事前の告知は全く行っていませんでしたが、3/28 に開催された兵庫選手権に参加してきました。神戸チェスクラブ主催のこの大会に参加するのは実に9年ぶりです。前回は初のハンガリー遠征の前に、いくつか地方のチェスクラブをめぐってみようと思い、浜松と神戸の地方予選でプレーしたのでした。今回は夫婦そろって全日本選手権参加の権利を持っていましたが、地方プレーヤーとの交流や観光もかねての参加です。
4R スイス式の今大会は事前の参加者が知らされていませんでしたが、当日になって会場に足を運ぶと16名がエントリーされていました。私は順当に3連勝で単独首位に立ち、最後は0.5P差で追ってきた横尾くんとの対局となります。横尾くんとは3年前の東海オープンでも、最終戦での対局でした。
Kojima, S - Yoko, H
Hyogo Chess Championship 2021 (4)
1. e4 c5 2. Nf3 d6 3. Bb5+ Nd7 4. a4!?
今月から使い始めたChessable というアプリの、Wesley So's 1. e4 シリーズで紹介されていたSicilian 対策が、Moscow Variation でした。15年前、私が高校生の頃はポピュラーな4. d4 を使い、IM Wong Zi Jing や、GM Sasikiran からドローを取りましたが、長い年月が経って黒の良いアイディアもたくさん発見されました。4. a4!? はMoscow Variation としての特徴を半分残し、半分消すような面白いチョイスです。Hyogo Chess Championship 2021 (4)
4... g6
4... Ngf6 5. Nc3 a6 6. Be2 b6 7. d4 cxd4 8. Qxd4 がメインラインです。黒は早めにe4 への反撃を作り、Nb1-Nc3 を強制させてc2-c4 やc2-c3, d2-d4 のチャンスを消しておきます。一方で白は、Bf1-Bb5-Be2 の1テンポロスを入れても、Open Sicilian 型にしてd4 に出たクイーンで主張を作ります。本譜では黒がフィアンケット型と決めてくれたので、Moscow Variation のポイントであるcポーンを使ったアイディアで、厚いセンターを築くことにします。
5. O-O Bg7 6. Re1 a6 7. Bf1 Ngf6 8. c3 O-O 9. d4 e6 10. e5!?
直前の9... e6 は、黒マスを弱める不自然な手に感じました。そこでe5 にポーンを指す形を早めに決めることにしましたが、10. Bf4 d5 11. e5 Ne4 12. Nbd2 Nxd2 13. Qxd2 くらいでも、白はスペースの広さで十分なアドバンテージがあったと思います。10... dxe5 11. dxe5 Nd5 12. a5
黒のd7 のナイトは、欲を言えばc6 にいたい形です。白は早めにa4-a5 を突いて黒のbポーンを抑え込み、クイーンサイドのポーンストラクチャーを乱せるようにしておきます。
12... b5 13. axb6 Qxb6 14. Nbd2 Bb7 15. Nc4 Qc7 16. h4! N5b6 17. Bf4 Nxc4 18. Bxc4
白は狙い通りに黒のポーンを乱しつつ、将来的なキングサイドアタックのチャンスを伺います。黒はキングサイドのカバーが難しいため、多少時間がかかっても白のアタックチャンスは明確だと考えました。18... Nb6 19. Bd3 Rfd8 20. Qe2 c4 21. Bc2 Nd5 22. Bg5!
黒は調子良く白のピースを攻め立てているように見えますが、これ以上ピースのポジションを改善するプランがありません。一方で白はhポーンの前進と、黒マスを活用したピースプレーで徐々にチャンスを広げます。
22... Rdc8 23. h5 Qb6 24. hxg6 hxg6 25. Bc1!
白には様々なチョイスがあり、どの作戦にするか迷いました。本譜はe7, d8 のコントロールを諦めても、b2 を守って黒の反撃を抑え、Nf3-Ng5 のタイミングをうかがいます。ナイトの跳ぶチャンスはNf3-Nd4 や、Nf3-Nh2-Ng4 も考えました。しかし、シンプルにクイーンとの組み合わせてh7 を狙えるNf3-Ng5 が、これまでの経験から最も黒が嫌がるアイディアだと判断しました。25... Qc6 26. Qe4 Ne7 27. Qg4 Qc5 28. Ng5 Qc6 29. Qh3
黒はa8-h1 のダイアゴナルを使って反撃を試みますが、それを上手くかわしながらクイーンとナイトを理想的な配置へと運びました。私の得意とするポジショナルプレーでここまで良いポジションを築けたのは良かったのですが、ここから決めにいく決定的なアイディアが分からず、ゲームは予想外にもつれることになります。
29... Rd8 30. Bf4
踏み込むタイミングはまだ早いと思い、ひとまずe5 を守りつつルークを連携させておきますが、30. Qh7+ Kf8 31. Ne4 Ng8 32. b3!+- というアイディアがありました。黒の守りの要であるg7 のビショップをいく消しにいくかばかり頭にあったので、a3-f8 のダイアゴナルに黒マスビショップを切り替えることを失念していたのはこの試合の1つの反省点です。30... Qb5 31. Qh7+ Kf8 32. Ne4?!
Ne4-Nf6 と踏み込めればほとんど勝ちですが、本譜のように黒は白マスビショップを諦めて粘ることができます。32. Qh4! が一度跳び込んだクイーンを退いてf6 のマスを見据えつつ、Ng5-Nh7-Nf6 のナイト切り替えを狙う絶妙なアイディアでした。
32... Bxe4 33. Bxe4 Ra7 34. Re3!?
b2 を守っているようではつまらないですし、多少強引でもルークを3段目で振る構想は数手前からありました。検討で見つけられなかったのは、34. Bh6! Qxe5 (34... Bxh6 35. Qxh6+ Kg8 36. Re3!+- これは試合中読めていましたが、e5 を取られてどうするのか読めませんでした。) 35. Ra5!!この手は時間にもう少し余裕があっても、見つけられたか自信はありません。ルークを捨ててg7 から守りを外せば、白は押し切れるというのがコンピュータの評価です。35... Qxa5 (35... Qf6 36. Bg5+-) 36. Qxg7+ Ke8 37. Qf8+ Kd7 38. Qxf7+- 白はまだ駒損状態ですが、黒は危険なキングをカバーしきれないでしょう。
34... Ng8 35. Rf3 Qxb2 36. Rb1 Qe2 37. Bxg6!
ルークをf3 に振った以上、ここは踏み込むしかありません!37... Rd1+ 38. Rxd1 Qxd1+ 39. Kh2 fxg6 40. Qxg6!
残り数秒まで考え、アタックを焦らない判断ができたのは良かったです。40. Be3+? Rf7! (40... Qxf3? 41. Bc5+! Kf7 42. gxf3+- 40手目は試合後に横尾くんに指摘されましたが、先にビショップチェックを入れておけば白は大丈夫です。) 41. Bc5+ Ne7 42. Rxf7+ Kxf7 43. Bxe7 a5!-+ 白はピースを取り返してもチェックではないのでビショップの取り合いは強制ではなく、黒は落ち着いてポーンを進めれば勝勢のエンドゲームです。b2 を捨てたことがエンドゲームに影響してくるため、白は駒数を落ち着かせてのエンドゲーム突入ではなく、アタックを決めきる方針で手を探さなければいけません。
40... Rf7 41. Qxe6! Qd8
ビショップを捨ててe6,f7,g6 にあった黒ポーンをすべて消すと、黒はキングの守りが意外と難しいことが分かります。白はe6 まで回収できたことで、a6, c4 と次のポーンを取る準備もできていますし、e5-e6 とポーンを押し込むアイディアも生まれています。41... Qd7 42. Qxa6+- を試合中は読んでいましたが、これでも黒は苦戦しそうです。42. Bg5! Qe8 43. Qd6+?!
しかし、ビショップを捨ててから正確に指せていたはずが、ここでケチがついてしまいました。時間が残り少なくとも、43. Rxf7+! Qxf7 44. Qd6+ Ne7 45. Qd8+ Qe8 46. Bxe7++- でピースが取り返せることは読めなくてはいけません。しかも今度は先ほどよりもポーンを多く回収していますし、なによりチェックの連続で手番を握っています。
43... Ne7 44. Bf6?!
44. Rg3! としておけば、次のe5-e6 の押し込みが黒にとっては厳しく、ピースを返さざるをえない状況になります。本譜の緩手でようやく黒に劣勢を挽回するチャンスが訪れますが、横尾くんはそれを見逃してしまいました。44... Bxf6?
試合後に私から、44... Kg8! と避けておく手で白には特にスレットが無いことを指摘しました。45. Qxa6 Bxf6 46. exf6 Rh7+ 47. Kg1 Nf5 48. Qxc4+ は黒のポーンがすべて消えますが、形勢判断は難しく、ゲームはどうなってもおかしくないでしょう。本譜のようにピースが取り戻せれば、白は落ち着いて残りを指すだけです。