2019/11/25

Nagoya Open 2019 Day2 Tournament Report


2日間の名古屋オープンが終わり、東京へ戻ってきました。私は2日目、2勝1ドローでトータル4勝1敗2ドローの5ポイント。順位はタイブレークで3位でした。下位クラスも含め、入賞者の皆さん、おめでとうございます!

1st Place Sriram Jha (GM, IND) 6/7
2nd Place Iinuma Paul (USA) 5.5/7
3rd Place Kojima Shinya (IM, JPN) 5/7
4th Place Watanabe Akira (FM, JPN) 5/7
5th Place Yamada Kohei (FM, JPN) 5/7

Nagoya Open 2019 Final Standings



優勝はインドから参戦したGM Sriram でした。5連勝後に2連続ドローで単独トップを守りました。2位はハワイから来日中のポールで、次の週末は東京で開催されるIVL にも参加予定です。こちらでは私も直接試合ができることを楽しみにしています。

3-5位は日本の上位タイトルホルダーが並び、タイブレークでこの順位になっています。私は3連勝を狙っていましたが、6R でScott 相手にかなり苦しいドローでした。今年の国内公式大会で初の入賞を逃すことも覚悟しましたが、最終戦では黒で上手くチャンスを作ったと思います。

Nakahara, K - Kojima, S
Nagoya Open 2019 (7)

1. e4 c6 2. d4 d5 3. Nc3 dxe4 4. Nxe4 Bf5 5. Ng3 Bg6 6. Nf3 Nd7 7. h4 h6 8. h5 Bh7 9. Bd3 Bxd3 10. Qxd3 e6 11. Bf4 Qa5+ 12. Bd2 Bb4 13. a3?!



初めて見る手ですが、キングサイドへのアタックチャンスを残すにはビショップを消さないほうが良いでしょう。13. c3 Be7 14. c4 Qc7 15. O-O-O Ngf6 がメインラインです。

13... Bxd2+ 14. Nxd2 Ngf6 15. O-O-O O-O 16. f4 Rad8 17. Nb3 Qc7 18. Qf3 c5


私としては、d4 への反撃は準備ができ次第早めに仕掛け、安全にプレーすべきだと思いますが、ここでは白のキングサイドアタックも大したことはありません。18... a5!? などとしてナイトを追い払ってから、c6-c5 を仕掛けても良かったでしょう。

19. dxc5 Nxc5 20. Nxc5 Qxc5 21. Ne4 Nxe4 22. Qxe4 b5



ヘビーピースだけが残り、黒は不満のない状況です。白のg2-g4-g5 よりもb7-b5-b4 は現実的だと考え、これを実行します。

23. g4 a5 24. Kb1 b4 25. a4 Rd5!?


これは勝負にいく手です。ポーンを孤立させるのは難しい判断ですが、e4 のマスを抑える、eファイルを開いてルークを活用するなどのアイディアがあります。

26. Rxd5 exd5 27. Qf5 Qc6 28. b3 Qe6!



d5 の孤立ポーンをサポートするためには、fファイルのポーンをeファイルに移動するか、dポーン自体をe4 に移動するか、2つのアイディアがあります。

29. Qd3 Qe4! 30. Qxe4 dxe4 31. Re1 Re8


ここは31... f5 32. gxf5 Rxf5 33. Rxe4 Rxh5 とどちらが良いか判断ができませんでした。本譜のラインでも、黒のf7-f5 は大事なアイディアです。

32. c3 bxc3 33. Kc2 f5!



白同様、ポーンを一時的に捨ててもキングがアクティブになれば取りかえすことができます。fファイルを上がっていく黒キングは、白ポーンをかすめ取りながらeファイルのパスポーンをサポートします。

34. gxf5 Kf7 35. Kxc3 Kf6 36. Rg1 Kxf5 37. Kd2 Re7 38. Rc1 Kxf4 39. Rc5 Rd7+


39... Re5 40. Rb5 Rf5! もありえましたが、ポーンを取りあってもこのエンドゲームは黒が勝てると思います。

40. Ke2 Rd3 41. Rxa5 Rxb3 42. Ra7 Rb2+ 43. Kd1 Rh2 44. Rxg7 Rxh5



多少さっぱりしましたが、黒は1ポーンアップでキングの位置が良く、パスポーンも2つあります。白の1つだけのパスポーンは後ろからアタックすることで簡単に止めることができるため、これは勝てると思いました。しかし、実際に残り時間のほとんど無い中では不正確なプレーが出ます。

45. Ke2 Rh2+ 46. Kd1 Kf3 47. Rf7+ Ke3 48. Rg7 Rd2+


ここはもう1つのパスポーンを押していくのがシンプルでした。48... h5! 49. a5 Ra2 50. Rg5 h4 51. Rh5 Kd3 52. Rd5+ Kc3 53. Rh5 e3 54. a6 Kd3 55. Rd5+ Ke4 56. Rh5 Kf3 57. Rf5+ Kg4 58. Rf8 h3-+ ここまでくれば、黒の勝ちは明白です。

49. Ke1 Rd6?



試合後に検討で鑑くんから、49... Ra2 50. Rg3+ Kf4 51. Rh3 Kg5 と進めて白のみポーンが落ちることを指摘されました。しかしこれは、52. Rg3+ Kh4 53. Rg8 Rxa4 54. Ke2 こうしてgファイルでカットオフされると2ポーンアップながらまだ難しいかもしれません。代わりに49... Rh2! 50. Kd1 h5! と上記の変化に戻すべきでした。

50. Rg3+ Kf4 51. Ra3?


白はこのエンドゲームで唯一のドローチャンスを逃しました。51. Rh3! Kg4 52. Ra3! これだと黒キングが本譜に比べて1マスずれているため、e4-e3 がすぐできません。52... h5 53. a5 Ra6 54. Kf1 h4 55. Kf2=

51... e3!-+



白はルークがポーンの後ろに回る好位置ですが、1手遅いです。黒はパスポーンで3段目をカットし、キングが上がるアイディアで勝つことができます。

52. a5 Kf3 53. a6 Rc6! 54. Kd1 Kf2 55. Ra2+ Kf1


これで黒キングはルークにチェックされず、e3-e2-e1 をサポートできるベストの位置に到達しました。

56. a7 Rc8 57. Rh2 Rd8+ 58. Kc1 e2 59. Rh1+ Kg2 60. Re1 Kf2 61. a8=Q Rxa8 0-1



ルークを2段目から6段目に切り替えるのは少し変かなと思いつつも、時間のない中で正確なエンドゲームのプレーを続けるのは大変でした。やはり実戦が一番勉強になりますね。また今週末のIVL まで調整して、次の試合も頑張りたいと思います。そして名古屋チェスクラブの皆さん、今年も大変お世話になりました。来年も都合が合えば、名古屋に遠征に行きたいと思います。


今大会、完全にダークホースだったのは将棋のアマ強豪でもある高橋くん(写真右から2番目)です。国内公式戦初参加ながら、私と鑑くん、Sriram からドロー、北神さん、Scott、石井さんに勝ちで、最終戦で弘平くんに敗れるまでオープン入賞のチャンスも十分にありました。国内レイティングがないSriram との試合を抜いても、6試合の結果で初期レイティングは2200台がつくのではないでしょうか。


夕飯は高橋くん、東芝さんと3人で味噌煮込みうどんの有名店へ。いつもと違う顔ぶれで、将棋界の話も聞けて楽しかったです。新しい名古屋グルメも、まだまだ開拓の余地がありますね。それも来年以降の楽しみです。

2019/11/23

Nagoya Open 2019 Day1 Tournament Report


名古屋オープンが今日からスタートしました。今年は持ち時間が40分+1手30秒と短く、2日間で7試合を行います。初日の今日、私は2勝1敗1ドローと少し冴えませんでした。2.5/4 でトップボードに上がり、GM Sriram と指した試合は、24日の中継が始まるまでは以下のページから見ることができると思います。ふがいないゲームでした...

Nagoya Open 2019 Live Games

中継されたのは1、4R のみだったため、今夜は3R の山田くんとの試合をご紹介します。

Kojima, S - Yamada, K
Nagoya Open 2019 (3)

1. Nf3 Nf6 2. c4 c5 3. Nc3 d5 4. cxd5 Nxd5 5. e3 Nxc3 6. dxc3!? Qc7



今年のWorld Cup のRadjabov - Vachier-Lagrave のゲームでも登場した序盤です。6... Qxd1+ 7. Kxd1 Bf5 8. Nd2 こうしてクイーンを交換することも黒はできますが、あえて交換を避けるのもありです。

7. e4 e6 8. Bd3 Be7 9. O-O O-O 10. e5 Rd8 11. Qc2 g6


ここは少し気になりました。黒マスを弱めてしまうと、白はそれを利用したキングサイドアタックがやりやすくなってしまいます。11... h6 12. Qe2 Nd7 のほうが手堅いと思います。

12. Re1 b6 13. h4!?



b2 とc5 にそれぞれポーンが無い、Sicilian Alapin の変化でも、こうしてhポーンを伸ばすアイディアが有効です。白はhファイルを開けるとともに、黒キングの前を弱体化させることを狙います。

13... Nd7 14. h5 Nf8 15. Bf4 Bb7 16. Ng5 Rd5


e5 を狙う手はどこかであると思っていましたが、白は白マスビショップの交換も気にならないため、このルーク上がりはあまり意味がなく、最初からd7 でも良かったでしょう。

17. Be4! Rd7 18. hxg6 Nxg6 19. Nxe6?!



このタクティクスが決まるため、ナイトでg6 を取る手はダメだと思い込んでいました。

19... fxe6?


19... Bxe4! 20. Qxe4 Qb7! これが互いに見落としていたa8 ルークのディフェンスです。 21. Ng5 Qxe4 22. Rxe4 Nxf4 23. Rxf4 Bxg5 24. Rg4 h6 25. f4 Re8 26. Rf1 これならば、黒は一時的に1ポーンダウンながら、e5 へのプレッシャーをdファイルのコントロールで戦える局面です。

20. Bxg6 hxg6



20... Bh4 21. Be4+/- これでも白が1ポーンアップで優勢ですが、キングは生き延びます。

21. Qxg6+ Kh8 22. Qh6+ Kg8 23. Qxe6+ Kh8 24. Qh6+ Kg8 25. e6!


こうして黒マスビショップの利きを開けば勝負ありです。

25... Qc6 26. Qg6+ Kh8 27. Be5+ 1-0



明日の3試合でなんとか盛り返して入賞圏内に入りたいですね。参加者の皆さん、明日もよろしくお願い致します。

Nagoya Open 2019 R5 Pairings

Nagoya Open 2019 Tournament Preview


久々のブログ更新です。明日から始まる名古屋オープンに参加するため、私は今日、1日早く名古屋へとやってきました。名古屋オープンの参加者リストも、ずいぶん見ない間に賑やかに、さしてハイレベルになっています。現時点でのエントリーは以下から確認できます。

Nagoya Open 2019 Entry List

トップから私、インドのGM Sriram、暁さんと続きます。Sriram がどこからこの日本の地方大会を聞きつけたか分かりませんが、私にとってはかつてマレーシアで敗れ、久々の再戦を楽しみにしていた相手です。明日から2日間で7R 指す今年の名古屋オープンでは、ほぼ間違いなく当たるでしょう。是非ともポイントを取りたいですね。


そして今日、名古屋に早めに移動したのは、さらに三重県の桑名まで足を運ぶためです。桑名にある囲碁将棋サロン、庵は、七盤勝負と呼ばれる7種類のボードゲーム(囲碁、将棋、バックギャモン、連珠、オセロ、どうぶつしょうぎ、そしてチェス)を一斉に行う競技発祥の場所です。私は7種いきなりは難しいので、バックギャモン、どうぶつしょうぎ、連珠の三盤勝負でデビュー。なんとか2種を勝つことができました。東京のねこまどやいっぷくのチェスレッスン、イベントで出会う七盤選手たちも、こちらにしばしば足を運んでいるということで、お店のかたから色々と面白い話も伺うことができました。


庵で三番勝負を体験した後は、木曽川と長良川に囲まれた長島の長島温泉へと足を運び、ゆっくりとした時間を過ごしてきました。さらにその後、夜はもう1つの桑名来訪の目的である、生徒の家族との食事をしてきました。桑名ははまぐりが名産で、はまぐりメインに様々な海産物を出すお店が並んでいます。その中でも今夜は様々な貝類を売りにするお店へ。料理もおいしかったですが、生徒家族とは数年ぶりの再会で、思い出話に花が咲いてとても楽しい時間を過ごすことができました。今日だけでも遠征を満喫した感じですが、本番は明日からの試合です。去年は参加できなかった名古屋オープン、優勝できるように頑張ってきます!

2019/11/05

Japan Open 2019 Day4 Tournament Report


Japan Open 2019 入賞者たち Photo by Yamada, A

ジャパンオープンは昨日、最終日の4日目を迎え、無事に全試合が終了しました。最終結果は以下の通りです。

1st Place Nanjo Ryosuke (IM, JPN, 2330) 6/7
2nd Place Kobayashi Atsuhiko (JPN, 2083) 6/7
3rd Place Kojima Shinya (IM, JPN, 2400) 5.5/7
4th Place Nakamura Naohiro (JPN, 2098) 5.5/7
5th Place Sabirov Ramil (GER, 2105) 5.5/7


優勝はジャパンチェスクラシックに続き、南條くんでした。6R で私を破り、最後はSabirovさんとドローで優勝を決めています。タイブレークで惜しくも2位になった小林くんも、私に敗れた以外は6勝で、自身のレイティングも初めて2100に乗せました。この上位2名が来年ロシアで開催されるハンティマンシスクオリンピアードのオープンチーム代表権を獲得しています。また女子の部では、高安さんと石塚さんが残っていたオリンピアード女子代表の残り2席を獲得しています。

3位以下は5勝1敗1ドローで3人が並び、タイブレークで私、中村くん、Sabirovさんの順になっています。Sabirovさんはロシア生まれ、ドイツ籍のプレーヤーで、現在は慶応義塾大学に留学中とのことです。中村くんの指摘で初めて気づきましたが、他の入賞者も全員慶應OBですね。珍しい入賞のメンツです。その他、U1600、女性賞などを獲得された入賞者の皆さん、おめでとうございます!

私は南條くんに敗れた6Rに続き、7Rで松尾さんに黒を引きました。白でSabirovさんという予想が外れ、どのような勝負にするか悩みながら最終戦に突入します。

Matsuo, T (CM, JPN, 2179) - Kojima, S (IM, JPN, 2400)
Japan Open 2019 (7)

1. e4 c6 2. d4 d5 3. Nd2 dxe4 4. Nxe4 Bf5 5. Ng3 Bg6 6. h4 h6 7. Nf3 Nd7



直前の6R、南條くんとの試合ではFIDE 公式戦初となる7... e6 を指しましたが、セオリーを間違えて敗れてしまいました。黒連続でCaro-Kann メインラインとなったこの試合では、より慣れている7... Nd7 で勝ちを狙います。

8. h5 Bh7 9. Bd3 Bxd3 10. Qxd3 e6 11. Bd2 Ngf6 12. O-O-O Bd6!?


昨年のモンテネグロでの試合から、12... Be7 に代わってこちらを使っています。早めのNg3-Ne4 を催促し、ピース交換を進めます。

13. Ne4 Nxe4 14. Qxe4 Nf6 15. Qe2 Bc7 16. Kb1!?



以前松尾さんと試合をした際も、12... Be7 のラインでこのキングが寄る手を使ってきました。a2 をキングで守っておくことで、Qd8-Qd5 に備えます。しかし、黒はそれでもクイーン交換と満足なエンドゲームを目指し、この手を指すでしょう。

16... Qd5 17. Rh4!?


黒の黒マスビショップがd8-h4 のダイアゴナルにいないことを利用してルークを前進させ、e4 のマスをカバーすることでNf6-Ne4Qd5-Qe4 を防ぎます。特にクイーンのe4 への跳び込みを防いでおくと、c2-c4 に対してどうするか黒は悩むところです。

17... b5 18. g4 Ne4



g2-g4 は4段目に上がったルークと相性が悪く、e4 のマスが利用できるのは黒にとってラッキーだと思いましたが、将来的にg4-g5 と進めるプランはシンプルながら強力で、黒は対策を考えなければいけません。ひとまずナイトをe4 に進めてg4-g5 の際に当たらないようにし、g5 のマスもカバーしておきます。

19. Be3 O-O 20. Nd2 Nxd2+ 21. Qxd2 Bd8 22. Rh3 Be7


h4 に上がったルークを当てることでテンポを得つつ、黒マスビショップはg5 をカバーできるe7 のマスに戻ってきました。これがg2-g4 を見た際に思い描いていたディフェンスで、d8 にルークを回すことを遅らせた理由でもあります。

23. f4 f6



このfポーンを進めるディフェンスは見たことはあったものの、実際に使うのは初めてです。直前でナイトを交換したのは黒のディフェンス面で大きく、d5 のクイーンは脅かされるほぼ心配がなく、e6、c6 などの白マスのポーンも危険はありません。

24. Rg3 Rad8 25. Qd3 e5!


検討では25... f5!? のアイディアも出しましたが、このeポーンを進める手もfファイルをこじ開け、f8 に残していたルークを活用するアイディアとして頭にありました。

26. fxe5


fファイルを開くのを許してくれるのは意外でしたが、26. f5?! exd4 27. Bxd4 c5 28. Bf2 Qe4! この手を試合中は見落としていました。 29. Qf1 Rxd1+ 30. Qxd1 Rd8 31. Rd3 (31. Qc1? Qe2-+) 31... Rxd3 32. cxd3 Qg2=/+ このように進めば黒は満足な展開です。

26... fxe5 27. g5 e4



ここは難しい判断ですが、単にg5 交換からd4 を取っても、Rd1-Rg1 でポーンは取りかえされてしまいます。ならばeポーンを進めてテンポを取りつつ、パスポーンを早めに決めてしまいます。

28. Qd2


g5 にあてる手が自然にも見えますがですが、28. Qb3!? Qxb3 29. axb3 hxg5 30. Bxg5 Bxg5 31. Rxg5 Rd5 という進め方もありで、クイーン交換からバックランクメイト防ぐことで、d4 取りを防ぎます。

28... Bxg5 29. Bxg5



検討では、ピース交換を遅らせ、バックランクを守るために進めるポーンも変えてはどうかと話が出ました。29. Rdg1 Rf5 30. b3 Kh7! 31. Bxg5 hxg5 32. Rxg5 Rxg5 33. Rxg5 Qxd4=/+ しかしこれならこれで、白はd4 を守っていないためにポーンが落ちてしまいます。

29... hxg5 30. c3 Rf5 31. Rdg1 Rdf8 32. Rxg5 Rf1+ 33. Rxf1??


両者とも検討ですら、このルーク交換が白の負けを決定づけるブランダーであると気付きませんでした。Rf1-Rf2 と退く手がクイーン取りになるため、ルークを交換せずにキングが逃げる手はないと思い込んでいましたが、よくよく考えれば白のルークが先に黒クイーンに当たっています。gファイルに重なった白ルークの目標は、g7 しか頭にありませんでした。33. Kc2! Rxg1 (33... R1f2? 34. Rxd5 cxd5 35. Qxf2 Rxf2+ 36. Kb3+/=) 34. Rxg1 Qxh5=/+ しかし、正しく進めれば黒はポーンを取り、まだわずかなアドバンテージをキープできます。

33... Rxf1+ 34. Kc2 Qxa2 35. Rxg7+ Kf8!-+



松尾さんが読み落としていたのはこの手で、差し出されたルークを無視してかわすことで、白キングを窮地に追い込みます。35... Kxg7? 36. Qg2+ は当然ルークを取りかえされてしまい、黒は全てのアドバンテージを失います。

36. Qe2 Qb1+


どう決めるべきか少し悩みましたが、大人しくルークを守っておいて、1テンポ遅れて差し出されたルークをありがたくいただくことにします。ただし、相手クイーンのパペチュアルチェックを振り切れるかどうか読むのは私が苦手とするところで、かなり慎重に確認しました。

37. Kb3 Kxg7 38. Qg4+ Kf6 39. Qg6+ Ke7 40. Qg7+ Rf7 41. Qg5+ Kd7 42. Qg4+ Kc7 0-1



白はルークを取られたうえ、これ以上クイーン単発でのチェックが続かないため、ここでリザインしました。私の試合終了前に後ろの席では小林くんが最終戦の白星を決めていたため、追いつくことができないことは途中で分かっていましたが、それでも最終戦を勝てて大会を締めくくれて一安心です。


前オリンピアードのチームメイトでもある松尾さんとは、この数年、白ばかりを持って試合をしており、黒を持つのは実に5年ぶりのことです。今年の全日本では、白を引いた大事なラウンドでポイントを落としてしまったため、その分この日の勝利は嬉しかったです。オリンピアードの代表権は残念ながら逃してしまいましたが、来年の全日本選手権で獲得を目指そうと思います。

参加者、そして運営の皆さん、4日間のジャパンオープンお疲れ様でした。私は今月行われる名古屋オープンが、今年参加する最後の大会になると思います。今年残り2か月弱、最後までよろしくお願い致します。

2019/11/03

Japan Open 2019 Day3 Tournament Report


Photo by Yamada, A

ジャパンオープン3日目です。私はこの日、小林くん、中村くんに連続で白を引き、2連勝。優勝への望みを4日目に繋げました。どちらも面白い試合でしたが、今夜は中村くんとの試合を取り上げようと思います。

Kojima, S (IM, JPN, 2400) - Nakamura, N (JPN, 2098)
Japan Open 2019 (5)

1. Nf3 Nf6 2. c4 g6 3. d4 Bg7 4. g3 O-O 5. Bg2 d6 6. O-O Nbd7 7. Nc3 e5 8. e4 c6 9. h3 Qb6 10. c5



中村くんとは最近白でばかり対戦しています。クラブ選手権とは違い、ポーンを捨てるシャープなラインで今日は勝負します。

10... dxc5 11. dxe5 Ne8 12. e6 fxe6 13. Ng5 Ne5 14. f4 Nf7 15. Nxf7 Bd4+ 16. Kh2 Rxf7 17. e5 a5 18. a4 Qc7


前回はKotronias の本で勧められているNe8-Nc7-Nd5 マヌーバリングを指してきましたが、今回はもう1つのクイーンがすぐ退く変化を試してきました。

19. Ne4 b6 20. Qc2 Rg7 21. Ra3 Qe7 22. h4!?



h3 にビショップのマスを作るとともに、タイミングによってはh4-h5 を見せる手ですが、ここはナイトを早く跳んでも良かったかもしれません。22. Ng5 Bd7 23. Nf3 Nc7 24. Rd1 Nd5 25. Nxd4 cxd4 26. Rxd4+/= こうしてダブルビショップを得てポーンを取りかえせば、白が有利であることは以前の南條くんとのゲームで学んでいました。

22... h6 23. Nd2!?


Ne4-Ng5 を遅らせたのは、こちらのマヌーバリングでも良いと思ったためです。上記と同じように経由するマスを変えてf3 に跳ぶことも見据えつつ、c4 もありえます。

23... Ba6 24. Rd1 g5 25. Nf3



h3-h4 の時点で、黒からg6-g5 の可能性は頭にありました。それにはナイトをf3 に置く形が白にとって良いと思っていました。しかし、ここはコンピュータによって思いがけない変化が示されます。25. fxg5! hxg5 (25... Bxe5? 26. Re1!+-) 26. Nf3 gxh4 27. Nxd4! cxd4 28. Rxd4 hxg3+ 29. Rxg3 Rxg3 30. Kxg3+/- ルークとクイーンをキングサイドに振りやすい白が有利なことは分かりますが、互いのf-hポーンがすべて消える形は人間には選びづらいものです。

25... gxh4 26. Nxh4 Nc7 27. Bxc6 Rd8 28. Be4?!


c6 を取りかえして一安心したところで緩手が出ます。h4 に跳んだナイトはf5, g6 の白マスを抑えていて良いと思っていましたが、仕掛けるのであればナイトがd5 に来る前のこのタイミングでした。28. f5! Bxe5 29. Ng6! Rxg6 30. Rxd8+ Qxd8 31. fxg6+/- d5 にナイトが来る前にfポーンの仕掛けを行うと、g6 でのフォークの際にクイーンがビショップを守ることができません。これは完全に見落としており、f4-f5 を仕掛けるのはd5 に来たナイトがターゲットになるタイミングだと勘違いしていました。

28... Nd5 29. Qg2 Qf7 30. f5!?



確信はありませんでしたが、仕掛けるとすればこのポイントだと思いました。

30... Bxe5?


黒は取るポーンを間違えました。この手はb8-h2 のダイアゴナルにビショップを利かせて良さそうに見えますが、白勝ちのエンドゲームに一直線です。代わりに30... exf5! 31. e6? 私が読んでいた変化はこれだったのですが、見落としがあってダメでした。 (31. Bxf5!? Re8 32. Bxh6 Rxe5 33. Bxg7 Kxg7= これは黒にエクスチェンジの代償あり。) (31. Nxf5!? Qh5+ 32. Qh3 Qxd1 33. Nxh6+ Kh8 (33... Kf8?? 34. Rf3+ Ke7 35. Bg5+ Rxg5 36. Rf7+ Ke8 37. Qe6+ Ne7 38. Qxe7#) 34. Nf7+ Kg8 35. Nh6+= こちらはドローです。) 31... Qxe6 32. Nxf5 Nf6! 33. Nxg7 Ng4+ 34. Kh1 Kxg7-+ これはエクスチェンジを取っても、黒のビショップ、ナイトが途端に強くなり、白が厳しい状況です。

31. fxe6 Qh5 32. Rxd5! Rxd5 33. Bxd5 Qxh4+ 34. Qh3



クイーンを挟む単純なディフェンスに対して、黒は後続手がありません。これでクイーンを交換してしまえば、e6 に刺さったパスポーンの力で白が勝てるエンドゲームです。

34... Qxh3+ 35. Kxh3 Bc8 36. Bf4!


ビショップを交換して2コネクテッドパスポーンにすれば、黒の反撃は無く、白の勝ちは明白になります。交換を避けても、g3 をビショップで守った分、ルークがフリーになります。

36... Bd4 37. Rb3 c4 38. Bxc4 Re7 39. Rd3 Rxe6 40. Rxd4 1-0



最後はエクスチェンジアップにしかならないトラップをかわし、ルークアップを決めて勝ちです。試合直後はfポーンの仕掛けが上手くいったと思っていましたが、実際には難しい変化がいくつかありましたね。

今日は南條くんの連勝をSamuelくんが止め、4.5/5 で南條くんと私が並びました。続く4/5 グループには、松尾さんを破った小林くん、南條くんから唯一ポイントをを削ったSamuelくん、ドイツから初参加のSabirovさんの3人がいます。明日の私と南條くんの直接対決が、優勝争いの最も重要な試合であることが間違いないですが、続くプレーヤーにもまだチャンスはあります。参加者の皆さん、最後までよろしくお願い致します。

Japan Open 2019 R6 Pairings

2019/11/02

Japan Open 2019 Day2 Tournament Report


ジャパンオープン2日目です。今日は2R で塩見さんとドローで全勝組から一歩後退。3R では前嶋くんにきっちり勝って、3連勝の3人を追いかける展開になっています。塩見さんとの試合は色々と面白い場面がありましたが、もう少しじっくり考えてみたいので、今夜は3R の試合をご紹介します。

Maeshima, H (JPN, 1866) - Kojima, S (IM, JPN, 2400)
Japan Open 2019 (3)

1. c4 c6 2. d4 d5 3. Nf3 Nf6 4. Nc3 a6 5. c5 g6 6. Bf4 Bg7 7. e3 O-O!?



去年の全日本の真鍋さんとの試合では、7... Nh5 に自信がなくこちらの手を、今年のクラブ選手権では同じく真鍋さんに7... Nh5 を指しています。結論としては、どちらの手も黒は指せそうです。

8. Bd3 Bg4 9. h3 Bxf3 10. Qxf3 Nbd7 11. O-O Re8


ここは11... e5!? 12. dxe5 Nh5 としてポーンを取りかえす手もあったようです。いずれにせよ、黒はビショップナイトを交換しても、e7-e5 のブレイクを成功させれば満足なポジションです。

12. b4 e5 13. dxe5 Nxe5 14. Bxe5 Rxe5 15. Na4?!



検討で指摘したのはこの手です。c4-c5 と押し込み、b6 にナイトが跳びこむのが有効なのは、クイーンサイドのピースがもっと詰まっており、c8 のビショップやa8 のルークが問題になる場合です。ここでは黒のルークは単にセンターに回るだけで、白のナイトは行き場がありません。15. Ne2 からd4 を目指すのが自然なマヌーバリングですが、それでも黒はNf6-Ne4 を狙って指しやすいでしょう。

15... Qe7 16. Nb6 Re8 17. Rad1 Ne4 18. Bxe4 Rxe4


白はビショップを返すのも、e4 にナイトが残るのもどちらも気が進まないでしょう。本譜ではピース交換が進み、ルークの働きとビショップナイトの働きの差で黒の指しやすさがはっきりしてきました。

19. a3 Be5!?



すぐにa6-a5 とする手もありますが、ここではビショップを白キングに向けてみます。黒のプランはh7-h5-h4 と突く、f7-f5-f4 と突く、d5-d4 と突く、a6-a5 と突く、Be5-Bc7, Qe7-Qe5 とバッテリーを組むなど豊富です。これらの組み合わせに白が対処するのは大変でしょう。

20. Kh1


ビショップのダイアゴナルを警戒するのであれば、20. g3 h5 21. h4 とするべきですが、それでもg3 やe3 のサクリファイス、g6-g5 の将来的なブレイクなど、白が気にすべき課題はまだまだ残っています。

20... Bc7! 21. Rd4 Qe5-+



これで駒得を決め、一気に黒勝ちのエンドゲームへと持っていきます。

22. g3 Bxb6 23. cxb6 Rxd4 24. exd4 Qxd4 25. h4 Qxb6


後はテクニックの問題です。

26. h5 Qd4 27. hxg6 hxg6 28. Kg2 Qe4 29. Qxe4 Rxe4 30. Kf3 Kg7 31. Rb1 Kf6 32. a4 Ke5 33. b5 axb5 34. axb5 c5 35. Rc1 c4 36. Rc3 Re1 37. b6 Kd4 0-1



このラウンドは南條くんがミドルゲームからエンドゲームにかけ、テクニックを見せて黒で勝っていました。今大会前半戦の最も面白いゲームなのではないかと思います。南條くんたちに追いつけるよう残り2日間、4試合も頑張ります。

Japan Open 2019 4R Pairings

2019/11/01

Japan Open 2019 Day1 Tournament Report


今日から東京大井町のきゅりあんで、ジャパンオープンが始まりました。月曜まで4日間で7Rを戦い、男女とも上位の選手に来年のオリンピアード日本代表権が与えられます。私は薄々予感はしていましたが、いきなり初戦で妻と対戦することになりました。

Kojima, S (IM, JPN, 2400) - Kojima, N (WCM, JPN, 1745)
Japan Open 2019 (1)

1. Nf3 Nf6 2. c4 e6 3. Nc3 b6 4. e4!?



7月の台湾の試合ではここで4. g3 を指しましたが、今日は気分を変えてセンターを主張します。

4... d6 5. d4 Be7 6. Bd3 O-O 7. Qe2 Bb7 8. O-O Nbd7 9. e5?


早々に私にひどい読み抜けがあり、ポーンが落ちてしまいました。以前もオンラインの対戦で、先にビショップナイト交換を挟むアイディアを忘れ、同じことをした記憶があります。

9... Bxf3! 10. Qxf3 dxe5 11. Be3 exd4 12. Bxd4 Nc5?!



ポーンを取った黒はビショップを取り戻すのが自然に見えますが、12... Bc5 13. Bxc5 Nxc5 14. Bc2 Qe7-/+ のほうが、クイーンの上がるスペースを作っている分良かったと思います。また試合中は気付いていませんでしたが、単に12... c5! としても、白はNd7-Ne5 を食らわないように黒マスビショップを返すしかありません。

13. Rad1! Nxd3 14. Rxd3 Qc8 15. Rfd1


白マスビショップを返してしまっても、こうしてdファイルを早く抑えてしまえば多少ポーンの代償があると思っていました。黒はクイーンの良いマスが無く、ルークの連携が取れていないことが痛手となります。

15... Rd8 16. h4 c5 17. Be5 Rxd3 18. Rxd3 Qe8?!



a8 のルークを活用するためには、こうしてクイーンをセンターに戻し、Ra8-Rd8 を狙うのが自然に見えます。しかし、これにはナイトの跳び込みがぴったりになってしまうため、c7 のフォークを避けておく18... Qf8! がベターでした。

19. Nb5! Rd8 20. Rxd8 Qxd8 21. Nxa7 Nd7


a7 でポーンを取りかえし、c6 の絶妙なマスに行く準備もできているので、試合中はこれで逆転して白が良くなったと思っていました。しかしここでは本譜の代わりに、21... Qd2! 22. Nc6 Bd6! というビショップ交換のアイディアがあり、これならば形勢はまだ互角だったでしょう。Be7-Bd6 がh2 を抑え、バックランクメイトのスレットになっていることをお互い見落としていました。

22. Bg3 Bxh4?



ここはもったいないタクティクスの見落としでした。22... Bf6! 23. Nc6 Qe8 24. b3+/= ならば、ピースの連携、クイーンサイドのポーンの狙いやすさで白がやや有利ですが、まだ黒も十分に戦える局面です。

23. Nc6! Qf6 24. Bxh4 Qxh4 25. Ne5! 1-0


少し見つけづらいタクティクスですが、こうしてバックランクメイト、ナイト取り、f7 取りとスレットを複数作れば、白はピースアップが確定します。初戦から危ない試合運びでした。

初日は1試合のみで、大きな波乱はなく概ね上位が勝っています。何か起こるとすれば、対戦相手のレイティングが近づいてくる明日からでしょう。参加者の皆さん、2日目もよろしくお願い致します。

Japan Open 2019 R2 Pairings

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