2023/11/11

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第25回予告

11月のYouTubeでの講座告知です。今月の講座は明日、11/12 20時からスタートです。告知が遅くなり、申し訳ありません。

11月のYouTubeの講座テーマは『Ghostbusters』です。こちらのタイトルはアメリカの有名な映画から拝借したもので、このようなチェス用語はありません。しかし、チェスではマイナーな単語ではありますが、実体のない、恐れる必要のない攻撃をGhostと呼ぶことがあります。今月の講座ではこうしたGhostがどういったものか、そしてその対処方法はなにかについて見ていこうと思います。ハロウィンは終わってしまいましたが、お化け退治といきましょう。

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第25回『Ghostbusters』|2023.11.12

2023/11/08

Japan Open 2023 Deep Game Analysis


ジャパンオープン最終戦で指した試合は学びが多く、埋もれさせてしまうには惜しいと思ったので、あらためて解説記事を書こうと思います。対戦相手の中原くんは、小学生~高校生まで私がチェスを教えており、こうした元教え子が大学生になってもチェス界に復活し、活躍してくれることをとても嬉しく思います。現在の大学生のトップたち、大塚くん、長瀧くん、中原くん、松山くん、米満くんたちはかなり力をつけてきており、私たちからもポイントを取りうる油断できないプレーヤーです。将来、この中から次の日本代表が生まれることを期待しています。

Nakahara, K (CM, JPN, 2052) - Kojima, S (IM, JPN, 2306)
Japan Open 2023 (7)

1. e4 c6 2. d4 d5 3. e5 Bf5 4. Nf3 e6 5. Be2 Ne7 6. O-O c5!?

全日本選手権では米満くん相手に6... Bg6を指しましたが、複数の変化を研究して今回はよりメジャーな6... c5を試すことにしました。こちらの変化は実に13年ぶりで、当時は何もわからず指して弘平くんに敗れました。

7. c3


7. c4 Nbc6 8. Na3 a6 9. dxc5 d4 10. Qa4 Ng6 11. Rd1 Bxc5などと進む変化を予想していましたが、c2-c3からd4を支えるのもさほど悪くありません。黒は白マスビショップを上手く展開できたFrench Advanceのように指したいですが、f5のビショップはターゲットにもなりうるため、そう単純ではないでしょう。

7... Nec6


ナイトはd7、c6に2つ展開するのが良い組み合わせなので、こちらのナイトをc6へ運びます。

8. Be3 cxd4!?


ポーン交換をどのタイミングでするかは迷いましたが、今回は早めにしました。試合後にポーンを交換しなかったらどうかも話しましたが、その場合はc3-c4と白が突き直すこともありえるでしょう。ただしその突き直しの良いタイミングは判断の難しいところです。8... Nd7 9. Nbd2 Be7 10. a3と進んだ場合、白はb2-b4からクイーンサイドでまずは仕掛けると予想できます。

9. Nxd4!

おそらくナイトから取るのが正解です。一般的にd4にポーンが残るストラクチャーでは、マイナーピースをある程度捌けているほうが白のアタックチャンスを限定でき黒は安全です。一方で早めにf3のナイトを捌くことで、f2-f4-f5という仕掛けのチャンスが生まれることも見逃せません。

9... Nxd4 10. cxd4 Nc6


c6のナイトが1回捌けたため、予定変更で再度c6にナイトを展開します。この局面は1. e4 c6 2. d4 d5 3. e5 Bf5 4. Nf3 e6 5. Be2 c5 6. c3 Nc6 7. O-O Bg6 8. Be3 cxd4 9. cxd4 Nge7 10. Nh4 Nf5 11. Nxf5 Bxf5から発生することが多いと、試合後に調べて気づきました。黒はc2に利きを集中させるか、d4への反撃でひとまずは十分な局面に思えます。

11. Nd2 Be7 12. f4 O-O 13. Rc1

13. g4 Be4 14. Nxe4 dxe4と進む変化はポーンを崩しても、d4への反撃がやりやすくなり、d5のマスの活用チャンスもあって黒が面白いと感じていました。本譜のようにゆっくりくるのであれば、黒もg2-g4の仕掛けを警戒しておきます。

13... h6 14. Nb3 Rc8 15. a3 Qb6!


a2-a3はNc6-Nb4を防ぐために仕方なくも思えますが、b3のナイトが浮くのが気がかりです。そこでクイーンをb6に配置し、d4,b3,b2へのプレッシャーを作ります。白がキングサイドから仕掛けてこなければ、a7-a5-a4としてナイトをどかし、b2を取りにいくつもりでした。

16. g4 Be4 17. Bd3

白マスビショップの交換は白のアタックチャンスをさらに限定するうえ、ポーンストラクチャーの観点から白にバッドビショップ、黒にグッドビショップを残すため、黒にとって基本的に歓迎するべきものです。一方、白はそんなことも言っていられず、f4-f5の押し込みチャンスを作られなければクイーンサイドが単に崩壊して終わります。

17... Bxd3 18. Qxd3 f5!?


f4-f5の押し込みを止める最もスタンダードなアクションですが、ここはクイーンサイドで攻め合うのもありでした。18... a5 19. f5 a4 20. f6 (20. Nd2? Qxb2 21. f6 Nxe5! 22. dxe5 Rxc1 23. fxe7 Re8-+) 20... Qxb3 21. Qd2 Rfe8= 黒はこのようにしてピースを返して戦うのがコンピュータの示す変化ですが、人間的には少し守り間違えるとキングがつかまりそうなので、これを選ぶのはかなり勇気が要ります。

19. Rc2? a6?!

g4を取る変化は少し考えましたが、b3のナイトが浮いており、クイーンがg6へ入れないうちにやっておくべきでした。19... fxg4! 20. Rg2 Rf7 21. Rxg4 Bf8-/+ こうしてg7を受けておけば、gファイルからの攻撃をさほど気にせず、クイーンサイドでのアクションに集中できるというコンピュータの評価です。確かに本譜で白がgファイルを開くタイミングをコントロールできるようにするくらいなら、早めに黒から開くべきでした。これを避けるのであれば、白も19.h3を先に指すのが良かったでしょう。

20. h3 Na7?


この辺りの数手で怪しい手が出て白に形勢は傾き始めます。私はルーク、クイーン交換からキングサイドのプレッシャーを緩和するつもりでしたが、白は当然その誘いに乗るはずもありません。gファイルからの攻めが明らかなのであれば、先にそちらを受けておくべきでした。20... Rf7 21. Rg2 Na5 22. Nxa5 Qxa5=

21. Rg2! Qb5 22. Qd1 Qe8

かつて馬場さんや羽生さんとの試合でも、f4,f5でポーンがぶつかり合う同じストラクチャーでクイーンをこのように使い、キングのディフェンスを行いました。ところがこのクイーンがこの後、大変な問題を引き起こすことになります。

23. Kh2 Qg6 24. Rfg1 Rf7?


g4を取る手はこの試合でどうしてか踏み切れませんでした。24... fxg4! 25. Qxg4 Qxg4 26. hxg4 Nb5=と進んだ場合、黒はキングサイドを満足に守り切って戦えます。

25. Qd3! Qh7

g6の浮いたクイーンをキングで守れるようにしました。25... Bf8 26. g5! h5 27. Nd2!はナイトがh4への移動を見せるアイディアが嫌でした。

26. gxf5 Rxf5 27. Na5


2ルークvs.クイーンの評価は難しいですが、思い切って仕掛けても黒は2ルークが連携できておらず、白は勝負できたようです。27. Rxg7+ Qxg7 28. Rxg7+ Kxg7 29. Na5 Rc7 30. Qb3!+/-

27... Rf7 28. Rg6!

ターゲットにならないようg6からクイーンを逃がしましたが、代わりにg6のマスにルークが跳びこんでくるアイディアをうっかり見逃していました。h6、e6にプレッシャーをかけつつ、クイーンをh7に閉じ込める白ルークの存在は脅威です。

28... Bf8 29. R1g2


次にf4-f5と押し込み、ビショップをh6に利かせてRg6-Rxh6としたいところですが、Rf7-Rxf5-Rf2+がチェックとなれば、黒はd3のクイーンを取って勝勢です。本譜のR1g2はそれを防ぐために2段目をカバーする手で、時間がない中でも冷静だと感じました。

29... Kh8 30. Qd1 Nc6

この手ではだめだと自分で思いながらも、e6を消極的に守るだけではナイトの位置の改善も遅れ、どうしようもないだろうとの判断です。

31. Nb3??


この悪手で黒は完全に息を吹き返しました。ナイトを捌いた際にe6をテンポで守られると「もったいない」と感じるのは理解できます。しかし、実際には本譜のように閉じ込めたクイーンに復活のチャンスを与えるほうが「もったいない」でしょう。31. Nxc6 Rxc6 32. Qg4+-と進めれば黒はクイーンをゲームに戻すことができず、白勝勢です。

31... Ne7! 32. Rxe6 Qe4!

e6を捨ててでも、クイーンをh7から脱出させなければ黒はどうしようもないと感じていました。実際こうして進んでみると、白はビショップ、ナイトが浮いたピースとして負担になり、f4、d4もターゲットになってどう指すかの判断が難しい状況です。

33. Bc1?


33. Qh5!ならば白はまだ戦えたようです。以下33... g6 34. Qe2 Nf5 35. Bc1 Qxe2 36. Rxe2 Kh7 37. Rb6 Rcc7と進み、黒はポーンの代償ありで勝負です。

33... Nf5! 34. Qg4?

上記の変化と違い、g7-g6を誘ってg6ポーンを弱めてはいないですが、それでも34. Qe2からクイーンを交換すべきでした。攻め合うのはキングが不安定な白にとってリスクが高すぎます。

34... Rc2


g2のルークに当てておくことで、白クイーンをg4から離れられないようにする狙いでしたが、もっと良い決め手がありました。34... Rxc1! 35. Nxc1 Ne3 (このナイトフォークは考えていましたが、f4から守りの白クイーンを引き離すことで、f4取りチェックからc1が最終的に落ちるのが互いに見えていませんでした) 36. Rxh6+ Kg8 37. Qg6 Qxg2+ 38. Qxg2 Nxg2-+ h6を取らせる変化は最後にそのルークが当たりになっており、白は厳しい駒損です。

35. Bd2 Rxb2 36. Qg6?

時間切迫でさらなるミスが出るのは仕方ありません。36. Re8 Rxb3 37. e6 Rf6 38. Bb4が白が生き延びるラストチャンスです。

36... Nh4!


他にも候補手はあったようですが、一番わかりやすいと思います。白はクイーンが6段目の邪魔になっており、Re6-Rxh6+ができなくなっています。ここがナイトがh6のディフェンスから離れ、アタックに切り替えるベストのタイミングでしょう。白はクイーン交換後、決定的な駒損が避けられません。

37. Qxe4 dxe4 38. Re2 Rxb3 39. Bc1 Nf3+ 0-1

ナイトに続き、d4でのフォークからルークが落ちて決着です。40手には満たないですが、内容の濃い試合でした。

2023/11/06

Japan Open 2023 Day4 Tournament Report

4日間の日程で開催されたジャパンオープンは、昨日無事に最終日を迎えました。優勝は5連勝後、南條くんにドロー、Fraynaさんに勝った青嶋くんでした。U1800、女子、ユース等、各セクションを含め、入賞者の皆さん、おめでとうございます!

1st Place Aoshima Mirai (FM, JPN, 2352) 6.5/7
2nd Place Yamada Kohei (FM, JPN, 2187) 6/7
3rd Place Schulze Torben Dr (GER, 2325) 6/7
4th Place Otsuka Shou (JPN, 2122) 6/7
5th Place Kojima Shinya (IM, JPN, 2306) 5.5/7

Japan Open 2023 Final Standings


私は最終日、斎藤くん、中原くんに連勝でなんとか5.5/7での滑り込み入賞でした。最終戦、私より上位4Bで全て決着がついたことによる完全なラッキーです。3日目に崩れたことを反省し、また次の大会に備えようと思います。それにしても、オープンで入賞した5名は直接対決が全くないという珍しい結果でした。

最終日の解説は、熱戦となった最後の中原くんとの試合をお届けしたいところなのですが、自分なりにもう少し振り返りたいところが多いので、また後日にしようと思います。代わりに7Rの斎藤くんとの試合をご紹介します。手数は短いですが、学ぶことが色々あったゲームでした。

Kojima, S (IM, JPN, 2306) - Saito, H (JPN, 1848)
Japan Open 2023 (6)

1. Nf3 e6 2. c4 f5 3. g3 Nf6 4. Bg2 Be7 5. O-O O-O 6. Nc3 d6 7. d3!?

南條くんとも何度も試合形経験のあるClassical Dutchに対しては、これまで全てd2-d4としてきました。私はそもそも1.Nf3から入りながら、なるべく1.d4のメイン系も指すEnglish Playerだと自分で思っています。しかし最近は1.c4を試したり、d2-d3でポーンを止める形も勉強し、指せる幅を広げています。今回、d3でポーンを止めてみたのは、次に黒がe6-e5と突き直すならば、e7-e5と1手で突けている形に比べてテンポロスになると考えたためです。

7... e5 8. Rb1 a5 9. a3 Qe8 10. e3?!


d1-h5ダイアゴナルを開ける、f4のマスを受けるといった、黒のキングサイドアタックに備えるアイディア自体は良いのですが、それはクイーンがh5にきてからでも遅くありません。黒は見逃しましたが、ここでは10... a4!が成立してb2-b4を止められるため、白は素直に10. b4と指してクイーンサイドのスペースを拡大し、Bc1-Bb2の準備をしておくべきでした。

10... Qh5?! 11. b4 axb4 12. axb4 g5?

形はSicilian Grand Prixの白黒逆バージョンで、クイーンの使い方など黒の攻め方の基本的な方針は悪くないのですが、クイーンサイドの展開を疎かにしている点が気になります。g7-g5はf5-f4のサポートをする狙いですが、黒キングの守りを弱めるという欠点もあるため、もう少し慎重に指すべきでした。代わりに12... Nc6と展開しておき、アタックの準備を整えるべきです。白のb4-b5に対してナイトは、Nc6-Nd8-Nf7-Ng5(g7-g5-g4を挟んでからも可) とキングサイドのアタックに参加するアイディアもありそうです。

13. Nd2!


このナイト退きはe2-e3の時点で頭にあった構想で、クイーンを交換した場合、黒のキングサイドアタックチャンスを完全に消すことができます。対する白はb4-b5,c4-c5,Nc3-Nd5などのクイーンサイドを中心としたチャンスが依然として残っているため、白が安全で指しやすい局面になるでしょう。

13... Qg6 14. f4!?


コンピュータの示すベストの手ではないでしが、人間的には黒のf5-f4を止め、キングサイドを安全にしておくのが最も分かりやすいアイディアだと思います。このfポーンをぶつけるアイディアはClosed Sicilianで、黒が指す重要なディフェンスのアイディアとして知られています。(1. e4 c5 2. Nc3 Nc6 3. g3 g6 4. Bg2 Bg7 5. d3 d6 6. f4 e6 7. Nf3 Nge7 8. O-O O-O 9. g4?! f5!) コンピュータの示すのは、14. c5 f4 15. Nde4と進め、f5-f4を許してもe4のマスを使えれば白が大きく優勢という変化ですが、h7-b1、c8-h3ダイアゴナルを開けさせ、黒にアタックの希望を与える理由もないでしょう。

14... Kh8 15. Bb2!

h8にキングが避ける手もa1-h8ダイアゴナルを活用しやすい白にとって好都合です。上記のClosed Sicilianと違い、黒は黒マスビショップの位置がg7ではなくe7でパッシブ、かつキングの守りを弱めています。もしe7ではなくg7にあれば黒キングもh8で多少は安全ですし、f2-f4に対してexf4とポーンを交換し、ダイアゴナルを開いて勝負する選択肢もあったでしょう。

15... Nc6 16. b5! Nb4 17. Nf3!


Nf3-Nd2と一時的に退いたナイトは、クイーン交換の催促、f2-f4の準備という2つの役割を終えた以上、d2に留まる理由はありません。f3に再び戻ってe5,g5にプレッシャーをかけつつ、クイーンの前を開いてd3を守っておきます。対するb4に跳びこんだナイトはd3を攻撃しているのは良いものの、帰る場所が無いことが気がかりです。

17... gxf4 18. exf4 Nxd3? 19. Nh4! 1-0

黒の見落としから、思わぬ早い決着でした。黒は一時的にd3でナイトを捨てても、e5-e4のポーンフォークで取り返せるという計算でしたが、先にナイトにh4へ逃げられ、チェック付きのクイーン取りをスレットにされてしまえば、単に黒のナイトだけが落ちてしまいます。直前にf4でのポーン交換で黒のg5が消え、h4にナイトが跳べるようになっていることが盲点だったかもしれません。もちろんこの見落としがなくとも、白はa1-h8ダイアゴナルを活用した攻撃で勝勢です。

2年連続で優勝しているジャパンオープンで5位という結果は悔いの残るものではありますが、今年後半の調子を踏まえれば仕方ないと納得もしています。今年はまだ有田のチェス大会に参加する予定ですが、公式戦はこれで全て終了。来年は1月の東海オープンからスタートとなります。今年も1年間、多くのチェスプレーヤー、運営にお世話になりました。また次の公式戦の機会もよろしくお願いいたします。

11/02 13:00 R1 Kato, A (JPN, 1668) - Kojima, S (IM, JPN, 2306) 0-1
11/03 10:00 R2 Kojima, S (IM, JPN, 2306) - Okabe, Y (JPN, 1862) 1-0
11/03 15:00 R3 Tanaka, S (JPN, 1964) - Kojima, S (IM, JPN, 2306)
11/04 10:00 R4 Kojima, S (IM, JPN, 2306) - Noguchi, K (JPN, 2006) 0-1
11/04 15:00 R5 Shioguchi, T (JPN, 1903) - Kojima, S (IM, JPN, 2306)
11/05 10:00 R6 Kojima, S (IM, JPN, 2306) - Saito, H (JPN, 1848) 1-0
11/05 15:00 R7 Nakahara, K (CM, JPN, 2052) - Kojima, S (IM, JPN, 2306) 0-1

2023/11/04

Japan Open 2023 Day3 Tournament Report


ジャパンオープン3日目のレポートです。この日は午前中のラウンドで野口さんに敗れ、全勝グループから後退してしまいました。しかも白番で良いところがなく、反省の多いゲームでした... 午後は同期の汐口くんに黒を持っての対戦です。

Shioguchi, T (JPN, 1903) - Kojima, S (IM, JPN, 2306)
Japan Open 2023 (5)

1. e4 c6 2. d4 d5 3. exd5 cxd5 4. Bd3 Nf6 5. h3 Nc6 6. c3 g6 7. Nf3 Bf5 8. O-O Bxd3 9. Qxd3 Qc7

g7-g6、Bc8-Bf5から白マスビショップを捌くのはよく知られたアイディアで、白のアタックチャンスを削って黒は満足な流れです。しかし、汐口くんもこの形をよく知っているうえ、チーム選手権ではこれに近いゲーム展開で黒を持っているので、どこでチャンスを作るアイディアをひねり出すか考えます。

10. Re1 e6 11. Bg5 Bg7 12. Nbd2 O-O 13. Qe3 b5


b7-b5-b4-bxc3は典型的なマイノリティアタックですが、黒マスビショップをフィアンケっとしているため、c5のマスをケアしていないのが気になります。13... Rfe8などで様子をうかがうのもありでした。

14. Nb3 Rfe8 15. Bf4 Qb6 16. Ne5 Rac8 17. a3 Nxe5 18. Bxe5 Nd7 19. Bxg7 Kxg7 20. Nc1 e5!

Nc1-Nd3はe5、c5への跳びこみを見せつつ、b4のマスに利かせてb5-b4を止めるナイトの好位置です。それを防ぐ本譜でしたが、これでもイコールにしかなりません。

21. dxe5 Rxe5


21... Nxe5!? 22. Nd3 Qxe3 23. Rxe3 Nxd3 24. Rxd3 Re2 25. b4 a6= これもルークが潜り込みますが、d5も弱いので互角でしょう。

22. Qd2 Rxe1+ 23. Qxe1 d4 24. Ne2! dxc3 25. Nxc3 Nf6

白も正確に受けて互角のままポーンが対称形になりました。この後、少しa1-h8ダイアゴナルからのプレッシャーが気になる展開でしたが、丁寧に守ります。

26. Qe5 Rc5 27. Qd4 Qc7 28. Re1 a6 29. Ne4 Rc6 30. b4 Qf4


次にRc8-Rc1跳びみを狙います。

31. g3 Qf3 32. Nxf6 Qxf6 33. Qxf6+ Kxf6=

a3を弱めてもらったので少しチャンスがあるかと思いますが、白は3段目を守ればドローでしょう。

34. Re3 h5 35. h4 Rc1+ 36. Kg2 Ra1 37. Kf3 Ra2 38. Rc3 Ke5 39. Ke3 Kd5 40. Rc5+ Kd6 41. Rc3 Rb2 42. f3 f6 43. Rd3+ Ke5 44. Rc3 Ra2 45. Rc5+ Kd6 46. Rc3 Rh2 47. Kf4 Kd5 48. Rd3+ Ke6 49. Re3+ Kd6 50. Rd3+ Ke6 51. Re3+ 1/2-1/2


この試合はどうしようもないドローでした。気を取り直して明日の残り2試合を頑張ります。

11/02 13:00 R1 Kato, A (JPN, 1668) - Kojima, S (IM, JPN, 2306) 0-1
11/03 10:00 R2 Kojima, S (IM, JPN, 2306) - Okabe, Y (JPN, 1862) 1-0
11/03 15:00 R3 Tanaka, S (JPN, 1964) - Kojima, S (IM, JPN, 2306)
11/04 10:00 R4 Kojima, S (IM, JPN, 2306) - Noguchi, K (JPN, 2006) 0-1
11/04 15:00 R5 Shioguchi, T (JPN, 1903) - Kojima, S (IM, JPN, 2306)
11/05 10:00 R6 Kojima, S (IM, JPN, 2306) - Saito, H (JPN, 1848)
11/05 15:00 R7

Japan Open 2023 R6 Pairings
Japan Open 2023 R6 Live Games

明日のトップボードは南條くんが、全勝中の青嶋くんを止めにいきます。ライブボードはどこも面白いと思いますので、最後までご覧いただけると嬉しいです。

2023/11/03

Japan Open 2023 Day2 Tournament Report


ジャパンオープン2日目のレポートです。過去最高人数の参加者となったジャパンオープンは、初日勝ったプレーヤーが45人もいるので、まだまだ上位勢同士は当たりません。私は今年4回目の対戦となる岡部くんとの試合からスタートです。

Kojima, S (IM, JPN, 2306) - Okabe, Y (JPN, 1862)
Japan Open 2023 (3)

1. c4 Nf6 2. g3 g6 3. Bg2 Bg7 4. Nf3 d6 5. d4 O-O 6. O-O c5 7. dxc5 dxc5 8. Ne5

エジプトのGM Adly Ahmedの得意変化で、10年以上前から私も使い、高い勝率を残しています。ポーンは対称形ですが、早めにフィアンケットビショップの利きを開き、黒のクイーンサイドにプレッシャーをかけます。

8... Nfd7 9. Nxd7 Nxd7 10. Nc3 Ne5 11. Qb3


4年前の野口さんとの試合ではここで11.Bg5と指しましたが、今日改めて読んでみてポーンの取り合いに自信がなかったため、じっくり構えてNc3-Nd5を狙うことにします。

11... Nc6 12. Rd1 Nd4 13. Qa3 Qb6?

ここでクイーンがおとなしく避けているようでは、手数をかけてNc6-Nd4を実現した甲斐がありません。13... Nxe2+! 14. Kf1 Nd4 15. Qxc5で勝負すべきです。黒はe7-e5があるため、d4のナイトは安定して負担にはなりません。

14. Nd5! Qd6 15. Bg5! f6 16. Be3


16. Rxd4!? fxg5 (16... cxd4?? 17. Nxe7+!からクイーンが落ちるのがポイントです) 17. Rd2もありえますが、本譜のようにポーンを取るほうがよりアドバンテージは大きいと考えました。

16... e5 17. Bxd4 exd4 18. Rxd4+-

d6のクイーンの位置が悪く、これで白が駒得です。黒はダブルビショップを持ちますが、白のd5のマスを中心としたピースの連携にはかなわず、ポーンの代償は不十分です。

18... Rd8 19. Re4 f5 20. Re7 Bf8 21. Re3 Be6 22. Rd1 Bxd5 23. Bxd5+ Kh8 24. Re6 Qxe6


実はここで2ルークとクイーンの交換を許したのはうっかりなのですが、黒の2ルークは上手く連携が取れず、白のクイーンと白マスビショップによるキングへのプレッシャーで白は十分勝勢を保てています。

25. Bxe6 Rxd1+ 26. Kg2 Re8 27. Bd5 Rc1 28. Qxa7 Rxe2 29. Qxb7 Re7

29... Be7 30. Bf3! Ree1 31. a4+-でも白はプロモーション狙いで勝勢です。

30. Qc6 Rc2 31. Qf6+ 1-0


最後はf6でのチェック見落としでルークが落ちました。いずれにせよ、f2への反撃を作られなければ白は問題なく勝てるでしょう。午後の3Rも初対戦の田中さん相手に丁寧に指せて勝利。ここまで調子は上々です。明日くらいから上位勢同士の面白いペアリングが登場します。

11/02 13:00 R1 Kato, A (JPN, 1668) - Kojima, S (IM, JPN, 2306) 0-1
11/03 10:00 R2 Kojima, S (IM, JPN, 2306) - Okabe, Y (JPN, 1862) 1-0
11/03 15:00 R3 Tanaka, S (JPN, 1964) - Kojima, S (IM, JPN, 2306)
11/04 10:00 R4 Kojima, S (IM, JPN, 2306) - Noguchi, K (JPN, 2006)
11/04 15:00 R5
11/05 10:00 R6
11/05 15:00 R7

Japan Open 2023 R4 Pairings
Japan Open 2023 R4 Live Games

2日目の3Rまで終わり、3連勝は8人まで絞られました。5連勝が複数出てもおかしくないのは、今大会の参加人数の多さを物語っているでしょう。明日の3日目も頑張ります。
今夜は大井町線と池上線を乗り継ぎ、池上の燕楽までとんかつを食べに来ました。池上での大会の際に時々寄りますが、このためだけに池上に来たのは初めてです。

2023/11/02

Japan Open 2023 Day1 Tournament Report

今日から4日間、品川区立中小企業センターで開催される7試合のトーナメント、ジャパンオープンに参加します。この大会は来年のオリンピアード日本代表を決めるとともに、私にとっては3連覇がかかる大きなものです。今年はエントリー上限が114名でしたが、Tuさんを含めた数人の直前キャンセルがあって、111人でのスタートとなりました。私は3番ボードで初対戦となる加藤さんとの試合です。

Kato, A (JPN, 1668) - Kojima, S (IM, JPN, 2306)
Japan Open 2023 (1)

1. d4 d5 2. Bf4 c5 3. e3 Nc6 4. Nf3 Bg4

今回、London対策にはビショップをポーンストラクチャーの外に展開するラインを選びました。11手目までが研究手順です。

5. c3 e6 6. Nbd2 Nf6 7. Qb3 Qc8 8. Ne5 Nxe5 9. Bxe5 Nd7 10. Bg3 c4 11. Qc2 b5 12. e4 Be7


e3-e4は白の典型的なアイディアで、黒はd5にポーンを残しておきたいので取ることができません。このポーンのぶつかり合いをどう捌くかはこの後のポイントです。

13. Nf3?!

Bf1-Be2の準備だと思いますが、2回目のNf3-Ne5はあまりインパクトがないうえ、e4でのぶつかり合いをキープして開くタイミングを白がコントロールするのがポイントであるため、e4に利くナイトをd2からずらすのは奇妙だと感じました。代わりにキャスリングできなくなることを恐れず、13. Be2とぶつけてビショップ交換をし、Rh1-Re1,Ke2-Kf1を考えていました。

13... O-O 14. Be2 Nf6!


e4を崩すことで、Bg4-Bf5とNf6-Ne4のチャンスを作ります。黒はe4にプレッシャーを集め、ポーンをどう捌くか催促をしてゲームを進めやすくします。

15. Bh4 Qb7! 16. Bxf6?!

あまり黒マスビショップを手放すメリットはないと感じます。16. exd5 Bf5 17. Qc1 exd5=/+と進めば、黒はNf3-Nh4を恐れずに白マスビショップのダイアゴナルを切り替えて満足でしょう。

16... Bxf6 17. e5?


ポーンの押し込みは決定的なミスでした。黒は弱点になるポーンがないうえ、Bg4-Bf5の切り替えとダブルビショップの活用ができます。白は17. exd5 Bf5 18. Qd2 exd5 19. O-O Rfe8=/+で頑張るべきでした。

17... Be7 18. h4 b4 19. Ng5 Bf5-+

bファイルからの突破はb1のマスを抑えてこそ力を発揮します。キングへの直接攻撃を抑え込んだうえで典型的なブレイクを決めれば、黒のアドバンテージは勝ちに十分なものです。

20. Qd1


20. Qc1 bxc3 21. bxc3 h6 22. g4 Bg6! 23. Nf3 Rab8-+でもゆっくりb2から侵入して黒勝勢です。本譜でもb2への侵入からc3を狙えば、白には守る方法がありません。

20... bxc3 21. bxc3 Qb2 22. O-O h6 23. Nf3 Qxc3 24. Rc1 Qa5 25. a4 Rab8 26. Ra1 Rb2 27. Qc1 Rxe2 28. Rd1 Rb8 29. Nd2 c3 30. Nf1 Rbb2 31. Ne3 Rxf2 32. Nxf5 Rxg2+ 33. Kh1 Rh2+ 34. Kg1 Rbg2+ 35. Kf1 Qa6+ 0-1

途中でピースも取って最後はメイトになりました。今年も黒で無事に白星スタートを切れて一安心です。

11/02 13:00 R1 Kato, A (JPN, 1668) - Kojima, S (IM, JPN, 2306) 0-1
11/03 10:00 R2 Kojima, S (IM, JPN, 2306) - Okabe, Y (JPN, 1862)
11/03 15:00 R3
11/04 10:00 R4
11/04 15:00 R5
11/05 10:00 R6
11/05 15:00 R7

Japan Open 2023 R2 Pairings
Japan Open 2023 R2 Live Games

初日は45人が勝ちで、アップセットもちらほらあったようです。私は2試合目はユースチャンピオン、岡部くんとの対戦です。今年4回目で全て白...何を指すかはこれから考えます。それでは皆さん、2日目もよろしくお願いいたします。

2023/11/01

エヴァーグリーン・ゲーム発売

本日、11月1日にポプラ社からチェスを題材とした小説『エヴァーグリーン・ゲーム』が発売されました。著者は石井仁蔵さんで、こちらの作品でデビューし、ポプラ社小説新人賞を獲得されています。正式な発売日は今日のはずですが、場所によっては昨日、本屋に並んでいたようです。私はチェスの監修をさせていただいた関係で、数日前に見本誌をいただきました。

エヴァーグリーン・ゲームというタイトルは、Adolf Anderssenが1852年に指したゲームの通称からきています。全編に渡りチェスが登場し、4人の男女がチェスを通じて関わり、生きていく様子を描いています。あまり内容についてここでは詳しく書きませんが、私はいただいた原稿を夢中になって一晩で読ませていただきました。興味を持って下さったかたは、ぜひお手に取ってみてください。

また作中のチェスの描写、表現などは細かくチェックしたつもりですが、気になる点があれば今後の参考にさせていただきますので、私か出版社までご意見をいただけると嬉しいです。それではポプラ社の新作『エヴァーグリーン・ゲーム』をよろしくお願いいたします。作品の詳細については、以下の特設サイトをご参照ください。

エヴァーグリーン・ゲーム(ポプラ社特設サイト)
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