この4カ月、ハンガリーでも最も厳しかったトーナメントが終わりました。8、9R の結果とゲームをまとめてお伝えします。
8R の相手は1勝5敗2ドローと沈んでいるハンガリー人が相手です。途中楽に勝てそうなポジションになりましたが、まさかのハンガリー最長ゲームになりました...
Teglas, B (HUN, 2245) - Kojima, S (FM, JPN, 2282)
Ⅲ. Sarkany - Aranytiz International Master Tournament IM (8)
1. d4 d5 2. Bf4 Nf6 3. e3 c5 4. c3 Nc6 5. Nd2 cxd4 6. exd4 Bg4 7. Qb3 Qc8 8. Ngf3 e6
軽くイメージしていた通りのポジションになりました。
9.Bd3 ならばCaro-Kann Exchange のメインラインになります。
9. Ne5 Nxe5 10. dxe5 Nd7 11. c4 d4!
11.c4 を指されて少し焦りましたが、冷静に対処できたと思います。d4 のポーンはパスポーンとしての強さが発揮されるか、単独で進み過ぎたポーンとしての弱さが出るか、まだはっきりとは分かりません。しかし、白の白マスビショップが展開されたり、cファイルを開かれてはたまらないので、黒としてはここはポーンを突き越す一手です。
12. Bd3 Nc5 13. Qb5+?!
私は
13. Qc2 をメインに考えていました。c8 のクイーンを改善でき、クイーン交換に持ち込めるのは黒にとって、願ったりかなったりです。
13... Qc6 14. Be2 Qxb5 15. cxb5 Bxe2 16. Kxe2 O-O-O
白はc4 のマスを空けましたが、代わりにd5 のコントロールを失います。
Rd8-Rd5 からのe5、b5 のアタックには目を向けておく必要があるでしょう。
17. Rac1 Kb8 18. Rhd1 Be7 19. Nc4?!
19. Nf3 d3+ 20. Ke3 ならばイコールか、e5、b5 を突きすぎているために少し黒が指しやすいと思っていました。
19... Rd5!
おそらく彼はこのアイディアを見落としていたか、過小評価していたのでしょう。先に5段目にルークが上がれば、Nd4-Nd6 からd4 のポーンが脅かされることもありません。
20. b6 a6 21. Kf3 g5!
私はこういったポーン突きがあまり得意ではありませんが、ここは自信を持って指せました。f2-f4 を抑えることでe5 のポーンを弱め、さらには上がってきたキングを牽制します。
22. Bd2?!
正直、彼が何を思ってこう指したのか、さっぱり分かりません。
22. Bg3 h5 23. h3 が自然な流れでしょう。
22... Nd3 23. Rc2 Rc8!?
大人しくe5 のポーンを貰っておいても良かったのですが、少しアイディアをひねりました。ただ、
23... Nxe5+ 24. Nxe5 Rxe5-/+ のほうがシンプルだったと、後に考えることになります。
24. Bxg5 Rxc4!
もちろんこれが、23...Rc8 の狙いです。
25. Rxc4 Nxe5+ 26. Ke2 Nxc4 27. Bxe7 Nxb2 28. Rc1 Na4
これで2ポーンアップになり、パスポーンもあるので楽に勝てるだろうと思っていました。ここまでを読んでの、23...Rc8 (23...Nxe5 を切り捨ててという意味で)でしたが、思いがけずd4 のポーンをアタックされ、ここからおかしな展開にしてしまいます。
29. Kd3 e5?
これでが非常に妙な手で、黒はもっとシンプルにことを進めるべきでした。
29... Nxb6! 30. Rc5! (この手が嫌で、29...Nxb6 以外を模索しました。)
30... Rd7 31. Bf6 Nd5! 32. Be5+ Ka7 33. Bxd4 b6 34. Rc4 Nf4+!-/+ これでg2 のポーンが落ち、再び2ポーンアップになるところまでは読めませんでした。
30. f4?!
30. Ke4! Nxb6 31. Bf6+/= ならば、白がやや優勢という恐ろしい評価をコンピュータは降します!確かにe5、d4 がポロポロと落ち、キングの位置も白がベターです...
30... exf4 31. Bf6 Nxb6 32. Bxd4 Nd7 33. Ke4 Ra5
ここから勝つための奮闘が始まります。黒は2ポーンアップとは言え、ダブルポーンが一組あり、キングの位置も悪いので勝つのは容易ではありません。(油断して白キングに侵入されれば、劣勢になる危険性すらあります。)
34. Rc2 Ra4 35. Rd2 Nc5+ 36. Kf5 Ne6 37. Be5+ Kc8 38. Kf6 Re4 39. Bd6 Rc4 40. h4
40. Kxf7 Ng5+ 41. Ke7 Ne4 42. Rb2 Nxd6 43. Kxd6 b5=/+ ならば言うまでもなく、黒にのみチャンスがある展開です。
40... Nc5!?
持ち時間の増える40手目、残り時間1分まで考えてこの手を指し、席を離れました。上記のように、ナイトがe4 へ行くルートはg5だけではありません。これで厄介なビショップを交換し、わずかにチャンスのあるルークエンディングへと突入します。
41. Bxc5 Rxc5 42. Rd4?!
42. Rf2 b5 43. Kxf7 a5 44. Rxf4 のほうが、白がドローにするチャンスが大きいのは明らかです。
42... Rc2 43. a4 Rxg2 44. Rxf4 h5!?
私はこれが勝つための重要な一手だと思ったのですが、コンピュータの評価は違いました。
44... Kc7! 45. h5 b5 46. axb5 axb5 47. Kxf7 Rg5-+ で黒勝ちです。よく分かりません(笑)
45. Kxf7
45. Rf5 Rg4 46. Rxh5 Rxa4 47. Rh8+ Kc7 48. h5 Rh4 49. h6 b5 50. Kg7 b4 51. Re8 a5 52. Ra8 Kb6 53. h7 Kb5-+ 2コネクテッドパスポーン対ルークの形勢判断は非常に難しいですが、これならば黒が勝てそうです。私のエンジンも最初はイコールですが、途中で黒勝ちに傾きます。
45... Kc7 46. Rc4+ Kb6 47. Ke6 Rg4!
44...h5 の狙いは、もちろんこのルーク交換です。先にクイーンができ、aポーンが取れるクイーンエンディングは、間違いなく黒に勝ちのチャンスがあります。(45...Kc7 と上がったのは、クイーンを作られた際のチェックを外すため。)
48. Rxg4 hxg4 49. h5 g3 50. h6 g2 51. h7 g1=Q 52. h8=Q Qg4+ 53. Kd6 Qxa4?
ところが、クイーンができて楽に勝てるかと思い、少し白のカウンターを軽視してしまいました。
53... Qb4+ 54. Kd5 Qxa4-+ ならば、黒の勝ちは揺るぎありません。試合中、白キングにa1目指して下がられるほうが、パスポーンを進める際に厄介だと思っていましたが、それはパスポーンが1つの場合の話です。a、bファイルにコネクテッドパスポーンがあるクイーンエンディングでは、相手にキングに寄られてもなにも問題ありません。
54. Qb2+! Ka5 55. Qe5+ b5 56. Kc6!
私が予想していたのと逆の方向に白キングが進み始めました!確かにこのように潜りこむほうが、白キングは脅かされにくく、黒もパペチュアルチェックを防ぎながら、パスポーンを進めるのが簡単ではなくなります。
56... Qc4+ 57. Kb7 Qf7+ 58. Kc6 Qg6+ 59. Kb7 Qb6+ 60. Kc8 Qc6+ 61. Kd8?
キングがセンターに戻ってくれるのは、黒にとって好都合です。初志貫徹、
61. Kb8 とさらに潜り込むべきでしょう。これで黒が勝てるのか、よく分からなくなってきます。
61... Kb6!
キングがb7 まで戻れば、白からのチェックをうまくかわしながら、パスポーンを進めることができます。後は手数は掛かりますが、単調な作業です。
62. Qd4+ Kb7 63. Qb4 a5 64. Qe7+ Ka6 65. Qe5 b4 66. Ke7 Kb7 67. Qb2 Qc5+ 68. Kd7 Qd5+ 69. Ke7 b3 70. Ke8 a4 71. Ke7 Kb6 72. Qf6+ Ka5 73. Qc3+ Kb5 74. Qh8 Kb4 75. Qb8+ Ka3 76. Qg3 Qe4+ 77. Kd6 Ka2 78. Qf2+ b2 79. Qd2 Kb3 80. Qd1+ Ka3 0-1
3時間ぐらいで終わると思ったゲームが、結局6時間オーバーでした。やはり勝勢の時こそ、丁寧に勝ちの筋を考えなければいけません。続いて最終ラウンド。
帰りが遅くなったことで、久々に夜景を見られたことだけがラッキーでした。
Kojima, S (FM, JPN, 2282) - Berszes, C (IM, HUN, 2378)
Ⅲ. Sarkany - Aranytiz International Master Tournament IM (9)
1. Nf3 d6 2. d4 Nd7 3. e4 e5 4. Bc4 c6 5. O-O Be7 6. dxe5 dxe5 7. Ng5 1/2-1/2
初日にジンジャエールをぶっかけたBerszes とは、開始40分で早々にドロー。IM クラスは最終ラウンド、5試合中4試合が短手数ドローでした。Galyas がLyell にドローにしたのは、個人的に少し驚きです。
最終的な今大会の戦績は4勝2敗3ドロー。Feher Adam に負けたことでノームを逃しましたが(ちなみに、彼は無事にノームを獲得しました。おめでとう!)、それでもレイティングは+20近くで、2300台に復帰することが確定しています。平均レイティング2300台という厳しい当たりのラウンドロビントーナメントで、2つ勝ち越すことができたことは(しかも黒が多くて!)、今後IM ノームを目指すうえでも、オリンピアードに臨むうえでも、多少の自信になりそうです。こう書いておいて、すぐに2200台に転落するのは情けないので、オリンピアードもその後のトーナメントでも、また好調を維持しレイティングを伸ばし続けられたらと思います。
とりあえずは、オリンピアード前のハンガリーでのIM トーナメント8つは、これですべて終了です。目標のIM ノームには到達していませんが、あと何か一つきっかけが掴めれば、という感覚はあります。明後日から始まるイスタンブールオリンピアードも含め、引き続き温かい目で見守っていただければ幸いです。それでは日本代表の皆さん(他の国の友人たちも!)明日の夕方、イスタンブールでお会いしましょう!