先程、羽生さんが参加していたBasel Chess Festival の最終戦が終わりました。これで年末年始の、スイスでの14連戦は全て終了です。前半のチューリッヒでは4勝1敗2ドローと健闘し、レイティングも伸ばしましたが、後半のバーゼルでは最終戦で痛い黒星。3勝2敗2ドローとなりました。最終戦の棋譜をアップしておきます。
Pijpers, A (IM, NED, 2463) - Habu, Y (FM, JPN, 2398)
Basel Chess Festival 2016 (7)
1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bb5 a6 4. Ba4 Nf6 5. O-O Be7 6. Re1 b5 7. Bb3 d6 8. c3 O-O 9. h3 Bb7!?
2012年のCheck Mate Lounge から、羽生さんが
1... e5 をレパートリーに取り入れていることは知っていましたが、
9... Nb8 のBreyer Variation を指すものとばかり思っていました。Ruy Lopez の中でも激しい変化になりがちなZaitsev を選択するとは、勝負に行く気満々です。
10. d4 Re8 11. Nbd2 Bf8 12. a4 h6 13. Bc2 exd4 14. cxd4 Nb4 15. Bb1 c5 16. d5 Nd7 17. Ra3 c4 18. Ree3!?
18. Nd4 もしくは、
14. axb5 を指すことが多いので、この手は少し驚きました。
Ra1-Ra3-Rg3 のマヌーバリングはよく知られていますが、この試合では別のルークがgファイルに向かい、黒キングへのアタックに使われます。
18... Nc5 19. b3!
e3 にルークを上げる手は、黒のナイトがd3 に侵入してきた際にあらかじめ避けておくだけでなく、この手のサポートになります。
19... cxb3 20. Nxb3 Nxa4 21. Nfd4 Rc8 22. Bd2 Nxd5!?
1ポーンを取った黒ですが、白のピースは好位置におり、黒キングにダイレクトアタックを仕掛けるチャンスもあります。そこで羽生さんは、ポジションを怪しくするためにナイトをサクリファイスします。
23. exd5 Bxd5 24. Rg3 Be4?!
ここでh6 を捨ててしまうと、白にとって楽な展開になってしまいます。苦しい状況は続きますが、
24... g6 から、
Bf8-Bg7 の機会をうかがうほうが良かったかもしれません。
25. Bxe4 Rxe4 26. Bxh6 Nc3 27. Qa1!
私がこの試合で最もしびれる手が何かと聞かれれば、このクイーンの1手だと答えるでしょう。
Qd1-Qh5 のダイアゴナルで使うのだと思っていましたが、Pijpers はクイーンを端のマスへと移動させました。これによりa6 を狙うだけでなく、
Qa1-Qg7 を長期的ににらんでいます。
27... Qe8 28. Bd2 b4 29. Rxa6 Qe5 30. Re3 d5 31. Ra8 Rc4 32. Qa7 1-0
羽生さんはここでリザインしました。私が読んでいたのは、
32... Rcxd4 33. Nxd4 Qxd4 34. Qxd4 Rxd4 35. Bxc3 bxc3 36. Rxc3+- という変化で、白は多少駒を返しても、安全に駒を捌いて勝ちのエンドゲームに持ち込むことができます。
オランダのIM Pijpers は、リスト1のNaiditsch にも勝っており、GM クラスの実力があるマスターだと思います。1994年生まれの21歳と若く、オランダで言えば、Anish Giri、Van Kampen、Bok Benjamin らと同じ世代です。これからオランダ代表クラスまで伸びてくる可能性もあると思いますので、羽生さんにとってこうした有望なプレーヤーとの対戦は、海外に足を運んだ甲斐となるでしょう。羽生さん、スイス遠征での14戦、お疲れ様でした。
さて、羽生さんは14戦を終え、レイティングは+1 となります。チューリッヒで稼いだレイティングを、バーゼルで放出してしまったのは残念でしたが、レイティング以上に、日本では得られない経験を積むことができたでしょう。また帰国後のトレーニングで、スイス遠征の感想を伺ってこようと思います。羽生さん、無事に帰国されることを願っています。2週間、一緒に観戦していた皆さんも、お疲れ様でした!