時間が逆行していますが、27日のトレーニングで、羽生さんと指した午前のゲームを今夜はお届けします。今月のサタデーレクチャーのために、Carlsen のゲームを見ていた私は、それに刺激されて1. e4 を久々に指してみることにしました。
Kojima, S (IM, JPN, 2403) - Habu, Y (FM, JPN, 2398)
Training (1)
1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bb5 a6 4. Ba4 Nf6 5. O-O b5 6. Bb3 Bc5
Training (1)
私の1. e4 も予想外だったと思いますが、羽生さんの選択、Ruy Lopez Archangel Variation も意外でした。黒マスビショップをアクティブに使い、白のセンターポーンに素早く攻撃を仕掛ける、アグレッシブで良い変化だと思います。
7. c3 d6 8. a4 Rb8 9. d4 Bb6 10. axb5 axb5 11. Qd3!?
私がかつてArchangel に対して用意していたのは、この変化です。d4 へのプレッシャーが強いArchangel では、通常のNb1-Nd2-Nf1 というマヌーバリングがやりづらく、白はピースのセットアップに何かしらの工夫が必要です。11. Na3 からb5 を取るのがメインラインですが、研究はしていても指したことはありません。
11... O-O 12. Qxb5!?
12. Bg5 exd4 (12... h6 13. Bxf6 Qxf6 14. Qxb5+/- このラインと本譜を混同していました) 13. cxd4 h6 14. Bh4 これがかつて研究していた変化でしたが、久々に指すのですっかり忘れていました。それでも、b5 のポーンを思い切ってとるのは面白いアイディアで、黒はどのようにポーンの代償を求めるべきなのか、簡単には判断できません。
12... Bd7
12... Bb7!? 13. d5 Ne7 14. Qe2 Ng6 私はこの変化がどうか、羽生さんに提案してみました。コンピュータは良い評価を下しませんが、d4-d5 から白の白マスビショップは閉じ、黒の黒マスビショップが開くことは、間違いなく黒に好ましいはずです。
13. Qd3 exd4 14. cxd4 Bg4 15. Nbd2 Bh5 16. Re1 Bg6 17. Qc3 Na7 18. h3!
手を進めていくと、Archangel らしいポジションになってきました。黒は4つのマイナーピースで白のセンターポーンにプレッシャーをかけます。対する白は、Nb1-Nd2 でe4 を支えますが、c1 のビショップをどのように展開すべきかという問題が残っています。最もシンプルなアイディアは、e4-e5, Nd2-Ne4 と指すことですが、すぐに18. e5 dxe5 19. dxe5 Ng4! では少し困るので、まずはg4 のマスを抑えておくのが、私の考えたアイディアです。
18... d5?
この手は白のセンターポーンを崩す、とてもロジカルなアイディアに思えます。しかし、これに対しては白は絶妙な手順で自身のアドバンテージを確立し、満足な流れで試合を進めることができます。
19. e5! Ne4 20. Nxe4 dxe4 21. Bg5!
羽生さんはこの手を過小評価していたようです。白はナイトを逃す前に、最大の問題であったビショップを展開するテンポを得ることができました。
21... Qd7
検討戦で私は、クイーンが違うマスに避ける選択肢も示しました。21... Qc8!? 22. Nh4 Nb5 23. Qc1 Nxd4 24. Bd5+/= しかし、こうして進めてみれば、g6 のビショップを取ってダブルビショップを得た白は、試合を優位に進めることができるでしょう。
22. e6! fxe6 23. Ne5!
単にf3 のナイトを逃がし、d4 を取られてしまっては逆に劣勢になる白は、当然このようにポーンサクリファイスをし、e5 にナイトの跳ぶマスを作ります。黒キングのディフェンスが弱まっていることも、白がポーンを返してしまっても、アドバンテージを保てるポイントです。
22... Qxd4 24. Bxe6+ Kh8 25. Be3!?
ここから白がどのように指せば明白な勝ちとなるかは、意外と難しいものです。g6 のビショップを取ることで、黒キングはさらに危険になりそうですが、黒もf2 へのカウンタープレーがあります。私はクイーンをd4 で交換し、b2 が弱点になるよりも、c3 で交換してポーンをbファイルからずらし、ゆっくりe4 を取りにいく選択をしました。代わりにd4 でクイーンを交換する変化も、私と羽生さんが検討で話し合ったラインより、良いものをコンピュータは示します。25. Nxg6+ hxg6 26. Qxd4 Bxd4 27. Rxe4! (本譜ではクイーンで取らせる変化を選びましたが、ビショップで取らせるのも、もちろんありです。しかし、試合中は不思議と、そこまで真剣に考えていませんでした。) 27... Bxf2+ 28. Kh2! Nc6 (28... Rb5 29. Be7 Rfb8 30. Rf1 Bb6 31. Rf7+-) 29. Raa4!+-
私たちはこのメイトスレットを見落としていました。クイーンを交換しても、hファイルにヘビーピースがまわるメイト形は残っています。
25... Qd6
25... Qxc3 26. bxc3 Bxe3 27. Rxe3 Nb5 28. Nxg6+ hxg6 29. Rxe4+- 私はこのエンドゲームは勝てるだろうと読んでいましたが、さすがに羽生さんはもう少し粘れる変化をチョイスしてきます。
26. Bxb6 Qxb6 27. Nxg6+ hxg6 28. Rxe4 Qxf2+ 29. Kh1?!
ここでキングがどちらに避けるのがベターなのかを正確に判断するのは、さほど簡単ではないでしょう。私はh2-b8 のダイアゴナルでのチェックを避けるため、h1 のマスを選びましたが、正解はh2 でした。29. Kh2! Nb5 (29... Rf4 30. Qxc7 Rxb2 31. Qd8+ Kh7 32. Qg8+ Kh6 33. Qh8+ Kg5 34. h4+ Qxh4+ 35. Qxh4+ Rxh4+ 36. Rxh4 Kxh4 37. Rxa7+- これはコンピュータの指摘ですが、時間の無い状況では全く読み切れません。) 30. Qc4 g5 31. Rf1! (これは私たちが検討で見つけた手で、白勝ちであることは明らかです。このRa1-Rf1 を実現するため、キングはチェックのかかる1段目ではなく、2段目のほうが良いのではないかという話になったのでした。) 31... Qd2 32. Rxf8+ Rxf8 33. Qxb5+-
29... Nb5 30. Qe1!?
クイーンを逃がすマスとして、どこがベストなのか分からず、クイーンをぶつけてしまうことにしました。1ポーンアップになりそうなうえ、ビショップ vs. ナイトであれば、白は十分に勝つチャンスがありそうです。
30... g5 31. Re5 Nd4 32. Rxg5 Qxe1+ 33. Rxe1 Nxe6 34. Rxe6 Rxb2?
ここで羽生さんは決定的なミスをして、勝敗は決まりました。この手は最初、コンピュータの評価はさほど悪くないのですが、人間の感覚で考えれば、7段目を守るほうがベターであることは明らかです。34... Rf7 35. Re2 Rb3 36. Rc2+/-
35. Re7 Rc8 36. Rgxg7+-
これで白の勝勢です。7段目のダブルルークに対抗する方法は、盤上のどこにも存在しません。
36... c5 37. h4 c4
37... Rc6 38. Rh7+ Kg8 39. Reg7+ Kf8 40. Rc7 Rxc7 41. Rxc7 Rb4 42. g3 c4 43. h5+- このように黒は6段目を抑えようとしても、メイトを絡めて相手のパスポーンを後ろから止めるようにルークが回れば、白は問題なく勝つことができるでしょう。こうした2コネクテッドパスポーン vs. 後ろから止められているパスポーンが勝負にならないことは、かつて暁さんに教えてもらったエンドゲームのテクニックです。
38. h5 c3 39. Rh7+ Kg8 40. Reg7+ Kf8 41. h6 1-0
7段目のダブルルークは、パペチュアルチェックには十分でも、意外とメイトスレットを作りにくいもの。そこでポーンを6段目まで進め、g7 のルークを守ってメイトにします。最後は多少尻すぼみではあったものの、うまく指せたと自分でも思える1局でした。
羽生さんには、年が明けてから毎月トレーニングでお世話になり、大変感謝しています。今月もすでにトレーニングの日程が決まっていますので、また良いゲームを指せるように頑張ってきます。ハワイ前にはまた、解説記事をお届けしましょう。
2 件のコメント:
カールセンからドローが取れたゲーム ▼o・~・o▼
Luke McShane vs Magnus Carlsen
London Chess Classic (2011)
http://www.chessgames.com/perl/chessgame?gid=1649092
COM山先生いわく 12 Qxb5には...Qe8が良いそうです▼o・~・o▼
マクシェーンは別の年のロンドンでは、カールセンに勝っていますよ〜 ( ̄▽ ̄)
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