これまで10回に渡り、白がビショップをg5 に展開するQGD を紹介してきましたが、今回は少し違った変化の登場です。
Bacrot, E (GM, FRA, 2749) - Aronian, L (GM, ARM, 2801)
European Teams 2013 (8)
1. Nf3 d5 2. d4 Nf6 3. c4 e6 4. Nc3 Be7 5. Bf4!?
European Teams 2013 (8)
QGD 対策を大雑把に分けるのであれば、Bg5 のメインライン、Exchange Variation、Catalan などがありますが、この5. Bf4!? の変化も近年とても人気があり、QGD プレーヤーにとっては対策が必須となっています。私も2008年に1. Nf3 を指し始め、QGD 対策を何にするか悩んできました。最初は全てCatalan にしていましたが、一部のラインは指しこなすのが難しいと実感し、今は黒の手順によって上記の変化を使い分けるようにしています。5. Bf4 は5. Bg5 と違い、f6 のナイト、さらにはd5 のポーンにプレッシャーをかけませんが、その代わりにe5 のマスを強力に抑えているため、e6-e5 のブレイクは難しいでしょう。
5... O-O 6. e3 Nbd7
黒は6手目で何を選ぶかによって、その後の展開が大きく変わってきます。6... c5 はこの変化を代表する手で、黒はd5 へのプレッシャーが緩いことを利用して素早くセンターに反撃します。6... c5 7. dxc5 Bxc5 8. Qc2 Nc6 9. a3 Qa5 10. Rd1 Re8!? 11. Nd2 e5 12. Bg5 Nd4! 13. Qb1 Bf5 などは古くからありますが、またここ数年で見直されています。
6... Nbd7 はトップレベルでも最も手堅い手として考えられており、黒はナイトの準備をしてからc7-c5 からのセンターブレイクを狙います。Vol.7 で紹介した変化とアイディアは似ており、 黒は白の7手目が何かにほぼ関係なく、c7-c5 のブレイクができることも分かりやすい点でしょう。私は7手目で7. Rc1, 7. Qc2, 7. a3 といくつかの手を試してきましたが、本譜の手も代表的です。
7. c5!?
これまでのQGD では一切出てこなかった、白からc4-c5 を押し込む手は、この変化でとてもポピュラーです。白のアイディアはクイーンサイドでのスペースを確保するとともに、黒のc7-c5 やe6-e5 のブレイクを防ぎ、c8 のビショップの活用を許さないことです。
7... c6 8. h3 b6!
黒が白マスビショップの活用を図るためには、a6 からの白マスビショップ交換しかありません。次にa7-a5 からクイーンサイドを開くことを狙い、a8 のルークも捌けるようにします。
9. b4 a5 10. a3 h6!?
黒は1手待ち、Bc8-Ba6 の白マスビショップ交換を遅らせます。10... Ba6 とすぐに指すのも問題ありませんが、白からは難しい変化に誘導する手があり、それを避けたい場合、黒は本譜の1手待ちが有効になります。10... Ba6 11. Bxa6 Rxa6 12. b5!?
2013年のAnand-Carlsen のマッチで、Anand がこの手を用い勝利を挙げたことで当時注目されました。現在は色々と研究が進み、黒は安全策でイコールに落ち着けることが分かっていますが、それでも面白いアイディアに富んだ変化です。12... cxb5 13. c6 Qc8! (ナイトが逃げてもc6-c7 がポーンフォークになるため、この手しかありません。) 14. c7 b4! 15. Nb5 Ne4 16. Rc1 a4 17. Nd2 Nc3 18. Nxc3 bxc3 19. Rxc3 Qb7 20. O-O b5= Kojima - Golubov / First Saturday GM 2014 Dec
11. Qc1!?
黒が1手待つならこちらも待つぞ、という手で、白はf1 の白マスビショップを展開するのを遅らせます。cファイルにクイーンを置いているのがポイントで、上記のアイディアのようにcポーンを押し込んだ際、c3 のナイトはすでに守られています。
11... Bb7
11... Ba6? 12. Bxa6! Rxa6 13. b5! cxb5 14. c6+- 上記の変化と違い、黒はd7 のナイトを生かす手が無く困っています。
12. Bd3 Qc8 13. O-O Ba6
b7 を経由し、1テンポロスでビショップ交換となりましたが、黒はひとまずこれでQGD における最も厄介なピースを捌けることになります。閉じたポジションでは、ピースの展開の早さは開いたポジションに比べてさほど重要ではなく、スピードよりもお互いにどこでチャンスを作るかという構想の勝負になってきます。
14. Bxa6 Rxa6 15. Qc2 Qb7 16. Rab1
黒からaポーンを大きく進めてポーンのぶつかりを作っている状況では、aファイルをいつ開くか、または閉じたままにするかという決定権は黒にあります。将来的に黒がaファイルを開き、オープンファイルの奪い合いのために白ルークはaファイルに戻るとしても、ここは一度aファイルから離れ、黒がどう動くのか様子を見ます。
16... axb4 17. axb4 Ra3
白ルークがbファイルに避けたタイミングでaファイルを開き、ルークを侵入させてた黒が調子よく指しているようにも見えますが、白にはルークに狙われて困るターゲットは特になく、問題ない状況です。
18. Rfc1 bxc5 19. bxc5 Qa6
黒からbファイルを開くことは、bファイルにルークを置いている白を助けているように見えますが、ポーンをぶつけたままにしておくと、どこかで白からb4-b5 と仕掛けるチャンスが生まれてしまいます。b6-b5 と固めるアイディアもありそうですが、b4 に白ポーンを残しておくとa5 が抑えられたままであるため、Nf3-Nd2-Nb3-Na5 といったマヌーバリングでaファイルをブロックされたうえ、c6 を狙われる恐れがあります。c6 に必ず残るポーンをいかに白に狙わせないか、または狙わせても十分守り切れる状況にするかは、このポーンストラクチャーでの黒の課題と言えるでしょう。
20. Ne1 Ra8 21. Qb2 Qc8 22. Qb7 Qxb7 23. Rxb7 Bd8!
d6 のマスやa3-f8 のダイアゴナルが抑えられたこのポーンストラクチャーでは、黒の黒マスビショップは大人しく、どう使うか悩むとこでしょう。Be7-Bd8 は一般的には次にBd8-Bc7 と黒マスビショップ同士をぶつけ、f4 から長く利く白のアクティブなビショップを消しますが、ここではc7 のマスを抑え、c6 ポーンをルークで裏からアタックされないようにします。
24. Bc7 Bxc7 25. Rxc7 R8a6
通常、黒からBe7-Bd8-Bc7 と当てて捌く黒マスビショップを、ここでは白から当てて交換しました。f4 のアクティブなビショップを消してしまいますが、その代わりに白はc6 をルークでアタックするチャンスを得ます。
26. Nd3 Rb3 27. Ne5 Nxe5 28. dxe5 Raa3! 29. Ne2
ナイトを取り合うとc6 のポーンは落ちそうですが、相手ルークに後ろからパスポーンを狙われているルークエンディングは勝つことができないでしょう。ここはお互いにナイトを逃がし、白はピースを残した状態でc6 を取って勝負にいきますが、f6 のナイトが跳び込めるようになるため、黒にも反撃のチャンスが十分に生まれています。
29... Ne4! 30. Rxc6 Rb2 31. Rc8+ Kh7 32. Re1 Raa2 33. Kf1?
こうしてe2 のナイトを守ってしまえば、2段目にルークを2つ侵入されていても守り切ることができ、c6 のパスポーンで勝負にいけるというのがBacrot のアイディアでしょう。しかし、実際には黒には上手い構想があり、33. Nc1 Ra3 34. Ne2= としてドローで満足するべきでした。
33... Rc2 34. c6 Nc5! 35. c7 Nd3!
Aronian はcポーンを完全に無視し、白のディフェンスを剥がしにいきます。33手目の時点で白のプロモーション狙いと黒の反撃が、どういった決着を迎えるのかを読み切るのは大変だと思います。
36. Rd1 Rxe2 37. Rh8+ Kxh8 38. c8=Q+ Kh7 39. Rxd3 Rxf2+
白はクイーンを作り、はっきりと駒得になりましたが、黒にはダブルルークによる2段目の強力な支配があり、ポーンを消して白キングを無防備にすることで、メイトスレットを作るチャンスがあります。
40. Ke1 Rxg2 41. Kf1 Rgc2 0-1
メイトとクイーン取りのスレットを同時に作ればクイーンルークの交換となり、黒は勝勢のルークエンディングへと持ち込めます。Bf4 QGD は細かくラインをチェックするとそれだけで膨大な記事になるため、今回はちょっとしたアイディアの紹介ということで、この1つの記事のみとしておきます。
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