水曜日、今月2回目となる羽生さんとのトレーニングを行ってきました。先週末もIVL に参加していただいたように、羽生さんは現在、非常にチェスのやる気に溢れた期間になっているようです。いつも通り、午前と午後でラピッドを1局ずつ、そしてポジションの研究を行いました。
Kojima, S (IM, JPN, 2389) - Habu, Y (FM, JPN, 2398)
Training (1)
1. d4 Nf6 2. Nf3 g6 3. c4 Bg7 4. g3 O-O 5. Bg2 d6 6. O-O Nbd7 7. Nc3 e5 8. e4 exd4 9. Nxd4 Re8 10. h3 Nc5 11. Re1 Bd7!?
このFianchetto King's Indian の変化は、前回のトレーニングの最後に羽生さんから見せてもらったもので、
a7-a5 を遅らせることで、
Nd4-Nb5 と白に跳ばせず、逆に黒からは、
h7-h6, Nf6-Nh7-Ng5 と跳ぶような狙いを持つようです。
12. Rb1 h6 13. b4 Ne6 14. Nb3
こうしてbポーンを進めた後で、ナイトを退く形は別の変化で見た記憶がありました。将来的には、
c4-c5 と仕掛けるチャンスを狙えます。白がこうして
b2-b4 と仕掛けなければ、黒は
a7-a5 と突き、ナイトをc5 にキープするでしょう。
14... Ng5 15. Kh2 Qc8 16. Bxg5 hxg5 17. Qd2 g4 18. h4
白はh3 を守るために、黒マスビショップとナイトを交換しましたが、その代わりに素早くルークを連携しています。
18... Be6 19. c5 Bxb3!?
すぐにビショップを返してくれるのは計算外でしたが、すぐにc5 の孤立ポーンを狙ってくる気だと理解できました。しかしこれには、私も返し技があります。
20. Rxb3 dxc5 21. e5!?
この手は羽生さんが軽視していたものです。白はポーンをすぐに取り返すのではなく、
e4-e5-e6 とさらに突き捨てることにより、黒キングの前のポーンストラクチャーを弱体化させるとともに、白マスビショップのダイアゴナルを開き、b7 をアタックします。
21... Nd7 22. e6 fxe6
22... Rxe6 23. Rxe6 fxe6 24. bxc5 Nxc5 25. Rb5 は本譜に似た形ですが、ルークを交換しないほうが、e6 をすぐに取り返されるようなスレットを作られづらく、黒にとって良いのではないかというのが、私たちの共通見解です。
23. bxc5
私はこの時点でほとんど残り時間がなく、確信のないラインに跳びこみます。代わりに
23. Qd3! と指す手も良さそうで、自然に見えるナイトが跳ぶ手には、強力なエクスチェンジサクリファイスが待っています。
23... Ne5? 24. Rxe5! Bxe5 25. Qxg6+ Kf8 26. Qxg4+/- こうしてg4 のポーンまで消しておけば、次の
Nc3-Ne4, Rb3-Rf3 が強力で、白が勝ちそうに見えます。
23... Nxc5 24. Rb5 Qd7!
24... Rd8 25. Qg5! ならば、白はポーンを捨てて黒キングを弱体化させた甲斐があり、攻勢を続けられそうです。そのため、このクイーンをぶつける手が一番嫌だと、試合中に考えていました。
25. Qxd7 Nxd7 26. Ne2!
冷静に考えれば当たり前の1手ですが、残り数秒でよく指せたと思います。白は2ポーンダウンでクイーンも消してしまいましたが、b7 は必ず取れますし、
Ne2-Nf4 から、黒のバラバラのポーンを攻撃することもできるため、まだ勝負はここからです。
26... Rab8 27. Bxb7 Ne5 28. Reb1 c6 29. R5b3
この手を指した直後、ナイトフォークで終わりかと思いましたが、丁寧に考えればそんな簡単ではないことも見えてきます。このポジションで羽生さんも相当時間を使って考え、結果として間違えてしまいました。
29... Nf3+?!
私が試合後に指摘したのは、
29... Red8! と指してルークを7段目に突入させるアイディアです。白はこれに対してうまいディフェンスが無く、白マスビショップもb7 から良い位置に移動できないために、苦しい展開が続いたでしょう。
30. Kg2 Nd2?
ここも
30... Ne5 と戻るべきですが、それならばならそもそも、f3 への侵入もしないでしょう。
31. Bxc6
ナイトフォークを無視してビショップでポーンを取り、白もエクスチェンジ取りをスレットにします。これで白の駒損は消え、逆にポーンストラクチャーにの良さから、白が優勢に立ちます。
31... Nxb1 32. Bxe8 Rxe8 33. Rxb1 Be5 34. Rb4!
こうなった以上、白は勝ちを目指して戦います。まずは黒のバラバラのポーンを攻撃し、駒得を狙います。
34... Rc8 35. Rxg4 Rc2 36. Re4 Bc7 37. Rxe6 Kf7 38. Re4?
黒は予想通り、ルークを7段目に侵入させて、aポーンとfポーンを狙ってきましたが、これに対するベストのディフェンスを見つけることができませんでした。黒がaファイルにパスポーンを得れば、白は1ポーンアップと言えども、勝つのが簡単ではなくなることは明らかです。それをしっかり意識していれば、a2 のポーンを
38. a4! というアイディアで守れたことを見つけられたはずです。白のルークはキングにアタックされていますが、もしこれを取られても、
Ne2-Nd4 のナイトフォークで取り返すことができるため、白の勝勢です。
38... Rxa2 39. Nc3 Rc2 40. Nd5 Bd6 41. Ne3 Ra2 42. Nc4
時間の無い中、このようなナイトvs. ビショップをどのように考えてゲームを進めれば良いのか、さっぱり分かりませんでした。私たちは検討戦で、
38. a4 のアイディアを見つけられなかったため、このゲームの検討戦の最大のポイントは、このエンドゲームになりました。どこかで
g3-g4-g5 と進め、g6 を固定したうえで、f6 のマスを奪うアイディアは白にとって有効そうです。
42... Bc5 43. Ne5+ Kg7 44. Nd3 Bb6 45. Rf4?!
私はルークディフェンスからアタックに切り替え、g6 を狙うことにしましたが、本譜を見ても分かる通り、黒のaポーンのスピードに全く間に合っていません。
45... a5 46. Ne5?
ここも
46. Rc4 から、浮いたビショップを狙うべきでした。aポーンの前進をここまで許してしまえば、逆に白が窮地に立たされます。
46... a4 47. Rf7+ Kg8 48. Rf6 Bd4! 49. Rxg6+ Kh7 50. Rg5 Rxf2+ 51. Kh3 a3-+
a2 をルーク、a1 をビショップで抑えられているため、すでにプロモーションを防ぐことはできません。
52. Nd3 a2 53. Ra5 Rd2 0-1
中盤で面白いポジションにし、良いエンドゲームにも持ち込めたにも関わらず、こうして敗れてしまうのは悔しいものです。それでも全体を通して、大変勉強になるゲームで会ったことは間違いありません。
38. a4 を逃した後のエンドゲームをどのように戦うか(例えばパッシヴでも、ゆっくりとaポーンを止めにいく等)については、もう少し他のプレーヤーの意見も聞いてみたいと思います。
お昼は近くのカレーうどん専門店へ。つけカレーうどんは、人生初体験です。いつものように将棋とチェスの話をたくさん聞くことができました。
そして午後のゲームも、評価の難しいポジションから敗れました。ゲームの内容自体は、前回に比べてぐっと良くなっていますが、結果がついてこないときはあるようです。もちろん、技術不足もあるのでその点は反省しますが、あまり結果だけを見てネガティブにならずに、丁寧にトレーニングを続けていこうと思います。
White to move
さらに午後は、羽生さんからはこのエンドゲームを見せてもらい、一緒にアイディアを出し合いました。すぐにポーンエンディングからクイーンエンディングになり、新たなプロモーションを巡る戦いが始まります。私も今年は全日本で2回、羽生さんとのトレーニングで1回、クイーンエンディングが出現しています。様々なクイーンエンディングで、どのようにオフェンス側がパペチュアルチェックを避けつつ、パスポーンを進めていくものなのか、きちんと勉強する機会をこれから設けようと思います。
羽生さんも本業の将棋で忙しい中、こうしてチェスのトレーニングの時間を割いてくださっていること、いつも感謝しています。来月もお互いのスケジュールが合えば、こうしてトレーニングを続けていきたいと思います。