久々にオープニングのアイディアについてを中心とした記事です。昨年11月に中野チェスクラブの非公式戦で指した試合をご紹介します。
Kojima, S - Kimura, R
Nakano Chess Club
1. c4 c5 2. g3 g6 3. Bg2 Bg7 4. Nc3 Nc6 5. d3 d6 6. Qd2!?
初めて見たときは、なんと奇妙な手なのだろうかと思いました。展開していない黒マスビショップの進路をふさぐようにクイーンを配置するのはどう考えても不自然です。この変化を見つけたのはアジア大会でSindarov相手に
5. Nf3 d6 6. 0-0 Rb8!?の変化で負けてからラインを調べ直していた時でした。ここでの黒の6手目はいくつも面白い手があるのですが、その1つに
6... Qd7!?があります。本譜はこの黒の手を先に白で指してしまおうというもので、白はクイーンサイドにフィアンケットを組めばクイーンの位置の不自然さも解消できます。近年はCarlsenにも指されている、注目すべき手の1つです。
6... e5
黒はc7-c5とe7-e5を組み合わせた、いわゆるBotvinnikのセットアップです。d5をアウトポストにすることを嫌うのであれば、
6... e6 7. b3 Nge7 8. Bb2 O-O 9. h4 h6とする流れもありえるでしょう。
7. b3 Nge7 8. Bb2 Rb8 9. e3 a6 10. Nge2 Be6 11. Nd5
白はd6-d5を防ぐよう、黒のBc8-Be6を見てからナイトをd5に侵入させます。白の駒組みはClosed Sicilianで白黒を反転させたようで、とても手堅い形になっています。以下、参考の棋譜と局面です。
1. e4 c5 2. Nc3 Nc6 3. g3 g6 4. Bg2 Bg7 5. d3 d6 6. f4 e6 7. Nf3 Nge7 8. O-O O-O 9. Be3 b6 10. Bf2 Bb7 11. Qd2 Qd7 12. Rad1 Rad8 13. Rfe1 Nd4!=/+ / Grigoryan - Dubov / EU-ch 2013
Reference Diagram
こうした形で指せるのであれば、本譜の
6. Qd2もタイミングが早くて奇妙に見えるものの、バランスの取れた手になってくるでしょう。
11... b5 12. O-O Qd7 13. f4 Bh3?
d5でのナイト交換に備えた手ですが、センターに残ったキングが危険になります。
13... O-O 14. Rf2!? f5 15. Raf1+/= くらいで白やや優勢ですが、もちろん黒も指せる局面です。
14. Bxh3! Qxh3 15. fxe5
15. Nc7+ Kf8 16. fxe5 dxe5 17. Nxa6+- 先にe5のポーン交換を入れておけばa6を取った後でc5にナイトの逃げ場があることを失念していました。しかし、本譜も面白いアイディアが登場します。
15... Nxd5 16. exd6!
黒はキャスリングが遅れており、g7のビショップがまだ浮いています。それを利用したIntermediate Moveでポーンアップを決め、白勝勢です。一方でb2のビショップが浮いていないのは、奇妙に思えた
6. Qd2の恩恵です。
16... O-O 17. Bxg7 Nxe3 18. Qxe3 Kxg7
試合後、木村くんにはルークを先にクイーンに当てればc5が落ちることを防げるのではないかとしてきましたが、h6にクイーンの逃げ場があるためダメでした。
18... Rbe8 19. Qh6! Qxh6 20. Bxh6 Rxe2 21. Bxf8+-
19. Qxc5 Rbe8 20. Nf4 Qd7 21. Qg5!?
最後はどう決めるか悩みましたが、d6を返しても黒キングに迫るのに十分だと判断しました。
21. cxb5 axb5 22. Rac1+-も堅実です。
21... Qxd6 22. Nh5+ Kh8 23. Nf6 Qd4+ 24. Kh1 Re5 25. Qh6 Rh5 26. Qxf8# 1-0
ビショップが抜けたフィアンケットの跡地を利用し、f6にナイト、h6にクイーンを刺す形は鉄板で、h7のメイトと浮いたf8のルークを狙ってメイト受け無しとなります。この変化を対面のゲームで指したのは初めてで、次回使うかは分かりませんが、面白い棋譜が残せてなによりです。