chessbase.com より
昨晩、World Cup の4回戦で、ハンガリーのPolgar が、キューバのDomiguez をタイブレークで破り、5回戦へと駒を進めました。
Polgar は3回戦でも、リスト1、優勝候補のSergey Karjakin を破っており、女子プレーヤーとしては大変な快挙だと言えます。
女子世界ランキング2位のHou Yifan が1回戦で敗れたことからも、Polgar が他の女子プレーヤーとは格が違うことが分かります。
それでは一昨日、世界中を沸かせたPolgar のファイティングを振り返ってみましょう。
Dominguez Perez, Leinier (2719) - Polgar, Judit (2699)
FIDE World Cup 2011
1. e4 c5 2. Nf3 Nc6 3. d4 cxd4 4. Nxd4 Qb6!?
Polgar は前日に白を持って敗れており、この試合は黒で勝つ他ありません。そんな彼女が選択したのは、変則のKan Variation です。あまり知られてはいませんが、彼女の得意ラインの一つです。
5. Nb3 Nf6 6. Nc3 e6 7. Bg5!?
やや珍しい手です。いくつか代表的なセットアップを挙げておきましょう。
7. Qe2 Bb4 8. Bd2 O-O 9. a3 Be7 10. O-O-O d5 11. exd5 Nxd5 12. Nxd5 exd5 13. Bc3 Be6 / Motylev, A - Polgar, J/ EU-Cup 18th/ 0-1
7. Bd3 Be7 8. Be3 Qc7 9. f4 d6 10. Qf3 a6 11. O-O O-O 12. Rae1 →/ Lutz, C - Smirin, I/ EU-ch 1st/ 1-0
7...a6 8. Qf3 Be7 9. Qg3 d6 10. O-O-O O-O 11. Kb1 Rd8 12. f4 Qc7 13. Bd3 b5 14. Qh4!?
ここまで白は非常に攻撃的なラインを選択しています。さらにここではピースを捨て、黒キングを攻めます。
14...h6 15. Bxh6 gxh6 16. Qxh6 Ne8 17. e5 f5 18. Bxf5 exf5 19. Nd5 Bf8 20. Nxc7 Bxh6 21. Nxa8 Bxf4 22. exd6 Bxd6 23. Nb6 Be6
クイーンを交換し、怪しい駒数ですが局面は落ち着きました。この2ポーン2ピースルークは、どちらのもチャンスがあるように見えます。
24. Nd5 Kf7 25. Ne3 Nf6 26. g3 Ng4 27. Nxg4 fxg4 28. Nd4 Nxd4 29. Rxd4 Bc7 30. Rf1+ Ke7 31. Re4?
私がライブを見ていて疑問に思ったのはこの局面です。Domiguez は初戦で勝っているため、ドローで5回戦進出が決まります。
ここでルークを交換しておけば、黒がh2を攻めるのは簡単ではないので、少なくとも白が負けることはないように思えます。
逆に黒はルークをキープできれば、白の弱点となっているキングサイドのポーンを狙うことができます。
31.Rxd8 Bxd8 +/=
31...Rg8 32. a4 Bd6 33. axb5 axb5 34. Rf5 b4 35. Rh5 Rg6 36. h3 gxh3 37. Rxh3 Kd7 38. Rh7+ Kc6 39. b3 Bd5 40. Re3 Bxg3 41. Ra7 Rg4 42. Ra4 Bf4 43. Re1 Bd2 44. Rd1 Bc3
ようやく黒の優勢がはっきりしてきました。g3のポーンを取った黒は、ダブルビショップの強さをいかし、次に白キングを狙います。a1-h8 のダイアゴナルを抑えることにより、白キングの動きを制限し、さらにはメイトのチャンスを作り出します。
45. Ra6+ Kb7 46. Ra5 Be4 47. Ra4 Rg2 48. Ra2 Kb6!
重要なアイディアです。黒は2ピースルークとは言え、白が守りに徹した場合、ポーンを取ることができません。
そこで最後のピース、キングの出番です!
49. Rd6+ Kb5 50. Rd1 Bf3 51. Rf1 Kc5 52. Ra7 Be4 53. Rc1 Kb6 54. Ra2 Rg3 55. Rf1 Bg7 56. Kc1 Rg2 57. Kb1 Rd2 58. Kc1 Rh2 59. Kb1 Bc3 60. Rd1 Bf3 61. Rf1 Kc5 62. Ra7 Be4 63. Rc1 Kd4
c2をアタックしつつ、キングをなるべく前に前に進めていきます。
この辺りは白から局面を改善する手がほとんどないため、黒は多少手数をかけても問題ありません。
64. Rd7+ Ke3 65. Re7 Rh6 66. Ra7 Bd2 67. Rg1 Kf2 68. Rd1 Ke2 69. Rg1 Be3!?
もちろんこれでも勝てますが、69...Rh3! (△Rxb3) 70.Ka2 Rc3! で簡単に黒勝ちです。70. Re7 Rh4 71. Rg8 Bd4 72. Ka2 Kd2 73. Rd7 Bxc2 74. Rh8!?
お互い時間が3分ほどの中で、Dominguez の仕掛けたトラップです。ルーク+ビショップvsルークは、最も50手ルールに引っ掛かりやすい駒数だと言われます。
74...Rxh8?
74...Kc1! でメイトスレットを作れば、即黒勝ちです。ルーク取りは白の望んだ展開です。
75. Rxd4+ Bd3 76. Rxb4 Kc3 77. Ra4 Rh2+ 78. Ka3 Rb2 79. Rg4 Rxb3+ 80. Ka4 Rb1
白が望んだとおり、ルーク+ビショップvsルークになりましたが、黒は白キングをすでに盤の端に追い詰めており、ビショップの位置も良いため、メイトにするのはさほど難しくないはずです。
81. Ka5 Rb5+ 82. Ka4 Rf5 83. Rg3 Rf4+?!
一番簡単な勝ちは 83...Rf1! です。
皆さんも盤で並べてみればすぐに気づけるでしょう、黒のメイトスレットは決定的なものになっています。
83...Rf1 84.Ka5 Rf6! がポイントとなる形です。
84. Ka3 Rf1 85. Rg2 Rh1 86. Rb2 Ra1+ 87. Ra2 Rb1 88. Rg2 Rb3+ 89. Ka4 Rb4+ 90. Ka3 Rb6 91. Rg4 Ra6+ 92. Ra4 Rb6 93. Rg4 Rb7!
ここでは一手待つのが、またうまい手です。白はルークを四段目でキープするしかありません。
94. Rh4 Rb1! 95. Rh2 Rb6?!
ここでPolgar が95...Bf1! を逃したことが、Chessbomb のチャットで話題になっていました。「このレベルのGMならば、ルーク+ビショップvsルークを勉強しているのは当然であり、
Polgar が95...Bf1 を指さなかったことは驚きだ」とのコメントが、私には印象的でした。
しかし外野はコンピュータを使いながら、いくらでも好きに意見を述べることができます。
「勉強している、理論を理解している」ことと、勝たなければいけない局面で時間がない中、正確に指しきることは、別の話なのです。
私もこのことは、ドレスデンオリンピアードのJonathan Rowson 戦で、身をもって学びました。
96. Rh4 Bf1 97. Rg4 Rb5 98. Rg3+ Bd3 99. Rg4 Rb1 100. Rg2 Rb3+ 101. Ka4 Rb5 102. Rg4 Rf5 103. Ka3 Rf1 104. Rg2 Rb1 105. Rh2 Bf5 106. Rg2 Bd3 107. Rh2 Bf1!
黒は12手かけて同じ局面に戻し、そして今度は正しい勝ち筋を見つけ出しました!b5,a6のマスを抑えながら、ルークの反撃、Rh3+を止めているところがこの手のポイントです。
108. Rf2 Bc4! 109. Rf3+ Bd3
一見何が変わったのか、分からない人もいるでしょう。
ここではルークがg,hファイルにいた時と異なり、5段目でディフェンスできないことがポイントです。
110. Rf2 Rb3+ 111. Ka2
111.Ka4 Rb6! でも、もちろん黒の勝ちです。
111...Rb6 112. Ka1 Rg6 0-1
Polgar がこの大変長いゲームを取って星をタイに戻し、さらには続くタイブレークでキューバの星を沈めました。
世界の女子プレーヤーの頂点に君臨する女帝の、意地とプライド、そしてその高い実力には、ただ感服するばかりです。
今日から始まるSvidlerとの試合も、どのようになるか目が離せません。
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