1日遅れましたが、チーム選手権2日目のレポートです。私たちTabiya Chess Club のチームは最終戦でトップボードまで上がり、5連勝中だった8x8 Blunders との直接対決に挑みましたが、2.5-1.5 の僅差で敗れ、最終順位は7位に終わりました。8x8 Blunders は24試合して1敗しかしない強さを誇り、チームマッチは6連勝で完全優勝を決めました。優勝チームには一歩及ばなかったものの、入賞を果たしたOsaka Club Senior と、Aichi Champions のメンバーの皆さんもおめでとうございます!
Japan Team Chess Championship 2022 Final Standings
私は4R でTuさんに敗れたものの、残り試合を全て勝って個人では5勝1敗でした。ゲームは僅差の勝ちも多かったですが、内容にはある程度満足しています。最終戦で久々の日本公式戦復帰を果たした南條くんと対戦できましたので、そちらを今夜はご紹介します。
Kojima, S - Nanjo, R
Japan Team Chess Championship 2022 (6)
1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bc4 Nf6 4. d3 Bc5 5. O-O O-O 6. h3 h6 7. Nbd2 d6 8. c3 a6 9. Bb3 Be6 10. Bc2 Ba7
オープニングは全日本選手権で東野さんと指したItalian Old Line (白がa2-a4 とせず、Bc4-Bb3 と退くライン) になりました。黒の10手目はビショップが退く手がポピュラーですがd6-d5, Rf8-Re8, Bc5-Bf8 と組み替えるアイディアも面白く、あえてビショップをc5 に残しておくてもありえるかもしれません。 Japan Team Chess Championship 2022 (6)
11. Re1 Ne7?!
私の経験上、e6 に配置したビショップと、Nc6-Ne7-Ng6 のアイディアはマッチしません。Bc8-Be6 と組み合わせるのであれば、東野さんが指したようにd6-d5 のセンターブレイクを使うべきだと思います。ナイトの組み替えとビショップをe6 に上げるアイディアが良くない組み合わせるである理由はすぐに分かります。
12. Nf1 Ng6 13. Ng3 Qd7 14. d4 Rad8 15. Be3
白はd3-d4 とポーンを突きなおし、d4-d5 とさらに押し込んだ際にe6 のビショップを攻撃するスレットを作れるようにします。白のセンターポーンの突き直しが早く、e6 のビショップがターゲットになりやすいのが黒のセットアップの弱点です。しかし、白もh3 へのサクリファイスを見越して、d4-d5 のタイミングは慎重に見極めなければいけません。15. d5? Bxh3! 16. gxh3 Qxh3 と進んだ場合、a7 のビショップの利きを通してしまっているため、次のQxg3 がスレットになっているのが困ります。本譜ではe3 に先にビショップを置くことで、d4-d5 と今度こそスレットにしています。15... Qc8 16. Qd2 d5?
黒はd4-d5 を受けるためにクイーンを少し妙な位置に下げるしかなく、そのうえで今度は白のBe3-Bxh6 のスレットに備えなければいけません。私はキングがh7 に上がるしかないと思っていましたが、これもc2 にいるビショップのダイアゴナルに入る位置であるため、指しづらいのも理解できます。16... Kh7 17. a4+/- それでも黒はこれで耐えるしかなく、本譜はすぐに駒損になってしまいます。
17. Nxe5
d6-d5 のポーンブレイクは、私も黒番で準備が万端なら仕掛けたいですが、ここではe5 のポーンの守りが薄くなるのが難点です。白はこれを利用してポーンアップしますが、もう1つキングに強襲を仕掛けるのも良いアイディアでした。17. Bxh6! dxe4 18. Bxe4! Nxe4 19. Rxe4 Bd5 20. Bxg7!+- g7 まで取り込むアイディアは、先日のトレーニングで平尾くんに負けたこともあり、実戦的なアイディアとして知っていました。しかし、その前の分岐が細かいため、チーム戦で難解なピースサクリファイスをするよりも、堅実なポーンアップを選ぶべきとこの時は判断しました。
17... Nxe5 18. dxe5 Nxe4 19. Nxe4 dxe4 20. Qe2 Bxe3 21. Qxe3 Bf5 22. Bxe4 Bxe4 23. Qxe4+/-
ここまでほぼ一本道で、白はe4 を回収してポーンアップになります。しかし、このエンドゲームを勝ち切るのは一苦労です。23... Rd2 24. Re2 Rfd8 25. Rae1 c6 26. Rxd2
すぐにヘビーピースを捌くのではなく、26. f4 として様子を見るのもありえました。
26... Rxd2 27. Re2 Qd7 28. Kh2 Qd3 29. Qxd3 Rxd3
クイーンを交換し、ルークエンディングになりました。黒キングが上がるのはかなり早く、ここからどう局面を進展させるのか、あまり自信が持てませんでした。30. f4?!
f2 のポーンをターゲットにされることなくe5 を支え、g7-g5 も防げればよいかと思いましたが、f4 のマスにキングを運べなくなることを失念していました。30. f3! Kf8 31. h4 Ke7 32. h5 Ke6 33. Kg3+/= こうしてゆっくりキングのポジションを改善していくというのが、コンピュータの示すアイディアです。
30... Kf8 31. Re4
本譜はルークの侵入を許すことは分かっていましたが、31. Kg1 Ke7 32. Kf2 Ke6 でも局面を進展させられないため、思い切ってbポーンを狙うプランに切り替えます。
31... Rd2 32. Rb4 b5 33. a4 Ke7 34. axb5 axb5 35. Kg3 g6 36. Kf3 h5 37. c4 bxc4 38. Rxc4 Rxb2 39. Rxc6 Ra2
クイーンサイドのポーンを全て捌き、キングサイドに4vs.3 のポーンが残るルークエンディングになりました。残っているピースがナイトであれば白は実戦的に勝負にいけることを最近学んでいましたが、ルークの場合、多くはドローになります。それでも白は負ける危険が無いのであれば、ドローで早々に終わらせる理由もなく、とことん続けることにします。またこの辺りで他のボードでの決着がつき、チームの負けが決まってしまったことも関係します。自分が勝ってもチームの負けは覆らないため、ドローにしても良さそうです。しかし逆に考えれば、ここから私がリスクをとって万が一負けたとしても、チームの結果に影響がないということでもあります。40. Rf6 Ra3+ 41. Kf2 Ra2+ 42. Kg1 Ra5 43. h4 Ra4 44. Kh2 Ra5 45. Kh3 Ra3+ 46. Kh2 Ra4 47. Kg3 Ra3+ 48. Kf2 Ra2+ 49. Kf3 Ra3+ 50. Ke2 Ra2+ 51. Kf1 Ra1+ 52. Kf2 Ra2+ 53. Kg1 Ra5 54. Rd6 Ra4 55. g3
かなり遠回りしましたが、このポーンストラクチャーにするしかないという結論に落ち着きました。ここから白が勝負をするのであれば、f4-f5 のブレイクしかありません。
55... Ra1+ 56. Kg2 Ra2+ 57. Kf3 Ra3+ 58. Kf2 Ra2+ 59. Ke3 Ra3+ 60. Rd3 Ra4 61. Kf3 Rb4 62. f5
先述の作戦を実行できました。一時的にポーンを捨てますが、ルークでf5 かh5 は回収できます。たとえマテリアルをイコールにしても、パスポーンを作って勝ちのチャンスがわずかにでもできるのであれば、試合を続けるべきです。62... gxf5 63. Rd6 f4!?
こうしてポーンを返す手は考えてなかったの驚きました。黒は最善を尽くせばどれでもドローですが、実戦的に間違えにくく、ドローに持ち込みやすい形がどれかと言われると判断に悩むところです。63... Re4 64. Rh6 Rxe5 65. Rxh5 Kf6= として、hポーンをキングで抑える形もドローは分かりやすいかもしれません。
64. gxf4 Rb3+ 65. Ke4 Rh3 66. Rh6 Rxh4 67. Kf5 Rh1 68. Rh7 Re1 69. Rxh5
7段目のピンを利用することでe5-e6 を見せ、再度ポーンアップ状態に戻ることができました。しかし、ここまできても普通に最後のポーンを捌けばフィリドールポジションになるだけなので、白は黒キングをなんとかポーン近辺から追い出し、ルセナポジションに持ち込むアイディアを探さなければいけません。69... Rg1 70. Rh8 Ra1 71. Rh6 Ra2 72. Rd6 Ra1 73. Rb6 Ra4 74. Kg5 Ra5 75. Kh6 Ra1 76. Rb7+ Ke8 77. f5
勝負するためにはどこかで突かなければいけないポーンですが、一度進むと戻れないというポーンの性質上、かなり慎重になりました。77. Kg7 Rg1+ 78. Kf6 Rg6+ 79. Kf5 Rg1= でも進展がないことを読み、fポーン突きを実行しました。
77... Rg1 78. Rb6 Rg2 79. Kh5 Re2??
膨大な実戦経験と知識を持つ南條くんらしからぬ1つのミスで、長かったイコールの形勢が大きく傾きました。f4-f5 の気がかりな点はe5 の守りが無くなることなのですが、黒ルークはこれをアタックすることよりも、キングをカットオフしてfポーンに近づかせないことに徹するべきでした。79... Rg1 ならば白は勝つプランがありません。80. Kg5! Rxe5 81. Kf6+-
この形は少し前でイメージしていましたが、こうして実際に局面に現れると白はここまで粘った甲斐があったと感無量です。白はe5-e6 のようにポーンを単にぶつけて捌いた際と違い、理想的に白キングを寄せたうえで、黒キングを遠ざけてポーンを取ることができます。
81... Ra5 82. Rb8+ Kd7 83. Rf8 Ra1
本譜は黒キングをeファイルに寄せさせることなくポーンが回収できるため、白として勝ちが楽になったと感じました。実際にはf5 へのアタックを残していても、83... Rb5 84. Rxf7+ Ke8 85. Kg7 Rc5 86. Rf8+ Kd7 87. f6+- として勝勢であることに変わりありませんでした。84. Kxf7 Ra5 85. f6 Rf5 86. Ra8 Rf1 87. Ra2
後はルークを退き、スタンダードなルセナポジションのアイディアを使うだけです。
87... Kd6 88. Rd2+ Kc7
こうして一度チェックをして黒キングを1ファイル離すのが最初のポイントです。88... Ke5 89. Ke7 Rxf6 90. Re2+ Kf5 91. Rf2++- ならばルークを取って白の勝ちです。89. Ke7 Re1+ 90. Kf8 Rf1 91. f7 Kc6 92. Rd8 Kc7 93. Rd4!
こうして4段目にルークを配置するのが、ルセナポジションで勝つために重要なアイディアで、Building a Bridge(橋を架ける) と呼ばれます。このルークは5段目だと黒キングにすぐ狙われて追いやられ、3段目だと自分のキングから遠すぎるため、4段目である必要があります。
93... Rf2 94. Kg7 Rg2+ 95. Kf6 Rf2+ 96. Kg6 Rg2+ 97. Kf5 Rf2+ 98. Rf4 1-0
こうしてルークの後ろからのチェックをカットしてしまうのが、4段目のルークの役割です。こうして長いゲームを制したことで、マッチで敗れたものの、優勝した8x8 Blunders に一矢報いることができました。今回、160名を超える参加者が集まった日本最大級の大会を運営してくださったスタッフの皆さんには、心からお礼を申し上げます。今回、初の大会参加となったプレーヤーたちも、また違う大会で会える機会を楽しみにしてます。
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