2025/07/26

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第44回予告

7月のチェス講座告知です。今月のYouTubeでの講座は今週末、7/27(日) 20時からスタートです。

今月のYouTubeの講座テーマは『ドローの境界線』です。チェスの試合は大差になることもありますが、実力伯仲のプレーヤー同士の試合であれば長く互角が続き、最後の最後で一方がミスをして決着がつくことも多いでしょう。ドロー模様だった局面でどのようなミスが出て決着がつくか、または勝てそうなゲームをどのようにしてドローにしてしまうかを見ていきましょう。また少し違う内容ですが、エンドゲームにおけるドローゾーンというものを考えられる局面もご紹介しようと思います。

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第44回『ドローの境界線』|2025.07.27

2025/07/21

Japan Chess Classic 2025 Day4

札幌で開催されたジャパンチェスクラシックは、無事に最終戦を終えて全日程を終了しました。6連勝で最終日を迎えた私は、弘平くんとドローで6.5/7となり、単独での優勝を決めています。ジャパンチェスクラシックは2回目の優勝だと思っていましたが、前身の大会である2018年のジャパンリーグで優勝したことと勘違いをしていました。ジャパンチェスクラシックは初優勝で、日本の3大大会の1つを取れたことをとても嬉しく思います。入賞者の皆さん、おめでとうございます!

1st Place Kojima Shinya 6.5/7
2nd Place Tran Thanh Tu 6/7
3rd Place Kuroda Yunosuke 6/7
4th Place Moritani Sho 5.5/7
5th Place Yamada Kohei 5.5/7
6th Place Furuya Masahiro 5.5/7
7th Place Gishi Takeshi 5/7
8th Place Averbukh Alex 5/7
9th Place Matsunaga Toma 5/7
10th Place Noguchi Koji 5/7

Japan Chess Classic 2025 Final Standings


最終戦の弘平くんとの試合をご紹介します。ずっと上位ボードで試合をしていてタイブレーク有利かと思いきや、負けると直接対決の結果で2位に陥落することもありえたので、緊張感がありました。

Yamada, K (FM, JPN, 2189) - Kojima, S (IM, JPN, 2307)
Japan Chess Classic 2025 (7)

1. c4 c6 2. Nf3 d5 3. e3 Nf6 4. Nc3 a6 5. Be2 e6 6. O-O Nbd7 7. d4 Bd6 8. b3 O-O 9. Bb2 Re8 10. Qc2 e5!?

序盤はSemi-Slavとなりました。私も白でこの変化を指したことがあるため、どのような作戦でいくか悩みましたが、黒が早めにa7-a6を入れているため、オーソドックスなb7-b6からフィアンケットではなく、e6-e5からのビショップの利き筋を開くことにします。黒はIQPを持ちますが、直前にc2に移動した白クイーンがターゲットになりうるため、黒は十分に指せる局面でしょう。

11. dxe5 Nxe5 12. cxd5 cxd5 13. Rad1


ここは13. Rfd1 Be6 14. Rac1のほうが自然だと考えていましたが、f1のルークはしばらくf2を守り続けることで、黒からのキングサイドへのアタックを警戒する作戦だったようです。

13... Be6 14. h3 Rc8 15. Qb1 Qe7 16. Na4 Ned7 17. Bd3 b5 18. Nc3 Nc5

黒のナイトはd7-e5-d7-c5と組み替え、最終的にはe4のマスを抑えることを目標とします。

19. Ne2 Nfe4 20. Nf4 Qc7!? 21. Nxe6 fxe6


黒は白マスビショップを諦めますが、d5が孤立ポーンでなくなった分、バランスは取れているでしょう。

22. Nd2 Nxd3 23. Qxd3 Nxd2 24. Rxd2 Bh2+ 25. Kh1 Be5

この辺りでピースを総清算し、ドローを目指すことにします。6R終了時点で2位と1P差だったため、ドローでも単独優勝が確定です。

26. e4!? Bxb2 27. Rxb2 Qe5 28. Re2 Rc3!


28... d4!? 29. f4 Qc5 30. e5 と進むことも可能ですが、d4のポーンはブロックされており、パスポーンとしての強さはあまり発揮できないでしょう。ドローで満足であれば、本譜のようにクイーンを交換してしまうのが得策です。

29. exd5 Rxd3 30. Rxe5 Rxd5=

ポーンの形は黒が少し乱れていますが、ルークエンディングにおいては小さな問題です。以下、ドロー交換を目指して手堅く指します。

31. Re2 Kf7 32. Rc1 Red8 33. Rc6 R8d6 34. Rc7+ Rd7 35. Rc6 R7d6 36. Rc7+ Rd7 37. Rcc2 Kf6 38. g3 Re5 39. Rxe5 Kxe5 1/2-1/2


今大会は結果だけでなく、内容が安定して大きく崩れることが無かったのが良かったですね。地方開催は運営の苦労も多いと思いますが、今回も盛況で何よりでした。参加した全ての参加者と10名の大会運営人に感謝いたします。また次の大会でもよろしくお願いいたします。

2025/07/20

Japan Chess Classic 2025 Day3

ジャパンチェスクラシック3日目です。7月20日はInternational Chess Day ということで、社会的な貢献をしたクラブとして、佐賀の伊万里チェスクラブが表彰されました。伊万里チェスクラブの主催する有田焼を使ったチェス大会は、私も昨年まで3年連続で参加させていただいています。

さて、この日は午前の試合でTuさんに勝ち。相手の勘違いでルークを取れたのはラッキーでした。午後の試合では全日本でドローだった森谷くんに、前回と色を変えて白での対戦です。今夜はこちらの試合をご紹介します。

Kojima, S (IM, JPN, 2307) - Moritani, S (JPN, 2076)
Japan Chess Classic 2025 (5)

1. d4 Nf6 2. c4 d6 3. Nf3 Nbd7 4. Nc3 e5 5. g3 g6 6. Bg2 Bg7 7. O-O O-O 8. e4 c6 9. h3 exd4 10. Nxd4 Qb6!? 11. Nde2!

長くFianchetto King's Indianを指していますが、このタイミングのクイーンの飛び出しは初めて見ました。Qb6-Qb4のような手を警戒し、ナイトはe2に退いてナイト同士を連携させ、b2-b3のような手を指せるようにしておきます。

11... Qb4 12. b3 Ne8 13. Qc2 Nc5 14. Bd2! Qb6 15. Be3! f5


ナイトを退いたからにはfポーンを突きたくなりますが、f5のマスを奪う代わりにキングの守りを弱めるのが気になります。15... Qc7 16. b4 Ne6 17. Rad1+/- ならば白は満足な流れで、黒はQd8-Qb6-Qb4-Qb6-Qc7のテンポロスが痛いでしょう。

16. Rad1 Qc7 17. exf5 Bxf5 18. Qd2

展開したばかりのビショップにクイーンを当てられるのは嫌なようにも思えますが、落ち着いてd2に避ければd6にプレッシャーが続き、f5のビショップも将来的なターゲットになります。

18.... Bf6 19. Nd4 Bd7 20. Rfe1 Ng7 21. b4 Nce6 22. Ne4!


2つのナイト跳びで黒の両ビショップを退かせ、ナイトがセンターで強く働きます。このナイトはd6へプレッシャーをかけるだけでなく、f6への跳びこみも見据えています。

22... Be7 23. Nxe6 Bxe6 24. Bd4!?

a1-h8ダイアゴナルを抑え、黒キングにプレッシャーをかけ続けます。

24... Rf7 25. Qc3 Raf8 26. g4!?


f5のマスを抑えてNg7-Nf5を防いでおきます。このナイトがg7から切り替えることができないと、黒は苦しい時間が続くでしょう。

26... h6 27. Qc1 g5 28. Re2 c5

何かしらしなければいけないのは間違いないですが、この手はd4のマスを奪ってビショップを退かせる代わりに、d5のマスが弱くなります。

29. bxc5 dxc5 30. Ba1 Bd7 31. Nc3!


ナイトを切り替え、d5への跳びこみを見せれば白の勝勢です。

31... Ne6 32. Nd5 Qd8 33. Qe3 Re8 34. Qe4 Bf8 35. Qg6+ Bg7 36. Nf6+!

このナイトの跳びこみで駒得することに気づき、勝ちを確信しました。

36... Kf8 37. Nxe8 Nf4 38. Bxg7+ Kg8 39. Bf6+ Nxg6 40. Bxd8 1-0


最後はクイーンの取り合いですが、ルークまで貰っている白が完全に勝ちとなります。Tuさんに勝った直後に負けることがこれまで何回かあったので、ここは落とさずに安心しました。これで6連勝となり、2位と1P差をつけています。

Japan Chess Classic 2025 R7 Pairing


ここまできたらしっかり優勝したいですね。明日の最終戦も頑張ります!
今夜は札幌の人気店、雪だるまでジンギスカンをいただきました。

2025/07/19

Japan Chess Classic 2025 Day2

試合会場のかでる2.7は、北海道庁旧本庁の近くです。

ジャパンチェスクラシック2日目です。今日は午前の試合で、モンゴルのTsogt-Ochirさんと対戦になりました。先日のゴールデンオープンで優勝しているプレーヤーで、対戦してみたいと考えていました。

Tsogt-Ochir, B (MGL, 1932) - Kojima, S (IM, JPN, 2307)
Japan Chess Classic 2025 (3)

1. d4 d5 2. c4 c6 3. Nf3 Nf6 4. Qc2 dxc4 5. Qxc4 Bf5 6. g3 e6 7. Bg2 Be7 8. O-O Nbd7 9. e3 O-O 10. Nc3 b5!? 11. Qe2

c6のポーンを捨てるのが私の準備でした。クイーンを退く手にはクイーンサイドを伸ばして黒は満足になります。11. Qxc6 b4 12. Ne2 Bd3 13. Re1 Rc8 14. Qa4 Qb6 15. Nf4 Bc2 16. b3 Be4 17. Nd2 Bxg2 18. Nxg2 Rc2 19. a3 Qb7 を研究していました。

11... b4 12. e4 Bg6 13. e5 Nd5


13... bxc3 14. exf6 cxb2 15. Bxb2 Bxf6 とナイトを取り合う展開も考えられますが、d5のアウトポストのナイトで勝負します。

14. Ne4 h6 15. Rd1 Qb6 16. Nfd2 Rfd8 17. Nc4 Qa6 18. Bf1 N7b6 19. Ncd6 Qxe2 20. Bxe2 Nc8

クイーンを交換し、少しおとなしい局面になりました。d6に侵入したナイトも丁寧に捌いてリスクを減らします。

21. Nxc8 Bxe4!?


21... Raxc8 22. Nc5 の局面が自信がなく、あえてビショップナイトを交換して不均衡を作ります。

22. Nxe7+ Nxe7 23. f3 Bc2! 24. Rd2 Ba4 25. Bd3 Rd7 26. b3 Bb5

白マスビショップを交換し、白のダブルビショップを消すのは黒が望む展開です。白の黒マスビショップはd5のアウトポストをカバーできず、ナイトの働きが勝る局面になります。

27. Bxb5 cxb5 28. a3 Rc8! 29. Bb2 Rdc7 30. axb4 Rc2 31. Rad1 Nd5


b4を取り返すのは急がず、cファイルを占拠してアドバンテージを得ます。白のビショップは黒マスの味方ポーンで遮られており、黒はよっぽどのミスがでない限り負けない形になっています。

32. Kf2 Kf8 33. Ke2 Ke8 34. Rxc2 Rxc2+ 35. Rd2 Rxd2+?!

ここは35... Rc6 と退いてルークをキープするほうが良いとコンピュータは指摘しますが、ナイトvs.ビショップでも負けようがないため、黒は気楽にルークを交換したエンドゲームを指すことができます。

36. Kxd2 Nxb4 37. Ba3?


試合中は気づいていませんでしたが、これが負けを決定する手でした。37. Bc3! Nd5 38. Ba5! とa5のマスを抑える手が有効らしく、黒がクイーンサイドでパスポーンを作ることを遅らせて抵抗します。

37... Nd5 38. Bc5 a5 39. Kd3 h5 40. g4 g6 41. Ke4 a4 42. bxa4 bxa4-+

aファイルにパスポーンを作れば、後はキングかナイトでa3のマスを抑えにいければ黒勝ちです。ナイトはd5の白マスから黒マスを抑え、ポーンは白マスを抑えているため、安全策はキングでa3を抑えることでしょう。

43. h3 Kd7 44. f4 Kc6 45. f5 Kb5 46. gxh5 gxh5 47. f6 Kc4


白キングが黒のhポーン、fポーンを狙うのは時間がかかるため、黒キングはa3でビショップをいただき、戻ってくる時間が十分にあります。

48. Kf3 Kb3 49. Kg3 a3 50. Bxa3 Kxa3 51. Kh4 Kb4 52. Kxh5 Kc4 53. Kg5 Kxd4 54. h4 Kxe5 0-1

f6も落ちてhポーンを止められるため、ここで白はリザインしました。無理せず手堅く、自分らしいゲームが指せたと思います。午後の試合では、中国のXu Nuoさんと対戦して勝ち、Tuさんととも4連勝となりました。Xuさんは名前をどこかで見たことがあると思っていましたが、昨年少し覗きにいった国際将棋フォーラムの国際将棋トーナメント優勝者で、藤井竜王・名人と対局したかただと、試合前に本人から教えてもらいました。チェス、将棋、どちらも興味がある人が海外から参加してくれるのは嬉しいですね。トップ対決となる明日も頑張ります。

Japan Chess Classic 2025 R5 Pairing

今夜は十勝名物の豚丼をいただきました。

2025/07/18

Japan Chess Classic 2025 Day1

今日から4日間、北海道の札幌で開催されるジャパンチェスクラシックに参加しています。今回は一昨年の神戸のジャパンチェスクラシック、去年の名古屋のジャパンオープンに続き、3回目の地方でのビッグトーナメントとなります。112名のプレーヤーが集まる中、私は初戦Hehirさん、2RはYuくんに勝って連勝です。今夜は午後のゲームをご紹介します。

Kojima, S (IM, JPN, 2307) - Yu, Z (CHN, 1803)
Japan Chess Classic 2025 (2)

1. d4 Nf6 2. c4 g6 3. g3 Bg7 4. Bg2 O-O 5. Nf3 d5 6. O-O c6 7. Qb3 dxc4 8. Qxc4 Nbd7 9. Nc3 Nb6 10. Qd3 Be6 11. Rd1!

序盤はc6-d5型のGrunfeldでした。黒からc4を取ってきた変化ではBe6-Bc4のスレットを外した後に、e2-e4から厚いセンターを主張しにいきます。

11... Qc8 12. e4 Rd8 13. Qc2 Bg4 14. Bf4 Nh5 15. Bg5 Nf6 16. a4!


黒からa7-a5と突くとb6のナイトが浮くため、黒はa2-a4-a5の狙いに対応しづらいと考えました。ナイトをb6から追い出してNb6-Nc4を消しておけば、e3がビショップの安定した位置となります。

16... h6 17. Bc1 Nh7 18. a5 Nc4 19. Ne2!

g4-d1のダイアゴナルをどうするか悩みましたが、e2に退いたナイトがピンを外しつつ、d4を上手く守っていることに気づきました。d5,e4の利きが外れることは問題ではありません。

19... Nd6 20. Ne5! Bh3 21. Bxh3 Qxh3 22. Nf4 Qc8 23. a6 bxa6 24. Nxc6


白はポーンの形を乱しつつ、ポーンを取り返して好位置にナイトを運びました。e7へのプレッシャーは単純ですが、黒がずっと気にし続けなければいけないものです。

24... Rd7 25. Be3 Ng5 26. e5 Nb5 27. e6 Nxe6 28. Nxe6 fxe6 29. Qxg6+-

e7への攻撃だけでなく、黒キング前を崩壊させて決定的なアドバンテージを得ました。後は黒キングにさらにプレッシャーをかけつつ、ポーンを回収していきます。

29... Nd6 30. Bxh6 Nf5 31. Qxe6+ Kh8 32. Qxf5 Bxh6 33. Ne5 Rc7 34. Qh5 Qe6 35. d5 Qf6 36. Ng4


少し悩みましたが、単純なナイトフォークでさらなる駒得を決めます。

36... Qxb2 37. Rxa6 Rac8 38. Qxh6+ Kg8 39. Rg6+ Kf7 40. Qh7+ Ke8 41. Qg8+ Kd7 42. Qe6+ Kd8 43. Rg8# 1-0

最後は黒キングをメイトに追い込みました。初戦に続き内容は良かったので、2日目もこの調子で頑張ります。初日の連勝者は19人で、2日目にはさらに半数以下になります。

Japan Chess Classic 2025 R3 Pairings

今夜はカツにデミグラスソースをかけた根室名物、エスカロップをいただきました。

2025/07/02

Japan Open 2025 Preview

昨年のジャパンオープン入賞者たち

昨日、9月に開催されるジャパンオープンの要項が発表され、同時に申し込みも開始されました。今年のジャパンオープンは例年の4日間7Rからさらにグレードアップし、5日間9Rでの開催となります。主な大会情報は以下の通りです。

【日時】 2025年9月19日(金)-23日(火、祝)
【会場】 きゅりあん(品川区総合区民会館) 東京都品川区東大井5-18-1
【形式】 スイス式9ラウンド、90分+30秒/手、FIDE、国内スタンダード公式戦
【参加費】 Masterカテゴリー: 15000円-30000円(レイティングにより異なる)
Challengerカテゴリー: 12000円-25000円(年齢、チェス国籍により異なる)
【主催】 日本チェス連盟
【参加申し込み】 Peatix
【大会要項】 Japan Open 2025

日程が長くなっただけでなく、今大会が初の試みであることがいくつもあります。以下、私が注目している過去の大会との違いです。

・ タイトルホルダーの無料招待がある
・ レイティング2001以上のMasterカテゴリーと、それ以下のChallengerカテゴリーに分けられている
・ Masterカテゴリーは、参加費がレイティングにより段階的になっている
・ レイティング上位のタイトルホルダーには無料で、それ以外の希望者には割引価格で会場近くのホテルに宿泊できる
・ ドレスコードがある
・ アピールコミッティーがある

全て海外大会では採用されることがある、あるいは当然とされているようなことですが、慣れていないプレーヤーにとっては驚く内容だと思います。海外からどれくらいのマスターが参加するかはまだ分かりませんが、IMノームの取得チャンスは十分にあると思います。日本籍であれ、海外籍であれ、日本国内の大会で初のノーム獲得者が誕生すると良いですね。

ちなみに限定20部屋とは言え、割引価格で会場近くのホテルに宿泊できるのも、個人的に画期的だと思っています。これも海外大会で時折あることなのですが、主催者がホテルと交渉した結果です。つまり今後こうしたことが上手く続いていけば、ホテルの宴会場などを会場として、そのホテルに海外勢、地方遠征勢が滞在する大規模な大会も企画されるかもしれません。実際、これまで参加してきたアメリカ、ヨーロッパ、台湾などの大会もそうした形式でした。

今回のジャパンオープンが実際にどうなるかは、ふたを開けてみないと分かりませんが、海外からGM,IMが多数参加して盛り上がることを期待しています。私も昨年はタイブレークで惜しくも2位でしたので、今年こそ優勝目指して頑張りたいですね。まずは直近のジャパンチェスクラシックですが、こちらのジャパンオープンでも皆さんよろしくお願いいたします。

2025/06/24

My Memorable Games of 2024-2025 Vol.4


昨年の全日本選手権で指したゲームの中では、こちらの前嶋くんとの棋譜も印象的でした。序盤から分からないセオリーになりながら、上手く試合運びができたと思っています。

Maeshima, H (JPN, 1918) - Kojima, S (IM, JPN, 2299)
Japan Chess Championship 2024 (6)

1. c4 c6 2. d4 d5 3. Nf3 Nf6 4. Nc3 dxc4 5. a4 Bf5 6. Ne5 Nbd7 7. Nxc4 Nb6 8. Ne5 a5 9. e3 g6!?

かつてハワイでアメリカのGM Samuel Shanklandと指した際は違う変化を選びました。9... Nbd7 10. Qb3 Nxe5 11. dxe5 Nd7 12. e4 はよく勧められる変化ですが、ドロー手順があるためこの試合では避けることにします。

10. g4!?


f5のビショップを満足に働かせないようにする白の工夫として、ポーンで狙う手はしばしば見られますが、考えたことのないタイミングでした。g7-g6の形を決めているためBf5-Bg6ができませんが、同時にBf5-Be6の組み直しも悪くないと考えられます。10. Bd3 Bxd3 11. Nxd3 Bg7 12. O-O O-O 13. b3!? はメインの変化で白はBc1-Ba3からe7を攻撃できます。

10... Be6 11. Be2 Nfd7 12. Nd3 Bc4!?

将来的にNd3-Nf4 or Nd3-Nc5がe6のビショップを狙う良い動きになりそうなので、早めにe6からビショップを退避させ、場合によっては白のナイトとの交換を目指します。

13. e4 Bg7 14. Be3 Ba6!?


Bc8-Bf5-Be6-Bc4-Ba6 というかなり変わったマヌーバリングです。白がe3にビショップを置いたことを見て、Nb6-Nc4を狙うアイディアです。

15. e5?!


d4へのプレッシャーを受けるため黒のビショップのダイアゴナルを止める狙いですが、d5のマスが弱くなるうえ、d4が動きづらくなり、逆にターゲットになりやすいという弱点を抱えます。ここはc3のナイトの守りが一時的になくなることを気にしすぎず、15. b3 くらいでc4のマスを受けておくべきだと思います。

15... Nc4 16. b3 Nxe3 17. fxe3 c5!

ダブルポーンでd4を固く守ったつもりだったかもしれませんが、このブレイクで再度d4を弱めることができます。eファイルの孤立ダブルは弱点になりすぎてしまうため、このc5ブレイクを白から取れないのがこのポーンストラクチャーの弱点です。

18. Nf4 e6 19. h4 O-O 20. Ne4 cxd4 21. exd4 Qb6!


白はg2-g4との組み合わせでキングサイドの強襲を考えますが、センターポーンと初期位置のキングがあまりに不安定で上手くいきません。

22. g5 Nxe5!

22... Rfd8 のような手でも十分ですが、e4,f4に並んだナイトがどちらも浮いていることを利用したタクティクスで勝負は決まります。

23. dxe5 Qb4+ 24. Qd2 Qxe4 25. O-O Rad8 26. Qa2 Bxe5


e5のポーンが落ちて黒マスビショップまで参戦することになれば、白キングは風前の灯火です。

27. Bxa6 Bxf4 28. Rae1 Be3+ 29. Kh2 Qxh4+ 30. Kg2 Qg4+ 31. Kh2 Rd2+ 32. Re2 Bf4+ 33. Kh1 Qh3+ 34. Kg1 Be3+ 35. Rff2 Rd1+ 0-1


Slav Defenceは長く指していますが、試合のたびに初体験の形になることがまだまだあります。昨年の全日本選手権では、汐口くんとの試合もかなりカオスでした。

2025/06/21

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第43回予告

6月のチェス講座告知です。今月のYouTubeでの講座は今週末、6/22(日) 20時からスタートです。

今月のYouTubeの講座テーマは『Perpetual Check or Fighting』です。パペチュアルチェックは一方がチェックを続け、他方がチェックを防ぎ続けることで起こるドローのパターンですが、チェックする側にはより良い攻撃手筋が無いか、逃げる側にはチェックを振り切る方法が無いかを探る駆け引きがあります。今回はそんなパペチュアルチェックでドローにするか、それともリスクを取って勝負を続けるかをテーマに、実戦例をご紹介しようと思います。

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第43回『Perpetual Check or Fighting』|2025.06.22

2025/06/17

My Memorable Games of 2024-2025 Vol.3


このシリーズで続いてご紹介するのは、昨年の全日本選手権で指したゲームです。山本くんはこの当時、1900弱のレイティングでしたが、今年の全日本選手権での活躍により、現在は2000を超えています。この1、2年で最も成長した若手の1人でしょう。

Kojima, S (IM, JPN, 2299) - Yamamoto, S (JPN, 1884)
Japan Chess Championship 2024 (3)

1. d4 Nf6 2. c4 e6 3. Nf3 Bb4+ 4. Nbd2

Bogo-Indianには去年、Nb1-Nd2の変化を用意していました。ビショップ交換を避け、場合によってはビショップペアを持って白は勝負します。ここでナイトとビショップのどちらを挟むかは、1つ前の米満君との試合で、Sicilian Moscowにどちらを挟むかと似ています。

4... O-O 5. a3 Be7 6. e4 d6 7. Be2 b6!?


黒はクイーンサイドフィアンケットを選択しましたが、e6-e5からc8-h3ダイアゴナルを開くアイディアも一般的です。7... Nbd7 8. Qc2 e5 9. Nb1! が私の準備で、c3にナイトを組み直してe4を支えるつもりでした。

8. O-O Bb7 9. Qc2 Nbd7 10. b4 h6 11. Bb2

上記の変化のようにナイトをc3に組み直すことは叶いませんでしたが、b2にビショップを展開できれば、d2とのナイトの相性も良く、白は満足なセットアップです。

11... c5 12. bxc5 bxc5 13. d5 e5 14. Bc3!


センターが固まったので、サイドでの争いが中心となります。白はクイーンサイドで揺さぶりをかけ、bファイルからの侵入を目指します。

14... Ne8 15. Nb3! Bc8 16. Na5 Nb8 17. Rab1+/-

ビショップはb7では使いづらいために退きなおすのは予想通りですが、ナイトも初期位置に戻ったのは意外でした。単純にbファイルを抑えて白が優勢ですが、駒が取れるようになるにはまだひと手間必要です。

17... Qd7 18. Rb2 Bd8 19. Rfb1 Bxa5?!


いずれにせよ黒は消極的で苦しい状況ですが、19... Bb6 としてbファイルをブロックするほうが粘れます。本譜のように黒マスビショップを貰えれば、白は黒マスを使ったプレーが楽になるでしょう。

20. Bxa5 Na6 21. Nh4!

クイーンサイド一辺倒ではなく、キングサイドでもプレーを混ぜるのがポイントです。f5へのナイトの侵入を見せ、黒のキング前の弱体化を狙います。

21... g6 22. g3!?


ナイトの退くマスを作りつつ、f2-f4も場合によっては狙おうと考えましたが、素直に弱くなったh6を攻撃するほうが良かったかもしれません。22. Qc1! Kh7 23. Bd2+-

22... Nac7 23. Bd3 Ng7 24. Qd1 Nce8 25. Bc2

上記の黒マスを狙うプランではなく、逆に白マスビショップを活用しようと考えました。c4,e4のポーンで妨害された白マスビショップを、Be2-Bd3-Bc2-Ba4とマヌーバリングします。

25... Qh3 26. Ba4 a6 27. Bc6 Ra7 28. Bb6 Re7 29. Bd8 Ra7 30. Rb8


白マス黒マス両ビショップで黒ルークに揺さぶりをかけ、ルークも侵入させます。何か上手い手順ですぐルークが取れないかと思っていましたが、はっきりしたアイディアはありません。それでも黒のピースはあまり動けず、白は大きく優勢です。

30... Nh5 31. Qb3?

ここでクイーンもクイーンサイドで侵入していけば勝ちだと思いましたが、キングサイドでの反撃をきちんと考えていませんでした。ここは31. Qf1! が正確な手で、クイーンを強制的に交換してしまい、黒のキングサイドの反撃を消してしまえば、クイーンサイドで圧倒している白の勝勢です。

31... Nef6! 32. Bxf6


ナイトが出てくれば、あらためてクイーンをキングサイドのディフェンスに使うつもりでしたが、32. Qf3? Nf4! が強力で、黒に余計なアタックを許してしまいます。本譜は泣く泣く黒マスビショップを返しますが、これにより白の優位は間違いなく減っています。

32... Nxf6 33. Qf3 Kg7 34. R8b2 Bg4?!

ここは先述のようなクイーン交換が起こり、bファイルを抑えている白が有利となります。代わりに34... g5! 35. Nf5+ Bxf5 36. Qxf5 Qxf5 37. exf5 e4!=/+ と進めば、黒のナイトは白のビショップに勝る働きをしています。

35. Qd3 Bc8 36. f3! Nh5 37. Qf1 Qxf1+ 38. Kxf1 f5 39. exf5 gxf5?


この自然に見えるポーンの取り返しで、再度白にチャンスが生まれました。39... g5! 40. Ng2 Bxf5 41. Rb7+ Rf7 ならば黒は不満の無い流れです。d3でのチェックがあるため、g3-g4はポーンフォークのスレットになりません。

40. Rb6 Kf6 41. Rb8 Rc7 42. R1b6+-

a6、d6、f5といった複数のポーンがターゲットになっており、黒は全てを守り切るのが大変でしょう。

42... Ng7 43. Bb7 Rd8 44. Bxc8 Rcxc8 45. Rxc8 Rxc8 46. Rxd6+ 1-0


最後は重要なポーンが落ち、あっさりとした決着がつきました。盤全体のプレーで上手くチャンスを作っただけに、不必要な反撃を許して形勢を怪しくした点を反省しています。

2025/06/16

Chubu Rapid Open 2025

昨日は名古屋で開催された中部快速オープンに参加してきました。すでに10回以上参加している1日制の大会で、毎年この大会のために名古屋遠征できることを楽しみにしています。昨年は1つドローがありましたが、今年はなんとか全勝での優勝を果たすことができました。入賞者の皆さん、おめでとうございます!

1st Place Kojima Shinya (IM, JPN, 2278) 5/5
2nd Place Noda Ryo (JPN, 1796) 4/5
3rd Place Higashishiba Teruomi (JPN, 1907) 4/5

Chubu Rapid Open 2025 Final Standings


今大会一番の山場は、3連勝同士で迎えた4Rの東芝さんとの試合でした。序盤で優位になったにもかかわらず、適切なプランが分からずに苦戦します。今夜はこちらのゲームをご紹介させていただきます。

Higashishiba, T (JPN, 1907) - Kojima, S (IM, JPN, 2278)
Chubu Rapid Open 2025 (4)

1. e4 c6 2. d4 d5 3. e5 Bf5 4. Nd2 e6 5. Nb3 c5 6. dxc5 Bxc5 7. Nxc5 Qa5+ 8. c3 Qxc5 9. Nf3 Qc7!?

Caro-Kann は様々な研究に目を通していますが、こちらはJobavaの勧める手です。クイーンを早めに退いてe5を狙い、白のセットアップを早めに決めさせます。

10. Bf4 Nc6 11. Be2 Nge7 12. Nd4 Nxd4 13. cxd4 Nc6 14. O-O?!


本譜のb2を捨てるプランは難しいですが、白が手堅く指したければ避けるべきでしょう。14. Qd2! と先にクイーンを上げておき、d1にルークが移動する準備をすれば本譜の流れにはなりませんでした。

14... Qb6 15. Be3 Qxb2 16. Bd3 Bxd3 17. Qxd3 Qb6 18. Rab1 Qc7 19. Qb5 Rb8

思わずポーンアップした黒ですが、ここはb7を返すことも考えました。19... O-O!? 20. Qxb7 Qxb7 21. Rxb7 Na5! こうしてc4のマスにナイトを置けば、働きの良いナイトと働きの悪いビショップの構図を作ることができます。しかし、せっかくのポーンを返してでもこうすべきか判断ができませんでした。

20. f4! O-O 21. f5 Ne7?!


ここはf5を早めにカバーし、反撃するべきだと思ったのですが、c7のクイーンhが狙われることをなぜか失念していました。21... Na5!? からc4を目指すプランはやはり有力です。

22. Rbc1?!


22. f6! Nf5 23. Rfc1 Qd8 24. Bf2 はポーンの代償がある難しい局面です。私はRf1-Rc1,Qc7-Qd8抜きでこの局面を考えており、ポーンの代償を軽視していました。

22... Qb6! 23. Qxb6 axb6 24. fxe6 fxe6 25. Rc7 Rxf1+ 26. Kxf1 Nc6

黒はポーンストラクチャーを乱しましたが、ポーンアップをキープしたままエンドゲームに入りました。b7の守りにルークは縛られているように見えますが、タイミングを見てaファイルからの反撃を仕掛けることができます。またここでは、26... Nf5! 27. Bf2 h5! としてf5のマスを確保し、ナイトを強く使うアイディアも有力です。

27. h4?! h6?!


お互いにキングサイドを見ていましたが、より重要なのはクイーンサイドです。aファイルからの反撃は当然考えていたものの、なぜかa2を落とす前にbポーンを極力伸ばすアイディアを考えていませんでした。27... b5! が強力な1手です。

28. g4 Na5?!


c4へのナイトの侵入は様々なタイミングで考えていましたが、e6、b7を落とす前にできる限りの準備をしておくべきです。ここが最後のb6-b5のチャンスでした。

29. Re7 Nc4 30. Bc1 Ra8 31. g5?!

指されてみて、g5-g6が嫌なアイディアだと思ったのですが、ここはaポーンを受けておくほうが良かったようです。しかし、31. a3! Nxa3 32. Bxa3 Rxa3 33. Ke2 Rg3 34. g5! hxg5 35. hxg5 Rxg5 36. Rxe6= がドローに持ち込めるエンドゲームだと読むのは、なかなか大変でしょう。

31... Kf8! 32. Rxb7 hxg5 33. Bxg5 Rxa2 34. Rb8+?!


ここはe6を取りにいく判断をしますが、逆に黒キングを積極的に使わせてしまうため良くなかったようです。ルークは7段目で黒キングの動きを制限したまま、34. Kg1!? のようにじっと待つ手をコンピュータは推奨しますが、積極的に反撃を作りにいきたい気持ちも理解できます。

34... Kf7 35. Rb7+ Kg6 36. Re7 Nd2+?

g7を捨てた際のhポーンの脅威がいかほどか判断できず、残り数秒で弱気な手を指してしまいました。36... Kf5! 37. Rxg7 Ke4! 38. h5 Rh2 39. h6 b5 40. h7 b4 41. Rb7 b3 42. Bf6 b2-+ 白がh8を抑える速度に、十分bポーンが対抗できるのは意外でした。d2でのフォークがあり、b1でのプロモーションは有効です。

37. Ke2 Ne4+ 38. Kd3 Ra3+ 39. Ke2 Nxg5 40. hxg5 Kxg5 41. Rxe6 Kf5 42. Rd6??


ここは42. Rxb6= でドローでしたが、おそらく黒キングの動きを見誤ったのでしょう。黒はd5を守りつつ、d4を取りにいく余裕があります。

42... Ke4! 43. e6 Kxd4 44. Rxb6 Re3+?

私もここはひどいミスでした。44. e7?? Re3+ がeポーンを止めるアイディアだったのですが、それが頭にあったために本譜でもパスポーンをe3から止めに行ってしまいました。パスポーンに対応するのは当然ですが、g7を生かさなければフィリドールポジションになってしまいます。44... Ra7! ならばeポーンを止めつつ、自身のgポーンを守ることができて黒の勝勢です。

45. Kd2 Re5 46. Rb4+ Kc5 47. Rg4 g5 48. e7 Kd6 49. e8=Q Rxe8 50. Rxg5 Kc5


互いのポーンを取り合い、黒のdポーンだけが残るルークエンディングになりました。白キングはすでにポーンをブロックする位置にいるため、理論的にはドローですが、実戦ではこうした局面でも間違えて決着がつくことも少なくはないため、当然黒は最後まで指します。

51. Rg7 Rh8 52. Kd3 Rh3+ 53. Kd2 Kc4 54. Rg4+ d4 55. Rg8 Rh2+ 56. Kd1 Kc3 57. Rc8+??

フィリドールポジションの必修局面が現れました。このオフェンス側キングが6段目、ポーンが5段目の状況ではディフェンス側がドローに持ち込める手は1つしかありません。57. Rd8! Kd3 58. Kc1 Rh1+ 59. Kb2 Ke3 60. Kc2!= ここでキングを寄り、d4-d3のポーンの前進を止めるのが必須です。それを実現するためには、白は早い段階でルークをポーンの後ろに回すしかないのです。

57... Kd3 58. Ke1 Rh1+ 59. Kf2 Kd2


白キングを追い出し、黒キングが逆に潜り込めばルセナポジションになります。

60. Ra8 d3 61. Ra2+ Kc3 62. Ra3+ Kc2 63. Ra2+ Kb3 64. Rd2 Kc3 0-1

なんとかこの試合を勝ち、4連勝となりました。最終戦は同じ4連勝の野田くんとの優勝争いを制し、9回目の中部快速オープン優勝を決めています。0.5Pでも落とせばレイティングマイナスだったため、プレッシャーはありましたが、なんとか結果を残すことができて安心です。来年も10回目の優勝を目指して頑張ります! 参加者、運営の皆さん、今年もありがとうございました。
大会後は久々にひつまぶしをいただきました。週末は鰻屋を含めどこも混む名古屋ですが、事前に予約しておけば楽に入れるようです。
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