2025/08/02

麻布学園チェス部夏合宿2025

7/30-31の2日間、山梨県の石和温泉で行われた麻布チェス部の夏合宿に指導でお邪魔させていただきました。山梨県の合宿地としては、これまで河口湖と三つ峠を訪れたことがありましたが、石和温泉は初めてです。新宿や八王子からは特急あずさを活用しても来ることができますが、私は京王線で高尾乗り換え、そこから中央線でのんびりやってきました。去年はあずさを使わずに長野の松本まで行ったので、その途中の石和温泉であれば、さほど遠くは感じません。
午前中に石和温泉に到着し、駅前の散策と昼食後に徒歩で宿に向かうつもりでしたが、ちょうど駅前で到着したばかりに現役生たちと合流しました。彼らは送迎のバスを頼んでいたため、ありがたく便乗させてもらい、合宿所の宿へと向かいます。後輩たちの昼食が済んでから、初日の指導がいよいよ始まります。
Fernandez Coria - Capablanca
Buenos Aires 1914
Position after 16.Qd2

最初は私の講座ではお馴染みになりつつある、Capablancaが指したゲームの局面から。ここでの黒番のタクティクスを紹介するだけなら簡単なのですが、ビショップとナイトの特性、どう組み合わせて使うか、2ピースvs.ルークなどを丁寧に説明していると、少し手間がかかります。Capablancaが指したベストの手は16...Bh3! ですが、16...Nxg2 だとどうなるかなど、検討の甲斐があるアイディアは豊富にあり、現役生たちには2人1組になって考えてもらいました。
Alexey Selezniev
Tidskrift for Schack, Dec 1921
White to move and win

可能なアイディアはなるべく全て考えるというテーマで、こちらの局面も出題しました。こちらはなかなか正解にたどり着かず、現役生たちは苦戦しましたね。こちらの問題をご存じないかたは是非チャレンジしてみてください。
初日の夜は同時対局で、春合宿の9面指しから17面指しと倍近くになり、とにかく大変でした。大阪の万博ではJuditが16面指して全勝だったため、それを超える17勝を目指しましたが、結果は部長の大沼くんとドローで、他勝ちの16勝1ドローでした。ある意味、Juditと同じですね笑。同時対局の中で唯一、危ないと思った試合をご紹介します。

Kojima - Kumasawa
Azabu Summer Chess Camp 2025 Simul

1. d4 Nf6 2. c4 g6 3. g3 Bg7 4. Bg2 c5 5. Nf3 O-O 6. O-O cxd4 7. Nxd4 Nc6 8. Nc2 b6 9. Nc3 Ba6 10. b3 Rc8 11. Bb2 d6 12. Qd2 Qc7 13. Ne3 e6 14. Rac1 Ne5 15. h3 Rfd8 16. f4 Nc6?!

翌日の振り返りで16...Ned7 のほうが良いことを指摘しましたが、熊沢くんは自分でも解析で見つけていたようです。部員たちはレベルも熱意もまちまちではありますが、自分で試合を調べたり、質問を積極的に持ってくる子も予想より多くて感心しました。

17. Ncd5! exd5 18. cxd5 Qe7 19. Rxc6


典型的なナイトのサクリファイスで優位を築いたのは良かったのですが、ここは19. Bxf6! Qxf6 20. dxc6 Qd4 21. Rfd1+- のほうが本譜のNf6-Ne4に悩まされることが無く、良かったと思います。黒マスを自分から手放すのは少し抵抗がありましたが、黒からの反撃は限定的で問題ありませんでした。

19... Bb7 20. Rxc8 Bxc8 21. Rc1?! Ne4!

この手が来ることは分かっていたのですが、直前にどう対応すべきか自信が持てませんでした。21.Bd4!? くらいでビショップの位置をあらかじめ改善しておき、交換するとしてもb2でない場所を選ぶべきだったかもしれません。

22. Bxe4 Bxb2!


先に黒マスビショップ交換になり、クイーンがナイトの守りから引き離されてしまうことを失念していました。これでh3が落ちることが決まり、かなり焦りながら反撃しやすい形を模索します。

23. Qxb2 Qxe4 24. Kf2 Bxh3?!

試合中に気にしていたのは24... Re8! として先にeファイルからの反撃を強化しておく手で、これならば白クイーンはナイトの守りから離れられないため、本譜のa1-h8ダイアゴナルを抑える反撃は作れず、キングが不安定な白はやや劣勢かと思っていました。しかし、1ポーンダウンの黒が早くポーンを取り返したいと焦る気持ちは理解できます。

25. Qc2 Qb4 26. Qc3 Qa3? 27. g4!


黒にあまり良いディフェンスが無いことを確認し、このポーン突きを実行しました。h3に跳びこんだビショップの帰り道を消し、Rd8-Rc8のような反撃もできないようにしておきます。さらにここでRc1-Rh1がビショップトラップの狙いになることが、あらかじめKg1-Kf2と寄っておいたアイディアでもありました。

27... h5 28. Rh1!

g4を取る手に対しても、Ne3-Ng4ができ、h8でのメイトが狙えるためにビショップは助かりません。これで勝利を確信しましたが、途中かなりひやっとするところのあるゲームでした。

28... Qc5 29. Qxc5 dxc5 30. Rxh3 hxg4 31. Nxg4 Rxd5 32. Nf6+ Kg7 33. Nxd5 f5 34. Kf3 Kf7 35. e4 Ke6 36. Rh7 1-0


合宿2日目は午前中に17人全員に振り返りとアドバイスを行い、私の指導は全て終了しました。今年は久々の春夏両合宿にお邪魔しましたが、現役時代を思いしてやはり合宿は良いですね。呼んでくれた現役部員たちだけでなく、指導内容をメモして渡してくださったり、写真を提供してくださった顧問の先生2人にも深く感謝いたします。
現役生たちは3泊4日の合宿ですが、私の指導は最初の1泊2日だけですので、1人宿を離れて帰路につきます。駅から少し離れた場所に、リニューアルオープンしたばかりの甲斐の駅いさわがあり、寄ってみることに。動かざること山の如しを体現するような、巨大な武田信玄の像がありました。
山梨県は宝石や天然石加工の技術に優れてるそうで、県内で採掘ができなくなった現在でも、海外から素材を輸入して加工をしているそうです。言われてみれば、河口湖近辺にも天然石を扱うお店や宝石の美術館がありました。こちらは肉に見える石で、奥の焼き鳥か手前の豚肉のどちらかが天然の石です。どちらか分かりますか?
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