今年のTata Steel も後半に入り、勝負のつくゲームが増えてきたように見受けられます。昨晩の9R も白熱した試合が多かったですが、その中でも目を引いたのは昨年の優勝者、Caruana が黒番を持ったゲームです。ポーンランドのトッププレーヤー、Wojtaszek との対戦となります。
Wojtaszek, R (GM, POL, 2705) - Caruana, F (GM, USA, 2823)
Tata Steel 2021 (9)
1. c4 Nf6 2. Nf3 d6 3. d4 g6 4. Nc3 Bg7 5. e4 O-O 6. Be2 e5 7. O-O Bg4!?
King's Indian 自体意外なチョイスでしたが、Caruana はさらにその中でもマイナーな変化を選びます。7... Nc6 8. d5 Ne7 とセンターを固め、黒がf7-f5 からキングサイドで攻撃を目指し、逆に白はc4-c5 などからクイーンサイド中心に手を作るのがよく知られたKing's Indian のゲームの流れです。Tata Steel 2021 (9)
8. Be3
8. d5 a5 とするのもありえる変化で、黒はNb8-Na6-Nc5 の組み替えからe4 のポーンを攻撃するか、a6 にナイトを残したままで白のb2-b4 をけん制するでしょう。一方の白はNf3-Nd2 のようにナイトの組み替えと白マスビショップ交換を狙うでしょう。ビショップ交換は白の注文通りのため、黒はBg4-Bd7 のようにビショップを退いて体制を整えると思いますが、この1手損があっても黒は十分戦えるというのが、Caruana の研究なのだと思います。
8... Bxf3! 9. Bxf3 exd4 10. Bxd4 Nc6 11. Be3 Re8
積極的に勝ちを目指すのであれば、ポーンストラクチャーを崩したり、ナイトビショップの交換をするのが良いとされます。(もちろん、それが仇となって負けるリスクもあります) 黒の作戦はビショップナイト交換をしても、g7 のビショップの利きをきれいに通すとともに、e4 を攻撃しやすくすることです。白マスビショップこそなくなりましたが、その分黒マスを中心としたピースのプレーで対抗できます。12. Qd2 Nd7 13. Rad1 Bxc3!
Twitter ではオランダのGM Ivan Sokolov がこの手に注目していました。黒は2つ目のビショップもナイトと交換し、早々にダブルビショップvs. ダブルナイトの構図へと持ち込みます。一般的にはダブルビショップのほうがダブルナイトよりも使いやすいとされますが、それはダブルビショップが十分に働ければの話です。白のf3 の白マスビショップはe4, c4 の白マスで固定されたポーンに利きを遮られて十分な働きができず、将来的にも働きを抑え込むことができるというのが、黒のアイディアでしょう。黒が持つ2つのナイトはe5 を中心とした黒マスを使って手が作りやすいのに対し、白の白マスビショップは黒マスに作用しないのも、黒がこのダブルビショップvs. ダブルナイトの勝負に持ち込んで戦えると判断するポイントです。
14. Qxc3 Qf6 15. Qc1
15. Qxf6 Nxf6 16. c5 dxc5 17. Bxc5 Nxe4 18. Be3 白はe4 のポーンをあきらめることで白マスビショップの利きを通し、働きやすくなったダブルビショップの力でポーンの代償を図る作戦もありました。しかし、白として積極的に取るべき作戦かといわれると悩むところです。15... Nc5 16. Qb1 Qe6 17. Rfe1
ここも難しい判断ですが、Wojtaszek はe4 ではなくc4 を捨てることを決めました。17. b3 Nxe4 18. Rde1 もf3 の白マスビショップの利きを通すと同時に、eファイルからの反撃でポーンの大小を求める作戦として考えられます。
17... Qxc4 18. b3 Qc3 19. Bd2 Qf6 20. Bc1 h5 21. Bb2 Ne5!
a1-h8 のダイアゴナルの支配で戦おうとする白に対して、黒はe5 にナイトを置き、このラインをブロックしてしまいます。このナイトが白にとって厄介で、一時的にピンにはしているものの、f4 のマスを抑えられているためにf2-f4 ができません。もし将来的にf2-f4 からナイトを追い返すことができても、e4 のポーンが守りにくくなるという難点もあります。22. Be2 h4! 23. Qc1 g5!
ビショップにナイトで対抗する黒は、白のビショップの使いたいラインをうまく抑え込みながら、ナイトのマスの確保に努めます。黒がナイトで使いたいマスはe5 とf4 であるため、h4 まで伸ばしたポーンでg2-g3 を、g5 まで伸ばしたポーンでf2-f4 をけん制し、将来的にナイトが使いやすいようにしておきます。
24. Bb5?
白にとって難しいのは、どのようにして白マスビショップを活用するかです。c4 を捨てたことでf1-a6 のダイアゴナルを開きましたが、白マスビショップはb5 で長く活躍することはできません。代わりにタイミングは難しいですが、Be2-Bg4 と違うダイアゴナルで使うほうがポーンの代償を求めやすかったと思います。24... Re7 25. Re3 Qg6 26. Be2 Rae8 27. Qc2 Ne6!
f4 は古典的な、白キングにプレッシャーをかけられる黒ナイトの好位置です。こうして黒マスを見据えて黒のナイトが好位置を抑え始めると、白はダブルビショップでもポーンを取られているマイナスのほうが大きいことが徐々に明らかになってきます。
28. f3 Nf4 29. Bf1 c6 30. Qf2 Re6 31. Rc3 d5!
迷走した白マスビショップは結局自陣に戻り、黒はeファイルにルークを重ねてからのセンターブレイクを仕掛けることに成功しました。これを素直に取るようでは、黒のeファイルからの侵入に対抗できません。32. g3 hxg3 33. hxg3 dxe4!
Caruana はこのナイト捨てを見越してd6-d5 の仕掛けを行ったのでしょう。白はキング前が開いて危険になりすぎるうえ、パスポーンが強烈に刺さることになります。
2 件のコメント:
Yes, this game also caught my eye. New concept in the KID to give up key fianchetto bishop for knight on c3. When I was younger, absolutely no one would even consider such a move....
Thank you for your comment. Exsactly 13. Bxc3 looks very attractive although it's not a human move. We can stydy many new ideas from computer chess.
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