この記事でQGD シリーズも10回目に突入です。もう少しだけお付き合いください。Vol.10 では、前回の続きでQGD Exchange Variation を扱いますが、白がキングサイドのナイトをどこに展開するかで、ゲームは全く違った様相を見せます。
Rios, C (GM, COL, 2465) - Matamoros F (GM, ECU, 2494)
43rd Olympiad 2018 (11)
1. d4 Nf6 2. c4 e6 3. Nc3 d5 4. cxd5 exd5 5. Bg5 c6 6. e3 Be7 7. Qc2 Nbd7 8. Bd3 O-O 9. Nge2!?
43rd Olympiad 2018 (11)
今回のシリーズでは初めて、白がナイトをf3 に展開しない形です。基本的にはf3 のほうがキングサイドの守りや、Nf3-Ne5, Nf3-Ng5 といった攻撃に優れたバランスの良い位置ですが、f2-f3, e3-e4 といったセンターポーンでの仕掛けを考えるのであれば、Ng1-Ne2 は面白いセットアップです。私たちの世代でも南條くんがかつて好んで使っており、日本のチェス界に大きな影響を与えていた印象があります。
9... Re8 10. O-O Nf8 11. f3
e3 のマスを弱めても、黒にはそれをすぐ利用する方法はないでしょう。白はNf6-Ne4 の跳び込みを防ぎつつ、eポーンを伸ばす準備を整えます。
11... g6
黒のセットアップは、Vol.9 で紹介したNg1-Nf3 のExchange Variation と同じです。ただし、Nf8-Ne6 のアイディアは良いとしても、e3-e4 と白のポーンが伸びてくることを踏まえると、Bc8-Bf5 からすんなり白マスビショップを交換できるとは思えません。このビショップをどう捌くかは、このラインでも大きなテーマと言えそうです。
12. Rad1
先述の通り、白のメインの狙いはe3-e4 とポーンを押し進めることですが、そのためにはいくらか準備が必要です。ルークをd1 に回す手は将来的にd4 を守る狙いがありますが、ルークの位置としては12. Rae1 もありえそうです。その場合でも、本譜と同じアイディアで黒は対応できると私は考えています。ルークを回すかわりにセンターで早々に仕掛けるのは焦りすぎで、12. e4?! dxe4 13. fxe4 Ne6! 14. Be3 Ng4 と進めば、センターの厚みを与えても白の黒マスビショップを消すことができます。
12... Ne6 13. Bh4 b5!
b7-b6 のセットアップや、c6-c5 からの反撃は知っていましたが、いずれも白のセンターの厚みに抵抗するには不十分だったり、ポーンを捌かれた際にd5 が弱くなりすぎたりと、黒にはなにかしらの問題が残ります。bポーンを思い切って2マス伸ばす手は近年人気が伸びてきており、アイディアも分かりやすいと思います。
14. Kh1 Bb7 15. Bf2 Rc8 16. Qb1
後の展開を考えるのであればクイーンをd2 に避けておき、d4 のマスのコントロールを強化して戦う作戦もあったと思います。
16... b4! 17. Na4 Qa5 18. b3 c5!
黒はb7 のビショップでd5 を守っておき、十分な準備の後にc6-c5 のブレイクを決行します。この際、c5 でナイトの交換も挟めるのは、黒にとってプレーが楽になるポイントです。
19. dxc5 Nxc5 20. Nxc5 Bxc5 21. Nd4?!
もっとc6-c5 のブレイクが早いタイミングであった時も同様ですが、白はc5 でポーン交換をして黒のd5 を孤立ポーンに、d4 をアウトポストにして戦います。しかし、ここではc3 のナイトをすでに捌かれていてd5 へのプレッシャーは弱く、d4 のコントロールも不十分です。21. Qb2 としてf6 のナイトを当てておき、d4 にクイーンを利かせてからNe2-Nd4 をするほうが良かったでしょう。
21... Bxd4!
ここはビショップを諦めても強いナイトを消し、黒だけが孤立ポーンを抱える展開を解消します。ピースの交換を進めた結果、黒は全く不満のないエンドゲームを迎えることになります。
22. exd4 Ba6!
白のダブルビショップを消すため、すぐに白マスビショップの交換を仕掛けるのは、当然と言えば当然ですが上手い構想です。これまでのシリーズでは登場しなかった方法で、黒は最も厄介なマイナーピースを捌くこと成功します。
23. Rfe1 Bxd3 24. Rxd3 Rxe1+ 25. Bxe1 Qb5=/+
白の黒マスビショップは黒のセンターポーンを攻撃できないのに対し、白マス黒マスを行き来できる黒のナイトは、白のd4 をアタックできます。加えて白はc3 に弱点を抱えるため、黒はルーク、クイーン、ナイト全てのピースをこのマスで活用するチャンスがあります。
26. Kg1 Nh5! 27. Bd2 Ng7 28. Bf4 Ne6 29. Be3 a5 30. Kf2 h5 31. Rd1 Qb8 32. g3 Rc3 33. Bd2 Rc6 34. Rc1 Nxd4
白がd4 を落としたのは時間の問題という判断なのか、時間切迫による見落としなのかは定かではありませんが、34. Be3 などで守っても、cファイルを強くコントロールする黒が依然として有利であることは変わりません。
35. Qd3 Qb6 36. Kg2 Ne6 37. Re1 Qc5 38. Re5 Qc2 39. Qe2 Qxa2 40. Rxd5 Qxb3 41. Qb5 Qc4 42. Qxa5 Qe2+ 43. Kh3 Qf1+ 44. Kh4 Qxf3 45. Kh3 Qf1+ 46. Kh4 Rc4+ 0-1
b7-b5 からの構想は、Nge2 Exchange Variation には使いやすく、今後も頻繁に指されるのではないかと思います。Exchange Variation の研究も、まだまだ奥が深そうですね。次回は私のメインレパートリーである、5. Bf4 Variation を扱います。
0 件のコメント:
コメントを投稿