2020/11/19

Understanding the Ruy Lopez Vol.3


ここまでBreyer, Zaitsev とRuy Lopez 対策としては割とポピュラーな変化をご紹介してきました。ならば続くのは、その2つと並ぶ代表的な変化である、Chigorin Variation かと予想したかたは惜しいです。私がZaitsev Variation でBenoni ストラクチャーにする構想を得て、次に目をつけたのはKeres Variation です。どんな変化か、手順を追っていきましょう。

1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bb5 a6 4. Ba4 Nf6 5. O-O Be7 6. Re1 b5 7. Bb3 d6 8. c3 O-O 9. h3 Na5 10. Bc2 c5 11. d4 Nd7!?

9... Na5 と跳び、c7-c5 を早めに進める変化をChigorin Variation と呼びますが、その中でも11... Nd7 と退く変化をKeres Variation と呼びます。エストニアが生んだ偉大なチェスプレーヤー、Paul Keres が研究し、後にドイツのAlexander Graf に手によって発展しました。11... Qc7 がChigorin Variation のメインですが、こちらのKeres Variation は近年になって、トップクラスのGM たちに見直されてきています。

12. Nbd2


最もスタンダードな手ですが、Benoni ストラクチャーへの変化を嫌うのであれば、12. d5 と早めに押し込む選択肢もあります。こちらの実戦紹介は、後の記事でご紹介しようと思います。

12... exd4 13. cxd4 Nc6

a5 のナイトは遅かれ早かれc6 に戻りますが、Keres Variation のメインラインでは、Benoni ストラクチャーに誘導するように早めに下がるのが一般的です。

14. d5


14. Nf1 cxd4 15. Nxd4 Nxd4 16. Qxd4 Ne5! 17. Ne3? Bxh3! は割とレイティングの高いプレーヤーも見落とすタクティクスで、f3 でのナイトフォークがあるために白はh3 のビショップを取ることができません。白が13手目でこのタクティクスに気付いて別の手を指しても、黒はe4 へのプレッシャー、e5 のマスの活用、cファイルからの反撃などを上手く組み合わせ、十分なポジションと考えることができます。

14... Nce5 15. a4 Rb8 16. axb5 axb5

Zaitsev Variation でも白からa2-a4 と突くアイディアを確認しました。このKeres Variation では短期的に見れば、aファイルを開きルークを使いやすくした白に分があるように見えます。しかし、長期的に見ればクイーンサイドのポーンを1つ捌いたことで、黒はb,c ファイルのポーンマジョリティで将来的にパスポーンを作りやすくなったと考えることもできます。

17. Nxe5 Nxe5 18. f4 Ng6


Benoni Defence でも、e5 に跳んだナイトをf2-f4 から追い返すアイディアはよく見かけます。これを嫌い、Nd7-Ne5 を黒側でためらう人もいるかと思いますが、黒としてもe4 が攻撃しやすくなったこと、a7-g1 のダイアゴナルが弱まったことなど、f2-f4 を突かせたメリットはあります。e4-e5 からのブレイクがさほど早くないのであれば、f2-f4 を白から突くように誘うのは勝負に行く方法として悪くないはずです。

19. Nf3 Bh4 20. Rf1 Bg3

早速f2-f4 と突かせて弱くなったキングサイドの黒マスを利用し、f4 のポーンを攻撃します。相手のナイトが利いているマスにビショップを置く手は抵抗があるかもしれませんが、20. Nxh4 Qxh4 は次にBc8-Bxh3 の狙いもあり、白としてはあまり指したくないでしょう。

21. f5 Ne5 22. Ng5 h6


大学生の頃、白を持ってこのポジションを持ちましたが、その際は黒がセオリーを間違えたため、あっさりと試合は終わりました。22... c4? 23. Qh5! h6 24. f6! gxf6 25. Nf3 Ng6 26. e5! f5 27. e6! Nf4 28. Bxf4 Bxf4 29. Qxf5 Be3+ 30. Kh1 Kg7 31. Ng5! 1-0 Kojima, S - Sato, K / Closed Training 2010

23. f6! gxf6!


私が高校生の頃から、このKeres Variation のメインセオリーは23手目付近まで研究されており、このナイト取りを無視したf5-f6 によって白が有利という結論が出ていました。ポイントとしては、23... hxg5 24. Bxg5 g6 25. Ra3!+- が見えづらいスレットで、a1 が突如出てきたルークが3段目を移動し、g3 のビショップを捕まえて白の勝勢となります。しかし、近年になって黒は23... gxf6! で勝負できるという研究が出てきて、このKeres Variation のメインラインも見直されることとなりました。

24. Nf3 Kg7

いかにも黒キングが危なそうな局面ですが、黒はRf8-Rh8f6-f5 の突き捨てなどを駆使してキングを守り抜きます。もし白のアタックを捌ききることができれば、黒にはe5 のアウトポストとクイーンサイドのポーンマジョリティという武器が残り、十分に勝負することができるでしょう。2019年の私のRuy Lopez 対策研究として最も多くの発見があり、1... e5 の奥深さを再認識した変化でした。今後も実戦でお披露目する機会もあるかと思います。

Vol. 4 に続く。

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