2023/02/16

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第16回予告

2月のOPENREC での講座案内です。今月は今週末の日曜日、2/19 20時からスタートです。

2月のOPENREC の講座テーマは『運命の選択』 です。チェスは初手で何を動かすかから始まり、常に選択の連続です。最近の講座の中では、ピースが逃げる際にどこに逃げるか、キャスリングはどちら側にするかなどのアイディアも紹介しましたが、これも1つの選択です。そんなチェスの試合の中で現れる選択には、1手で結果を左右してしまうような、大きな運命の選択があります。駒を取るか取らないか、取るならば何から取るか、キングをどのマスに逃がすか、手番はどちらが良いか。そんな1つの判断が勝負を分ける、運命の選択をご紹介します。冒頭30分の無料視聴は可能ですので、サブスク登録がまたのかたはこの機会にぜひよろしくお願いいたします。

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第16回『運命の選択』| 2023.02.19
NCS サブスク登録 (OPENREC)

2023/02/09

Caro-Kann Advance Tal Variation


今夜は再び白番に戻し、Caro-Kann Defence のゲームをご紹介しようと思います。私のレイティング帯ではCaro-Kann を使うプレーヤーと当たる頻度はかなり高く、毎試合勉強させてもらっています。

imsk (2520) - lamadestr (2514)
Lichess Blitz

1. e4 c6 2. d4 d5 3. e5 Bf5 4. h4!?

昨年のジャパンチェスクラシックではCaro-Kann に対してはTwo Knights Variation を指していましたが、少し前から4. h4 のTal Variation を研究しています。黒番でも対策は苦労してきた変化で、2018年にはオリンピアード最終戦でチュニジアのFM Amdouni に勝ったものの、その直後のFirst Saturday ではギリシャのGM Kotronias に敗れています。それ以降も盛んにトップクラスで指され、今後も人気のCaro-Kann 対策であると考えています。

4... h5 5. Bd3 Bxd3 6. Qxd3 Qa5+


6... e6 7. Bg5 Be7 8. Nf3 という進行を避けるための早いチェックです。g5 のマスを弱めて使うチャンスを得るのが、h2-h4,h7-h5 を挟んだ白のメリットであり、Tal Variation の1つの狙いと言えます。

7. Nd2 e6 8. Ngf3 Nh6 9. O-O Nf5 10. Nb3

クイーンをアタックしておくと同時にc6-c5 を牽制しておきます。黒がこのポーンブレイクをいつするか、白がそれにどう備えるか、された際にどう対応するかは、Caro-Kann Advance の様々なラインで重要なトピックとなります。

10... Qa6 11. Qd1 Be7 12. g3 Nd7 13. a4!


クイーンサイドでスペースを取り、黒クイーンの行き場を減らす、ルーク活用のチャンスを作るなどを効果を生む手です。

13... c5 14. c3

コンピュータが白唯一の緩手と指摘した手で、14. dxc5 Nxc5 15. Nbd4! からf5 のナイトを捌きにいくのがベターのようです。確かにf5 のナイトがキングサイドを守るキーピースで、本譜でもそこがポイントとなります。

14... Rc8 15. Re1 b6 16. Bg5!


上記の変化のように白は黒マスビショップを交換し、黒の黒マスの弱体化とNf3-Ng5 のチャンスを作ります。

16... Bxg5 17. Nxg5 Qc4 18. a5 b5 19. a6!

黒クイーンは狭いa6 のマスから脱出しましたが、代わりに白のポーンがa6 まで刺さり、Nb3-Na5 がクイーントラップのスレットになっています。a6 のポーンはa7 を固定し、ここが落ちた際に強力なパスポーンにもなりえます。すると黒はa7 を落とした際の負担が大きく、これを守るためにピースの動きが制限されることになります。

19... cxd4 20. Nxd4 Nxd4?


ナイト交換に応じるのは白の思うつぼです。f5 のナイトが消えるとQd1-Qf3 からf7 を狙われる手が厳しくなります。いずれにせよ白が優勢ですが、20... g6 としてナイト交換はf5 のマスでするべきでした。

21. cxd4 g6 22. Rc1! Qxc1 23. Qxc1 Rxc1 24. Rxc1+-

本譜の進行を避けるため、21... Nb6 22. Qf3 Qc7 のようにすべきですが、それでも黒はh8 のルークをゲームに参加させることが難しく、白の勝勢です。本譜では白のルークがcファイルから容易に侵入できるため、a7 のポーンが落ちて白の勝ちとなります。

24... Ke7 25. Rc7 Rb8 26. Rxa7 Rb6 27. Nxf7!


もう1つのポーンもいただいてしまい、ついでにナイトをセンターに戻します。

27... b4 28. Nd6 Kd8 29. Ra8+ 1-0

最後はメイトかプロモーションのいずれかが止められない形となって決着です。今年は黒番でCaro-Kann を使おうと思っているので、自身もこのTal Variation に対策が必要です。

2023/02/07

QGD Exchange Variation


二夜連続のゲーム解説記事の更新です。ここ二回は連続でFrench, Sicilain と白番でのゲームをご紹介してきたため、今夜は黒番でついさきほど指した試合を振り返ろうと思います。

xyz1981 (2610) - imsk (2531)
Lichess Blitz

1. d4 d5 2. c4 c6 3. Nc3 Nf6 4. Nf3 e6 5. Bg5 Nbd7

Semi-Slav をメインの戻してから、5. Bg5 に何を指すかは悩み続けています。一昨年はCambridge Springs をメインに据えていましたが、去年からはシャープな5... dxc4 のBotvinnik Variation なども少し試しています。

6. e3 h6!?


Cambridge Springs は黒マスビショップの位置を決めずにNb8-Nd7 で待っておき、6... Qa5 とすれば基本形が完成します。6... h6 の変化は昨年の名古屋の大会で、7. Bh4 g5!? 8. Bg3 Nh5 としてナイトビショップ交換を仕掛け、局面の均衡を崩す難しい変化を試してみました。この試合ではもう少し手堅く、分かりやすい変化を求めて初めての手を指してみます。

7. Bh4 Be7 8. Qc2 O-O 9. cxd5!?

大人しくキャスリングした黒に対して、白がExchange Variation にしてきたのは少し意外でした。d5 でポーンを交換せずにQd1-Qc2 と上がる変化は、偉大なるポーランドのプレーヤーの名前を取り、Rubinstein Variation と呼ばれ、9. Rd1 と指して黒のdxc4 を待つのが一般的なアイディアです。一方で本譜のように白がExchange Variation にしてきたのは、黒がh7-h6 を指したのを見ての判断でしょう。私がチェスを始めた頃は、Exchange Variation においてh7-h6 のポーン突きはg6 のマスを弱めるために良くないという意見が強かったですが、近年の試合では一概にそうとは言えないと評価が変わっています。

9... exd5 10. O-O-O?!


クイーンサイドキャスリングが効果を発揮しやすいのは、早めにh2-h3 を入れてビショップをf4 に退き、白からg2-g4 と仕掛けられる時です。本譜ではシンプルにピースを捌き、黒のアタックチャンスを限定します。

10... Ne4 11. Bg3 Ndf6 12. Bd3 Bf5!

一時的でもe4 にナイトが残せると、最も厄介な白マスビショップまで捌くことができます。これで黒の序盤の問題はほぼ解決できたので、あとはクイーンサイドをいかに攻撃するかを考えます。

13. Kb1 Nxc3+ 14. Qxc3 Bxd3+ 15. Qxd3 Ne4 16. Nd2 Nxd2+ 17. Rxd2 Bd6 18. a3 Re8 19. Ka2 a5!


QGD Exchange ではb2-b4 からのマイノリティアタックへの備えとしてa7-a5 とすることが多いですが、ここでは白がa2-a3 とポーンを伸ばしたのを見て、a4 までポーンを刺し、ルークをaファイルから出陣させるアイディアです。

20. Qf5 a4 21. Rc2 Ra5 22. Bxd6 Qxd6 23. g4 Rb5 24. g5 g6 25. Qf3 h5

こうしてキングサイドを固めてしまえば、白からの有効なアタックは封じることができます。クイーンサイドの突破は簡単ではないものの、これで自分の攻撃に集中でき、だいぶ楽になったと感じました。

26. h4 Re4 27. Qh3 Qe6 28. Qg3 Qc8 29. Rc3 Qd8 30. f3 Re6 31. Rd1 Qb6 32. Rd2?


b2 を守る自然な1手に見えますが、f2-f3 と突いてe3 のポーンを弱めてしまったことが痛手となります。32... Qf2 がb2 とe3 をカバーする唯一の手でした。

32... Rb3!

e3 とb3 を守る最重要ピースを消してしまえば、黒は駒得と白キングへのアタックを容易に実現します。

33. Rdc2 Rxe3 34. Rxe3 Rxe3 35. Kb1 Qb3!


d4 のポーンを落とすことよりも、a2 のマスを抑えて白キングを逃がさないようにし、f3 とb2 へのプレッシャーを残すようにします。

36. Qb8+ Kg7 37. Qf4 Re1+ 38. Rc1 Re2 0-1

白はb2 を守ることができず、39. Qf6+ Kg8 40. Qd8+ Kh7 でチェックも続きません。派手さはありませんが、丁寧に指せた好ゲームだと思います。

2023/02/06

Sicilian Moscow 3... Bd7 4. c4 Line


1月の最後の自分のブリッツの試合を取り上げてから、少し自分の試合の解説を書く気力が戻ってきました。2月最初の記事はSicilian Moscow のゲームをご紹介します。

imsk (2531) - Larrua500 (2398)
Lichess Blitz

1. e4 c5 2. Nf3 d6 3. Bb5+ Bd7 4. c4!?

私が高校時代にSicilian Moscow を勉強し始めた時代は、3... Bd7 に対して白は4. Bxd7+ Qxd7 5. c4 とビショップ交換してからcポーンを突くか、5. 0-0 からc2-c3, d2-d4 の形を目指すか、この二択がほとんどでした。先にc2-c4 と突く新しい変化は、早めにMaroczy Bind のポーンストラクチャーを決めたうえで、互いにどのようなピース交換を仕掛けるか様子を見ます。

4... a6 5. Bxd7+ Qxd7?!


4. Bxd7 Qxd7 とクイーンでビショップを取り返す変化でもa7-a6 と指すことはありえますが、b6 のマスを弱める弱点があるため、あまり優先度は高くありません。5... Nxd7 6. 0-0 Ngf6 7. Nc3 としてQd8-Qa5 と出る形のほうが、b6 のマスもカバーしており、a7-a6 と突くアイディアとマッチしているように思えます。

6. Nc3 Nc6 7. d4 cxd4 8. Nxd4 Nf6 9. f3 e6

g7-g6 にするか、e7-e6 にするかは黒の悩みの種ですが、g7-g6 ならば白は長くd5 のマスを抑え、Nc3-Nd5 と跳びこんでe7 を攻撃するチャンスを白は持ちます。一方でe7-e6 のポーンストラクチャーはd5 のマスこそ黒がカバーしていますが、d6 のポーンが長期的なターゲットになるという問題を抱えます。

10. Be3 Be7 11. O-O Nxd4 12. Bxd4 O-O 13. a4


以前はb4 のマスや将来的にb3 に置くポーンを弱めるため、このa2-a4 突きはためらいがちでした。今はそれらを弱めても、黒からのb7-b5 を防ぐことが重要であると考えています。この反撃をきっちり止めておくことで、黒のa7-a6 をあまり意味のない手にする狙いもあります。

13... Rfc8 14. b3 Rc6 15. Qd2 Qc7 16. Rfd1 Nd7 17. Kh1 Nc5 18. Rab1 a5?

c5 のナイトとa5 の伸ばしたポーンは一般的に相性が良く、白からのb3-b4 を止めてナイトを追い返されないようにします。しかしこの局面では、b5 のマスを弱めることで白ナイトの侵入を許し、d6 を攻められてしまうことになります。c5 のナイトはb3-b4 から追い返されても仕方ないと割り切り、実際にそうなった場合はc4 への反撃で対抗すべきです。

19. Nb5! Qb6 20. Qe3 Rac8 21. Rd2 h6 22. Rbd1 Bg5 23. f4


Be7-Bg5 はこのfポーンの突き直しがあるため、さほど白は困りません。e4 のポーンは少し弱まりますが、黒は十分に反撃するピースの配置を見つけられない状況です。

23... Be7 24. Qg3 f6 25. Qe3 Kf7 26. f5!

fポーンを突かされたことを逆に利用して仕掛けます。ポーンストラクチャーを考えれば、ここでピースを捌けば白のアドバンテージは決定的なものとなります。

26... e5 27. Bxc5! Qxc5 28. Qxc5 dxc5 29. Rd7!?+-


d6 のポーンを落とさないためにはc5 をポーンで取るしかありませんが、それによりルークの7段目への侵入を許してしまいます。ポーンを黒マスで固めすぎた黒はビショップの働きが悪すぎて厳しい形勢です。また試合中は29. Na7 のナイトフォークがあったことに気づいていませんでしたが、オープンファイルを得られない黒ルークの価値はさほど高くなく、ナイトフォークでの分かりやすい駒得よりも、本譜の7段目への侵入のほうが強いという考え方もありそうです。

29... b6 30. Nd6+

もう1つのナイトフォークで駒得と勝負を決めました。29... Rb8 が唯一ポーン取りとナイトフォークを受ける手ですが、ピースの働きの差が大きすぎるのでいずれにせよ白勝勢に変わりはありません。

30... Rxd6 31. R1xd6 Ke8 32. Rd5 Rc6 33. Rb7 Bd6 34. Rxg7 Bf8 35. Rb7 Bd6 36. g4 Bc7 37. Kg2 Ke7 38. Kf3 Ke8 39. h4 Ke7 40. Rd2 Ke8 41. Rg2 Ke7 42. g5 fxg5 43. hxg5 hxg5 44. Rxg5 1-0


Sicilian Moscow はRossolimo と並んで長く人気のあるAnti-Sicilain で、近年も新しいアイディアが登場し続けています。公式戦でも面白いゲームが指せることを楽しみにしています。
Copyright © 2011 Shinya Kojima All rights reserved.