私がここ2年ほどで研究してきた、Ruy Lopez のラインを紹介する新連載を始めようと思います。黒番で1. e4 e5 を指し始める構想は、昨年ハンガリーから戻った直後にスタートしました。実際、昨年の東京チェス選手権では1. e4 e5 を早速試しています。Caro-Kann には大きな不満はありませんでしたが、生徒たちに1. e4 e5 を教えるうえでも、自分のプレーの幅を広げるうえでも、1. e4 e5 を自分で指すことはいつか必要だと感じていました。
1. e4 e5 のレパートリーを作るためには様々な白からの変化に対応できなくてはいけませんが、その筆頭がRuy Lopez (1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bb5) です。3. Bc4 のItalian もトップGM の間で人気が上がっているとはいえ、Ruy Lopez が1. e4 e5 の一番人気であることは変わりません。Ruy Lopez への理解を深めるために、そして黒番でも勝ちにいくためにどんな変化が良いか研究を始め、最初に目をつけたのはBreyer Variation です。
1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bb5 a6 4. Ba4 Nf6 5. O-O Be7 6. Re1 b5 7. Bb3 d6 8. c3 O-O 9. h3 Nb8!?
ナイトが初期位置に戻るBreyer Variation は、初めて見る人にとって驚くべき変化の1つだと思います。黒はナイトをd7 に組み替えることでb7 に組む白マスビショップの利きを通し、e4 にプレッシャーをかけやすくします。10. d4 Nbd7 11. Nbd2 Bb7 12. Bc2 Re8 13. Nf1
私が白番で1. e4 を指していた際は、13. a4 とクイーンサイドで早めに仕掛けるラインを採用していましたが、Nf1-Ng3-Nf5 を狙うこちらのラインがメインとして考えられています。
13... Bf8 14. Ng3 g6
ビショップを初期位置に退いてルークの利き筋を通し、f5 のマスを抑えてナイトの侵入を防ぐと同時に、様子を見てBf8-Bg7 とフィアンケットに組み直します。この攻防一体のアイディアは1. e4 e5 を指すプレーヤーは特に覚えておくと良いと思います。15. a4 c5!
私も昨年松尾さんに教えてもらうまできちんと理解していなかったのですが、白がa2-a4 を突いたのを見てからcポーンで反撃するのがポイントで、dポーンの押し込みに対してc5-c4 をすぐ突き、b3 のマスをの弱さを利用することができます。a2 にポーンが残っている段階で、c7-c5-c4 を急ぎすぎると、b2-b4 にアンパッサンをしても、白もaxb3 と取りかえし、再びb3-b4 からc5 のマスをカバーできます。
16. d5 c4 17. Bg5
ここでの黒の手は17... Be7 とすぐ戻るか、17... Nc5 とナイトを跳ばすか、17... h6 と早めにビショップを追い返しておくか、こうした選択肢があります。f8 に退いたビショップはg7 に組むのが自然にも思えますが、e5 ポーンが固定されている(黒からexd4 と開くチャンスがもうない) 状況では、g7 のビショップはあまり利きが良くないと考えられます。この先のゲーム展開や、他のラインの研究も踏まえ、Breyer Variation は非常にプロフェッショナルな変化だと結論付けました。トップGM にも採用される、手堅く優秀な変化であることは否定しないのですが、自分の好みや求めるものとは少しずれがあり、また各々のラインでのアイディアを正しく理解することは難しいとも思いました。例えば、私がこのBreyer Variation のメインラインを見て、黒側が難しいと思うポイントは、2つのビショップの働きをどのように改善し、具体的にどう試合を進めていくかが見えづらい点です。白もc2 のビショップをどう活用するかなど、課題はありますが、クイーンサイド、キングサイド、どちら側でも仕掛けを行いやすいのは白に見えます。私が求めるのは多少リスクはあっても、もう少し黒側から何をやるかが分かりやすい変化でした。それがどういったものかは、Vol.2 で細かく説明をしようと思います。
Vol.2 へ続く
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