2022/06/08

Caro-Kann Two Knights


1. e4 に再び挑戦しようと思った際、悩んだのはCaro-Kann 対策です。2010年から私の黒番でのメインレパートリーを務め、IM タイトル獲得にも大いに貢献してくれた心強いオープニングです。白番でこれを迎え撃つにあたり、黒番でどの変化が苦手だったかを見直しました。Advance Tal Variation (1. e4 c6 2. d4 d5 3. e5 Bf5 4. h4!?) も有力でしたが、最終的にはTwo Knights で行きつきました。

imsk (2557) - Keanu_Greaves (2459)
lichess Blitz

1. e4 c6 2. Nf3 d5 3. Nc3 dxe4 4. Nxe4 Nf6!?

Two Knights で近年流行しているラインで、私も黒番で指したことがあります。メインラインでは1. e4 c6 2. d4 d5 3. Nc3 dxe4 4. Nxe4 Nf6!? 5. Nxf6+ exf6 がよく指されており、このダブルポーンは黒にとって大きな問題にならないと近年は考えられています。それをTwo Knights にも応用しており、ナイト交換の際に生まれるf6 のポーンがNf3-Ne5 を防ぎ、Nf3 の位置に対抗しやすいというアイディアです。

5. Qe2!


ナイトの交換を許しても、f6 にポーンは置かせません。

5... Nxe4 6. Qxe4 Nd7 7. d4!?

7. Bc4 Nf6 8. Ne5 e6 9. Qe2 b5 がポピュラーなラインですが、それを避けてd4 にポーンを置く、スタンダードなCaro-Kann の試合展開を目指します。

7... Nf6 8. Qf4 g6 9. Bc4


本譜の流れでも悪くないのですが、9. Bd3!?Bc8-Bf5 の展開を防ぎ、黒に白マスビショップのマスを与えない選択として、次回試してみたいと思っています。

9... Bg7 10. O-O O-O 11. Re1 Nd5 12. Qh4 Bf5

白のeポーンと黒のdポーンを交換し、黒がキングサイドにフィアンケットするのは、Alekhine Defence、Scandinavian などでも一部のラインで見ることができます。白のプランはシンプルで、開いたeファイルを抑え、e5 のマスのコントロールやe7 へのプレッシャーを武器に戦います。

13. c3 e6 14. Bg5 f6 15. Bd2 g5 16. Qg3 h5?!


ここでクイーンを追う必要はなく、かえって黒は自陣を弱めてしまいます。代わりに16... Qb8 くらいでクイーン交換を目指せば手堅いポジションです。

17. h4 g4 18. Nh2 Qe8 19. Nf1 Qg6 20. Ne3 Nxe3 21. Bxe3

2つ目のナイトを交換できたのはありがたく、白はBc1-Bg5 からfポーン突きを誘い、結果として弱くなったe6 を攻めやすくなっています。

21... Rfe8 22. Bf4 Be4 23. Re3 f5?!


黒のアイディアはe4 でがっちりブロックをしてe6 を守ることだと思いますが、このポーン突きはe5,g5 といった黒マスを弱めることにもつながります。また白が勝負に出るアイディアを軽視している可能性もあります。

24. Rae1 b5 25. Bb3 a5 26. a3

私は慎重を期しましたが、大胆に行くならばこのあたりでエクスチェンジを捨てても良かったでしょう。26. Rxe4! fxe4 27. Bc2! と進んだ場合、白はe4 でポーンを回収した後に、c6,h5 といった白マスの弱いポーン、さらには黒キングへの直接的な攻撃のチャンスで十分に代償がありそうです。

26... a4 27. Ba2 Kh7?


上記のエクスチェンジサクリファイスのチャンスを消すのであれば、27... Bd5 が唯一の手でした。しかし、白マスビショップを交換しても黒のポーンストラクチャーには弱点が多く、白を持ちたいポジションです。

28. Rxe4! fxe4 29. Bb1 Kh8 30. Bxe4 Qf7 31. Bxc6 1-0

私が仕掛けたエクスチェンジサクリファイスのタイミングだと、c6 とエクスチェンジまで取り返せることが確定しているので、2ポーンアップで白の勝勢です。シンプルかつ効率的にゲームを進められたと思う反面、チャンスを逃さないようにもう一歩早く仕掛けても良かったかと思います。いずれにせよ、勉強になるゲームでした。

2022/06/07

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第8回予告

6月のOPENRECでの講座案内です。6月は今週末の日曜日、6/12 20時からスタートです。

今月は『マスをめぐる攻防』 をテーマに講座をお届けします。チェス盤上には64個のマスが存在し、そのマスを白黒どちらが、どんなピースで抑えるかが勝負のカギとなります。シンプルなマスのコントロールの説明から重要なマスの見極め方、それをどう利用して手を作っていくのかなどを2時間弱かけて解説していく予定です。今月も多くの視聴とコメントをお待ちしております。

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第8回『マスをめぐる攻防』 | 2022.06.12 (OPENREC)
プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 #8「マスをめぐる攻防」【サブ配信】(Youtube)

2022/06/05

Ruy Lopez Open Variation


6月は公式戦の予定が今のところないため、オンラインで指したゲームをまた少しずつ紹介していこうと思います。今夜は色々と試している中で最近手ごたえのある、Ruy Lopez の一変化です。

Puntano (2575) - imsk (2550)
lichess Blitz

1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bb5 a6 4. Ba4 Nf6 5. O-O Nxe4!?

オリンピアードに向けた準備として、Ruy Lopez Open Variaiton を少しずつ今年の頭から試しています。1995年のKasparov - Anand などで白が勝った鮮烈なゲームのイメージからか、日本のトップクラスにはさほど人気のない変化ですが、非対称なポーンストラクチャーとダイナミックなプレーのチャンスは、黒で大いにチャレンジする価値があると思っています。

6. d4 b5 7. Bb3 d5 8. dxe5 Be6 9. c3 Be7 10. Nbd2 O-O 11. Bc2 f5 12. Nb3 Qd7 13. a4!?


Ruy Lopez においては典型的な手ですが、このタイミングでは少し珍しいでしょう。13. Nfd4 とすぐ跳んでナイト交換を目指すのが一般的です。

13... b4 14. Nbd4 Nxd4 15. cxd4 f4!?

f4 まで伸びたポーンはターゲットにもなりうるものですが、c1 ビショップの利きを止めつつ、f4-f3 とさらなる押し込みからキングサイドアタックも作り出すチャンスがあります。

16. a5 Rad8 17. Ba4 Qc8 18. Nd2 c5!


白はf3 にナイトを残したままだとBe6-Bg4 が多少気がかりですが、d4 のマスから利きを離せばこのカウンタープレーを食らいます。黒はdポーンを孤立にしようと、a7-g1 ダイアゴナルを抑えて白キングへのアタックチャンスを作りにいきます。

19. dxc5 Bxc5 20. Bb3 Kh8 21. Nf3 Bg4 22. Bxd5 Ng5 23. Qb3 Rxd5!

これは白にとっては手痛い一発で、どちらのピースを取っても嫌な展開が待ち構えています。

24. Nxg5


白はルークではなく、本譜のようにナイトを取るしかありません。24. Qxd5 Bxf3 25. gxf3 Qh3!-+ から白はディフェンスがないというのが、私のメインの読みでした。

24... Qd7 25. e6 Bxe6 26. Nxe6 Qxe6-/+

白はポーンを返しても黒のダブルビショップを消しにいきますが、局面が落ち着けば互いの黒マスビショップの働きの差は明らかです。

27. Qf3 h6


一度バックランクメイトを防ぐように端ポーンを突いておきましたが、27... Qd7 のような手からb2-b3 を牽制しておいても良かったでしょう。

28. b3 Qf5 29. Bb2 Rd3 30. Qc6 Kh7 31. Rac1 Ba7?

これは少し弱気な手でした。d3 にルークを入れて3段目をコントロールしたのであれば、31... f3! とポーンを強気に押し込むべきです。

32. Qb7 Rf7 33. Rc7 Rdd7 34. Rxd7 Rxd7 35. Qc6 Rd2 36. Bc1 Re2?


ここもルークを逃がすのであれば、36... Rc2! がクイーンに当たるテンポを得て良いマスでした。この辺りはブリッツの荒さが出ています。

37. Qf3 Qc2 38. Bxf4??

ここは期待していた一発ブランダーで決着がついてしまいました。38. h4! Rxf2 39. Rxf2 Qxc1+ 40. Kh2 Bxf2 41. Qxf2 と進んだ場合、黒は1ポーンアップながらキングの守りが薄く、パペチュアルチェックを防ぎながらパスポーンを作って局面を進展させることは、なかなか難しそうです。

38... Rxf2! 39. Qxf2 Bxf2+ 40. Rxf2 Qxb3-+


クイーンを取ってしまえばあとは時間の問題です。

41. g3 Qd1+ 42. Kg2 b3 43. h4 Qd5+ 44. Kh2 Qxa5 45. Be3 Qb4 0-1

最後は白の時間が落ちましたが、局面も厳しいでしょう。自分がRuy Lopez Open Variaiton を指すとは以前は想像もしていませんでしたが、こうして実際に試してみると今まで分からなかった変化の面白さが見えてくるものです。もう少しオンラインで指しながら、細かなラインの感触を確かめていこうと思います。

2022/06/01

Japan National Chess Team for Chennai Olympiad


6月に入り、7月末開催のチェスオリンピアードまで2か月を切りました。日本の代表チームは5月末にNCSのサイトで公開されていましたが、私も6月更新のFIDEレイティングを待ち、本日こちらのブログでもお伝えしようと思います。5月の全日本選手権の結果、およびレイティングでの選考を経て、日本のオープン、女子チームのメンバーは以下のように確定しています。

Open Team

Tran Thanh Tu (CM, JPN, 2375)
Kojima Shinya (IM, JPN, 2346)
Kobayashi Atsuhiko (JPN, 2156)
Averbukh Alex (CM, JPN, 2155)
Bibby Simon (FM, JPN, 2147)

Women's Team

Kojima Natsumi (WCM, JPN, 1782)
Sakai Azumi (WCM, JPN, 1759)
Misawa Yuki (JPN, 1587)
Arai Yuki (JPN, 1495)
Mitsuyama Rikka (JPN, 1157)

メンバーはレイティング順に並べましたが、オリンピアードでのボード順を示すものではありません。ボード順についてはもう少し開催が迫ってきた頃に発表したいと思います。オリンピアード日本代表の公式発表や、オリンピアードについての詳細はNCSのサイトをご参照ください。

確定した代表メンバーはトレーニングや渡航の準備を始めており、本格的にオリンピアードに向けて始動といった雰囲気です。私も4年ぶりに参加するチェスオリンピアードを楽しみにしており、私個人だけでなく、チームとしても応援をいただけると嬉しいです。チェンナイでのオリンピアードは、7月28日開幕です!
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