2023/03/25

Slav Defence Glasgow Kiss Variation


昨晩、ウルグアイのGM と幸運なことにオンラインで試合をすることができたので、今日はそちらのゲームを紹介しようと思います。ウルグアイのGM Alejandro Hoffman はウルグアイの代表として、昨年のチェンナイオリンピアードにも参加しています。

AHoffman (2544) - imsk (2511)
Lichess Blitz

1. d4 d5 2. c4 c6 3. e3 Nf6 4. Nc3 Bf5!?

Slav Defence に対しての白のセットアップは3手目、4手目の組み合わせがポイントとなります。e2-e3, Nb1-Nc3 はSemi-Slav Meran に持ち込みやすく、白側の準備が少なくてすむと長年考えられてきましたが、近年はこのBc8-Bf5 からb7 を捨てる変化が注目されています。

5. cxd5 cxd5 6. Qb3 Nc6!


黒はb7 を捨て展開の早さで勝負します。私はBoris Avrukh のThe Classical Slav (Grandmaster Repertoire) でこの変化の基本を学びましたが、実戦投入はためらっていました。しかし、最近学び直して黒側で試してみようという気になったので、せっかくのGM戦で指してみることにします。

7. Qxb7 Bd7 8. Qb3 Rb8 9. Qd1 e5

白がポーンを取ったクイーンを安全な初期位置まで逃がす間に、黒はbファイルをコントロールしてb2 を攻撃し、d5 の弱さを気にせずセンターを大胆に開きます。この変化がAvrukh の本ではGlasgow Kiss Variation という名で紹介されています。

10. dxe5 Nxe5 11. Be2 Bd6 12. Nf3 Nxf3+ 13. Bxf3 Qc7 14. h3 O-O 15. O-O Rfd8 16. Nxd5!?


黒がBd7-Be6 と組み直してd5 を守る前にポーンを取りにいきますが、これには黒に少し気づきづらい返し技があります。

16... Nxd5 17. Bxd5 Bb5! 18. e4 Bxf1 19. Qxf1 Kh8!?

黒は2つ目のポーンを捨てる代わりにエクスチェンジを取ります。18. Re1?! Bb4 でも黒はしつこくルークを追いかけます。黒の19手目はf7-f5 の準備で、e4 を崩すことでd5 のビショップを不安定にする狙いがあります。

20. b3 f5 21. Bg5 Rf8 22. Rc1 Qa5 23. Qe2 Rbe8?!


ここは指した直後に、単にe4 を取ったほうが良かったと感じました。23... fxe4 24. Qxe4? Rbe8! 25. Qd3 Re1+ 26. Rxe1 Qxe1+ 27. Qf1 Bh2+-+ ならばクイーンを落として黒の勝ちです。

24. Bc6 Re6 25. Qc4?!

黒のキングサイドアタックチャンスを過小したこの手で白は崩れました。白は25. Qd2 からクイーン交換をして黒のダイレクトアタックチャンスを削り、ビショップペアを持つエンドゲームを戦うべきです。

25... Rg6 26. Be3 f4 27. Bd4 f3 28. g4?


28. g3 Bxg3 29. fxg3 Rxg3+ 30. Kf1 Qd2 31. Bf2 Rxh3-+ もメイトまで一直線です。28. e5 が白が生き延びる唯一の手でしたがが、g2 もe5 も捨てれば黒の駒得での優位は明らかです。

28... Qh5! 0-1

29. Qf1 Rg4+! 以下メイトであるため、白はここでリザインしました。あまり経験のない変化でしたが、上手く指せて良かったです。

2023/03/08

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第17回予告

3月のOPENREC での講座案内です。今月は今週末の日曜日、3/12 20時からスタートです。

3月のOPENREC の講座テーマは『スナイパー』 です。自陣の奥に低く隠れ、センターや敵陣深くを狙うフィアンケットビショップのことを、ときにスナイパーと呼びます。初めて聞いた際はいい得て妙だと思いました。3月の講座ではそのスナイパーに焦点を当て、その特徴や働かせ方を見ていきたいと思います。冒頭30分の無料視聴は可能ですので、サブスク登録がまたのかたはこの機会にぜひよろしくお願いいたします。

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第17回『スナイパー』| 2023.03.12
NCS サブスク登録 (OPENREC)

2023/03/06

Tokyo Chess Championship 2023 Day2 Tournament Report

1日遅れましたが、東京チェス選手権2日目のレポートです。大会2日目の昨日は私は中継ボードに残りながらも1勝2敗と崩れ、トータルで4勝2敗の入賞圏外でした。4R と6R で私が敗れた長瀧くんとTonyくんはそれぞれ1位、3位の入賞でした。オープン2位の野口さんと各セクションを含め、入賞者の皆さん、おめでとうございます。

1st Place Nagataki Kota 6/6
2nd Place Noguchi Koji 5.5/6
3rd Place Wijaya Tony 5/6

Tokyo Chess Championship 2023 Final Standings


今大会は誰もストップをかけることができず、長瀧くんの全勝優勝となりました。レイティングも初の2000台に乗るでしょうし、実力はすでに十分すぎるほどあったと思います。5月の全日本選手権に出場するのであれば、そちらでの活躍も楽しみです。私は長瀧くん、Tonyくんには上手く指したと思った局面もありましたが、肝心なところで間違えて白番ながら2つの黒星を喫してしまいました。最終戦のゲームをご紹介します。

Kojima, S - Wijaya, T
Tokyo Chess Championship 2023 (6)

1. e4 c5 2. Nf3 d6 3. Bb5+ Nd7 4. a4

Sicilian Moscow Variation 3... Nd7 に対しては、この1年でいくつかの手を試していますが、昨年の東京チェス選手権で優勝を決めた青嶋くんとの試合もこの4. a4 でした。この試合は黒がDragon のセットアップを採用します。

4... a6 5. Be2 Ngf6 6. Nc3 g6 7. O-O Bg7 8. Re1!?


いくつか候補はありますが、私はClassical Dragon のRf1-Re1, Be2-Bf1 のラインと同じアイディアにすることを決めました。Bf1-Bb5-Be2-Bf1 の組み直しに時間がかかっていますが、黒もa7-a6 が必要なのかと、ナイトの位置がベストなのかが疑問です。

8... O-O 9. d4 cxd4 10. Nxd4 Ne5 11. Bf1 Bd7 12. Nb3 Rc8 13. a5 Nc4 14. Ra2!?

不思議な手ですが、a5 まで伸びたポーンは守りを続けたまま、b2 を守ることでNc3-Nd5 の跳びこみのタイミングを計ります。

14... Re8 15. f3 Nh5 16. Nd5 Be6?!


試合後にTonyくんはe7-e6 ができないのが見落としで、Nf6-Nh5 と跳んだ手がミスになってしまったと話してくれましたが、ここは実はポーンを突く手がありえました。16... e6! 17. Bxc4 exd5! 18. Bxd5 Qh4! と進んだ場合、黒はBg7-Be5 も組み合わせた黒マスの反撃でポーンの代償を伴ってプレーできます。

17. c3 Nf6 18. Ra4

この手でナイトをc4 からどかし、白が有利になったと感じました。しかし、ここでの黒の進め方が上手く、私が期待したような優位が築けませんでした。Ra2-Ra4 のルーク上りは上手く手だと思いましたが、他の候補として18. Bxc4 Rxc4 19. Nb6 Rc6 20. Be3+/= もありえます。

18... Bxd5 19. exd5 b5! 20. axb6 Nxb6!


ルークが4段目に上がる前はb7-b5 の際、クイーンで取る手ばかりを読んで白は問題ないと考えていました。実際にこうしてナイトで取られてみると、d5 のポーンへの反撃が厄介です。

21. Rd4 Nfd7 22. Bxa6!

ここでルークを避けてもNd7-Nf6 と戻られてd5 を狙われ、ドローになる可能性がでてきます。勝負にいくにはエクスチェンジを捨ててa6 を落とし、d5 のセンタポーンはなるべくキープするようにします。

22... Bxd4+ 23. Qxd4 Rb8 24. Bh6?!


d4 にせっかくクイーンが上がれましたが、黒キングへの直接攻撃がさほど有効ではないことは計算外でした。ビショップがh6 にいくことで、b2 のポーンが弱くなって反撃されてしまうことも問題です。代わりにプランはクイーンサイドの白マスを利用するものですが、24. Bb5 Nf6!? 25. Bxe8 Qxe8 26. Na5 Nbxd5 27. b4+/= と進んも白の優位はわずかです。白はクイーンサイドにパスポーンがありますが、黒もセンタポーンの厚みがあり、実際には難しい形勢だと思います。

24... Nf6 25. Na5 Nbxd5 26. Nc6 Qb6

ナイトフォークでエクスチェンジは取り返せますが、なるべく残したかったd5 のポーンを消され、クイーン交換の際にポーンがバラバラになるため、ダブルビショップでも白の優位は期待できません。

27. Nxb8 Qxd4+ 28. cxd4 Rxb8 29. Re2?


ここはバックランクの弱さを利用し、29. Rc1! が正しい手です。e7 に長く当てているほうが得かと思いましたが、d5 のナイトを消すことはできず、e7 へのプレッシャーはあまり意味がありません。

29... Ne8?


29... Nb4! 30. Bc4 d5 31. Bb3 Nc6-/+ とされるとバラバラにされたb,dポーンを同時に狙われ、ポーンが落ちてしまいます。

30. Rc2 Nec7 31. Bc4 f6 32. Ba2 e6 33. Rc6 Kf7 34. Bxd5?

試合中、Ra2-Ra4 の切り替えから優位になったと思ったので、その後の進行でさほど良くないと気づいた時はショックでした。それでもこのエンドゲームなった以上、ビショップを使って上手くポーンの弱さをカバーして戦えば、まだ何が起こるか分かりません。ここで白マスビショップを放棄したのは時間切迫にしてもひどいミスで、ビショップが一色にしか利かないという弱点が出てしまいます。a2 に残した白マスビショップはすぐにターゲットになってしまうだけだと思っていましたが、34. Rxd6 Ke7 (34... g5 35. Rd7+ Kg6 36. Bg7 Rxb2 37. Bc4! という白マスビショップを残すアイディアは驚きです。g6 に逃げた黒キングに多少なりプレッシャーをかけられるようにします) 35. Rc6 Rxb2 36. Bxd5 Nxd5 37. h4 Rd2 38. Rc8 Rxd4 39. g3= くらいで互角の展開で、ビショップナイトの交換をするとしても、もう少し後のタイミングであるべきでした。

34... Nxd5 35. Rxd6 g5!


これは見落としていた手で、一時的にh6 の黒マスビショップを閉じ込めると同時に、白が白マスビショップを手放してコントロールできなくなったg6 にキングを逃げられるようにするアイディアです。ここまで進んで初めて、私は白がかなり悪い局面になっていることを感じました。しかも、かなり挽回が難しい悪さです。

36. h4 gxh4 37. Rd7+ Kg6 38. Bc1 Rc8 39. Bd2 Rc2 40. Be1 Nf4 41. Bxh4 Rxg2+ 42. Kf1 Rxb2

ポーンダウンであるだけでなく、キングを完全に1段目で抑え込まれていることが大きな痛手です。なんとか黒に決定打を与えないようルークで抵抗します。

43. Re7 h5 44. Bg3 Ne2 45. Bf2 Kf5 46. Rh7 Nf4 47. Bg3 Rd2!


ナイトビショップの交換を許し、hポーンを失っても、黒は他のポーンを落としつつ、アクティブなキングで十分勝勢です。

48. Bxf4 Kxf4 49. Rxh5 Kxf3 50. Rh3+ Ke4 51. Rh6 Kf5 52. Rh4 Kg5 53. Re4 Kf5 54. Rh4 Kg6 55. Re4 Kf7 56. Rh4 Ke7 57. Rh7+ Kd6 58. Rh6 f5 0-1

ポーンを交換できればフィリドールポジションを目指せましたが、d4 のポーンも落ちることが確定したのでここで負けを認めました。悔しくはありますが、途中の形勢判断は勉強になるものでした。この反省は次の大会に活かしたいと思います。

大会運営と参加者の皆さん、お疲れ様でした。そして今大会の結果で全日本選手権の参加資格を得た皆さん、おめでとうございます。次は別の予選か、全日本選手権の会場でお会いできることを楽しみにしています。

2023/03/04

Tokyo Chess Championship 2023 Day1 Tournament Report

今日から2日間、東京チェス選手権に参加しています。この大会は昨年、5勝1ドローで優勝しており、今年は連覇がかかっています。初日は中継されるトップボードで3連勝でしたが、無事にとは言いがたい内容でした。

Saito. H - Kojima, S
Tokyo Chess Championship 2023 (3)

1. e4 c6 2. d4 d5 3. Nc3 dxe4 4. Nxe4 Bf5

1R の岡山くんとの試合では初めて4... Nf6!? を試してみましたが、この試合では指しなれた4... Bf5 のClassical Variation を選びます。今年は数年ぶりのCaro-Kann イヤーなのですが、その中でも多少マイナーチェンジを試します。

5. Ng3 Bg6 6. h4 h6 7. Nf3 Nd7 8. h5 Bh7 9. Bd3 Bxd3 10. Qxd3 e6 11. Bd2 Ngf6 12. O-O-O Qb6!?


このタイミングでのQd8-Qb6 は、ウズベキスタンのGM Saltaev が10年以上前に成功してたくさんの白星を稼いでいるのですが、自身で試すのは初めてです。ここからの白の数手で、12... Be7 の変化に手順前後する可能性もあります。

13. Ne4 Be7 14. Ne5 Rd8 15. f4??

シンプルなブランダーで白はポーンが落ちます。15. Nc4 Qc7 16. g3!? を読んでいましたが、Bd2-Bf4 にはNf6-Nd5 が受けになるので、d6 への侵入はストップして黒は満足な展開でしょう。キャスリングを遅らせてもルークをd8 に早く回したことで、c6-c5 の楽しみもあります。

15... Nxe5 16. Nxf6+ Bxf6 17. fxe5 Bxe5!


17... Rxd4 18. Qg3 Rxd2 19. fxg7! の切り返しがあるため、取るポーンはe5 からです。

18. Be3 c5! 19. Rh4 cxd4 20. Bxd4 Bxd4 21. Rxd4 Rxd4 22. Qxd4 Qxd4 23. Rxd4 Ke7

1ポーンを取った黒はピースをほとんど交換し、ルークエンディングに持ち込みます。センターにすでにパスポーンができており、白のクイーンサイドでの反撃も遅いのでこれを勝てないのはまずいと思いました。

24. Rb4 b6 25. a4 Rd8 26. a5 bxa5 27. Rb5 Rd5 28. Rb7+ Kf6 29. Rxa7


29. g4 Rd4 30. Rxa7 Rxg4 31. Rxa5 g5! (31... Rg5? 32. b4!=) 32. fxg6 fxg6-+ このルークエンディングはhポーンを進めて勝ちですが、試合中は31... Rg5? を少し考えていたので、間違えうる怖い形です。

29... Rxh5 30. c4 Rg5 31. g3 Rg4 32. Rxa5 Rxc4+ 33. Kd2 Rg4 34. Ra3 h5 35. Rf3+ Kg6?!

今見返しても、なぜgファイルに逃げたのが分かりません。白のbポーンを警戒すればクイーンサイドに戻るべきですし、f7-f5, e6-e5 をサポートするためにも、35... Ke7 と指すべきです。

36. Kc3 f5 37. b4 Kf6 38 b5 h4?


オリンピアードのネパール戦でも、相手のパスポーンが単に進む手を見落として負けたことを思い出しました。h4 でポーン交換をして3コネクテッドパスポーンを決め、hファイルからルークが下がるというのは黒の都合の良い想像です。 38... Ra4 39. Kb3 Rd4-+ からルークを8段目に下げる準備をし、パスポーンを押し進めていけば簡単に勝ちでした。

39. b6! Rxg3 40. b7 Rxf3+ 41. Kc4 Rf4+ 42. Kc5 Kg5

うっかり白のプロモーションを止められなくなってしまったので、ルークを取りf-hファイルの3つのパスポーンに期待します。キングが前進することで後ろからのパペチュアルチェックをかわし、パスポーンのサポートすることも重要です。

43. b8=Q Kg4 44. Qg8 g5 45. Qxe6 h3 46. Qe1 Rf3 47. Kd4?


白キングはポーンに寄れないため、この1手は無駄になってしまいます。白がドローにするためにはチェックをすぐに入れてh3-h2 を止めるしかありませんでした。47. Qe2 f4 48. Kd5 Kg3 49. Qe1+ Rf2 50. Qg1+ Rg2 51. Qe1+ Kg4 52. Qe6+= これでチェックが止まらずドローです。しかし、黒としてはルークを変な場所に置かなければポーン、キング、ルークがそれぞれ協力して守り合っており、フォートレスでドローは確定しています。正しくチェックを入れてドローに持ち込まなければいけないのは白なので、実戦的には黒にチャンスのあるエンドゲームだとずっと思っていました。

47... h2-+

試合中確信はありませんでしたが、このポーンが7段目まで到達したことで黒の勝勢となりました。g1 のマスを抑え、ここでクイーンのチェックができなくなったことがポイントです。

48. Qh1 Kg3 49. Ke5 g4 50. Kd4 Kh3 51. Ke5 Rf2 52. Qa8 Rf1


チェックが続かないことを確認し、プロモーションの準備をします。

53. Qa3+ g3 54. Qa8 h1=Q 55. Qh8+ Kg2 0-1

余計な反撃を与えずに勝つべきゲームでしたが、貴重なエンドゲームの体験ができたので良しとします。明日は終始安全に指したいです。

数名のキャンセルで67名の参加となった今年の東京チェス選手権ですが、初日3連勝は6人います。明日の後半戦で全勝者も絞られますので、きっちり残って優勝争いをしてきたいと思います。

Tokyo Chess Championship 2023 R4 Pairings
Tokyo Chess Championship 2023 R4 Live Games (chess.com)
Tokyo Chess Championship 2023 R4 実況中継(Youtube)

初日の夜はずっと行ってみたかった大井町の老舗洋食屋、ブルドックに足を運びました。こちらは350gある巨大メンチカツが名物です。
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