メキシコと対戦する日本オープンチーム Photo by Mrs. Hoshino
いよいよ2週間に渡るバクーのオリンピアードも、最終日を迎えました。最後のR11 は、日本男子チームはメキシコとの対戦になります。メキシコは8年前、北京のWorld Mind Sports Games でも対戦し、その際に私はメキシコの天才GM Manuel Leon Hoyos と試合をしてました。Leon はかつて、モレリアのトーナメントにて、若くしてIvanchuk のセコンドに抜擢されたプレーヤーです。現在は2400台に落ちており、今大会の代表を外れていますが、それでもGM Hernandez Guerrero を擁するメキシコは、強豪国であることは間違いありません。
しかし、試合の朝、目を覚ましてからボードペアリングをチェックしてびっくり。1B のHernandez Guerrero を外すというオーダーでした。実はメキシコは、2B のIM Capo Vidal が7連勝中でパフォーマンスが3000を超えており、彼に個人賞を取らせるためにもう1試合、白をもってプレーさせるという作戦に出たのです。完全に南條くんの相手だと思い、ノーチェックだった強敵に、黒をもって私のオリンピアード最終戦が始まります。
Capo Vidal, U (IM, MEX, 2314) - Kojima, S (IM, JPN, 2398)
Baku Chess Olympiad (11)
1. d4 d5 2. c4 c6 3. Nc3 Nf6 4. Nf3 dxc4 5. a4 e6 6. e4 Bb4 7. Bxc4!?
今大会、私は黒番でのd4対策は、Nimzo-Indian のつもりでしたが、Capo Vidal がSlav Exchange とLondon を指しそうだったので、
1... d5 で受けてみようと思いました。ところがどっこい、彼はSlav の中でも攻撃的なギャンビットの変化を選びました。私もそうくるのであれば、真っ向から受けて立つほかありません。
7... Nxe4 8. O-O Nf6 9. Bg5 Nbd7 10. Qe2 O-O
以前研究した、Mamedjarov - Postny のゲームで、黒が
Qd8-Qc7、Bb4-Bd6 と組んでいたのを思い出し、まずはそのセットアップを目指します。
11. a5?!N
白が指したこの手を見てとても驚きました。a5 のポーンはただで取ることができ、特に危険なタクティクスなどもないように見えたのです。ただよくよく読んでみると、白はポーンを捨てた代わりに黒の遅い展開でバランスを取ろうとしているため、
a3-f8 のダイアゴナルから黒マスビショップが離れるのは、さらに展開を遅らせることに気付きました。それでも黒陣は固く、白のアタックを十分捌けると判断して、相手のチャレンジを受けることにします。
11... Bxa5 12. Ne5 Bb4
ここでビショップをa5 に残したままだと、次にf7 を取られてしまうため、すぐにビショップを戻します。c7 から当初の予定通りにd6 でもOK ですが、d6、e7 の両方に退くチャンスのあるb4 を再び選びました。
13. Rfe1 Qc7 14. Bd3 Bd6 15. Rac1 a6 16. Qe3 Nd5
私が
Qd8-Qc7、Bb4-Bd6 の後に指したいと考えていたのは、このナイトの1手です。駒得している黒にとってありがたい、ピース交換を狙うとともに、
f7-f6、f7-f5 などとポーンを進め、キングサイドをディフェンスする意図があります。
17. Qh3 f5!
g7-g6 も考えましたが、h6、f6 を弱めるほうが、白にチャンスを与えてしまうのではなかと思いました。そこで思い切ってfポーンを進めますが、大丈夫だと思っていた手筋に一つ読み落としがありました。
18. Nxd5?!
Capo Vidal は1ポーンを取りかえす手筋を見つけたようですが、それよりも実戦的には以下のように指すほうが良いと思います。
18. Bxf5 Rxf5 19. Nxd5 exd5 20. Qxf5 Nxe5 21. Qf4! h6! (21... Ng6?? 22. Re8+ Nf8 23. Rxf8+!-+) 22. dxe5 Bf8!!
Analysis Diagram
これはとても見つけるのが難しい手ですが、こうしなければ黒は負けになってしまいます。実際、私も試合中に読めておらず、この変化に飛び込んでいた場合、どのように試合が進んでいたかはわかりません。
23. Bh4 g5 24. Bxg5 hxg5 25. Qxg5+ Qg7-/= コンピュータは2ピースを得た黒良し評価ですが、まだまだどうなるかわからないでしょう。
18... exd5 19. Bxf5 Nf6!
私は上記の変化にするか、ポーンを返したつもりでおとなしく戦うかで悩みました。しかし、
21. Qf4! が見え、それに対する応手が分からなかったため、より黒にとってわかりやすい、本譜を選ぶことにします。
20. Be6+ Bxe6 21. Qxe6+ Kh8
これで黒はポーンを返しても、1ポーンアップの駒得を保っており、はっきりと優勢なことが分かります。次の手は
Nf6-Ne4 や、
Ra8-Re8 を嫌ったのだと思いますが、ここでのビショップナイトの交換は、黒にとってありがたいと感じました。
22. Bxf6 Rxf6 23. Qh3 Kg8 24. Rc2 Re8 25. Rce2 Rfe6
2つのルークをeファイルに重ね、e5 のナイトを消そうとします。
26. f4 Qb6! 27. Qd3 Bxe5!
ここでは少し迷いましたが、
Ne5-Nd7 がある以上、
c6-c5 は少し早く感じ、もうビショップとナイトを好感してしまうことを決めました。
28. Kh1!?
ここは他の手でもだめですが、それでもこの手は読んでいなかったので驚きました。
28. fxe5 c5! 29. dxc5 Qxc5+ 30. Kh1 Rxe5!-+, 28. Rxe5 Rxe5 29. Rxe5 Rxe5 30. fxe5 Qxb2-+ どちらも黒は駒得を広げ、勝勢となります。
28... Qxd4! 29. Qxd4 Bxd4 30. Rxe6 Rxe6 31. Rxe6 Bxb2-+
ここではエクスチェンジを捨てても、4コネクテッドパスポーンを作れば勝ちになると読み切りました。黒のポーンが、c3、もしくはa3 に到達した時点で、白はルークでパスポーンを止められないことが分かります。
32. Re7
32. Re8+ Kf7 33. Ra8 b5 34. Ra7+ Ke8 35. Rxa6 c5-+ でもあまり変わらず黒の勝ちです。
32... b5! 33. Ra7 c5 34. Kg1
ここでキングを動かす手ではどうしようもないので、ほとんど読んでいませんでした。
34. Rxa6 c4 35. Kg1 c3 36. Rc6 b4 37. Kf2 b3 38. Ke2 c2 39. Kd2 d4! 40. Rc7 d3 41. Rc6 c1=Q+ (42... Ba3 から
b3-b2 でも、もちろん勝ち。)
42. Rxc1 Bxc1+ 43. Kxc1 Kf7-+ これで勝ちを考えていましたが、Misha が検討戦で、b3,d3 のFlouting Square であれば、黒はキングサイドのポーンが無しでも勝てると教えてくれました。
Reference Diagram
1. g4 Kg7 2. h4 Kg8 3. f5 Kf7! (46... Kg7?? 47. h5 Kf7 48. h6 Kf6 49. g5+ Kf7 50. g6+ Kf6 51. h7 Kg7 52. f6++-) 47. h5 Kg7 48. g5 Kg8 49. g6 Kg7-+ これでツークツワンクとなり、黒勝ちです。
34... c4 35. Kf2 c3 36. Rc7 b4 37. Ke2 b3 0-1
最後はルークとキングでもパスポーンを止められないことがはっきりとし、白はリザインしました。レイティングは下の相手ですが、この大会で誰も止められなかった相手を、最終戦でストップできたのはとても嬉しいことです! 隣のボードの南條くんも、私が試合を終えた時点で勝勢、奥の山田くんも相手がリザインする直前で、マッチの勝利を早くも確信しました。
Mexico - Japan 1-3
Capo Vidal, U (IM, MEX, 2314) - Kojima, S (IM, JPN, 2398) 0-1
Cofre Archibold, N (FM, MEX, 2255) - Nanjo, R (IM, JPN, 2340) 0-1
Garcia Guerrero, I (FM, MEX, 2308) - Averbukh, A (JPN, 2223) 1-0
Flores Guerrero, J (IM, MEX, 2345) - Yamada, K (CM, JPN, 2100) 0-1
南條くん、山田くんが無事に勝ち、メキシコを下してのオリンピアードフィニッシュです! レイティングが上の1,2B はともかく、200以上のレイティング差を跳ね返して勝利を収めた山田くんは、大金星といえるでしょう。また明日のオリンピアードまとめ記事でも書きますが、この勝利で山田くんは勝率が65%を超え、オリンピアード規定によりFM のタイトルを獲得しています。
Japan - Australia 1-3
Ishizuka, M (JPN, 1778) - Richards, H (WIM, AUS, 2199) 0-1
Hoshino, K (WCM, JPN, 1802) - Nguyen, T (WFM, AUS, 2119) 1-0
Sakai, A (JPN, 1703) - Guo, E (WIM, AUS, 2035) 0-1
Fukuya, N (JPN, 1636) - Jule, A (WIM, AUS, 2000) 0-1
3連勝中で上がってきた女子チームは、最後はカナダ、オーストラリアに連敗です。それでも、星野さんのみが白星を挙げ、彼女もまた勝率65%達成、WFM のタイトルを獲得しています。
色々と書きたいことは多いですか、残りは明日の記事にまわすとします。ひとまず、プレーしていた選手の皆さんと、観戦、応援してくださった皆さん、2週間に渡るオリンピアード、お疲れ様でした!