 Rg8 38. Bf1 Rc8 39. Bd3 Rg8 40. Bf1 Rg3+
この辺りでは周囲の結果を見てドローで優勝を決めてもOKでした。しかし、例え形勢が互角でもまだまだ何が起こるか分からない局面ですので、自身の勉強のために勝負にいくことにします。41. Kd2 Bd7 42. Nd1!
この手を見逃したのは自身の未熟を恥じるところで、ナイトがe3 を守りつつターゲットではなくなっています。h4 を守る方法がなく、何を指せば良いか分からなくなってしまいました。
42. Rb3? 43. Rxh4?
43. Bd3! と指されていると動かしたばかりのルークがb3 からどこにもいくことができず、これを取られて黒は敗勢でした。自身にチャンスがあると信じて勝負にいくことを決めた直後にこうしたピンチが訪れうるのは、良い教訓になりました。43... Bf5! 44. g4 Be4 45. g5 Bxd4
こうなると話は別で、黒はすぐにポーンを取り戻したうえ、2つのビショップが綺麗に利いて良さそうなポジションになってきました。
46. Rf4
46. Bc4! は見つけづらい1手で、ビショップ交換とポーンを取りを狙います。これを指せていれば白はだいぶ楽にドローに持ち込めたでしょう。
46... Rg3 47. h4 Be5 48. Rf2 Rg4 49. Ne3 Rxh4
試合後、篠田くんには49... Bf4 50. Ke2 Bxe3 51. Kxe3 Rxh4=/+ と同色ビショップの1ポーンアップエンディングのほうがチャンスがあっただろうかと話しましたが、本譜の異色を残すチョイスでも十分にチャンスはありました。問題はこの直後です。50. Nf5+ Bxf5 51. Rxf5 Bxb2?
時間が無いとはいえ、このポーンを取りを焦ったのはひどいミスでした。51... Ke6!-/+ としてまずはルークを追い払い、d5 を守ってからb2 を取れば黒は2ポーンアップでルークも残し、勝ちのチャンスが十分にある異色ビショップでした。
52. Rxd5 Bxa3 53. Rf5 Bd6 54. Kc3 Rf4
ルーク交換から純粋な異色ビショップにするのは勝つチャンスを減らすことは分かっていましたが、f7 への反撃の対処も難しく致し方ありません。
55. Bd3 Rxf5 56. Bxf5=
g5-g6 と押し込めるようになればg5 が落ちるようなこともなく、白は2ポーンダウンながら大きな危険のないエンドゲームです。以下、手数は長いですがほぼ黒にチャンスが無い局面を続けただけでした。56... Kf8 57. Kd4 Kg7 58. Ke3 b5 59. Kf3 b4 60. Bc2 Be5 61. Kg4 Bc3 62. Kf5 Bd2 63. Bb3 b6 64. Bc4 Bc3 65. Bb3 Bd4 66. Bc4 Kf8 67. Bb3 Bh8 68. g6 f6
黒は2つの離れたパスポーンを作りましたが、前日の試合と違ってキングが十分に上がっていないうえ、白のパスポーンを止めるために黒のビショップの動きにはかなり制限がかかっています。
69. Bc4 Ke7 70. Bb3 Kd6 71. Ke4 Kc5 72. Bg8 Bg7 73. Bf7 Bh6 74. Bg8 Bf8 75. Bf7 Bh6 76. Bg8 b5 77. Bb3 f5+ 78. Kxf5 Kd4 79. Bf7 Bg7 80. Ke6 b3 81. Kd6 b2 82. Ba2 b4 83. Bb1 b3 84. Kc6 Kc4 85. Bf5 Be5 86. g7 Bxg7 87. Bh7 Bd4 88. Bg6 Bc5 89. Bh7 Be3 90. Bg6 Kb4 91. Bh7 Ka3 92. Bb1 Kb4 93. Bh7 Kc3 94. Kb5 Kd2 95. Ka4 Kc1 96. Kxb3 b1=Q+ 97. Bxb1 Kxb1 1/2-1/2
とことん最後まで続けさせてもらいました。中盤で手を繰り返して早くドローで切り上げるチャンスはいくつかありましたが、勉強になる内容でしたのでここまで指して良かったと思います。YouTube で観戦してくださった皆さんもありがとうございした。今回、新しい試みとしてYouTube での中継を行ったのは反応も良く、十分な結果だと伺っています。また次の大会でもこうした企画が続くことを期待したいですね。そしてYouTube と言えば、明日もNCSチャンネルで新しい企画の放送があります。それがオランダのGM Anish Giri と私、Tuさん、青嶋くんの3面指しイベントです! 告知する暇がなく、バタバタになってしまいましたが、こちらもぜひご覧いただければと思います。
【チェス同時対局】日本ランキングトップ3 vs. 世界ランキング6位 GM Giri | 2021.11.25
最後になりますが、東京では多少落ち着いているとはいえ、まだまだ新型コロナの影響が残る状況でジャパンオープンを開催してくださった運営スタッフ、スポンサーの皆様に心より感謝致します。今大会での新規FIDEレイティング獲得者がどのようになるかも、12月頭の発表を楽しみにしています。