2021/03/24

Understanding the Ruy Lopez Vol.5


Vol.3,4 でご紹介したKeres Variation は、私にとって非常に魅力的で、2019年はこの変化をメインに戦おうと考えていました。しかし、Vol.3 の最後に示した最新の変化は評価が難しく、自信をもって指せるとは言えません。そこで黒キングを弱めずともアクティブに戦える変化は他にないかと探していきついたのが、Aronian Variation です。今回はこちらの変化がどういったものか見ていきましょう。

1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bb5 g6!?

私はRuy Lopez に対し、黒の黒マスビショップはフィアンケットが最も強いと考えています。Breyer Variation などではBf8-Be7-Bf8-Bg7 と組みなおす黒マスビショップを、最初からg7 に組んでしまったほうが良いではないかというアイディアはもっともなように思えます。それではなぜ、現代のRuy Lopez ではe7 に出してから組みなおすことが多いのかといえば、黒のキングサイドキャスリングが遅れれば、c2-c3, d2-d4 の際にe5 のディフェンスが間に合わず、黒はe5 にポーンをキープできないためです。それならばいっそ、e5 にポーンを残すことを諦めてしまおうというのが、Aronian Variation の特徴です。

ちなみにこの変化は多くの手順前後が存在し、Aronian が指したゲームでは3... a6 4. Ba4 Nge7 という手順でした。最終的にはそちらに合流するため、この記事ではまとめてAronian Variation として扱います。ちなみにこの名称も正式なものかは分からないのですが、Dangerous Weapon the Ruy Lopez の中で、この名前で紹介されていました。

4. O-O Bg7 5. c3 a6 6. Ba4 Nge7!?


多くのRuy Loepz では、g8 のナイトはf6 に展開してe4 への反撃をまずは狙うのが一般的ですが、この変化ではあえて低く構えることで、フィアンケットビショップの利きを通し、g7-a1 ダイアゴナルのプレッシャーをキープします。

7. d4 exd4!

d4 での早いポーン交換は白にのみ厚いセンターを残すため、一般的には白が良さそうに思えます。しかし、Zaitsev Variation やKeres Variation でも見てきたように、d4 でのポーン交換からc7-c5 の反撃で白のセンターを崩し、e5 のマスを活用できれば黒は積極的な反撃が期待できます。Aronian Variation ではほかの変化で見ないようなタイミングでe5 のポーンを消してしまいますが、タイミングが違うだけでこれまでチェックしてきた変化とアイディアは似ているわけです。

8. cxd4 b5 9. Bb3


この後の変化を考えれば、白は最初から9. Bc2 と退き、1テンポアップしておくほうが得だという考えもあります。しかし、白は本譜より1手早くc2 にビショップを退いていても、有効なピースのセットアップを見つけられなければ黒は十分に戦えます。

9... d6 10. h3 O-O 11. Nc3 Na5

ナイトが一般的には悪い端のマスに跳ぶ代わりに、c7-c5 のポーンを伸ばしてd4 を崩すのは、すでにKeres Variation で見たアイディアです。さらにここでの注目すべきは、d4 でのポーンが早かったためにc3 のマスが空いて白がNb1-Nc3 と指せていることです。一般的なNb1-Nd2-Nf1-Ng3(or Ne3) と比べて、白は早くナイトをバランスの良いマスに展開できていますが、代わりにc4 のマスを抑えていないため、黒のa5 に跳んだいナイトも、Na5-Nc4 ともぐりこむ手を狙うことができます。多くの変化では使いづらい位置で、cポーンを伸ばした後は戻るしかないa5 ナイトが、より活用の幅が広いことは黒にとって面白い武器となるでしょう。

12. Bc2 Bb7!?


名前の由来となったAroanian のゲームでは、黒はすぐに12... c5 を仕掛けてd4 を崩しにいっています。私はそちらも研究しましたが、1手待ってe4 を攻撃しておき、白の出方を伺うのも面白いアイディアだと思っています。白の12手目には多くの選択肢が存在し、ここから黒は幅の広い手の作り方を見せるのですが、それはVol.6 で実戦の解説とともにご紹介します。余談ですが、私が7年前に書いた記事の中にもこの変化は登場します。それは羽生さんがポーンランドで2つ目のIM ノーム獲得を決めた最終戦です。こちらの試合も面白いので、是非チェックしてみてください。

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