2012/04/25

Check Mate Lounge Game Review Vol.1


さて今夜は、先週末のCheck Mate Lounge のゲームを振り返ろうと思います。2試合分を一度に出すと分量が多くなりそうなので、羽生さんのゲームは明日に回し、まずは私のゲームからです。早い段階でミスをしたと思っていましたが、細かく見て行くとそう簡単でないことが分かってきます。

GM Nigel Short - FM Shinya Kojima
Check Mate Lounge

1. e4 c5 2. Ne2!?



Nigel はSicilian に対し、Open もClosed もバリバリ指せます。白はこの2手目で黒の様子を見て、今後の展開を決めて行きます。とはいえ、Nigel は試合後のインタビューで、細かい計算に頼るシャープなポジションは避け、戦略的に指すつもりだった、と述べているので、この時点でClosed のつもりだったのでしょう。

2...Nc6 3. Nbc3 Nf6


3...e5 と指すのも一つの選択肢ですが、私はこのようにアウトポストを作る形を好みません。

4. f4 d6 5. d3 g6 6. h3!?


通常のSicilian Closed (g3-Bg2-h3-g4) と比較し、一手早くgポーンを伸ばそうとしていることは明らかです。それをとがめに行くかどうかは迷いましたが、結局黒は通常のセットアップで対抗することに決めました。

6...Bg7 7. g4 b6


すぐにキングサイドにキャスリングをするのは少し怖い気がしたので、クイーンサイドで手を作りつつ様子を見ます。

8. Bg2 Bb7 9. O-O O-O 10. Be3 Nd7


本譜は黒マスビショップのダイアゴナルを通す狙いですが、ここは10...Qd7 と指す手もあったと思います。ルークを連結させてセンターに回せるようにし、さらに様子見をします。

11. Qd2 Nd4!?



ゲームが大きく動くきっかけとなった、問題の手です。指した直後、しまったと思いました。試合後の仲間内での簡単な検討でも、これはかなり悪いのではないかと指摘されました。(本譜の流れで、ポーンがすぐに落ちるため)しかし深く読んでいくと、そう単純に結論付けられるものでもないと思います。

12. Bxd4 cxd4 13. Nb5


これで黒は1ポーンを諦めなければいけません。その代わりに黒マスビショップをもらっているので、うまく黒マスの弱さを突くことができれば、ポーンの代償はある(きっとある、なきゃ困る!)と試合中考えていました。難しいのは、その具体的な方法を見つけることです。

13...e5!?


d4 を守り、代わりにd6 を差し出します。d6 のポーンを取ったナイトは、将来的にc4 で交換するぐらいしかなく、白のポーンストラクチャーは乱れます。それプラス黒マスの弱さが、1ポーンの代償になるのではないかと考えました。しかしコンピュータの推奨変化は全く別で、難解です。

13...Nc5! 14. Nbxd4 e5 15. fxe5 dxe5 16. Nf3 Ne6


これで1ポーンの代償が十分にあり!というのが、コンピュータの指摘です。ポイントはf4,d4 の弱さとc,d ファイルからのカウンターです。白がポーンをc3 に進めれば、代わりにd3 のポーンが弱くなります。このように言われれば、半信半疑ながら多少は納得できそうです。しかし、これが黒にとってベストだと正確に判断し、短い思考時間で選択するのは、ハイレベルな理解力が必要とされます。ただ、ここまで書いておきながら、本譜もさほど黒が悪くなりません。

14. Nxd6 Ba6 15. Nc4?!


私もこの手を見て、チャンスが到来したと感じました。14...e5 の前に予測した、黒マスの弱さに突け込みやすい形になります。私が一番恐れていたのは、15.b3! で、これならばc4 のナイトをbポーンで取り返すことができます。そのポーンストラクチャーでは1ポーンの代償が明らかではなく、黒は他のポイントを模索しなければいけなかったでしょう。

15...Bxc4 16. dxc4 Nc5


この後の展開を見ると、16...Qe7(△17...Rad8)が最も正確な手順でしょう。

17. Rad1 Rc8 18. b3 Qe7 19. Kh1?!


さらに白の緩手が入ります。19. fxe5 Rcd8 20. Nxd4 Qxe5 21. c3 Ne6 22. Kh1 Nxd4 23. cxd4 Rxd4 24. Qxd4 Qxd4 25. Rxd4 Bxd4 26. Rd1+/= ならば、白は安全に勝ちを目指せます。もちろん黒は、異色ビショップで粘るしかありません。

19...Rcd8 20. Nc1 exf4 21. Qxf4 Be5



この辺りで、黒は十分盛り返しているのではないかと感じていました。白の黒マスはスカスカで、白マスビショップは自身のポーンの内側に閉じ込められています。さらに黒マスを利用することができれば、黒からは十分な反撃が作れそうです。

22. Qf2 Ne6! 23. Nd3 f6!



試合後に仲間内で、23...Bb8 と退くほうが良いのではないか(狙いは...Qc7 からh2 のメイト)と指摘されましたが、それは間違いだと断言できます。白はクイーンの横利きで容易にh2 を守れるので、黒が優先すべきはe5 のマスをブロックして、白の白マスビショップの働きを抑えることです。

24. a4!


当然ですが、ビショップを取りません。24.Nxe5? fxe5 の形は黒がf4 のマスを完璧にコントロールし、白の白マスビショップは永久に籠の中です。そして24.a4 は黒の地味な狙い、...Qa3-Qxa2 を防いでいます。

24...g5?!



19手目以降はほぼ完璧な指し回しをしていた黒ですが、時間切迫からここでミスが出ます。もし白が誤ってe5 のビショップを取るようならば(Nigel がそのようなミスをすることはあり得ませんが)、g5 のポーンはf4 をサポートするためによく働きます。しかし、白がそうしない場合、この手は単にf5 を弱める不必要な存在です。

25. Qd2 Nf4 26. a5 Bb8


ビショップをe5 で取らせて問題ないことは十分理解していましたが、何を指して良いか分からず、ついビショップを下げてしまいました。この辺り、どうもプランが一貫していません。クイーンを重ねてh2 のメイトを狙うという単調なアイディアが、どうしても頭から消し去れなかったせいもあります。

27. axb6 axb6 28. Qb4 Bd6 29. Qxb6!


ビショップをb8 に退いた時点では、このポーンが取れるとは思っていませんでした。それはクイーンが二段目から離れれば、今度こそh2 のメイト狙いが出現すると読んでいたからです。しかしNigel はキングセンターに逃げてOK との判断を下しました。

29...Ne2?



残り時間5秒ほどまで考えた手が、全くの勘違いでした。私がこの試合で完全にダメな手と評価するのは、唯一この一手です。b6 のポーンが落ちて、白に2コネクテッドパスポーンができた以上、黒は待つのではなく、ダイレクトなアタックによる反撃を仕掛けるほかありません。しかし本譜の手は一瞬で攻めが止まり、何事もなく白が勝ちます。

黒が続けるとすれば、やはりh2 に飛び込む一手でした。29... Nxd3! 30. Rxd3 Qe5 31. Kg1 Qh2+ 32. Kf2 Qf4+ 33. Ke2 (33. Rf3 Qd2+ 34. Kg1 Bf4+/=) 33... Qh2 34. Rf2 Bg3 35. Rxd4 Bxf2 36. Kxf2+/=



白はルークを切り、3ポーンエクスチェンジにします。白にチャンスがありそうですが、キングの不安定さから、形勢が一二転する可能性も十分に考えられる局面です。

30. Rf2


なぜかこのような、単純な手が見えていませんでした。白のキングには攻めは届かず、黒のチャンスが完全に消滅します。残りは流して良いでしょう。

30...Ng3+ 31. Kg1 Bc7 32. Qc5 Bd6 33. Qc6 Rfe8 34. c5 Bf4 35. Nxf4 gxf4 36. b4 Qe5 37. Bf3 Re6 38. Qb5 1-0



最後はノーチャンスなので、リザインする代わりに時間が0になるのを待ちました。黒マスを利用する作戦は良かったはずですが、時間がなくなってから冷静になれず、プランをごちゃごちゃと混ぜてしまったのが敗因です。

ところでこのゲーム、d4 が落ちたところと結果だけしかチェックしないと、何事もなく私が負けたように見えます。しかし、ここまでの解説を読めば、実際は難解なポジションが多く、簡単に結論付けられないゲームだと思えます。そのことを局後に私に指摘したのは、解説の塩見さんぐらいでしょう。

私もd4 が落ちた際はまずいと思いましたが、本当にそうなのか、簡単に結論を出さずに疑ってかかるべきではないのか、という思考は、実は羽生さんとのこれまでの対局や、対話の中で学んできたことです。持ち時間の少ない状況で、正確に指せなかった未熟さは反省すべきですが、それでも面白いポジションがいくつもあり、勉強になったゲームでした。それでは、明日は羽生さんのゲームを、私なりに解説しようと思います。

1 件のコメント:

弟者 さんのコメント...

初めまして^^この棋譜を見て、とても勉強になりました!
これからも頑張ってください!
あ、ちなみに、今僕学生で、日本チェス協会に入会しているのですが、小島さんの書いた教材で、強くなりました!
ありがとうございました^^

長文失礼しました。

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