2月に入り、日本の新しいチェス組織は正式に活動スタートということになりましたが、昨日、団体名が日本チェス連盟 (JCF) から、National Chess Society of Japan (NSC)に変更されるというニュースが流れました。この経緯については確かな情報が届いておらず、今日私が話題にしたいことからもずれているので、今回は置いておきます。私が注目したいのは、今年から新団体が主催するFIDE公式大会についてです。
昨晩、友人のブログにこうした記事がアップされました。
発進、JCF改めNCS~それぞれの思いと私の思い
この中に、FIDE公式戦になる影響で昨年までの大会の日程や試合数が変更され、参加しづらくなるとの記述があります。これこそまさに私が気にしていたことでした。実際にゴールデンオープンがFIDE大会になった影響で、試合数が減ったことに不満の声があるとも、私の耳に届いています。
まず最初に説明しておきますと、私の基本スタンスとしては、FIDE公式戦が増えることには歓迎です。これまでは、日本のFIDE公式戦は年に2回、GWの全日本選手権と、お盆の時期のジャパンリーグのみでした。そのため、日本に住んでいてFIDEレイティングを獲得したいプレーヤーは、この2大会に参加するか海外大会に足を伸ばさなくてはいけません。もちろん海外大会に足を運ぶ理由はFIDEレイティング獲得だけではないですが、日本でもっとFIDE公式戦の機会が増えれば、手間とお金のかかる遠征の必要もなくなる(減る)でしょう。他にもFIDE公式戦を増やすメリットは以下のように考えています。
・試合への真剣度合が増し、個人、国としてもレベルが向上する
・FIDEレイティングを獲得するプレーヤーが増えると、海外の大会に興味を持ち、遠征にいく人が増える
(チェスの楽しみ方のバリエーションが増える)
・海外から日本の大会に興味をも持ち、参加するアマチュア、マスターが増える
・大会の規模が大きくなり、レベルも上がれば、結果として日本でのチェス普及につながる
これらはあくまで私の個人的な見解で、もちろん希望的観測も入っています。新団体の意見を代弁しているわけではなので、その点はご理解ください。2つ目は上記のこと(遠征の必要がなくなる、減る)と相反しているようにも見えますが、どちらの面もあると思っています。はっきりしておきたいのは、私のような海外のトーナメントを飛び交うようなプレーヤーたちだけにメリットのあることではない、と考えていることです。
逆にこれでまでの大会をFIDE公式戦にすることによるデメリットはどこにあるか、考えてみましょう。FIDE大会が増えると敷居が高くなるというコメントを見かけました。これまでの日本のFIDE大会は、参加費が高い全日本とジャパンリーグのみでした。そこまで高い参加費を払ってまで、FIDEレイティングを欲しいとは思わない、という人は多かったのは理解できます。だから、FIDE大会=敷居の高いもの、というイメージがついてるのかもしれませんが、そこから考えると参加費の安い他の大会もFIDE大会になるということは、逆にFIDE公式戦自体の敷居は低くなるはずです。FIDE のレイティングをプラスすることで、それが無かった時よりも参加者の真剣度合が増し、カジュアルにチェスを楽しみたい層が参加しづらくなるということであれば、なるほどと思います。これに対してのアイディアは、また後述します。
FIDE大会にするデメリットの一番は、上のブログでも触れられている通り、試合数が減ることや、試合数を減らさないようにしたために、大会日程が延びることでしょう。FIDE公式戦は90分+1手30秒以上の持ち時間がスタンダードで、これでは1日2試合のスケジュールが限界です。日本の大会は全日本やジャパンリーグのように長い持ち時間、長い日程の大会もありますが、他は50分+1手30秒、60分+1手30秒などの持ち時間で、1日3試合詰め込むこむものもあります。これらをFIDE公式戦にすると、1日2試合が限界ですので、昨年同様の日程にすると試合数を減らさざるをえなくなり、同じ試合数にすると日程を長くせざるえなくなります。それで大会に満足度が下がる、もしくは大会に参加しづらくなるのであれば、FIDE公式戦にされるほうが困る、迷惑であるという意見が出るのはもっともです。(ただ一方で、日本の持ち時間は海外に比べて短く、ゆっくり考えられないのが嫌だ。長い日程でも、持ち時間を長くして、1日の試合数を減らしてくれたほうが助かるという私の知り合いもいます。)
私が頭を悩ませたのもまさにそこで、FIDE大会は増えてほしい、でも試合数の減少や日程の延長は抑えたい。これらを上手くまとめる方法はないのかと、昨晩から考えていました。そこでFIDE のHandbook を読み直し、以下の項目を発見しました。
FIDE Rating Regulations effective from 1 July 2017
1.Rate of Play
1.1 For a game to be rated each player must have the following minimum periods in which to complete all the moves, assuming the game lasts 60 moves.
Where at least one of the players in the game has a rating 2200 or higher, each player must have a minimum of 120 minutes.
Where at least one of the players in the game has a rating 1600 or higher, each player must have a minimum of 90 minutes.
Where both of the players in the game are rated below 1600, each player must have a minimum of 60 minutes.
日本語で簡潔にまとめると、FIDE公式戦の持ち時間は60手で試合が終わると想定して、レイティング2200以上で1人120分(例えば、90分+1手30秒)、1600以上2200未満は1人90分(例えば、60分+1手30秒)、1600未満は1人60分(例えば、30分+1手30秒)、最低でも必要である、ということです。私がこれまで知識として持っていた、FIDE公式戦には90分+1手30秒以上の持ち時間が必要というのは誤りで、2200未満しかいない大会であれば、60分+1手30秒でOKです。これならば上手くスケジュールを作れば、ぎりぎり1日3試合できる可能性があります。
確認のために、FIDE 2200未満の大会をチェックしましたが、確かに90分の持ち時間が無くとも、Standard の公式戦として認められているものがありました。FIDE が推奨しているStandard の持ち時間は、40手90分+30分+初手から1手30秒で、多くの海外大会はこの持ち時間を採用しています。しかし、もっと短い60分+1手30秒や、30分+1手30秒でも、Standard の公式戦として認められるのであれば、日本のFIDE大会増加ももっとスムーズにいけるのではないかと思います。
もちろん、単に持ち時間を短くするだけでは、FIDE 2200以上の私たちが大会に参加できませんが、そこはクラスを2つに分けるという方法があります。つまり、誰でも参加できるオープンクラスは、例えば90分+1手30秒以上の持ち時間で、1日2試合を3日間で計6R。一方のFIDE 2200未満のプレーヤーのみが参加できるU2200クラスは、例えば60分+1手30秒の持ち時間で、1日目3試合、2日目2試合で計5R。この2つのクラスを同時並行で行えば、全てFIDE公式戦にできます。実際にレイティングでクラスを分け、持ち時間も変えて複数クラスを同時並行で進める海外大会はたくさんあります。これであれば、FIDE公式戦を増やしたいという希望と、試合数の減少や日程の延長を抑えたいという両方の希望が叶えられるのではないか、というのが私の意見です。Handbook の他の項を見ても、1日3試合は禁止されていませんし、1日の上限である1人12時間までに、60分+1手30秒の3試合は収まっています。
海外では90分+1手30秒以上の長い持ち時間がスタンダードですが、日本の社会人の休みの取りにくさは重々承知しているので、海外の形式をそのまま持ってくるよりも、より日本で受け入れられやすい形式はなんなのか、検討する必要があるでしょう。さらに言えば、日本のアクティブプレーヤーでFIDEレイティング2200を超えているのは、私、南條くん、馬場さん、青嶋くんのたった4人のみです。海外のスタンダートというだけでなく、私たちに合わせて持ち時間を長く、試合数を少なくしてそれに付き合ってもらうよりも、多くのプレーヤーに持ち時間とスケジュールの選択の余地があるほうが、柔軟で受け入れられやすいのではないかと思います。参加者のレベルに応じてクラスを選択できるのであれば、カジュアルに指したい層にとっても、敷居の高さは緩和されるのではないでしょうか。もちろんすぐこれを採用してほしいということではなく、すでに大会形式や日程が発表されているものもありますので、将来的にこうした案も検討してほしい、くらいに捉えていただければと思います。
新しい団体の発足が発表されて以降、私の耳にも様々な立場の人からの意見が届いていますが、このFIDE大会増加については、これまでの希望が通って嬉しいという賛成意見から、地方のプレーヤーが軽視されている、結局首都圏のプレーヤーや、FIDE戦を積極的にこなすトーナメントプレーヤーが優先されている、という反発まで色々とあるようです。全ての人に対して公平に物事を進めることは難しいと思いますが、新しいことを始めることで意見が飛び交っている状況なのであれば、上手くそれらを拾い上げて、なるべく多くの人にメリットがあり、納得できるプランを進めていけると良いですね。