2020/07/30

文明開化 新十郎探偵帖


NHK の制作する時代劇で、福士蒼汰さんが主演を務める 『文明開化 新十郎探偵帖』 が、12月11日から放送スタートとなります。坂口安吾さんの小説をドラマ化した本作は、年明け少ししてから撮影が始まりましたが、新型コロナの影響でスケジュールが延期となり、放送開始が年末まで押してしまいました。なんとか年内にスタートできると先日連絡を貰い、私もほっとしているところです。

なぜこちらのドラマの告知をするかと言えば、毎回のようにチェスシーンが出てくるためです。カペルから帰国後、スタジオに何回か足を運び、チェスシーンの指導をしてきました。福士蒼汰さん演じる明治の名探偵、結城新十郎が仲間たちと織りなす物語を、この冬は是非お楽しみください。配役やストリーなどの詳細に関しては、以下のリンクで確認ができます。まだ7月ですので放送開始が近づいたら、また告知させていただきます。

福士蒼汰さん主演『明治開化 新十郎探偵帖』12月11日(金)スタート!

2020/07/27

Japan Chess Classic 2020 Day4


ジャパンチェスクラシック入賞者たち photo by Yamada, A

昨日まで4日間開催されたジャパンチェスクラシックも無事に閉幕しました。優勝はAsaka Samuel くんで、最後こそTu さんに敗れましたが、脅威の開幕6連勝により、最終戦を残して優勝を決めました。オーストラリア籍ながら、ここ数年は日本に住み、ずっとプレーを続けてきた若き有望株の初ビッグタイトルです。Samuel くん、おめでとうございます!

1st Place Asaka Samuel (AUS, 2182) 6/7
2nd Place Tran Thanh Tu (CM, JPN, 2338) 5.5/7
3rd Place Aoshima Mirai (IM, JPN, 2350) 5/7

Japan Chess Classic 2020 Final Standings


私は最終日、塩見さんに勝ち、青嶋くんにドローで5/7 となりながら、タイブレークで青嶋くん、大多和くんに敗れて5位止まりでした。やはり早いラウンドで黒星がついたのが痛かったです。それでも後半はなんとか立て直し、ゲーム内容も良くなってきたので、その点は満足しています。今夜は6R の塩見さんとのゲームをご紹介します。

Shiomi, R (JPN, 2046) - Kojima, S (IM, JPN, 2397)
Japan Chess Classic 2020 (6)

1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. d4 exd4 4. Nxd4 Bc5 5. Nb3 Bb4+!?



1970年代にウクライナのGM Oleg Romanishin が研究し、指し続けた変化です。f2 を狙う自然な5... Bb6 に比べると古く、指されれる頻度は減っていますが、私は現代でも使えるラインだと考え、自分のScotch 対策として取り入れました。

6. Bd2 a5!


6. c3 Be7 ならば大人しく退き直し、c3 に白がナイトを展開できないことで満足します。

7. a4?!


この手では私もすでに知らないポジションになりました。調べていたのは、7. a3 Be7 8. Bc3!? Nf6! 9. e5 Ne4 10. Qg4 Ng5 という変化で、実戦例もあります。本譜の手はシンプルにa5-a4 の押し込みを止めていますが、その代わりにb4 のマスが長期的に弱くなってしまいます。

7... Nf6 8. Bd3 O-O 9. O-O Re8 10. Re1 d5!?



ここでdポーンをぶつけるかどうかは、プレーヤーの好みが分かれるところだと思います。白のセンターポーンがd5 のマスを抑え、白の一番のポイントになる主張だと考えるのであれば、それを消しにいく黒のアクションは自然です。一方でe4 のポーンを簡単にさばいてしまうと、e4 のポーンにピースを集めて反撃するというプランを黒は失うことになります。加えてe4 ポーンを消すことで、開いてしまうd3-h7 のダイアゴナルも少し気になります。私はそれを承知でも、d5 のマスを奪い返し、ピースをアクティブにして戦うことを決めました。

11. exd5 Rxe1+ 12. Qxe1 Nxd5


ルークを黒から交換するかどうかも難しいポイントで、白は将来的にQe1-Qe4 のような手でビショップをクイーンを協力させ、黒のキングサイドを狙うチャンスを作ることができます。黒の主張は一時的にでも白クイーンをa5-e1 のラインにずらしておくことで、Nd5-Nf4 といったピンを利用したナイト跳び込みのチャンスを作ることや、将来的にRa8-Re8 とルークが回った際、クイーンをターゲットにできるようにすることです。

13. Nc3 Be6 14. Rd1 Qd7!



先述のルークをe8 にまわす準備ですが、先にd1 にきた白ルークの存在も当然気にしなくてはいけません。15. Nxd5?! Bxd5 16. c4? Bxg2! 17. Kxg2 (17. Bxb4 Qg4!) 17... Qxd3 18. Bxb4 Qg6+ ならば、黒はポーンをかすめ取り、クイーンも生還させることができます。16. Bxb4 Nxb4 17. c4 Qxa4! も大事な変化で、ビショップが取られてもナイトを取りかえすことができるため、黒は問題ありません。ぎりぎりではありますが、白がdファイルから攻撃を作るためにはもう1歩準備が足りないと読み、14... Qd7 を指すことができました。

15. Qe4 g6 16. Be2 Re8


16... Rd8 17. Bg5 Nxc3 18. Rxd7 Nxe4 19. Rxd8+ Nxd8 20. Bxd8 はイコールにしかならず、もう少しチャンスを求めて最初の狙い通りにルークはeファイルに動かいsます。

17. Bf3 Nxc3! 18. Bxc3 Bxc3!



この手を見つけることができて一安心しました。少し変化はありますが、いずれも黒が十分優勢なエンドゲームへと突入します。

19. Rxd7


19. bxc3 Qxd1+ 20. Bxd1 Bd7 21. Qe2 Rxe2 22. Bxe2 b6 23. Bb5 Nb8-/+ 白からクイーンを取ってこなかった場合も、黒から強引にクイーンルークの交換をしてしまい、バックランクメイトを利用してクイーンを取りかえすことができます。

19... Bxd7 20. Nc5 Rxe4



コンピュータが示した変化は驚くもので、20... Nd4!? 21. Nxd7 Nxf3+ 22. gxf3 Rxe4 23. fxe4 Bxb2-+ として1ポーンアップで黒が勝勢とのことです。しかし、本譜でも十分黒のプランが分かりやすい勝勢ですので、どちらが良いかは一概には言い切れないでしょう。

21. Bxe4 Nb8!


このナイトを退く手がポイントで、ビショップを守りつつ、b7-b6 の際にa6 のマスにナイトに跳びこまれないようにします。勝ちを目指す黒は、白が望む異色ビショップの展開は避けるようにします。

22. bxc3 b6 23. Nxd7 Nxd7-+



これで多少霧が晴れ、どのような局面か明らかになってきました。マテリアルこそイコールですが、ターゲットが無く、a4 の弱点をサポートしなければいけない負担を抱えたビショップよりも、黒のナイトのほうが強い状況です。

24. Bd5 Nc5 25. Bb3 Ne4 26. c4


ここは25... b5!? 16. axb5 a4 とパスポーンを早めに作ってしまうのもありですが、急がなくてもビショップナイトの働きの差で黒の優位は揺るぎません。私はもう1つの作戦であるc3 ポーンを狙い、全ての白ポーンを白マスに移動させることにします。白はビショップが完全に閉じ込められ、悲しい状況です...

27... Kf8 27. f3 Nc5 28. Kf2 Ke7 29. Ke3 Kd6 30. g4 Nxb3!



白の30手目を見て、ポーンエンディングでも黒勝ちを確信しました。基礎的なポーンエンディングをきちんと勉強しておくと、こうしてピースを捌く判断が正確にでき、確実な勝ちを手繰り寄せることができるようになります。、

31. cxb3 Kc5 32. Kd3 Kb4 33. Kc2 g5!


この手以外はおそらく勝てないでしょう。g4-g5 として黒のポーンを固定するプランを防ぎ、逆に白のg,fポーンを固定してしまいます。黒には進めることができるポーンが3つ (しかもcポーンは2回に分けて動くこともできます。) あるため、テンポ調整も容易で簡単に白をツークツワンクに追い込むことができます。

34. Kb2 h6 35. Kc2 Ka3 36. Kc3 c5 37. h3 f6 38. Kc2 Ka2-+



こうしてオポジションを取り、b1 から潜り込んでb3 を落とせば黒の勝ちです。手番が逆であればドローになるのが、エンドゲームの難しくも面白いポイントですね。

39. Kc3 Kb1 40. Kd3 Kb2 41. Ke4 Kxb3 42. Kf5 Kxc4 43. Kxf6 Kd5 44. Kg6 c4 45. Kxh6 c3 46. Kxg5 c2 0-1


白の反撃は遅く、先にクイーンを作ることのできた黒の勝ちです。最初から最後まで、満足のいくゲーム内容でした。最終戦の青嶋くんとの試合も手堅く指せ、危ないところは無かったのでそれも良かったです。

Fukuda, T (JPN, 1740) - Kojima, S (IM, JPN, 2392) 0-1
Kojima, S (IM, JPN, 2397) - Scott, T (JPN 2190) 1-0
Otawa, Y (JPN, 2122) - Kojima, S (IM, JPN, 2397) 1-0
Kojima, S (IM, JPN, 2397) - Yesbolatova, A (KAZ, 1814) 1-0
Kojima, S (IM, JPN, 2392) - Tran, T T (CM, JPN, 2338) 1/2-1/2
Shiomi, R (JPN, 2046) - Kojima, S (IM, JPN, 2392) 0-1
Aoshima, M (FM, 2350) - Kojima, S (IM, JPN, 2392) 1/2-1/2

今大会中、8月開催予定だった女子選手権、ユース選手権、カデッツ選手権の3大会は中止が発表されました。次の大会の見通しは立っていませんが、また試合会場で皆さんとお会いできることを楽しみにしています。次の大会でもよろしくお願い致します。

2020/07/25

Japan Chess Classic 2020 Day3


ジャパンチェスクラシックも3日目を終え、久々の大会も大詰めを迎えます。私は午前のゲームでカザフスタンのYesbolatova さんに勝ち、午後のゲームでは半歩先を走るTu さんとの対戦になりました。逆転優勝を目指すためには、是が非でも勝ちたいラウンドです。今夜は時間に余裕が無いため、終盤の局面からご紹介することにします。


Kojima, S (IM, JPN, 2392) - Tran, T T (CM, VIE, 2338)
Japan Chess Classic 2020 (5)
Position after 39... Ra8

中盤、難しい判断でしたが私はエクスチェンジを捨て、ナイト+2ポーンで勝負することにしました。大分駒が捌けてきたこの局面では、お互いほぼ時間が無く、特に私は落とさないように必死でした。

40. Nxf5! Qb7+ 41. Kg1


a2 への反撃とh1 へのクイーンの侵入を気にしなければいけない以上、キングの避けるマスはここしかないと思いました。もちろん悪くない手ですが、41. e4! Ra7 42. Ne3 Re6 43. Nd5 Qa8 44. f5 gxf5 (44... Rxa2 45. fxe6 Rxd2+ 46. Rxd2+-) 45. exf5 Rd6 46. Qxb4 Rxa2+ 47. Kf3+- が難しいながら、さらに良い変化でした。Nd4-Nb5-Nd6-Nf5 と跳んでいたナイトでしたが、1つ理想と思い描いていたd5 のマスに、こうして落ち着けるとは思いませんでした。

41... Ra7 42. Nd6 Qa8 43. Nb5?



これが勝ちを逃す痛い手でした。a2 を取る余裕はないと思い、ひとまず黒ルークをaファイルから追い払っておいてゆっくり進めようと考えました。代わりに43. Ne4! Rff7 44. Qd3! Rae7 (44... Rxa2 45. Rd8! Ra1+ 46. Kg2 Qa2+ 47. Kh3 Qb2 48. Rd6+-) 45. Nd6+- ならば3ポーン目を取り、黒からの反撃も抑え込めているので白の勝勢です。

43... Rxa2!


時間のない中、黒はこれを見つけてドローを確保します。白ルークとクイーンがdファイルに重なっており、7段目、8段目への侵入を見せている以上、ルークが自陣を離れるのは危険に見えますが...

44. Rd7+ Kg8 45. Rd8+ Rf8



黒はぎりぎりこの手があり、クイーンが落ちることは避けられます。クイーンを取り合った形は白がポーンを活かせる状態ではなく、エンドゲームは黒勝ちでしょう。白はパペチュアルチェックで満足するほかありません。

46. Rxf8+ Kxf8 47. Qd6+ Kg7 48. Qe7+ Kg8 49. Qe6+ Kg7 50. Qe7+ Kg8 51. Qe6+ 1/2-1/2


これまでTu さんと指した試合の中でも、かなり上位に入る難解な試合でした。ここでドローは痛く、3.5/5 グループで最終日を迎えます。ここまで5連勝のSamuelくんがどうなるか、残り2試合も要注目です。

Fukuda, T (JPN, 1740) - Kojima, S (IM, JPN, 2392) 0-1
Kojima, S (IM, JPN, 2397) - Scott, T (JPN 2190) 1-0
Otawa, Y (JPN, 2122) - Kojima, S (IM, JPN, 2397) 1-0
Kojima, S (IM, JPN, 2397) - Yesbolatova, A (KAZ, 1814) 1-0
Kojima, S (IM, JPN, 2392) - Tran, T T (CM, VIE, 2338) 1/2-1/2
Shiomi, R (JPN, 2046) - Kojima, S (IM, JPN, 2392)

Japan Chess Classic 2020 R6 Pairings


2020/07/24

Japan Chess Classic 2020 Day2


ジャパンチェスクラシック2日目です。今回の試合で使われているチェスピースとボードは新型コロナウイルス対策として、試合が終わるたびにアルコール除菌されています。

Kojima, S (IM, JPN, 2397) - Scott, T (JPN 2190)
Japan Chess Classic 2020 (2)

1. d4 Nf6 2. c4 e6 3. Nc3 Bb4 4. e3 O-O 5. Bd2!?



新しい試みとして序盤のレパートリーに加えたのは、Nimzo-Indian の5. Bd2!? 変化です。近年急速にトップGM の間で指される頻度が多くなってきています。

5... d5 6. Nf3 b6 7. cxd5 exd5 8. Rc1 a6 9. Bd3 Re8?!


e5 のマスを抑えるピースは、d7 かc6 に展開するナイトと、Bb4-Bd6 と退き直すビショップの2つであるべきだと思います。いずれにせよ本譜のように、Nf3-Ne5, f2-f4 と組むつもりでしたが、本譜では弱くなったf7 を気にしなくてはいけなくなります。

10. Ne5! Bd6 11. f4 c5 12. O-O Bb7 13. Be1!



これがf2-f4 とのセットで使えるマヌーバリングです。5手目で消極的に見える位置に展開されたビショップは、h4-d8 の強力なダイアゴナルを抑えにいくことになります。

13... cxd4 14. exd4 Nc6 15. Bh4! Na5


d4 を無視できるのが白のセットアップのポイントです。15... Nxd4 16. Bxh7+! Kxh7 17. Nxf7! (17. Qxd4?? Bc5-+) 17... Qe7 18. Nxd6 Qxd6 19. Qxd4+/- こうしてf7 を取り、黒マスビショップを消してからであれば、白は安心してナイトを取ることができます。

16. Qf3! b5 17. Kh1 h6 18. Rce1!



リスクを冒してd5 を取ったり、g2-g4 と仕掛けるよりも、eファイルを抑えてからb1-h7 のダイアゴナルを利用しにいきます。

18... Be7 19. Bxf6!


ここまで準備すれば、ビショップナイト交換をしてもキングサイドを押し切れると判断します。次のQf3-Qh5-Qf5 のマヌーバリングを考えると、黒が序盤でRf8-Re8 を指したダメージが明らかになります。

19... Bxf6 20. Qh5! Bxe5 21. fxe5+-



こうしてfファイルを開ければ、f7 へのアタックとQh5-Qf5-Qh7 の構想で勝負は決まりです。

21... Qg5 22. Qxf7+ Kh8 23. Rf5 Qe7 24. Qg6 Qe6 25. Rf8+ 1-0


最後はきっちりメイトで連勝を決めました。しかし、午後のラウンドが問題です。


Otawa, Y (JPN, 2122) - Kojima, S (IM, JPN, 2397)
Japan Chess Classic 2020 (3)
Position after 36. Ba3

1ポーンアップで黒が勝勢ですが、ここでひどい手を指してしまいました。36... Qd3 からビショップを追い出し、aポーンを進めるプランくらいで良かったでしょう。

36... Rd8?? 37. Qc7!+-


c6 のナイトは取られても、Rd8-Rd2 と入って黒勝ちだと読んでいました。しかし、実際には本譜のように指されると、g2 の前にf7 が問題となり、白の大逆転が起こります。

37... Kh7 38. Qxf7 Rg8 39. Qxe6



会場を出てから、黒キングの避ける位置はQe6-Qf5 でのチャックが入らないよう、h8 のほうが良かったのかと思いました。しかし、こちらも37... Kh8 38. Qxf7 Rg8 39. Bf8! Nd8 40. Bxg7+ Kh7 41. Qf6!+- がh6 取りのスレットになっているため、黒のナイトフォークは有効ではありません。

39... Nd4 40. Qg4 Qa6 41. Rd7 Qb6 42. e5 Nc6 43. Qe4+ Kh8 44. Rd6 Rc8 45. Qg4 Qc7 46. f4 Rd8 47. Qe6 Nd4 48. Qd5 Rxd6 49. exd6 Qc3 50. d7 1-0


ポーンを2つ取られて以降は何もなく、ずるずると負けてしまいました。残り時間もあっただけに、悔いの残るミスでした。また明日、気持ちを切り替えて頑張ります。

Fukuda, T (JPN, 1740) - Kojima, S (IM, JPN, 2392) 0-1
Kojima, S (IM, JPN, 2397) - Scott, T (JPN 2190) 1-0
Otawa, Y (JPN, 2122) - Kojima, S (IM, JPN, 2397) 1-0
Kojima, S (IM, JPN, 2397) - Yesbolatova, A (KAZ, 1814)

Japan Chess Classic 2020 R4 Pairings


明日はカザフスタンの女性との対戦です。初めての相手ですので、どんな試合になるか楽しみにしようと思います。3連勝組の直接対決も、どのような結果になるか楽しみにしています!

2020/07/23

Japan Chess Classic 2020 Day1


日本でもようやくトーナメントが再開されるようになりました。今日から4日間、東京の大井町でジャパンチェスクラシックが開催されます。参加者は最大48名、マスク着用、アルコール除菌の義務付けなど、様々な制約がついていますが、久々の大会は多くのプレーヤーにとって嬉しいものだと思います。最終的な参加者は39名でスタートを切っています。

私は初戦、福田さんに黒でした。ここ数年の対戦は全て、Caro-Kann のKing's Indian Attack スタイルでしたが、今日は私から初手を変え、新たな戦い方を求めます。

Fukuda, T (JPN, 1740) - Kojima, S (IM, JPN, 2392)
Japan Chess Classic 2020 (1)

1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bb5 g6!?



昨年から用意しているRuy Lopez のラインです。Cappelle の3R でも指しましたが、そちらは紹介する機会を逸してしまったので、今回が初登場ですね。

4. d4 exd4 5. Nxd4?!


ここでポーンをすぐ取りかえす手は、本譜のようにビショップが下がるテンポロスがあるため、良くないと思います。すぐにd2-d4 と仕掛ける変化は、5. Bg5 Be7 6. Bxe7 Qxe7 7. Bxc6 dxc6 8. Qxd4 Nf6 9. Nc3 がメインラインとなります。

5... Bg7 6. Nxc6 bxc6 7. Bd3 Ne7 8. Nc3 O-O 9. O-O Rb8!



昨年の全日本最終戦でも指しましたが、キングサイドのフィアンケットビショップと、開いたbファイルは相性の良いものです。白は一時的に黒マスビショップの展開が妨害され、どう解決するか難しいところです。

10. f4 d5! 11. Qf3 Be6 12. g4?!


ビショップの展開に困った白は、少し無理やりにでもキングサイドからアクションを起こそうとしますが、このf5 を抑える手が逆に黒にf5 のマスを使わせる結果となってしまいます。

12... dxe4! 13. Bxe4 f5! 14. gxf5 Nxf5 15. Bxf5



ここは白としては苦渋の決断です。Nf5-Nd4 はかなり嫌なナイトになりますし、c6 のポーンを取ってa8-h1 のダイアゴナルから反撃されるのも困るでしょう。黒としては本譜のようにビショップを貰えるのであれば、ナイトが消えても満足な流れです。

15... Rxf5!?


最初はビショップで取りかえすつもりでしたが、a2-g8 のダイアゴナルを抑えたまま、Be6-Bd5 のチャンスを残しておくのも面白いかなと思い、ルークで取ってみることにしました。

16. Rd1 Bd4+ 17. Be3 Bxe3+ 18. Qxe3 Qf6



ルークで取りかえし、ビショップを交換するポイントはf4 のポーンを弱めることです。16... Qe8 のような手からじっくり進める展開もありえましたが、本譜でも白がまだ難しい状況であることは明らかです。

19. Re1 Re8 20. Ne4 Qh4 21. Ng5 Bf7 22. Qxe8+?


このクイーンを諦める交換はやりすぎで、十分な代償は無いと考えていました。代わりに私が読んでいたのは、22. Qg3 Qxf4 23. Qxf4 Rxf4 24. Nxf7 Kxf7 25. Rxe8 Kxe8 とポーンを捨ててルークエンディングに跳びこむ変化です。黒はポーンアップですが、cファイルのダブルポーンとaファイルの孤立ポーンが気になり、簡単に勝ち切れるとは言えないでしょう。

22... Bxe8 23. Rxe8+ Rf8 24. Rae1 Qg4+ 25. Kh1 Qxf4-+



f4 のポーンまで問題なく取れれば黒の勝ちです。

26. Rxf8+ Qxf8 27. Kg2 Qb4 28. Re8+ Kg7 0-1


まずは問題ない白星スタートでしたが、試合中ずっとマスクをつけていると予想よりもずっと疲れることが分かりました。明日から1日2試合が続きますので、最終日まで体力が持つかが気がかりです。次第に慣れてくると良いですね。明日からも頑張ります。

R1 Fukuda, T (JPN, 1740) - Kojima, S (IM, JPN, 2392) 0-1
R1 Kojima, S (IM, JPN, 2392) - Scott, T (JPN, 1900)

Japan Chess Classic 2020 R2 Pairings

2日目はScott さんに白で当たることが発表されました。昨年の名古屋ではポイントを落とした相手ですので、しっかりと準備して臨みたいと思います。2日目も皆さん、よろしくお願い致します。

2020/07/17

ファヒム パリが見た奇跡 Movie Preview


NCS のサイトでも告知が出ている通り、チェスを題材にした映画 『ファヒム パリが見た奇跡』 がヒューマントラストシネマ有楽町他、8月14日から全国公開されます。先日、映画の公開に先駆け、試写会に参加してきました。大きなネタバレにはならない程度に、少しだけストーリーをご紹介したいと思います。

ダングラデシュの首都、ダッカに住む少年ファヒムは、地元のチェス大会で優勝するほどの実力の持ち主。しかし、ファヒムの父ヌラは、情勢不安定なダッカでは彼の身が危ないと考え、2人でフランスのパリに渡ることを決めます。ファヒムはパリのチェスクラブで師となるシルヴァンと出会い、チェスを共に学ぶ友達にも恵まれますが、一方でヌラは仕事も見つからず、パリの滞在許可取得は難航します。果たして2人は滞在許可を取得し、ダッカに残してきた家族をパリに呼ぶことができるのか。こういったストーリーです。

作中には、チェスマニアであれば思わずなるほどと思えるような局面、ゲーム、エピソードなどが多く出てきますので、どの程度元ネタが分かるか、考えるながら見るのも一興でしょう。一方で、チェスを通じた少年の成長と、難民受け入れといった現実的な社会問題が上手くミックスされた映画ですので、チェスのルールが分からずとも楽しめると思います。公開されましたら、是非映画館に足を運んでみてください。

ファヒム パリが見た奇跡 予告ムービー

2020/07/03

Tokai Open 2020 Tournament Information


2019年の東海オープン入賞者達

例年の開催時期である5-6月から延期されていた東海オープンが、8月末の開催と発表されました。東京でのNCS 主催の大会もスケジュール調整に苦労していますが、それは地方クラブ主催の大会も同じです。8月末の状況を見つつ、余裕があれば今年も参加したいですね。

【日時】 2020年8月30日(日) 9:00~18:30
【会場】 東桜会館(最寄駅:新栄町駅)
【形式】 NCS公式戦 スイス式4R (30m+30s/m)
【参加費】 5000円 (18歳未満4000円、郵便振り込みによる早期割引あり)
【締め切り】 2020年8月28日(金)

日本全国どこの大会もそうですが、無事に開催されることを願っています。上記以外の大会詳細は、以下のリンクをご確認ください。見学禁止など、従来の大会とは異なる規定も記されています。

東海オープン 2020

2020/07/02

First Saturday revives!


初めて単身ハンガリーに渡ったのは、8年前の5月でした。

7月に入り、いよいよ各国の大会も本格的に再開の流れになってきています。そんな中で私が注目しているのは、これまで何度も参加してきたハンガリーの首都、ブダペストで開催されるFirst Saturday Tournament です。こちらは名前の通り、毎月第一土曜から開催される、世界で最も有名なノームトーナメントです。そのFirst Saturday も3月の開催を最後に、4月から6月まではコロナの影響で休止せざるをえませんでした。

First Saturday オーガナイザーのLoszlo 氏からの連絡と、Chess Results での発表を併せてチェックする限り、7月はGM セクション無し、IM セクションとFM セクションで大会が再開されます。IM セクションはすでにエントリーが確認でき、私もこれまで何度も対戦しているベトナムのIM Nguyen Van Thanh や、イングランドのFM Lyell Mark、そして地元ハンガリーのIM Szeberenyi Adam らの名前が確認できます。

First Saturday IM July 2020 Entry List  

現在の状況では、小規模なノームトーナメントはオープントーナメントよりも開催しやすそうに思えます。しかし、海外籍のプレーヤーが一定数参加しなければ成立しないため、ノームトーナメントの開催も簡単ではないでしょう。ブダペストに長期滞在しているNguyen Van Thanh やLyell の協力によって、7月からのIM トーナメント復活が成し遂げられたと考えられます。ハンガリーのニュースもチェックしていますが、近隣諸国との国際列車も6月末から7月頭に、ようやく再開されてきたとのことです。空の便も併せ、無事に交通網が復旧してくれば、8月からはGM セクション再開の目処も立つでしょう。

すでに6月半ばにPaul Benko Memorial で対面式のトーナメントを復活させたハンガリーが、このままノームトーナメントも再開できるのか、多くのチェス関係者が見守っていることと思います。今週末の4日(土) から開始される予定のFirst Saturday、無事に開催されることを祈りながら経過をチェックしていこうと思います。

2020/07/01

第22回七盤初心者のためのチェスレッスン


White to move

6月から再開したいっぷくのチェスレッスンは、7月も開催させていただけることになりました。引き続き、いっぷくの店舗での受講形式と、ご自宅からのオンラインでの受講形式とどちらも選択可能です。ご都合に合わせて、ご予約フォームからお申し込みください。

【日時】 2020年7月12日(日) 18:30~20:30
【会場】 どうぶつしょうぎcafe いっぷく
【形式】 レクチャー+質疑応答+対局
【テーマ】 空間の確保
【参加費】 2500円
【申し込み】 どうぶつしょうぎcafe いっぷく ご予約フォーム

Croatian Chess Championship 2020 Vol.3


12人のラウンドロビンで開催されていたクロアチア選手権は、昨日最終戦を消化し、全日程が終了となりました。前回の記事ではトップの逆転が続いていることをお伝えしましたが、先に訂正とお詫びを。9R 終了時点でトップだったのは、GM Brkic Ante であり、Saric Ante ではありませんでした。失礼しました。

11戦を終え、優勝は7/11 でGM Martinovic でした。2位以下は6.5P がなんと4人、Kozul, Zelcic, Stevic, Brkic と並んでいます。Martinovic はなんと8R 終了時点ではイーブンの4/8 で6位、トップとは1.5P差でした。それが最後3連勝で上位5人を一気に抜き、単独トップに躍り出たのです。まさに劇的と言える逆転優勝です。日本のトーナメントでも、最後まで優勝の行方が分からないと言われることがありますが、それでも例年、全日本終盤は2人くらいで優勝争いをしており、このクロアチア選手権ほど最後まで分からないということはない印象です。レベルの高さだけでなく、そういった点でも、実に見ごたえのある大会でした。

Martinovic, S (GM, CRO, 2532) - Jovanic, O (GM, CRO, 2524)
Croatian Chess Championship 2020 (11)

1. d4 d5 2. c4 c6 3. Nc3 Nf6 4. e3 a6 5. Nf3 b5 6. b3 Bg4 7. a4!?



8,9R を連勝し、勢いのあったMartinovic は、最終戦でJovanic のa6 Slav に対して少し珍しい変化を採用します。この7手目は7. h3 Bxf3 8. Qxf3 e5!? 9. dxe5 Bb4! という変化が1つ有名で、私もかつて1試合だけ指したことがあります。他にも7. Be2 e6 8. 0-0 Nbd7 9. Bb2 という変化も手堅いでしょう。7. a4 は統計的には5番手にも入っていない珍しい手ですが、近年少しずつ増えているようです。クイーンサイドを崩すアクションを早めに起こし、ポーンストラクチャーを決めておこうというアイディアですね。

7... b4 8. Ne2 Bxf3 9. gxf3 Nbd7 10. Bg2 a5


将来的に弱点になりうるb4 ポーンをサポートするため、このaポーンの突き直しは遅かれ早かれ必要になるでしょう。このa5,b4 のポーンストラクチャーはSlav やQGA では特徴的ですが、中盤以降この形がポイントになります。

11. e4 e6 12. Be3 g6 13. Rc1 Bg7 14. h4 h5 15. Qd2 Qb8 16. O-O O-O



見慣れない人もいるかと思いますが、白黒慎重にピースを組み、このような配置でキャスリングを済ませました。黒は白のeポーンの伸び方を見ながら、d4 に当てられるように手数をかけても黒マスビショップをフィアンケットしています。これはある意味自然なのですが、将来的にcファイルを白が開いてアクションを起こした際、黒マスビショップがa3-f8 のダイアゴナルを離れたことでc5 のマスに利きが少ないと、白がこのマスを利用するチャンスが少し気になります。

17. Bf4 Qd8 18. Bg5 Qb8 19. Bf4 Qd8 20. Bg5 Qb8 21. cxd5!


21. Bf4 で3回同一局面の成立でしたが、0.5P差でトップを走るBrkic を逆転するためには勝ちを狙います。そしてこの辺りではすでにBrkic がKozul 相手にかなり悪いポジションになっており、逆転優勝の気配が漂っていました。

21... cxd5 22. Rc6 Rc8 23. Qc2 Nb6 24. Rc1 Qa7 25. Qd3



白は開いたcファイルを突破口にしていますが、黒はディフェンスに少し手間取っているように見えます。黒のクイーンサイドは白マス、黒マスともにビショップの利きが無く、b5,c5.c6 など多くのマスが弱くなっています。それらの場所に白ピースの侵入を許せば、b4 のサポートに向かったa5 がターゲットになります。

25... Rxc6 26. Rxc6 Rc8 27. Qb5 Rxc6 28. Qxc6


ルークを2つ捌いて多少の窮屈さを解消しても、白のクイーンは好位置で、追い返す術がありません。さらにはルークを捌いたことで、白に新たなピースの使い道と、a5 を狙う手段が生まれます。

28... Nbd7 29. e5! Nh7 30. Bd8!



この黒マスビショップの侵入は大きかったと思います。e4-e5 のセンターを閉じるタイミングは、一歩間違えればd4 の根元のポーンにナイトでの反撃を食らいかねません。ここではc6 のマスなども抑えており、白がa5 を狙うのが十分に早いと見て勝負です。

30... Nb8 31. Qb5 Bf8 32. Bxa5


a5 の落ちた黒に取って厳しいのは、b4 の伸びすぎポーンも守るのが難しい負担になってしまうことです。ポーンをb4 に誘い込み、a5 のポーンやb5 のマスを弱点にするという7.a4!? の構想が、ここにきて完全にはまっていると言えるでしょう。

32... Na6 33. f4 Be7 34. Bf1 Nf8 35. Qb6 Qxb6 36. Bxb6



クイーンを交換し、白はどのようにb4 を落とすか、またはaポーンを進めるかという段階に入ります。もっとピースが残ってごちゃごちゃした局面ならいざ知らず、いまさらh4 を取られても黒のパスポーンは脅威にならないと判断できるところも面白いですね。

36... Nd7 37. Ba5 Nab8 38. Bc7 Na6 39. Bd6 Bd8 40. Nc1!


当然の構想ですが、Ne2-Nc1-Nd3 の組み換えによってb4 を狙いつつ、Bf1-Bg2-Bf1 と初期位置に戻った白マスビショップをクイーンサイドの利かせ、最後の仕上げへと向かいます。

40... Ndb8 41. Bb5 Bb6 42. Nd3 Ba5 43. Kf1 Kg7 44. Ke2 Kg8 45. Ke3 Kg7 46. Bxa6 Nxa6 47. Nc5 1-0



最後はナイトの強制交換から、2つ目のパスポーンができることが決まり、ここで決着です。1ポーンアップのうえ、ビショップ、ナイト、キングと残った全てのピースの働きの差で白は圧倒しました。私はJovanic とは2013年に対戦しており、その際は非常に手堅いチェス指すGM だという印象を受けました。そのJovanic をここまで完封するとは、派手さはさほどなくともマスターの技術が各所に現れたゲームだったと思います。

ちなみに最終戦はPalac - Zelcic のベテランのペアリングのみ短手数ドローで、他の5ボードは全て白勝ちになっています。久々のOTB で参加者の皆さん気合が入っていたか、ファイティングゲームが多く見られたのは嬉しかったですね。

おそらく日本の皆さんは2500-2600 くらいのクロアチアのGM は、あまり知らないという人も多いかと思います。今回のクロアチア選手権中も、Twitter などで見る限りはNakamura Hikaru やDIng Liren の参加するChessable のほうが関心は高かったのではないでしょうか。もちろん世界トップクラスのGM の試合は注目度が高いと思いますが、Martinovic のような20代の若いGM から、Kozul、Zelcic ら50代のベテラン勢がしのぎを削り合うクロアチアの試合も、非常に興味深いですよとお伝えしたく、3回も記事を書いてしまいました。旧ユーゴスラビアの国々のチェスについては、またどこかでご紹介できればと思います。今日ご紹介したゲームはリンクも貼っておきますので、こちらでも是非駒を動かしながら棋譜を確認してみてください。

Croatian Chess Championship 2020 Martinovic - Jovanic

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