2025/04/30

麻布学園チェス部春合宿2025

更新が遅くなってしまいましたが、今月頭に山梨県の河口湖で行われた麻布チェス部の春合宿に、1年ぶりに1泊2日で指導に行ってきました。昨年は福島の会津若松での春合宿であったため、今年は少し近場になっています。河口湖は桜まつりがちょうど始まった頃でしたが、前日に降った雪が残っていました。自分が現役であった20数年前から、初合宿で雪を見るのは初めてのことです。
1日目は昼前に合宿所に到着。現役生たちと一緒にお弁当を食べてから、初日のプラグラムに入ります。最初の取り組んだのは、チェスのセオリーについての知識の確認と共有です。部員と輪になって最初の人がセオリーを言い、次の人がその解説をし、さらに次の人がセオリーの当てはまらない局面の例を出します。例えば「ポーンはセンターに向かって取る」というセオリーが挙がれば、次の人はそれがなぜかを解説し、次の人はそれが当てはまらない例を理由とともに挙げます。現役生の参加者は8名で、学年やレベルもバラバラなので、これをやりながら全員のレベルや考えを掴んでいきました。
単純ですが、Ruy Lopez Exchangeのこちらの局面では、bポーンでピースを取り返してポーンをセンターに寄せるよりも、dポーンでピースを取り返してc8ビショップのダイアゴナルと、dファイルを開いたほうが早いピースの展開に繋がるため良いでしょう。セオリーを挙げることとその解説することよりも、当てはまらない例を出すことのほうが難易度が高いように思えます。チェスへの理解と発想力が求められますね。私にも無い発想を挙げる現役生もいたので、とても面白かったです。他には「自分の手番のほうが基本的に良い」というセオリーに対しては、私から以下の局面を出しました。
こちらは2人1組になってもらい、実際に指して結果がどうなるかを確認してもらいます。もちろん最初から正確には指せないため、白が勝った、黒が勝ったを繰り返しながら、最終的にこの局面は手番側が負けであるという結論にたどり着きます。ツークツワンクの概念を知らない現役生もいるので、こうした体験型でチェスについて理解を深めてもらうほうが楽しめると考えました。
セオリーを言い合うプログラムが終わった後は、Fischer - Reshevsky、Tal - Forbis、Fischer - Petrosian といった名局を並べ、先に確認しておいたセオリーがどのように登場するかや、その重要性を確認しました。これだけでも5時間くらいかかり、夕食の後は現役生全員との同時対局です。

1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bb5 a6 4. Ba4 Nf6 5. O-O Nxe4 6. d4 b5 7. Bb3 exd4 8. Re1 d5

Ruy Lopezで始めてたどり着いたこの局面で、ベストムーブが9. Nc3! であることは知りませんでした。Max Langeでも登場するような手ですが、d5が落ちた際にc6のナイト、a8のルークまでターゲットになるのがポイントで、黒はこのナイトを取ることができません。実際の試合は...

9. Nxd4 Nxd4 10. Qxd4 Be6 11. Bxd5!? Bxd5 12. Nc3


このように進んで無理やりポーンを取り返しましたが、あまり良くない局面からなんとかエンドゲームでひっくり返して勝ちました。もう1つ印象的だったゲームは以下のものです。

1. e4 c5 2. Nf3 d6 3. d4 cxd4 4. Nxd4 Nf6 5. Nc3 a6 6. Bc4 e6 7. Bb3 Be7 8. Bg5 Qc7 9. Qf3 Nbd7 10. O-O-O b5 11. Rhe1 Bb7?

自然な手に見えますが、Sozinで典型的なタクティクスが決まります。代わりに11... 0-0 ならば黒は手堅く指せるでしょう。

12. Bxe6! O-O


12... fxe6 13. Nxe6 Qb6 14. Nxg7+ Kf8 15. Nf5+- ならば、3ポーンvs.ビショップですが、白のナイトの強さと黒キングの不安定さで白の勝勢です。

13. Bxd7 Qxd7 14. Nf5 Rad8 15. Qg3 Qe6 16. Nxe7+ Qxe7 17. Nd5 Qe6 18. Bxf6 1-0

危ないゲームもありましたが、同時対局は8戦全勝でした。2日目の午前は8試合全てを振り返りながら、各々にアドバイスをしました。私の合宿での指導で、現役生たちのレベルがすぐに上がるわけではないですが、意識すべきポイントを伝えたり、今までにない視点を与えることはできたのではないかと思います。新年度に入って新入生も入部したであろうチェス部が、今後も活動を続けていくことを願っています。
河口湖は合宿地の定番で、私も何度も足を運んでいます。今年はあいにくの雨でしたが、解散後から帰りのバスの時間まで湖畔の散策を楽しむことができました。富士五湖は河口湖しか訪れた経験がありませんが、いずれ山中湖にも行ってみたいですね。

2025/04/21

Science Tokyo Rapid Chess Tournament

昨日は東京科学大学で開催されたラピッド大会に参加してきました。こちらは大学チェスサークル主催では初めてとなるFIDE公式ラピッド大会で、60名以上の定員は割と早めに埋まったと記憶しています。日本チェス連盟が主催する全日本ラピッドチェス選手権や、名古屋チェスクラブが主催する中部快速オープン以外にも、日本国内でFIDE公式ラピッド大会が開催されるのは喜ばしいことですね。

私は午前の2試合を仕事の都合でbyeにし、3試合目からの参加でしたが、体力的にきつく3試合を指したところで大会を抜けることにしました。今夜は5試合目に指したKamateさんとの試合をご紹介します。

Kojima, S (IM, JPN, 2273) - Kamate, A (JPN, 1823)
Science Tokyo Rapid Chess Tournament (5)

1. d4 Nf6 2. c4 e6 3. Nf3 Bb4+ 4. Bd2 Qe7 5. e3 O-O 6. Bd3 Bxd2+ 7. Qxd2 d6 8. Nc3 Nbd7 9. O-O-O!?

Bogo-Indianに対して少し珍しいセットアップですが、逆サイドにキャスリングして攻め合うのは面白いアイディアだと思います。白は黒マスビショップを交換しても、広いスペースと働きの良いピースを持ちます。

9... b6 10. Kb1 e5 11. Bc2 Re8 12. e4 Nf8 13. h3 Ng6 14. Rhe1 a5 15. Ba4 Bd7


h7を狙うチャンスの無くなった白マスビショップは、いっそ交換してしまってd5、f5のマスのコントロールを得やすくして良いと考えました。c6へのビショップの跳びこみは少し気になりますが、15... Rf8!?のように指して、白マスビショップの交換は避ける選択肢も黒にはあったでしょう。

16. Bxd7 Nxd7 17. g3!?

白マスビショップを交換したことでh3が問題なくなったので、白はNg6-Nf4を防ぐためにgポーンを突いておきます。17. dxe5 Ngxe5 18. Nd5 Qd8 19. Nxe5 Nxe5 20. Qc3 +/=とd5に早めにナイトを入れるアイディアもあったでしょう。

17... Nf6 18. h4 h5 19. Qg5 Rad8 20. Rd2 c6 21. a3 c5?! 22. dxc5


d5のマスは何かしら使うチャンスがあると思ったので、本譜ではポーンを交換しました。悪い選択肢ではないですが、黒はb5のマス、b6,d6のポーンが弱いため、22. d5! からセンターを完全に閉じて、黒の反撃チャンスを断ってしまうのもありだったでしょう。

22... dxc5 23. Nd5! Nxd5 24. exd5?!

d5のマスを埋めるとしても、パスポーンを作るべきだと考えて本譜の流れにしましたが、取るポーンが不正確でした。本譜では黒のナイトに理想的な組み直しのチャンスを与えてしまうため、24. cxd5! Qxg5 25. hxg5 Nf8 26. a4 +/- とすべきでした。こうなれば黒はパスポーンをブロックしながら、b6の弱点に対応するのが大変そうです。

24... Qxg5 25. Nxg5 f6 26. Ne4 Ne7! 27. Red1 Nf5!


c8経由でd6をブロックするものと思い込んでいたため、ここで初めてd4にナイトを運ぶプランであることに気づきました。

28. Kc2?!

d4へのナイトの侵入は受け入れるしかないですが、それに対する反撃として不必要な手を入れてしまいました。本譜でもラッキーなことに成功しましたが、ここで早めの28. b4! が正確です。b4で一時的にポーンを取られても、Rd2-Rb2から取り返すことができます。

28... Nd4+ 29. Kc3 Kf7?


後の流れを考えるのであれば、29... a4!= として白のb2-b4を止めておくのが安全です。

30. b4! axb4+ 31. axb4 cxb4+ 32. Kxb4 Re7?

32... b5! 33. cxb5 Rxd5 34. Nc3 ならば白は少し指しやすいと思いますが、試合中は自身がありませんでした。bポーンが捌かれず残るのであれば、白はこれを狙って大きく優勢です。

33. Ra1! Rdd7


33... Rc7 34. Ra6 b5 35. Rxd4 exd4 36. Kxb5 +/- でも白は本譜同様にエクスチェンジサクリファイスをし、パスポーンの力で勝負できそうです。

34. Ra6! Kg6 35. Rxb6 Rb7 36. c5 Rxb6+ 37. cxb6 Rb7 38. Rxd4!?

よくよく考えればd2のルークはナイトに守られているので、38. Kc5 Nb3+ 39. Kc6 Nxd2 40. Nxd2 のようにNd4-Nb3のフォークを待ってエクスチェンジを捨てても、白は問題ありませんでした。いずれにせよ、キングにサポートされたパスポーンを黒のルークは止めることができず、白の勝勢です。

38... exd4 39. Kc5 d3 40. Kc6 Rb8 41. b7 Re8 42. Nd2 Kf5 43. Kc7 Ke5 44. d6 Ke6 45. d7 1-0


参加した3試合は少し怪しい点もありながら、なんとか3勝することができて良かったです。最後まで大会を見ることはできませんでしたが、南條くんはさすがの強さで全勝優勝だったようですね。全日本に向けて良い調整もできたので、5日間の長丁場となる全日本も引き続き頑張ろうと思います。また今週末の下北沢か、GWに大井町でお会いしましょう。

Science Tokyo Rapid Chess Tournament

2025/04/12

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第41回予告

4月のチェス講座告知です。今月のYouTubeでの講座は今週末、4/13(日) 20時からスタートです。

今月のYouTubeの講座テーマは『盲点のタクティクス3』です。相手キングへの直接攻撃や駒取りのタクティクスには、一発で形勢をひっくり返したり、試合を決める力があります。盲点のタクティクスシリーズ第三段となる今回も、見落としやすい意外なタクティクスをチェックしていきましょう。

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第41回『盲点のタクティクス3』|2025.04.13
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